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東方屍姫伝  作者: 芥
四章 その幸せは彼女を縛る
33/72

狂気

白鷺 雪は暗く、黒い洞窟の中をフラつきながらも進む。

ゆっくりながらも一歩、また一歩と進んでいく。

愛しき彼女の顔を思いながら前へと進んでいく。


彼女の元に戻ったら、どうしてやろうか。

私を捨てたのだ。

ありとあらゆる罵詈雑言を言い、罵ってやろう。

そして、最後には口づけの一つでもして許してやろう。

私は捨てられても彼女の事を愛しているのだ、多少の事は大目に見てやるのが嫁としての在り方だ。


だが、ただでは許してはやらない。

八雲 紫に頼み込んで、愛しい彼女との間に子供を作ろう。

私がお母さんで、彼女がお父さん。

女同士だが、八雲 紫は自分になら可能だと言っていた。

もし本当なら彼女と子供という確かな絆ができる。

いや、さらに深い愛を築けるのだ。

私が孕めば幾ら女にだらしない彼女も浮気なんてできないし、私を捨てたりはしない。

むしろもっと大事にしてくれる。

私と離れ離れになる事なんて考えられないはずだ。


そして、子供が生まれれば私は嫁からお母さんになって、私が仕事に出る彼女の代わりに子供らを守るのだ。

それで家庭を支えて、夜になったらまた新しい子供を彼女と作るのだ。

一人や二人なんて言わない、百人だって彼女が望めばどれだけでも生める。

むしろ彼女との子供だ。

幾らでも彼女の愛を受け止め、生んでやりたい。


雪はそう妄想をして自身の腹を撫でた。


「う、ふふ……ざんげぇ……まっててぇ……」


雪は自分の腹を撫でながら、空虚な笑みを浮かべる。

愛しい彼女の事を思うとより一層と早く会いたい、と思う。


雪が斬乂、斬乂とゾンビが呻く様に歩き続けていると、雪の目の前に光が見えた。

雪は洞窟の先から差し込む光を見て、笑みを浮かべた。


もうすぐで愛しい彼女に会える、そう思うと自然と進む歩が速くなる。

ふらふらながらも雪は歩を速め、騒めき声の聞こえる光の先へと向かった。




❇︎❇︎❇︎


「医療班はまだかっ!?」


「馬鹿野郎っ、先に応急処置だ!」


「急げっ! 頭を死なせるなど天狗の名折れだと思え!!」



雪の見た光景。

走り回る白髪の犬耳を生やした白狼天狗や、空中で指示を出す黒羽根の鴉天狗が血塗れの夜鴉 黒羽に目を向けながら騒ぎ立てていた。

天狗以外の景色も風流漂う地底の街並みではなく、ただの林。

本来はデコボコしている地底らしさの天井はなく、いつの間にか朝日のさす青い空が雪の目にはうつっていた。


雪はその青い空を見て、力を無くす様に膝をつく。


「な、んで……ちていじゃ……」


東から今しがた登ってきている眩しく輝く太陽を見ながら、雪は呟いた。


本来なら自分が向かった先は地底のはずだ。

なのに、なぜ自分は地上に……それも黒羽が倒れている事からわかるが、元いた場所に……。


雪はそう思いながら憎く輝かしく光る太陽を見上げた。



「おいっ、貴様っ! こんな所で何をしている!」


雪が惚けながら空を見上げていると、一人の白狼天狗が地底への入り口である洞窟の前にて呆然としている雪を見つけ声を上げた。

その白狼天狗の男が声を上げたことにより、周りにいた白狼天狗らも雪の元に近寄ってくる。

そして、警戒する様に背中に背負う剣を抜き雪に向けて構える。


しかし、雪はそんな事は気にせず口を開けたまま空を見上げる。


「まさか、貴様が天魔様をっ!!」


一人の白狼天狗が声を上げた。

見知らぬ少女が血塗れの倒れた天魔の近くに居たことにより、そう結論付けたのだろう。

それに雪の身体には背中から刺さっている黒羽の刀が貫通する様に今だに刺さっており、それを見て声を上げた白狼天狗は判断した。


その推理は正しかった。

実際には雪が黒羽を血塗れにしたし、再起不能にした。


