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東方屍姫伝  作者: 芥
四章 その幸せは彼女を縛る
29/72

地底

ガヤガヤ。

私が必死に身体を動かし汗水たらず中で、その様な騒がしい声が外から聞こえてくる。

ある者は歌い、ある者は叫び、ある者は雄叫びを上げている。

そしてカチャカチャと食器が擦れる音や、パリンという食器が割れる音。

喧騒溢れ、とにかく喧しい。


しかし、それは聞こえてくるだけで、一方で私は汗水たらしながらひたすら身体を動かす。

はぁはぁと言いながら腰を振り、身体を動かす。

すでにどれくらいこの激しい動きを繰り返しているかはわからないが、それでも私は止まらずに身体をとにかく動かす。


そんな時、私がその激しい運動をする中、ガラリと戸が開く音がし、野太い声が聞こえ響いた。



「お嬢ぉ、酒が空になったんすけどどこにありやすー?」


私をお嬢と呼ぶ一本角の男。

そいつが空になったのであろう酒を見せつける様に私のいる部屋に入ってきた。

もう出来上がっているのか顔がほんのりと赤く、よい具合に酔っている。


そんな傍ら、私は男の声が聞こえてきても、それでも動かす身体を止めずに声を出した。



「お前らぁぁぁ! まだ料理出来てないのに勝手に始めてんじゃねぇよっ!?」



私はそう怒鳴りながらフライパンを火の上で振るう。

いな、動かすのはフライパンだけでなく、包丁で野菜を刻んだり、肉を炎で蒸したり、米を研いだり、炊けた米でオニギリを握ったりしている。

それだけの作業を一人で、だ。

私は背中から骨の手、通称『骨ノ手』を二十本ほど伸ばし、それぞれの手に飽きがでないくらいに手を動かして、一人でその作業をする。



今日は地底に来てからの初めての夜。

それで今はその地底にある大きな繁華街の様な場所のど真ん中で、引越し祝いの宴会をしている。

文字通りその繁華街のど真ん中でだ。

道の真ん中にドカリと座り、あのばかどもは酒を呷っている。


それで最初は酒のつまみがないから「じゃぁ私が作るー」と私は言って近くの居酒屋の様なところの台所を借りて料理を作り始めた。

まあ、あのばかどもは酒を飲んで騒ぐだけだから、簡単なつまみを作るだけでいいと思っていた。

地上から持ってきた枝豆やらキャベツやらを適当に茹でて塩等で味付けをするだけでいいと思っていた。

まあ、それくらいならいつも宴会で作っていたからいいかなって思ってた。


だが、しばらく経つと元から地底に住んでた妖怪らが宴会に加わり、鬼どもも腹が減ったと言い出し、最終的に本格的な宴会料理を作る事になっていた。

そして私は猫の手も借りたい状態でひたすら一人で炊事をしているのだ。



「いやぁ、お嬢ー。大変そうだねぇ」


私がガムシャラ状態でフライパンを火の上で動かしていると、急に隣から声が聞こる。

私は隣をチラリと見るとそこには萃香が今ほど焼き終わった卵焼きをうめーと言いながらつまみ食いしていた。


「おい萃香、疲れた。変われ」


「いやぁ、私は料理はてんでダメなんでね。あと、料理が足りなくなったから私は取りに来ただけなんだよ」


萃香はそう言い残すとじゃ、と言い残しつまみ食いをしていた卵焼きと野菜炒めが入った皿を持って煙の様に消えていく。

私はその様子を見て、手を動かしながらもため息をつく。


「うぅ……斬乂はどこにいるんだよぉ」


私はそう思いながら涙を目に浮かべる。


私が料理を作り出してから、斬乂は一度も私の顔を見に来てくれない。

嫁がこんなに必死に一人で料理を作り続けているのに様子すら見にこない。

これが噂の倦怠期?

