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東方屍姫伝  作者: 芥
四章 その幸せは彼女を縛る
28/72

幸福

「ふん、あんたらが居なくなってコッチは清々するわ」


私こと白鷺 雪の目の前に座る黒髪の女性が鼻で笑い、太々しく足を組みため息をつきながらそう言う。


彼女の名は夜鴉 黒羽。

妖怪の山の頭で最強の天狗で、最強の妖怪。

そして私がかつて背中に馬乗りになって心臓を抜き殺そうとした女だ。

ちなみに彼氏いない歴年齢の女で、処女を拗らせる残念な女だ。

ついこないだも部下に手を出しかけ、セクハラで訴えられたと聞く。



「えー、私は黒羽ちゃんと離れ離れになるなんて哀しいですよぉ」


対して私の隣に座る赤髪の二本角を生やす少女が、たいした哀しみも見せずにヘラヘラと笑いながら答える。


彼女の名は千樹 斬乂。

鬼の頭領で、通称母さん。

そして天魔と呼ばれる黒羽に対し、斬乂は鬼子母神やら鬼神と呼ばれ、最強の妖怪ではなく災厄なんて呼ばれている。

いつもヘラヘラと笑ってはいるが私が今まで出会ってきた中で一番強い奴だ。

いや、一番やばい奴だと言っていい。

山をも砕き、海を割るくらいヤバイ。

比喩ではなく斬乂はマジでそれらを私の目の前で実践してくれたのだ。

それくらい此奴の力はヤバイ。


だけど良い奴。

そして斬乂は、私の伴侶だーー




❇︎❇︎❇︎


妹紅との旅を終え、更に数百年程の月日が過ぎた。


妹紅と別れた後、私は泣きながら妖怪の山に戻り、斬乂の屋敷に帰った。

そして泣きながら帰ってきた私を見て、多少は取り乱していたが斬乂は私に何も聞かずに頭を撫でてくれた。

その時はその優しさに更に斬乂の事が好きになると同時に、妹紅に申し訳ない気持ちで一杯だった。

だけど、妹紅が笑ったように私も笑った。

また、あいつに会えた時に凄いしあわせだ、と言える様に私は幸せになるんだと思い泣きながら笑い、斬乂に抱きついた。


そしてその日のうちに斬乂は私の為に宴会を開いてくれた。

結婚式、と言うより披露宴だろうか?