だが、間違っている事もある。

その場に居た天狗が全て若い天狗である事が間違っていた。

大天狗やかつての雪の暴挙を覚えている者なら即座に黒羽を抱え、逃げていた。

死なず死ねずで説明不可能の能力を持つ雪の前では、全てが無力だ。


白鷺 雪の、"屍の姫"の前には屍しか残らない。

その場に居た天狗の一人でもその事を知っていたのならすぐに対応ができた。

屍になる前にプライドを捨てれば屍に成らずに済んだ。

なのに、若気の無知で雪に向かって剣を向けてしまった。


「逃げなさい、あんたらじゃ……勝てないわ……」


黒羽は戦闘以外に残った白狼天狗の治療を受けながら、そう呻く。

しかし、血相を変えた彼らにはその声は届かない。

自らの大将がやられた事により、頭に血が上っている。

故に黒羽の声は聞こえなかった。



「あ……あぁ……」


倒れる黒羽が意味の無い忠告をする中、空を仰ぎながら雪は呻いた。

雪を囲み構える天狗らは、雪のその呻きに反応をし、緊張感を上げる。

下手な動きをしたらすぐに斬りかかれるように構えていた。


そんな傍ら、雪は呻き頭を抱え、膝をついたままうずくまった。

そして掻き毟るように絹のように白い髪を引っ掻き、うめき声を上げた。


「ぁあ……、わたしは……こ、んなののぞんでいない……。こ、んなひか、りなんて……いらない……よぉ……。あな、たがわたしの……ひか、りなのぉ……。だか、ら……だからぁ……」


雪の突然の奇行に天狗らは怯み、歩を後ろに退けた。

涙を流しヒステリックに嘆く雪を見て、怯んでしまった。

しかしそれでもか、彼らはめげずに雪に目をそらさずに見る。

いつでも雪に斬りかかれるように、彼女を見続ける。


しかし、雪の次の行動に天狗らはさらに怯んだ。


「ざ、んげぇ……いま、あいにいく……からぁ……」


そう言いながら雪は髪を掻き毟るのを止め、膝をつき顔を下に向けた状態で素手で地面を、土を掘り出した。


土が爪の間に入り、汚れる。

勢いよく土を掘り起こすことで爪がどんどんと削れていく。

しかし、雪は気にせず地を削り、下へ地底へと目指すように虚ろな目で掘り続ける。


だが、雪が地底へと行きたい事を知らない天狗らは雪のその奇行を見て、頭のおかしい奴だという様に顔を歪めた。


いや、確かに今の雪は頭がおかしくなっている。

既に頭は痛く無いのに、言葉には覇気も呂律もなく、死にかけの病人の様にぶつぶつと呟き続けている。

それに目にも光は無く、焦点が合わない状態で虚ろな目をしている。



彼女の、雪の心は完璧に折れた。

もうすぐ会えると期待して歩んだ先には元の場所であり、明るい空が雪を照らしていた。

そして雪はその太陽を見て、もう地底には行けないし斬乂にも会えないと思ってしまった。

本当は地底と地上の間には行き来できない様に結界が貼ってあるだけだし、斬乂とは一週間に一度会えると言う取り決めが紫としてある。

しかし、結界の事は雪は知る由もないし、後者の件については雪は既に紫から聞かされていた。

それでも、雪の頭には斬乂には会えない、捨てられたと言う気持ちがあった。


今の雪に物事を考えるという事はできない。

怨霊による頭痛の後遺症なのか、それともたんに斬乂と離れ離れにされ精神が不安定になっているのか、はたまた両方だからなのか今の雪に理性など残っていない。


ただ雪は斬乂の事を思いながら、地底に行くという事しか考えられずに地を掘り続けた。

ただ穴を掘るだけで地底に行く事はできないが、それでも能力を使えば簡単に土くらいは掘れるのに雪はそれをせずに白い手を汚しながらも掘り続ける。

今の雪には斬乂に会う事しか考えていなかった。


「ざん、げぇ……いっぱい、こどもつくろ……? わたしが、おかあ、さんで……あなたが、おとうさん……。わた、し……おとこの、ひとのは、はじ、めてだけど……ざ、んげのな、らうけいれられるよぉ……。だ、から……わたしのことをぉ……あいしてよぉ……」