いや、流石にそれはない。

だって先ほども黒羽の家のトイレであんなに愛してくれたんだ。

もう無理と言ったのにも関わらず愛し続けてくれたのだ。

ので倦怠期は流石にない。

なら、別の女を見つけて……。



ガラリーー



「っざん……、なんださとりか」


私が斬乂の事を考えていたら後ろの戸が開く音がなったのでまさか、と思ったら違っていた。

そこに居たのはちょこんと立っているさとりだった。


「なんですか雪さん、私じゃ不満なんですか?」


「いや……、斬乂かと思ってね」


「斬乂さんじゃなくてすみません」


さとりが嫌味ったらしく言うが、私の隣に近寄る。

手伝ってくれるの? と私が聞くとさとりは首を横に振る。


「人が多くて疲れてきたので、こちらに来ただけです」


さとりはそう言うと、置いてある唐揚げを手に取り、口に一つ持っていく。


さとりは心が無差別に読める妖怪らしいから、人の多いところではキツイのだろう。

といっても、私の心は読めないらしい。

まあ、私の心は多人数の心を読むより気持ち悪いらしいので、言われた時には軽くショックを受けた。

なんでも私の中にいる怨霊の声が大量に聞こえてくるらしいので、相当キツイらしい。

おかげでさとりは今でも私の目を見て話してくれない。

まあ、今ではそれはあんまり気にしていないが。

それに今もこうして私の隣に来てくれてるし。


「なら、手伝ってくれよ……」


「こんなに手があるのだから必要ないでしょう?」


さとりはそう言いながら、私の背から生える『骨ノ手』を撫でるように触る。


「いやいや、結構これ神経使うんだぞ? 一本一本に意識を向けてないと上手く動かないし」


私はそう言いながらオニギリを持つ『骨ノ手』の一本をさとりの目の前に動かす。

そして握っていたオニギリを一つ渡すと、さとりはありがとう、と言いながらそれを受け取って口に頬張る。


「しかし……、そうと言うのに器用なものですね」


と言いながらさとりは今いる台所の中を見渡し感心する。

さとりの視線の先には私の背から伸びる『骨ノ手』に向いており、私の背中から枝分かれする様に伸びるそれらは別々の台の上でそれぞれ別の調理をしている。


そんな様子を見ながらさとりは目の前に置いてある唐揚げを又もやつまむ。


「味も悪くないですしね」


「はは、そこは美味いと言っておいてくれよ」


私はそう言い手を動かしながらさとりに視線を向けた。


「だって、斬乂さんが毎日食べてる料理に比べれば、こんなもの粗食でしょう」


そう言いながらさとりはもう一つ唐揚げをつまんで食べる。

てか、さっきからどんなけつまむねん……。


「おいおい、それは私が手を抜いてるって言いたいのか?」


「ふふ、違いますよ。斬乂さんは本当に愛されてますねって言いたいだけです」


さとりはクスリと笑ってそう言う。

私はさとりのその言葉の意図を理解し、少し頬を染める。


「ふ、ふん……私は斬乂の嫁だからな。一様……愛情は込めて作ってるさ」


まあ、愛情と言うより丁寧にか。

今作ってるみたいに、『骨ノ手』を使っていっきにするのでなく、ちゃんと一から二つの手で懇切丁寧に斬乂の事を思いながらで……。


「そしてデザートはわ・た・し、と言ってるのでしたね。斬乂さんの心を読みましたがあれは流石の私でも爆笑ものです」


私がさとりの言葉で感傷に浸っていると、さとりは意地の悪い笑顔を浮かべながらもそう言い残し、つまみ食いしていた唐揚げの皿を持ち台所から出て行った。


私がさとりの言葉に羞恥を感じ、後ろを向くとさとりは既に居らず、戸も閉められ出て行った後だった。

というかお前も料理取りに来ただけか。

それもとんでもない爆弾を落としていって出て行ったわけだから、萃香よりもタチが悪い。

言い訳くらいはさせて欲しかった。

斬乂がどうしても言って欲しいと言ったので、仕方がなく言ったもので私が言いたくて言ったことじゃないとさとりに弁解させて欲しかった……。

まあ、斬乂がそう言われると嬉しいとわかった後は、たまにはで私からも言っていたことに否定はしないが……。


私はそう思いながらため息をつく。


まあ、知られているのがさとりで良かったという事で今はホッとするしかない。

もしこれが八雲 紫とかだったら……。


「あら、お姫様ったらそんな事言ってるの?」


「…………」


噂をすればなんとやら……。

いきなり私の隣にスキマが開いてその中から八雲 が出てきた。

てか、知られてはいけない奴が出てきた。


「ふふ、そんなイケない事を言うお口はこれかしらー、つんつん」


八雲 紫がそう言いながら私の頬をつつく。

そして殺気が沸く。


「八雲 紫……、何しに来た」


「ただ様子を見に来ただけよ。まあ、あの様子を見るに地底の妖怪らと上手くいきそうでホッとしてるわ」


八雲 紫はそう言いながら、私が後で食べようと取っておいた焼きそばの乗った皿を取り、食べ始めた。

それは私のだ、と言うと八雲 紫はたくさんあるから良いじゃないと言い食べ続ける。


「ち……、てか様子見しに来たのなら何故、私の所に来る?」


「だって、お姫様をからかうのは楽しいですもの」


なんかこいつと話すと無性にイラってするな?

