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東方屍姫伝  作者: 芥
三章 その少女は幻想へと歩む
27/72

決別

私は目を覚ます。


私は外からさされた太陽の日によって目覚める。

ちょうど日の出なのか、外から入る気持ちの良い日光が私を覆い暖めてくれる。


私は朧気な目を擦りながら目を開けようとすると、何かに抱きつかれている事に気付いた。

私を覆うそれは何か温かく、外からさされた太陽よりも居心地の良いものであった。

感触的にどうやら私もそれを覆うように抱きしめており、密着している。


私は目を開けた。

目を開けた先にあったのは大きな塊が二つほど。

というか女性の象徴たるものだった。

つまりおっぱい。

私はなぜそこにおっぱいが? と寝起きの頭が働かないまま、自身の身体を起こしてそれの全体に視線を向ける。


視線の先には赤髪の二本角を生やした幼げな少女の顔があった。

それは生まれたままの姿をした千樹 斬乂の寝顔で……。



「あぁそういや……斬乂こいつと結婚したんだったわ」


私は斬乂の寝顔を見て全てを思い出す。


昨日、斬乂と再会したこと。

その時に、こいつは私が数百年も悩んでいた事を全て台無しにしたのだ。

私が友達でいようって言ったのに、斬乂はあろうことか私に結婚しようと言ってきたのだ。

そして私は斬乂がどうしてもというので、仕方がなくで、その申し出を受け入れてやったのだ。


……嘘である。

実際は私が顔を真っ赤にして、みっともなく顔も股も濡らして本当は好きなのに友達のままでといいと言ったが、おそらく斬乂が察して私にプロポーズしてくれたのだ。

そして私は斬乂の言葉が嬉しくて思わず頷いてしまって……。


「うへ……」


やばい、つい嬉しくて変な声を出してしまった。

私は緩む口元を少し撫でるが、嬉しさのあまりにニヤけが全くと収まらない。


何故なのか、自分でもわからないが兎に角、嬉しい。

斬乂と結婚できたから?

何百年も想い続けた相手に求婚されたから?

恐らくはそうなのだろう。

だけどやはり、こうも素直に喜べるのは吹っ切れたからだ。


以前の私は斬乂と再会したら、絶対に何をされても拒絶できないと思っていた。

以前の私は斬乂とは友人として居たいと思っていた。

以前の私は斬乂に色々と後ろめたい気持ちがあった。


だけど斬乂は私を魅力的だと言い、私となら上手くいくと言ってくれた。

私にはそれが嬉しかったのだ。

それに……


「あんなに私を……愛してくれたし……」


私は自分の今の姿を見て、昨夜の事を思い出しながらポツリと呟く。

私の今の格好は一糸纏わぬ様で、身体の所々に赤い斑……所謂、キスマークがつけられている。

もちろんそのキスマークは斬乂のだ。


私は自身のあられもない姿を見て、顔を赤面させながらもニヤニヤとする。

あんな恥ずかしい事をされたと思う羞恥心もあるが、それよりも嬉しさの方が大きくニヤニヤが止まらない。


あのプロポーズをされた後、私はすぐに斬乂に抱かれた。

もちろん物理的に抱きしめられた、とかではなく、性的にだ。

風呂にも入らず、求婚をされた後すぐにキスをされ、そのまま押し倒されてだ。

私も斬乂のそれらの行為に抵抗はせず、素直に受け入れ、抱かれてしまった。


結果、私が気絶するまで攻められ、いつの間にか目を覚ませば朝だった。

斬乂も私としてそのまま寝てしまったのか、私と斬乂は着物どころか掛け布団すらも被らず、裸が丸見えな状態で抱きしめ合った状態で寝ていたのだ。


人間時代に結婚していた茜とも何度かはこの様な事はしていたが、私が茜を攻めてばかりであったし、茜自身も攻めるより攻められた方が好きだった。

ので誰かにあの様に身体を貪られるのは初めてだ。

物理的に野良妖怪に貪られたことは何度かあるが、あんなにも愛のこもった貪られ方は初めてであった。

それに茜との行為は、寺に幼い子供たちではあったが同じ屋根の下に他人が居たので、そこまで激しい事をすることを抑えていたが、斬乂との行為では抑えるどころか無茶苦茶にされた。