掘る。

掘って掘って掘り続ける。

しかし、素手で掘っているからかほんの少しの凹みにしかならない。


それでも雪は掘り続ける。

地底にめがけて掘り続ける。

ぶつぶつと呟きながら掘り続ける。

目を虚ろにさせ掘り続けた。


「……っは、と、捕らえろっ!」


そして、いつしかその行動に魅入っていた天狗らは一人を始め、雪に飛びかかり抑え込んだ。

突然と背中に乗りかかるように抑えられた雪は、膝をついた状態でうつ伏せになる。


しかし、雪は手を止めない。

背中に乗りかかられても手を止めずに掘り続ける。

カリカリカリカリ、と爪で土を引っ掻き続けた。


「お前、大人しくしろっ!!」


だが、雪の背中に乗りかかった天狗の一人が雪の行動に気に入らず、動かせぬ様に手を押さえた。


「ぁあ……やめてよぉ……じゃ、ましないでぇ……」


「な、縄もってこいっ、早く!!」


力無くジタバタと動く雪に、背中に乗る天狗は叫び上げる。

早く護送しなければ、というより早くこの不気味に呻く女から離れたいと思う一心に周りを急かした。


雪は虚ろな目をしたまま抵抗する。

手を離せと言わんばかりに手を動かすが、爪がボロボロでその痛みのせいか力が入らない。


早く、早く愛しい彼女に会いに行きたいのに邪魔をするな、だから退け。

そう思いながら身体を揺すり、背中に乗る天狗を振り下ろそうとする。

しかし、普段通りに身体が動かず、身体がうまく動かないのでただ揺するだけとなった。


「じゃ、まなのぉ……どけよぉ……。わ、たしは、ざんげぇに……あいに、いくんだよぉ……。だか、ら……ど、けえぇぇぇっ!!!」


雪がそう雄叫びを上げると背中から『骨ノ手』が一本伸びて、背中に覆いかぶさる様に乗る天狗の男の腹を貫く。

腹を貫かれた男は穴の開いた腹を押さえながら後ろに飛びつき、雪から距離をとった。


「こ、殺せっ!」


反撃する雪を見てか、周りにいる天狗の誰かが言う。

他の天狗らは雪の反撃を見て、警戒していたのかその号令と共に、三人ほどの白狼天狗が大剣を振り上げ雪に斬りかかった。


振り上げられた剣は雪の肩や背中や首を斬る。

首にいたっては皮一枚ほどで繋がっているだけで、ほとんど身体と頭が切り離されている状態となった。

常人ならそれだけで死ぬ。


「や、やったか……」


死体となった雪を見て、一人の天狗がそう呟いた。

しかし、雪はのそりと立ち上がり頭を押し付け、断頭されかかった首を無理やりくっつける様に繋げた。

首だけでなく他の斬った箇所もウネウネと傷口が動き、出血するところを塞ぐ様に回復していく。


そんな様子を見て、天狗らは更に警戒し雪から距離をとった。

そして、雪は自分に危害を加えた天狗らを虚ろな目つきでゆらりと見る。


「なんでぇ……なんで、ざんげにあいに、いくのぉ……じゃまするのぉ……。わた、しはざんげに……あい、たいだけなのにぃ……じゃまじな、いで……ぁあ……」


雪は呻く。

呻きながら頭を押さえる。

頭は痛く無いのに頭を押さえ、呻き出す。


そして、雪が呻き出すと雪の右腕から、白骨した腕を隠すためにしていた包帯の隙間から黒い煙がユラユラと発生した。

そして黒い煙が包み込む様に雪を覆い隠す。



「あ、あんたら、逃げなさいっ!撤退よ、撤退っ!!」


後方の方で血塗れとなって倒れていた黒羽が、ふらふらに身体を起こしながら無理にでも声を出す。

その黒羽の声が聞こえたのか、渋りながらも天狗らは雪から離れた。


黒羽はこれで余計な犠牲者を減らせると思いながら、黒い煙に包まれた雪の方に目を向けた。


「くそっ……いったい何が起きてんのよ……」


憎たらしく雪の方を見つめ、黒羽は呟く。

すでに黒い煙に覆われ見えなくなった雪を見る。