今すぐそのスキマから引きずり出して火のついたフライパンの上に顔を押し付けたいくらいイラってするわ。


「ふふ、それよりお姫様も地底に来るなんて、本当に鬼神の事が好きなのね」


八雲 紫はクスクスと笑いながら私の顔を見る。


「……当たり前だ」


私はそう言いながら背中から生える『骨ノ手』を仕舞う。

そして起こしていた火を消して、手ぬぐいで調理で汚れた手を拭く。


「あら、もう料理を作るのは終い?」


八雲 紫は私が調理の片付けをし始めたところを見て、そう尋ねてくる。


「ふん……、お前と話してたら疲れたんだ」


なんか、こいつが出てきて残りの料理を作るのにもやる気がなくなったからな。

外の妖怪らには悪いが料理が足らなくなったら各人で作れ。

恨むなら八雲 紫を恨め。


「あら、まだそこまでお姫様と私はそんなにお話はしてませんわよ?」


「お前と話すと神経すり減らすんだよ!」


「そう。なら、これからお姫様は鬼神に甘えん坊でデレデレしに行くのね?」


私を小馬鹿にする様に見る八雲 紫。

私はその言葉にイラっとするが、そのつもりだったので否定はできない。


「……うるさいっ!」


私は汚れた手ぬぐいを八雲 紫に向け投げつけ、その場を後にした。




❇︎❇︎❇︎




「うわーん、斬乂ぇー!」


私は斬乂を見つけると、目を湿らせながら斬乂に抱きついた。


あの後、私は居酒屋の台所から出て斬乂を探した。

外に出ると、鬼だけでなく見た事のない妖怪もたくさんいて、通りで料理の減るスピードが早い、と思った。

それで斬乂は何処だろうかと探していると、意外に簡単に見つけた。

その宴会の輪の中心に居り、見知らぬ少女を二人ほど侍らして、ニヤニヤと笑いながら飲んでいた。

というかさとりも一緒に居て、仲良く話していた。

それで私はそんな可愛い少女らに囲まれる斬乂に嫉妬し、走り出して斬乂に抱きついたというわけだ。



「どうしたんですか雪ニャーン?」


斬乂はそう言いながら私の頭を撫でてくれた。

その斬乂からの行為に私はほっこりとする。

そして私はやっぱり何にも、と言って斬乂の膝の上に頭を乗せ寝転がる。


「あらあら雪ニャンは甘えん坊ですねー」


「だって……斬乂と離れ離れで寂しかったんだもん……」


私は斬乂に膝枕をされながら、甘えた声で斬乂の膝に頬を埋める。

そんな様子を見て、さとりはまたやってると言いたげな目でため息をついた。


「雪さん 、離れ離れと言ってもまだ一時間も経っていないでしょう?」


「一時間でも……、斬乂と離れていたのには変わらないさ」


「うへへ、本当に可愛いですね雪ニャンは」


斬乂はそう言いながら、膝に寝転がる私の頰に口づけをしてきた。

私は斬乂にキスをされると頬を赤らめながらも嬉しそうにニヤける。

そして唇にも、と訴える様に私は斬乂の膝の上で仰向けになり、斬乂の顔めがけて唇を尖らせる。

そんな私の様子を見て、斬乂は意地悪な顔をする。


「んー、雪ニャーン。欲しいものは口で言わないとわかりませんよー?」


「……………口が、いいです」


「うひ、雪ニャンは本当に可愛いですね」


斬乂はそう言いながら私の唇に口を持ってきてキスをしてくれる。

そして、舌を私の中に入れる。