今でも昨夜の情事を思い出せば、股が湿り、顔が熱くなる。


「ん……」


湿った股を指で軽くなぞると、濡れていた。

それを見て、顔がさらに熱くなる。

昨日あんなに散々やられたのにまだ求めるかと思いながら、両足を抱えうずくまった。

そしてこの再び火照った身体をどう収めるかを考える。


斬乂を起こして、と考えたがそれでは本末転倒だ、一回では済まなくなる。

ならば、仕方がないから一人で……。


私はそう思いながら、斬乂が起きる前に終わらせるため早速、自分の股に手を持って行きおっ始めようとした。

が、その行為は急に現れたものの声によって遮られた。


「お盛んね、お姫様」


「……っ!?」


私は突然に現れた存在に慌てて手を股から離し、何もしていなかった事を示す様に手を後ろに持って行った。

そして、突如目の前に現れた不気味な裂け目から、顔を覗かせるように私の方を見ている金髪の女を睨みつける。


「あら、続けても結構よ?」


「……うるさい。何の用だ、八雲 紫」


「そんな堅苦しい呼び方やめてちょうだい、紫でいいわ」


クスクスと笑いながら八雲 紫はからかうように私に向けて言う。

だれが呼ぶものかと思いながら私は八雲 紫を睨み続けた。


「ふふ、反抗的。鬼神との情事では反抗どころか抵抗すらしなかったのに」


「……み、見てたのか」


私が顔を真っ赤にしながら尋ねると、八雲 紫はバッチリと指で輪っかを作りながら答える。

その答えに私は更に顔を真っ赤にした。

見られていた、という事はつまりあんなみっともない格好から、あんな恥ずかしい姿を見られていたかもしれないということだ。

斬乂ならばいい。

どうせこれから嫌というほど、むしろ昨日のこと以上の恥ずかしいところを見られるのだから。


しかし、八雲 紫に見られていたとなると話が違う。

あんなみっともないところを斬乂以外に見られていたとなると黒歴史ものである。

どこから見られていたのかは知らないが、確実に今後ことあるごとにその事で弄られるに決まっている。

それに、昨日でわかったが八雲 紫は確実に性格が悪い。

そんな奴に弱みを見せるような真似をするなんてなんと不覚な……。


「ふふ、子供が欲しくなった時はいつでも言いなさい」


「………………誰がお前なんかに」


一瞬、迷ってしまった。

斬乂になら孕まされても良いかもと思ってしまった。

だが、女同士でそんな事は不可能だし、流石に性別を変えるとかそんな倫理に反する事など出来るはずがない。


だけど斬乂との子供、か……。


「あら、お漏らしてるみたい。もしかして想像しちゃったかしら?」


自分のお腹をポッコリと膨らましている姿を想像していると、八雲 紫が私の股の辺りをジロジロと眺めながらクスクスと笑う。

私はその様な事を言われ、すぐに顔を真っ赤にさせた。

そしてそれを隠すために何か裸体を隠すものを探し、近くに脱ぎ散らかされた自身の白装束をすぐさま掴み、袖を通し身体を隠す様に羽織った。


私のその慌てた様子を見て、八雲 紫は滑稽に思ったのかプークスクスと笑っている。

こいつはどこまで私をコケにするのか?