今の雪は明らかに精神が不安定だ。

それも過去、妖怪の山を襲ってきた以上に狂っている。

黒羽はそう自己解釈をし、そんな中で死者の一人も出さずに部下を撤退させた自分を褒めて欲しいと思いながらも雪の心配をする。


過去の敵、というか仲間らの仇だが、今の雪は自分の友の伴侶で、若干気まづさはあるが自分の友であったと思う。

それがどうして、どうして……


「なんで……こうなっちゃったのよ……」


自分の無力さを実感しながら黒羽は部下の天狗の肩を借りて、黒い煙に包まれる雪に背中を向けて歩き始めた。



それと共に大きな地響きが、幻想郷内に鳴り響いた。






❇︎❇︎❇︎



「なんで……なんでこうなってるのよ……」


八雲 紫は妖怪の山から少し離れた状況から"それ"を見る。

妖怪の山の中腹あたりに紫は視線を向き、目を見開きながら唖然とした。


紫の目に映った"それ"は巨大な骸骨であった。

妖怪の山を覆い被さる様に黒い煙を発しながら巨大な骸骨は存在していた。

そしてその骸骨は隣の山の頂上を掴む様に巨大な白骨の手を置いている。

妖怪の山と同じくらい……いな、妖怪の山に覆いかぶさる様にうずくまっているので起立をすればその三倍は行くだろう。

それほどの巨大なモノが妖怪の山にうつ伏せになる様に覆い、声にもならないうめき声を発していた。


そして、それが現れると同時に妖怪の山を中心に地が割れ、天には黒雲が現れゴロゴロと鳴り出した。

先ほどまで晴れ晴れとしていた朝日は一瞬に消え、黒雲が全てを覆い尽くした。


紫はそんな天変地異の前触れの様な風景を見て、声を震わせた。


「私は、良かれと思って彼女を、地上に連れてきたのに……」


紫は憎々しくそう呟いた。


最初は雪の件の噂や、雪が斬乂に嫁いだ事により色々と警戒していたが、雪と話していくうちに紫はいつの間にか彼女といるのが楽しくなっていた。

一方的なからかい、ではあったがそれなりに楽しかった。

雪は認めてはいないだろうが、紫なりには一様は友人としてみていた。


だから、今回雪が地底に住まう怨霊らのせいで廃人になるとわかればすぐに行動した。

数少ない友人が減るのは紫なりに嫌だったので、必死に考えた。

けど、結論はこれ以上、ひどくしない為に雪を地上に連れてく事で、雪にとって愛しい斬乂と離れ離れになる結果となった。

互いに離れる事に納得はしていない様だったが、斬乂を説得し無理にでも引き離した。

それに、せめてもの打開案として斬乂と週に一度は合わせると約束をしていた。

雪はそれでも納得していなかったが、無理やりでも地上に連れていき、週一に合わせれば文句はないと思っていた。

最初は受け入れないだろうが、利口な雪はそのうち理解してくれると思っていた。


しかし、その考えは単純すぎたのか、雪は気が触れ絶望した。

そして気が触れ自らの力を、怨霊らを制御できなくなり暴走した。


紫は雪であった巨大な骸骨を見て、自分の浅はかな考えに舌を打った。

しかし、今は過去の自分を責めるよりもあれをどうにかしなければと思う。

地は割れ、天は雷鳴を轟かせている。

被害はまだ妖怪の山付近にしか出ていないが、その内に幻想郷内に広まるだろう。

ここら一帯の地は割れて、幻想郷中に文字通り雷が落ちるだろう。

そうなる前にどうにかしなければ。


紫がそう思いながら爪を噛み、悩んでいると隣になんの装飾もない鏡の様な板が空中に現れ、地面と水平になる様に宙に浮いていた。

そして、その鏡の中から一人の少女が現れた。


「ははっ、ご機嫌はいかがかな。紫さん?」


現れた鏡の中からヌルリと黒髪の少女が現れた。

その少女は狐の面を被る少女だ。

狐面の少女が鏡の中から現れると、現れた鏡の板を椅子に座る様に座った。