いわゆるディープなキス。

お酒を飲んでいたからなのか、斬乂の味は少し酒の味がするけどそれも悪くない。

というか斬乂の口からする酒の味で私まで酔った気がする。


「うわ……パルスィ。女の子同士でしてるよ……」


「……妬ましい」


私と斬乂が口を合わせていると、今まで斬乂と話していたであろう見知らぬ少女らがコソコソと話しながら私と斬乂の行為を見ていた。

私は他人に見られていた事を思い出し、斬乂の肩を押し離した。

そして顔を真っ赤にしながら、斬乂に言う。


「斬乂……人前でこういう事はしないって約束、だろ?」


「えー……、雪ニャンから言ってきたんじゃ……」


「う……そうだけど……」


確かに私から求めたが、その前に斬乂が私のほっぺにキスをしてきたのが悪い。

だから私が斬乂に甘えるのは悪くない。

それに私を一時間近く一人にしておいたのも悪い。


「てか、なんで私を一人にしたんだ。私は……一人で頑張ってたのに会いに来てくれないなんて……」


「あ、それはえーと……」


私の言葉に言葉をつまらせる斬乂。

その反応を見て、先ほどから私と斬乂の方をチラチラと見ながら話している少女ら二人に、私は視線を向けて察する。


「もしかして……浮気してたか?」


「う、浮気じゃないですよっ! ただ挨拶してて話し込んでただけです!」


私の言葉に斬乂は慌てる様に弁解する。

私は怪しいと思いながら二人の方を見た。


斬乂が挨拶をしていたという少女ら二人は両方とも金髪で、片方はポニーテールでもう片方はショートボブだ。

見た目は可愛いく、胸も私よりは大きく揉める程度はある。

顔立ちもどちらも十代後半で、斬乂のストライクゾーンには入っている。


私が二人の様子をジロジロ見ていると、その視線に気づいたのかポニーテールの方が口を開く。


「黒谷ヤマメです。えーと……貴女が鬼の大将さんが話してたお嫁さん?」


なんて紹介したのだろうか?

まあ、間違ってはいないが普通に紹介してくれていなかったのは確かであろう。


「私は白鷺 雪だ。まあ一様、わたしは斬乂の嫁、だ」


私は恥ずかしがりながらも一言そう言うと、見せつける様に私は斬乂の腕に絡まった。

すると、睨まれる様な視線を感じる。

私は視線を感じる方に目を向けると、もう片方の金髪少女がジトーとした目で私の方を見ていた。


「見せる様にイチャついちゃって……、妬ましい」


「あ、こっちの子は水橋 パルスィっていうんだよ」


水橋と呼ばれる少女が私を睨んでいると、補足をする様に黒谷が紹介してくれた。

私はその紹介に答える様に、水橋の方に頭を下げる。

しかし、その会釈は水橋に無視される様に目をそらされた。


「はは、この子ね人見知りだから、悪く思わないでね」


「ち……誰が人見知りよ。妬ましい」


黒谷がフォローをしようとするが、水橋は変わらず爪を噛む。

私はその様子を見て苦笑いをした。




その後。

私は斬乂にくっつきながらも未だに慣れないお酒を飲んで過ごすも、ヤマメとパルスィとなんや感やで仲良くなった。

そしていつも通り酔い潰れて斬乂にお持ち帰りされた、まる。

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