沢山の人、というか鬼が私と斬乂との間を祝ってくれた。

飲んだり歌ったり踊ったりで鬼たちは大変盛り上がっていた。

その時に私は初めてお酒を飲んだ。

以前にも飲まされた様だが、記憶がないのでちゃんと味わって飲んだのはその時が初めてだった。

そして斬乂に勧められるがままに飲み、酔い潰れて、介抱という名のお持ち帰りをされたのもその時が初めてだった……。



まあ、そんな惚気は置いておいて次だ。


その宴会の次の日に私は妖怪の山の頂上にある天魔の屋敷に、斬乂によって連れられた。

理由は斬乂が私と天魔に仲良くして欲しかったからだとか。

まあ、斬乂が言うなら……、と私は渋々と天魔の屋敷に向かった。

しかし天魔は私の顔を見るなり怒鳴り散らし、腰の刀を抜いて切り掛かってきた。

当たり前だろう。

かつて私は妖怪の山で百を超える天狗らを殺し、混乱に陥れたのだから。


私が一度、斬乂の元から離れた時も、なんで逃したと天魔は斬乂にキレて一時、天魔は一方的に斬乂と絶交したらしい。

まあ、その後は色々とありなんとか仲直りしたらしい。

しかし、何故かどうやって仲直りしたのか聞いても斬乂は苦笑いを浮かべるだけで何も教えてくれはしなかった、何故だろうか……。


それで私は天魔の前に通され、必死に天魔に頭を下げて謝った。

当たり前だが簡単に許してもらえず、殴られ蹴られ罵倒されまくった。

斬乂が私を守る様に黒羽の前に立ってくれたが、私はその行為に甘えず大人しく天魔にボコられた、これが私なりのケジメだったから。

しかし、斬乂が必死に天魔を説得してくれ、天魔は渋々と私の事を許してくれた。

その必死に私を守る斬乂の姿に見惚れて、更に好きになったのはまた別の話だ。



そして、それからは平和に過ごした。

これほど何事もなく、何一つ考えずに暮らしたのは初めてと言ってもいい。

そんな平和な日常の中で、私は様々な人達と関わってきた。



イザコザのあった天魔とは雑談をするまでの仲となった。

最近では恋話をする仲にもなった。

まあ、一方的に私が斬乂の事に惚気るだけだが。


かつて私を見るに堪えないと言った古明地 さとりとは、過去の事は私の一方的な勘違いだとわかり、一様は仲良くなった。

一様、と言うのは未だに私の心を読むのが気持ち悪いからか、目を合わして話をしてくれないからだ。

まあ一様は会話をするが、未だに私と会話をする時に何処か辿々しいところがある。


そして昔に唯一言葉を交えた鬼の二人、伊吹 萃香と星熊 勇儀。

彼女らはよく私の元にやって来ては決闘だ、と言ってくる。

何でも鬼は闘いが好きだとかで、その二人以外にもよく私は挑まれるが、一番私との関わりがあるのはやはりその二人だろう。

ちなみにその二人との決闘は今の所は私が全勝、ぶい。


それと私が一番嫌いな奴、八雲 紫。

あいつはゴミでクソだ。

斬乂が怖いのか、私が一人っきりの時によく現れ、意味もなくからかい消えていく。

時には私が斬乂の隣で目を覚ますと、変な裂け目、通称スキマを広げチラリと私の裸体を見て、ちっさぷっ……と笑い消えていく。

その度に斬乂に泣きついて慰めてもらった。

いつか絶対八雲コロスというのが、密かな私の野望である。


最後に、意外だが私に告白してきた風見 幽香だ。

幽香はどこから聞きつけたのか、妖怪の山に私がいる事を知り、何度か妖怪の山に足を踏み入れては天狗らの包囲網を突破しながら斬乂の屋敷にやって来る。

そして、私を攫うと言って斬乂とよくボコりあっている。

ちなみに私は今日もやってるなー、と縁側でのんびりお茶を飲んでいる。

まあ、幽香は斬乂に負けると潔く私を攫う事を諦め、斬乂との決闘の後によく私と雑談をする仲だ。

時々、物陰に連れ込まれて貞操ピンチになる事もあるが、その度に私は大声で斬乂を呼び、助けてもらっている。

完璧に虎の威を借る狐である。



大まかに関わりがあったのはこれくらいだろうか。

既に千年近く生きてきたと言ってもいい私だが、これほど密度の高かった数百年を過ごせたのは妖怪の山に来たおかげだからだろう。

いな、斬乂が私を受け入れ周りに私と言う存在を紹介してくれたからだろう。


斬乂には本当に感謝している。

もう感謝しすぎて頭が上がらない。

というか既に頭が上がらず、尻に……というか寝床に敷かれ毎晩可愛がってもらっている。


そう。

この数百年の間で、一番の関わりがあったと言っていいのは斬乂だろう。

ただ私と斬乂は周りとは違い、恋人というか夫婦らしく仲良くしている。


新婚旅行には斬乂と二人っきりで海に行った。そしてそこで、ていやー、とか言って海をかち割ったのは今でも鮮明に覚えている、というか強烈すぎて忘れられない。

時には私は斬乂の為に料理を振る舞ったこともある。料理は人間時代に時々していた以来、全くしてこなかったので最初の方は上手く出来なかったが段々と上達し、最近では毎日作ってやってる。