紫はヘラヘラと笑いながら現れた狐面の少女を見て、睨みつけた。


「あんた……、こうなる事がわかっていたの?」


「ん、なにがだい?」


紫の言葉に狐面の少女は白々しく首を傾げた。

そんな狐面の少女を見て紫は舌を打つ。


「前に言ってたでしょ、雪を中心に嵐が起こるって……」


「あれぇ、そんなこと言ったけ哉?」


トボける様に言う狐面の少女を見て、紫は眉間に皺を寄せる。

だが、狐面の少女はそんな紫の態度に気にせず口を開いた。


「それより、そんな事を気にしてるよりも"あれ"、どうにかした方がいいんじゃないの哉?」


狐面の少女が雪であった巨大な骸骨に指差しながら呟く。

紫は狐面の少女の登場に忘れかけていた雪の存在を思い出し、その方向に視線を移す。


雪であった骸骨は今だに妖怪の山を覆う様に、うずくまっていた。

しかし、妖怪の山の麓の地割れした部分に巨大な白骨の両手を差し込み、ひたすら土を掘り返していた。


そんな行動を見て、紫はゾッとする。

そんな異形な姿になってまでも地底に行き、斬乂に会いたいのかと思うと雪の執念に恐怖を覚えた。


「飢餓する者、飢餓する髑髏、故に餓者髑髏がしゃどくろ。あれが本来の彼女の妖怪としての姿、哉」


引ける紫に対し、狐面の少女はニヤニヤと笑いながら滑稽に呟く。

そして、顔を引きつらせている紫を見て、声をかけた。


「ねぇ、紫さん。彼女がどんな妖怪か知ってるかい?」


「……いきなり何よ」


狐面の少女の言葉に紫は反応し、再び視線を向けた。


「白鷺 雪。彼女は所謂、未練の塊だ。愛する者が死に、愛したい者が死んだ未練を抱え続ける生ける屍だ」


「なにが、言いたいの……」


「いやぁ、彼女も散々な人生を歩んできたものだ。同情してもいい。昔の恋を黄泉返らせようと孤独になって頑張ってきたのに邪魔をされ、せっかく昔の失恋を忘れ新しき恋に目覚めたのにまた引き裂かれた」


「だからなにが言いたいのよっ!!」


狐面の少女の言葉に紫は怒鳴りつけた。

そんな感情を乱した紫を見て、狐面の少女は狐面の下でほくそ笑む。

そして口を開いた。


「彼女は、かつて愛した……"白鷺 茜"の代わりが居ればそれでいいんだよ」


紫は狐面の少女のその言葉に首を傾げた。

しかし、狐面の少女はそんな紫を気にする様子も無く、語り続けた。



「彼女は愛した彼女と結ばれた」


「だけど彼女らは悲運な事件で殺された」


「だが彼女は彼女を愛し続けるために未練を残した」


「そして彼女は妖怪に、生を貪り続ける怨霊へと成り果てた」


「しかし、彼女は一人になった」


「いつしか愛より孤独に飢えました」


「そんなときに彼女に出会った」


「彼女は彼女に恋をした」


「そして彼女は死んだ彼女の事を忘れるため一人になった」


「過去の愛を忘れるとともに、彼女は新しい愛に目覚めた」


「そして彼女の恋は成熟した」


「しかし、ともに過ごした友を裏切ることになりました」


「そして彼女は幸せを選びました」


「そして彼女は幸せになりましたーー」


狐面の少女は語る。

突然に語り出した少女を見て、紫は余計に混乱した。

しかし、そんな紫にトドメを刺す様に狐面の少女はニタリと笑い言葉を発した。


「けど、彼女は自身の孤独を埋めてくれる愛しき彼女と間を裂かれ、不幸になりました」


「……私の、せいと言いたいの?」


「いやいや、そうは言っていないさ」


だけど、と狐面の少女は付け加える様にいった。


「彼女はただ、誰かを愛せれば、愛してもらえば、孤独でなければそれでいいんだよ。どんな男であろうが、女であろうが自分を認めて、自分を孤独にしなければ誰にでも股を開くんだよ……」


