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東方屍姫伝  作者: 芥
四章 その幸せは彼女を縛る
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友ノ声

眼が覚めるとまず、輝く月が視界に入った。

視界の中に映る綺麗な月。

その月が、真っ暗な空の中心を気取る様に浮かんでいた。


「ざ、んげぇ……」


目を覚ますと私は宙に手を伸ばした。

しかし、その手は何を掴む事もなく虚空を切る。

だけど、私は求める様に手を伸ばす。


私の最後の記憶。

それは斬乂の涙と、八雲 紫になんらかの術をかけられた事だろうか。

おそらく八雲 紫に眠りの術か何かをかけられ、私は地上に運ばれたのだろう。

現に黒い空に浮かぶ月が、ここが地上である事を教えてくれている。


ふと周りを見ると、赤い鳥居と古びた木造建築が確認できた。

たぶん、何処かの神社だろう。

ここがまだ幻想郷内なのならば、ここは幻想郷に唯一ある神社の博麗神社だと思う。

たしか妖怪の山から南東の位置にある人の管理が行き届いていない神社だったはずだ。

斬乂に幻想郷を案内してもらった時にそう教えられたから覚えている。



「あ、ぁ……ざんげぇ……」


私はフラつきながらも、ぐらりと立ち上がった。

そして先ほどと比べれば頭が痛くない事に気づく。

多少は頭がぼぉーっとするが、苦しむ程の痛みではないので、真っ直ぐではないが立つ事はできた。

きっと八雲 紫が私になんらかの処置を与えてくれたのだろう、と思いながら私は夜空を見た。


「い、まいくぞ、ざんげ……」


私は一言呟くと、背中からカラスの様な黒い翼を生やし、黒い空めがけて飛び立った。




❇︎❇︎❇︎




「やはり来たわね、雪」


私が斬乂の元へ行こうと、地底への入り口の一つである妖怪の山に存在する洞窟の様な場所まで飛んできた。

そして、私がフラフラになりながらも地面に着地するとその様な声が聞こえた。


その声が聞こえた方を向くと、一つの人影があった。

その人物は黒髪で背中から私が生やしているものと同じ様な黒い翼を背負っている女だった。


彼女は夜鴉 黒羽。

妖怪の山の頭の天魔であった。


「くろ、は……、どいて、くれ……ないか……」


若干に痛みの残る頭を押さえ、私はフラつきながらも言葉を発す。

黒羽は私のそんな様子を見て、鼻で笑った。


「残念ながら、貴女を地底に戻すわけにはいかないわ」


「ち……やく、もゆかりの……さしが、ねか……」


「そうね、半分正解よ」


私の言葉に黒羽は胸を張りながら答えた。


どうやら私が再び地底に戻る事を想像していたらしく、黒羽を使って先回りしていた様だ。


そして、黒羽は付け足す様に言葉を続けた。


「でも、半分は斬乂のためね」


「ざんげ、のぉ……?」


私の復唱に黒羽は首を縦にふる。


という事は斬乂が黒羽に私を地底に戻さない様に頼んだのだろうか。

つまり、斬乂は私に地底に戻ってきてほしくないという事で……。


私はそう考えてしまい顔を曇らせた。


「それ、じゃぁ……、ざん、げがわたしの……ことを、いらないって……」


不安になる。

もしかして私が要らないから地上に追いやったのか?

もしかして私に飽きちゃったから?

もしかしたら、私がもう必要ないから?

そう考えると、どんどん涙が溢れてくる。


そして、段々と不安になる。

だから余計に地底に戻らなきゃと思う。

どうして私は必要ないの、要らないの、気に入らないのって聞かないと。

私にダメな所があるなら直すから、斬乂が満足する様なえっちな娘になるから。

だから……


「い、やだぁ……すて、ないでぇ……ざんげぇ……」


「違うっ!」


私の言葉に黒羽は声を上げた。

私は黒羽に否定され、涙を流しながらも黒羽の方を向く。


「あいつは、そんなやつじゃないっ! 確かに女にはだらしないけどっ、だけどあんたの事が本当に好きだった!」


「そん、な……こと……しってる……」


斬乂は毎日毎日、私の事を好きだと、愛してると言ってくれた。

私が我儘を言っても笑ってこらえてくれたし、私が嫉妬してもそんな事ないといってキスもしてくれた。

確かに斬乂は女にだらしないけど、毎晩、私だけと一緒に寝て愛してくれた。

夜中は私を毎日抱きしめてくれて、私に一人っきりの夜を過ごさせる事はなかった。

だから私を愛してくれてるのは知ってる。


だけど、今はこうした私を地上に追いやって、一人にして……。


「さっきも! 私のところに来て、土下座までして頼んできたのっ! 頼りたくない八雲 紫にまで頼って私のところまで来て土下座をしたのよ! だから、だから私はあんたをここから先に進ませないし、あんたを消させないっ! だってっ……」