そう思いながら八雲 紫を睨みつけた。


「それで、私に何の用だ。まさか、私の滑稽な姿を見るためにただ笑いに来ただけか?」


「それもあるけど、真面目な話をしに来たのよ」


八雲 紫は嘲笑を止め、真面目な顔をしながら言葉を続けたーー。





❇︎❇︎❇︎






「迷いの竹林……か」


私はいつもの通りの白装束を纏い、空を飛ぶ。

私の背中には黒い翼が生えており、その翼を羽ばたかせながら飛んでいく。


この黒い羽はいつぞや妖怪の山を襲った時に、鴉天狗の心臓を喰らい手に入れたものだ。

能力、というよりは特徴だろう。

私の【魂を狩り盗る程度の能力】で鴉天狗の象徴と言える黒い翼を言葉通り殺して狩り盗ったのだ。

まあ、飛行による移動などそんなにしないので使わないが。



私は空中高く飛びながら八雲 紫が言っていた深い霧が立ち込む竹林、迷いの竹林と言うところに向かう。

名前からしてぶっそうなのであまり行きたくは無かったのだが、八雲 紫がどうしても行けと言うので仕方がなくでだ。

いや、実際には脅されてだが、脅迫材料がとんでもないものだったので渋々向かうしか無かったのだ……。



「ん、あれか……」


私は上空から無造作に生える竹林の森を見つける。

それは風見 幽香のヒマワリ畑よりも広大で、規則性なく生える竹林だった。

ぼんやりと霧が出ているのも上空からわかり、下手に竹林内を歩き回ったら迷子になりそうだ。


私はとりあえず、適当な場所に降りようと視線を巡らすと見知った顔を見つけた。


遠目でもわかるほどの白い髪、そしてその白さでより一層と目立つ頭につけた赤いリボン。

妹紅が迷いの竹林の出入り口あたりで、しゃがみ込み惚けているのを私は見つけた。


そう言えば妹紅とは昨日、幽香の家で別れた限りだった。

まあ、妹紅が私を見捨てて逃げて行っただけなのだが、あれは妹紅が、というより余計な問題の種を蒔いた私が悪いと言えるのだろう。

一言二言いって置いていったことは許してやろう。



「……あ、雪じゃねえか」


妹紅は私が上空から降りてくる事に気付き、覇気のない声でそう言った。

私はそのいつもより元気の無い妹紅に疑問を持ちながら、妹紅の前に降り立ち、黒い翼を背中に吸い込ませる様にしまい尋ねる。


「どうしたんだ妹紅、元気ないぞ?」


「いや……」


妹紅は私の言葉に首を横に振る。

しかしやはり何かあったのか、妹紅はゆっくりと口を開く。


「昨日あの後、人里に行ったんだ……」


妹紅はそう切り出しながら、昨日の出来事を話し始めた。


妹紅は私をヒマワリ畑から置いていった後、宿を求めて人里に向かったらしい。

それで夜遅くはなったが人里らしきものは難なく見つけ、人里の中に足を踏み入れた。

しかし、いまだに夜遅くても出歩く住民らに異物を見る様な目で見られたらしい。

だが、妹紅は自分の白髪が目立つのと余所者が来たから警戒しているだけだろうと思い、人里を闊歩し続けた。

だが、しばらく歩き続けていたら陰陽師らしき人間に追われ、逃げる様に人里から出てきたらしい。


妹紅はその様な事を簡単にだが、言葉にして私に教えてくれ、ポツリと言う。



「幻想郷って言っても、私達みたいな中途半端じゃ人には受け入れられないんだな……」



妹紅はもの寂しげに言う。

私は妹紅のその様な様子を見て、なにも言えなかった。


妹紅は幻想郷という場に安楽を求めていた。

不老不死という人間あるまじき者となり、見た目すらも異形となった彼女はもう一度、人に戻りたかったのだろう。

妹紅曰く、今まで会ってきた人間らは皆、妹紅の白い髪を見てキミ悪がったらしい。

私も同じ様な経験をしてきたのでわかるが、誰かに……それも同じ人間であったものに石を投げられ否定されるのには結構くるものがある。


しかしそれでも、妹紅は人であり続けたかったのだろう。