寝る時も一緒で、もちろん毎晩肌を重ねてから寝ている。むしろ重ねない日など無いくらいだ。

それ以外にも色々なことをして、斬乂と過ごしてきた。




あぁ、しあわせだーー





私は最近、というか斬乂と結婚してからそう思うようになった。

かつて茜の死に縛られ、血みどろになっていた事が嘘みたいに私の今は充実している。

早く死にたい、今すぐ死にたいと思っていた時が遠い昔の事に思える。

最後に涙を流したのは妹紅と別れた日以来で、それ以降は多少はあったが死ぬほど悲しい気持ちにはならなかった。


それもこれも私が幸せなのは全部、斬乂のおかげだ。

斬乂と結婚してよかった。

最近、深々とそう思う。


私はそう思いながら隣に座る斬乂の腕に抱きついた。



「斬乂には、私が居るから寂しくないぞ?」


天魔……黒羽と斬乂が仲良く談笑する中で、私は斬乂の腕に抱きつき、コテンと斬乂の肩に自分の頭を置く。

いきなりそう言われた斬乂は一瞬、目を見開くが、嬉しそうに二ヘラと笑い私の頰をつつく。


「うへへ、わかってますよぉ。でも、ありがとうございますー。お礼にキスしてあげますねー」


「ば、ばかっ! そ、そういう事は二人っきりの時でだな……」


私はそうも否定しながら大人しく自分の唇を差し出し、斬乂の唇を許す。

一度キスしてから、互いに視線を合わす。

そして私はもう一度するように、唇を突き出して斬乂を求めた。


「……こほん、二人とも」


私に危ないスイッチが入りかけていると、目の前にいる黒羽が咳払いをして、ピンク色になりかけた空気を乱す。


「むー、黒羽ちゃん邪魔しないでくださいよー」


「はぁ……、盛るのは良いけど部屋でしてくれない?」


「あ、嫉妬してますー? いいでしょー、私の嫁は可愛いんですよー」


斬乂は二ヘラと笑いながら、私の肩を抱き寄せながら黒羽に自慢する。

私は可愛いと言われる事にまだ慣れなく、恥ずかしがるように顔を俯けた。

惚気る斬乂を見て黒羽はため息をつき、どうして私は……と爪を噛む。


「まあ、けど……あんたらのその惚気を見るのも今日で見納めなわけだから、多少は許してやるわ」


黒羽はため息をつきながら私と斬乂を見つめる。



そう。

私と斬乂……、と言うか鬼全体は今日から妖怪の山の下にあると言われる地獄に行く事になっている。

私は簡単に聞いただけでよくわからないが、なんでも地獄の政策とかで一部の地獄を閉鎖するとかで、その管理を鬼が引き受けることとなったらしい。

これは地獄の閻魔が決め、八雲 紫と斬乂との間で交れた話し合いらしく、その閉鎖した地獄を管理する代わりにそこでの支配権を貰えるらしい。

斬乂は兎も角、鬼らは地上にいるよりも地獄に行く事を選ぶ者が大半で、斬乂はそうした鬼らの意見を汲み取り、地獄に行く事を決めたのだ。

まあ、鬼らも地上にいる事に色々と思った事があったらしい。


それで当然、私は斬乂の伴侶だ。

火の中だろうが水の中だろうが地獄だろうがついて行く。

というか、斬乂から離れるとか考えられない。

だから、私は当然の様に斬乂について行く。

その事を斬乂に伝えた時の夜は今まで以上に愛されたが……。


とりあえず今日はこの後、妖怪の山の下にある地獄に向かうため、こうして黒羽に最後のお別れを言いに来ているのだ。



「なら、ここで雪ニャンとエロい事をしても文句言わないって事ですねー?」


斬乂は黒羽の言葉に調子づいたのか、私の胸を軽く揉む。

私は抵抗する事なく小さく喘ぎ、斬乂の腕に抱きつく力を更に強めた。

これも昔ならすぐに殴る行為だったが、今では斬乂が急に揉む事は慣れた事だ。

むしろ、なんか揉まれると胸が大きくなる気がするからもっと揉んでほしい。

まあ、あくまで気がするだけだが。



「やめいっ!」


「あたっ!」


おっ始めようとした斬乂を止めるように、黒羽が空になった湯飲みを斬乂の頭に投げつける。

斬乂はそれが額に当たり、痛そうに抑えていた。

私は斬乂の腕に抱きつきながら大丈夫? と尋ねるが、斬乂はまた怒られちゃいましたー、とヘラヘラ笑いながら答える。

その答えに安堵するも、私は黒羽を睨みつけ口を開く。



「黒羽、お前ちょっと部屋から出ろ」


「はぁ!? なんで私が部屋から追い出されるのよっ!!」


私の言葉にごもっともな事を言う黒羽。

しかし、私は唇を尖らせながら斬乂の腕を抱きしめ、両足同士で擦るように揺する。


「だって、この後すぐに出発するから……」


「……あんた、私の部屋で何するつもりよ」


「いや、まあその……したい……」


「……もうこいつらいやだぁ」


私はほんのりと顔を染めながら言うと、黒羽はため息をつきながら両手で顔を覆う。


だって仕方がないではないか……。

斬乂がいきなりキスなんてしてくるし、胸だって揉んでくるからその……悶々として、火照ってきて、ちょっとムラってきて……。

まぁあれだ、あそこもちょっと酷いことになっている。


「うひっ、雪ニャンは相変わらずえっちな子ですねー」


「……誰が私をこんなんにしたと思ってる」


「それは私ですねー、でも責任とるから大丈夫ですよぉ」


私が当たり前だ、と言おうとすると突然に斬乂が立ち上がり、私を抱き上げる。

いわゆるお姫様抱っこで私を持ち上げる。

私は斬乂のいきなりの行動に首をかしげた。


「黒羽ちゃん、ちょっと厠借りてきますねー」


私は斬乂の言葉に全てを察し、顔を真っ赤にする。

だが、私はその言葉に嫌とは言わず、お姫様抱っこをされた状態で大人しく斬乂の腕の中で縮こまる。

しかし黒羽は斬乂の言葉に声を上げ、勢いよく立ち上がった。


「ちょっ!? あんたら何処でおっぱじめる気よ!!」


「いえいえ、ちょーと雪ニャンが我慢出来そうに無いので」


「だからって人ん家の厠をそんな風に使うな!?」


「ぶー、ケチですねー。黒羽ちゃんとシた時は良いって……」


「わわわわわわわわかったわ、好きなだけ使いなさいっ! だからそれ以上言うなエロ斬乂!?」


斬乂の意味深な言葉に黒羽は動揺しながら答える。

斬乂はその答えに満足したのか、嬉しそうに頷き、私の赤くなった顔を見る。


「じゃあ、雪ニャン行きましょうか」


「う、うん……お手柔らかに……」


私はそう答えると斬乂はニヤリと笑いながら、部屋から出て行く。

私はその斬乂の顔を見て、どれだけされるのだろうかと思いながらも、斬乂の顔を見て恥ずかしげに微笑んだ。

そしてそな笑みを見て、やっぱり貴女が好きですと思った。



その後。

それから一時間後に戻り、黒羽にもう一度お別れを言った。

まあ、私は涎だらだらでボンヤリとしながらのお別れだった。

そしてお別れ後、八雲 紫の案内の元で数百人の鬼を引き連れて地獄……通称、地底へと向かった。

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