私はあんたの事を友達と思っているから、黒羽は掠れた声でそう言った。


私は黒羽のその言葉に涙を流しながらも黙って聞いていた。

そして、黒羽が言いたい事をすべて聞き終わると私は苦しながらも口を開いた。



「そん、な……ことはしら、ない」



私はフラフラになりながら歩き、黒羽に近寄った。

黒羽は舌を鳴らして、信じられないと呟いた。


「あんた、本当にいいの!? あんた消えんのよっ! もちろん、斬乂の事を忘れるのよっ!」


「べ、つに……いい、それでもざんげ……のちかくに……いれるなら……」


斬乂と一週間に一度は逢えると言われたが、一週間も離れ離れというのは考えられない。

私には斬乂がいないとダメなのだ。

斬乂は私が生きていくのには必要なんだ。

でないと私は一人になる。

また、一人になってしまう。


「ちっ……この、わからずや!」


黒羽にフラフラになりながらも近づく私の言葉を聞き、黒羽は怒鳴りつけて腰に下げていた刀を抜いた。

そして、私を斬りつける様に駆け寄ってきた。

どうやら、力尽くで私の事を止めるらしい。


私は、そんな邪魔をしようとする黒羽に向け、右手の人差し指を向けた。


「………かっ!?」


私が指を向けると同時に黒羽は目から血涙を流しながら膝をついた。

そして鼻や耳の穴からも血をダラダラと流し始めた。


急に訪れた身体の異常に黒羽は私の方を睨みつけた。


「あ、んた……なに、したの……」


「血を……ぎゃくりゅ、うさせた」


黒羽にそう言葉をかけ、黒羽の隣を通り過ぎた。

お前の相手などしていられないという様に、黒羽の方を見向きもせず、彼女の後ろにあるぽっかりと空く洞窟へと歩を進める。


ここから先へ行けば、また斬乂に逢える。

そうしたら、二度と離れ離れにならない様にずっとくっついていよう。

仕事の邪魔になると言うのなら後ろに経って終わるまで待っていよう。

えっちな気分になっても斬乂に頼らず、一人で慰めればいいのだ。

そして、仕事が終わったらいっぱい甘えればいい。

それで斬乂が喜ぶ事をすれば、斬乂は私を捨てないでくれる。

また愛してくれる。

もっと愛してくれる。



「だ、から……わたしは……いくんだ……」



彼女の元に……。

私が一人ぼっちにならないために。

彼女の隣に寄り添うために……。

私が孤独にならないために。


私がそう思いながら歩いて行くと、ドスリと背中から刃物で刺された感触がした。


「……行かせるわけないでしょっ!」


そこには黒羽が顔を血だらけにしながら私に刀を突き刺して立っていた。

私に刀を押し付ける様に、私にもたれかかりながらぜぇぜぇと言って自身の身体を支えていた。


「あんた……、本当に馬鹿ねっ!」


「すき、な……ひとの、ちかくにいることは、ばかじゃない……」


だから行くのだ。

例え自分という存在が消える事になっても、斬乂ならまた愛してくれる。

私がなにもできない廃人になったとしても、斬乂ならまた愛してくれる。

だって、私とずっと一緒に居てくれると言ったのだから。

私を、愛してくれると言ったから。

私を……、幸せにしてくれると言ってくれたから。


「わ、たしは……しあわ、せに……なりたいんだ……」


だから、斬乂の所に行く。

私が空っぽな人形になっても、斬乂なら私を幸せにしてくれるから。

きっと……、また私を愛してくれる。

また、私を抱きしめて一緒にいようと言ってくれる。

だから私は彼女の隣に……。



「だから、どけえぇぇぇっ! くろはあぁぁぁっ!!」



私は雄叫びを上げながら背中から『骨ノ手』を一本生やし、黒羽の腹を貫いた。

黒羽は吐血し、私の着物にしがみつく様に掴み、短い悲鳴を上げて倒れた。

私はそんな黒羽に目線も向けずに足を前に出した。


「ざ、んげぇ……いまいくから……」


私はフラフラになりながら再び歩き続けた。

しかし、歩む私の歩は重く、前に進まなかった。

私は直ぐに原因を理解した。

私の着物の裾を握りしめ、顔だけでなく腹にも穴が空いて血だらけになっている黒羽が未練がましく私の行く末を阻んでいた。


「行かせないわよ……、私は……斬乂あいつの泣く顔なんて……」


「……うるさい」


私は掴む黒羽の手を無理やり振り払い、歩を進めた。


「雪っ…… あんたはいいかもしれないけど、あんたに何かあったら斬乂が泣くのよ……。それでもいいって、いうの……」


「……しらない」


私は黒羽の訴えに、振り返らず吐き捨てた。


「あんたも、斬乂の事を忘れたら……幸せなんて感じられ……ないのよ……」


「……わたしは、それでも構わない……」


だってそれでも斬乂は私を愛してくれると知っているから。

そして、私は斬乂に愛して貰えればそれだけで幸せになれるのだから。


私はそう思いながら、暗く先の見えない洞窟へと潜った。





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