人間に受け入れられ、人間になりたかったのだろう。


だから妹紅は幻想郷に夢を求めた。

忌み嫌われた自分にももしかしたら、居場所が出来るかも、と。

否定される事なく、もう一度人間の中で暮らせるのではないか、と。


しかし、現実はそんなものじゃ無かった。

幻想郷での人里にもやはり異形を否定する心は持ち合わせているらしい。

八雲 紫も言っていたが、妖怪の間でも一様は人里に攻め込むのは禁止をしているらしいが、禁止しているだけで多少の妖怪による被害はあるのだろう。

故に妹紅は異形として、又もや人に否定された。


私は知っている。

妹紅がもう一度、人に戻りたかった事を。


私は元人間とは言え、今やもう純粋な妖怪だ。

私とは違い、妹紅はただの老いる事も死ぬ事もない人外で化け物ではないのだ。


だから妹紅は、やるせ無かったのだろう。

人なのに人ではない。

死ねず死ぬ事のない人外。

だけど、それでも妹紅はまだ人の輪に戻りたかった事を私は知っている。


知っているからこそ、私はなんて返せばいいのかわからない。

掛ける言葉が、見つからないのだ……。



「ま、だけどもう気にしてもしょうがねえよな」


私が口を噤んでいると、妹紅がそう言いながら立ち上がり背伸びをした。

そして、悲痛な気持ちを払拭する様に軽く頬を叩き、気を引き締める。

妹紅は頬を叩くとよし、と頷いてニカリと笑った。

私はその無理やり作った様な笑顔を見て、安堵した。


どうやら完全にではないが、妹紅は気持ちを切り替える事が出来た様だ。

笑顔を無理やりは浮かべているが、それが妹紅なりの気持ちの切り替え方なのだろう。

そうやって無理に笑えば、自然と気分が晴れるからとりあえず笑っとけばなんとかなる、と昔に妹紅が言っていたのでこの作為的な笑顔はそういう意味のものなのだろう。

ならば、私からはとやかく言う必要がないなと思い安心していた。


しかし、妹紅の次の言葉により私は顔を曇らせた。



「じゃあ次はどこに行くよ、雪!」



妹紅が私に向けニカリと笑いながら、先の事を聞く。


そう次。

目的としていた幻想郷には辿り着いた。

しかし、そこはただ幻想郷と呼ばれる地で、人らが妖怪などの異形を受け入れる楽園では無かった。

まあ、最初からそんな夢物語があるとは思はなかったが、期待したよりは普通の人里で普通の人間が住んでいただけだった。

そうとわかればもう此処に用はない。

だから次に進もう、と妹紅は言うのだ。

前向きだ、私はそう思った。



そして、それと同時に私は今の自分の立場を思い出した。



「んー……次はいっその事、海の向こうに行くってのはどうだ? 日本とは違う文化があるって聞くし、面白そうじゃ……どうしたんだ雪?」


妹紅は頭を捻らせながら次の目的地の事を考えていると、私の今の顔つきを見て首をかしげた。

日本から出るのは怖いか? と妹紅は尋ねてくるが、そんな事で悩んでいるのではないのだ。

私は言わなければならない事を、妹紅に伝える為に口を開いた。


「な、なぁ……妹紅」


声を若干震わせながら口を開くと、妹紅はなんだと聞き返す。

そして、私は重しげに簡潔に伝えた。



「……ごめん」



三文字。

それだけの言葉を口に出し、私は勢いよく頭を下げた。


妹紅は突然と私が頭を下げ、謝罪してきた事に慌てていた。

どうしたんだ、なにがあったと慌てながらも私の心配をしてくれた。

しかし妹紅のその動揺に気にせず、私は言葉を、重要な事を伝えた。


「私……結婚する事になったんだ……」


「……はぁ?」


私の言葉に素っ頓狂な声を妹紅は上げた。

そして、どういうことだと聞いてきた。

しかし私は頭を下げたまま顔を上げずに、口を噤む。

そんな私を見て、妹紅はまさかと焦燥を浮かべ、口を開いた。


「ま、まさかあの花畑の女に無理やり……」