だから、彼女は自分を孤独にせず、愛してくれる斬乂を身体を張って求める。

とんだビッチだ、とカラカラと狐面の少女は笑った。

すべてをわかった様に言葉を発する狐面の少女を見て紫は思う、


「あんた、雪の事をどこまで知って……」


「全部、哉。彼女の頭の先から、爪先まで。果ては考えてることも全てを知っている」


クスクスと笑いながら答える狐面の少女を見て、紫はその言葉が冗談に聞こえなく、恐怖を覚えた。


そして改めて思う。

この女はヤバい……。


「で、このまま放っておくと……、餓者髑髏はあのまま地底に掘り進んじゃうよ?」


紫がさらに狐面の少女に警戒を向けていると、あっけらかんな声を出し狐面の少女はそう言う。


紫はそう言われるとわかっていると言いたげな顔をして、雪の方に視線を向ける。


今の雪は自身の巨大な骸骨の頭が埋まるほどまで地を掘り進めていた。

このまま掘られても結界が貼ってあるので地底に辿り着くことはまず無い。

しかし、あのままにしておく事は出来ない。

雪であった骸骨のいる妖怪の山は幻想郷を誇る最大の妖怪集団だ。

将来的にも妖怪の山の勢力は必要になるだろうし、いずれ幻想郷を囲むために結界を張った後に、妖怪と人間のバランスを保つ為に必ず要る勢力だ。

もし、あそこで雪であった骸骨に暴れられたら全滅する。

今は土を掘っているだけかもしれないが、地底に辿り着けないことに癇癪を起こすかもしれないし、完全に理性がなくなって暴れるかもしれない。


そうなる前に防がなければ、と紫は悩む。

しかし、どうやって?

やっつける?

無理だあんな巨大なモノに太刀打ちできない。

ならば……


「おや、彼女を封じる気かい?」


紫が雪であったモノの対処を考えていると、茶化す様に狐面の少女が声をかけてきた。

心を見透かされた様にその言葉を吐かれた紫は、狐面の少女を睨みつけた。


「あなた……、心を……」


「いや、読んではいない哉」


紫の言葉を遮る様に狐面の少女は言った。

紫はまた心に思っていた事を言われ、確信する。

こいつは人の心が読めるのだ、と。


「くく……さて、どう封印するの哉? 妖怪の賢者殿?」


挑発する様に言う狐面の少女を紫は睨みつける。

しかし、今はこんなのに構っている暇は無いと言いたげにスキマを開き、指を鳴らした。


「お呼びでしょうか、紫様」


スキマの中から金髪で金色の九本の尾を生やす女性が、紫に畏まる様に出てきた。


「藍、ありったけの札と封印具を!」


「かしこまりました」


紫は慌てながらも簡潔に言うと、藍と呼ばれる従者は落ち着いた様子で再びスキマの中に入り込み消えていく。


「九尾の式神ねぇ……。いいもの持ってるじゃないか」


「うるさいわね、私は忙しいの。何処かに消えなさい……」


「へへ、怖い怖い」


狐面の少女はそう言い残し、背中から倒れこむ様に座る鏡の中に身体を沈ませ消えていった。


そして紫は一人になった。

一人、哀れむ様に雪だったモノの方に目を向けた。


「……鬼神に、なんて説明すれば良いのよ」


紫はそう言いながらも心の中で舌を打つ。

そして唇を噛み締めて、雪であったモノの方に飛んでいく。


友を止める為に、封印しにいく為にーー







朝日とともに現れた餓者髑髏。

しかし、無事に妖怪の賢者により妖怪の山にて封じられました。


これは"髑髏塚異変"と呼ばれ後世に残りました。

そして、その日一人の妖怪が幻想郷から姿を……。




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