妹紅はどうやら私が幽香に襲われた、と思っているらしい。

だけど、的外れだ。

そんな最悪な展開ではない。

いや実際にはなりかけたが、幽香とはなにも無かった。

そんなバッドエンドではなく、私の結婚はハッピーエンドであるのだ。


「違う……」


「な、ならなんなんだよ!? なんでいきなり結婚とか……」


妹紅は意味がわからないと言いたげに顔を下に向ける。

私はそんな妹紅に下げる頭を上げ、本当の事を伝えた。



「……好きな人が私を、認めてくれたんだ」


「……いや、意味わかんねぇよ。私は、私はお前と……」


妹紅は額に手を当て、参るように首を振っていたが、私の顔を見てか言葉を噤む。

そして、何かを悟るような顔をして別の言葉をいった。


「……そいつは、悪い奴じゃないんだな」


「……うん」


ならいい、と妹紅は一言いい踵を返し、竹林の中に向かって歩いていく。

私は待って、と呼び止めようとすると妹紅は私の方に振り向きもせず、ふと言い捨てるように呟いた。



「雪、幸せにな……」



一言。

一言そういうと妹紅は振り返らず歩いていく。

私はそんな妹紅になに一つ言えず、行かないでと言うように、妹紅の方に包帯で巻かれた手を向けたまま伸ばす。


しかし妹紅は一度も振り返る事なく、歩いていった。



「ごめん……ごめん妹紅……」


私は涙を流しながらそう虚ろげに呟く。

そして涙を流しながら、妹紅が先ほど言いかけた言葉を思い出す。


『私は、私はお前と……』


妹紅はそう言いかけて、やめた。

しかし、私にはその後に続く言葉を何か知っていた。

そして彼女は最後、寂しげな顔を浮かべ幸せにと言ってくれた。


おそらく妹紅は私ともっと旅が、もっと一緒に居たかったのだろう。

妹紅にとって、私は唯一の理解者だったのだろう。

かつて人であったと言う同じ様な過去を持ち、異形と化した見た目によって人に否定され続け、死にたくても死ねない苦しみを唯一分かり合える相手だったのだろう。

という私も妹紅をそう言う風に見ていた。

既に数百年の時を生き妹紅との関わりは数年程度しか無かったが、それでも私と妹紅には、確かな絆があった。



しかし、私は斬乂と居ることを選び、妹紅を否定した。



だから妹紅はあんな淋しげに私を見つめていた。

なに一つ言わず、私を祝福し去っていった。


突然の別れにやるせないキモチはあったのだろう。

だが……だが妹紅はそれでもなお、私と……。



「もこう……わたし、しあわせになるから……なるからぁ……ごめん……なさい……」





だけど、こんな私でも。

まだ、"友達"だと思っていてほしいーー。






私はそう思いながら既に霧の奥に行ってしまった妹紅の歩いて行った先を見つめる。

そしてしばらく涙を流しながら、既にいなくなった妹紅に謝り続けた。




















❇︎❇︎❇︎



「あはははっ! 最っ高だ!!」


迷いの竹林より少し離れた森の中。

その中で、狐の面を被る少女が木の枝に腰を下ろしながら大声で笑う。

目の前には木しかなく、なにも笑える物はない。

しかし、少女は面白いものを見たと言う様に、腹を抱え滑稽に笑った。

そして狐面の少女は笑いながら、自分の着流しの袖から一冊の冊子と筆を取り出し、その冊子に声を出しながら書き記す。


「餓者髑髏は、友を捨て恋を取りました……、と。ははっ、思い通りとは言えこれほど滑稽には思えなかった哉っ!」


狐面の少女は書き記した冊子を筆とともに再び袖にしまい、今しがた見た光景を思い出す様に笑う。

しかし、目の前にはなにもない。

木がひたすら立ち並ぶだけで少女以外は人っ子一人いない。

しかし笑う。

面白いものを見た、と言わんばかりに笑う。


「あらあら、何がそんなに面白いのですか?」


狐面の少女が滑稽に笑っていると、少女の座る隣に金髪の女が、クスクスと笑いながら前振りもなく現れた。

狐面の少女はその金髪の女、八雲 紫の"姿"をした者の存在に気づくと労うように声をかける。


「いやいや、君のおかげで面白いものが見えたよ、ご苦労様」


「ふふ、別にいいですよ。貴女には恩がありますもの」


少女にそう言われると満更もない様子で、八雲 紫の"姿"をした者は照れたように答える。

そして、狐面の少女は八雲 紫の"姿"をした者の方に視線を向きながらため息をつく。


「しかし、紫さんがボクの予言をしっかり伝えてくれていれば、に頼る事も無かったんだけどね……」


「いえ、私は貴女に貢献できてよかったと思っていますよ」


狐面の少女のため息に八雲 紫の"姿"をした者が、何て事もないように返す。

しかし、狐面の少女は納得しないのかさらにため息をつく。


「まあ? 紫さんが大人しくボクの言葉に従うとは思ってはいなかったけどさ、何か一言くらい言ってくれればいいのに」


「ふふ、冗談を。貴女は八雲 紫が言う事を聞かないことくらい最初からわかっていたじゃないですか」


拗ねる狐面の少女をあやすように八雲 紫の"姿"をした者は声をかける。

しかし、狐面の少女は気に入らないのか八雲 紫の"姿"をした者に目を向け、口を開く。


「てか、何時までそんなババァ臭い格好をしているのさ。普段の可愛い君を見しておくれ、きょうや?」


「あら、可愛いなんて……」


八雲 紫の"姿"をした者、いな、鏡と呼ばれた女は化けの皮を剥ぐ様にサラサラと砂のような物を身体から落としながら姿を変えていく。

その姿は八雲 紫とは違い、幼げな少女で十代前半くらいのものであった。

髪も金髪ではなく、紫色の髪で後ろ髪を二つに纏め、おさげにしている。


そんな少女が八雲 紫の姿から変え、ちょこんと座った状態で狐面の少女の隣に座っている。

狐面の少女は姿が変わると満足気に微笑み、鏡と呼ばれる少女の頭を撫でる。


「嗚呼、お前はやはり愛くるしい哉。今回のご褒美に今晩は一緒に寝てあげよう」


狐面の少女にそう言われると、鏡は顔を真っ赤にして嬉しそうに首をコクコクと無言で縦に振る。

そんな様子を見てか、狐面の少女はニヤリと笑い調子に乗った様子で言葉をかける。


「そうだ、今晩だけ裸で抱き合って寝てあげてもいい」


鏡はそう言われ顔をさらに真っ赤にして目を見開く。

そして、視線を狐面の少女に向けいいの? と言いたげに目を向ける。


「ふふ、ご褒美だっていったろ? まあ、夜伽はなしだけど」


『なまごろし』


鏡は嫌味ったらしくいう狐面の少女に向け、言葉ではなく、どこから出したのか一枚の紙を取り出しそこに文字を書いて伝える。

その紙に書かれた子供っぽい文字を見て、狐面の少女は言う。


「でも、鏡がどうしようもなく淫らな顔をして、ボクをムラムラさせてくれたら考えが変わるかも哉」


狐面の少女がカラカラと笑いながら言うと、鏡は茹で蛸のように顔を赤くし、狐面の少女から顔をそらす。

そして、何かを覚悟したかの様に先ほど書き込んだ紙とは別の紙を取り出し文字を書く。


『ゆうわくがんばる』


「はは、鏡は健気で可愛いね」


狐面の少女は鏡のその素直な態度を見て、頭を撫でた。

鏡はあまりの羞恥に耐えられなくなったのか、木から飛び降りた。

そして、地面に沈む様に消えいなくなった。


その鏡の様子を見て、若いねぇと狐面の少女は呆れながら目を閉じた。

そして、狐面の下で不気味な笑みを浮かべる。



「さて、種は撒いた。次は芽が出るのを待つだけ哉」



狐面の少女は一言そう言うと、木の枝から飛び降りくく、と笑いながら森の中を歩いて行った。

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