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東方屍姫伝  作者: 芥
三章 その少女は幻想へと歩む
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月が輝く夜空。


そんな月の光が差す下に二人の少女がいた。

片方は狐の面を被り、もう一人は空色の髪をした少女。

そんな少女二人が月光の当たる鳥居の下にて、麓まで続く階段に並んで腰を下ろしていた。


その二人がいる場は幻想郷の東にある神社。

名は博麗神社と言い、夜遅いからか人っ子一人いない。

といってもこの神社は既に廃神社で管理する人すら居ない。

なので境内は手入れが行き届いておらず、荒れている。

そのおかげか、昼間であろうとも人っ子一人こんな寂れた場所には来ないのだが。


そんな寂れた場所にて少女二人が何を、と言う疑問はある。

しかし、二人とも人ではない。

強いて言うなら普通ではない。



「くすっ……中々、可愛い反応をするじゃない哉、餓者髑髏がしゃどくろ



狐の面を被った方の少女が月光浴をしていると、ふと何もない空中を眺めながらポツリと呟く。

クスクスと笑いながら滑稽な物を見る様に少女は笑った。

そしてそんな少女を見て隣に座る空色の髪をした少女が、首を傾げた。


「お姐さまぁ? なにを見られているのですかぁ?」


空髪の少女は狐面の少女の方を見て、気弱な声でそう尋ねた。

狐面の少女は尋ねられると一瞬だけ答えて良いものかと悩む。


「んー、憑みたいな純粋な子には言えない事かな?」


「ほぇー、私が純粋な事と関係ある事なんですかぁ?」


狐面の少女の言葉に空髪の少女、憑が首を傾げながら聞き返す。

しかし、狐面の少女は答える気が無いのか、お前は知らなくて良い事だよ、と呟いて憑の頭を撫でる。

憑は頭を撫でられ嬉しいのか、気持ちよさそうに唸りながら目を細めた。


あぁ、いつまでも撫でられていたい。

憑はそう思いながら狐面の少女の方に頭を近づける。

しかし、その至福の時は突然現れた者の声により、終わる事となった。



「あら、こちらでも百合の花が咲いていますね」



少女らが仲良くする中、背後からクスクスと笑いながら現れる女性。

それも不気味な空間の裂け目の中から現れ、頭を撫でられていた憑はひうっ、と言う驚きの声を上げ、身体を退けた。


だが狐面の少女は憑とは違って、仮面でよく表情はわからないが笑っているのだろう、不気味なモノから登場した女性を見ても怯えるどころか嬉々として声をかけた。


「やぁ、紫さん。久かたぶり哉」


狐面の少女は金髪の女性、八雲 紫に向けて手を挙げ挨拶をする。

そんな普通の挨拶をされた紫は、久しぶりと一言いった後に、つまらなそうに息を吐き落胆する様子を見せた。

その意味ありな反応を狐面の少女は見逃さず、どうしたのかと尋ねる。


「どうしたもなにも……、案外ちょろすぎる小娘で退屈に思っていただけですわ」


「あぁ、彼女かい? どうだい可愛かっただろう」


落胆する紫の傍ら、狐面の少女はカラカラと笑いながら話す。


「可愛いもなにも……噂とは全く違いすぎて他人かと思ってしまいましたわ」


紫の言う噂。

妖怪のみを殺す怪異。

妖怪の心の臓を喰らう怪異。

殺した妖怪を傀儡の様に操る怪異。

万の異能を操り翻弄する怪異。

そして殺しても死なない怪異。


これらは数百年前、下手したら今でも流れる噂だ。

それも何の力の無い妖怪だけでなく、誰もが恐れる大妖怪の間ですら流れた噂。

姿を見たものは純白の死神に殺される、なんて噂は数百年前の自分もよく聞いたものだと紫は思う。


それに数百年前にここらに幻想郷を立ち上げる際に、色々と手回しをした時さへも様々な彼女の噂を聞いていた。

天狗曰く、あれの通った道は地獄だった、と。

天魔曰く、あれは血も涙も無い悪魔だ、と。

覚り妖怪曰く、あんなにおぞましいモノを見た事が無い、と。

鬼連中らは普通のガキだったと言っていたが、噂からは考えられず人違いだと思っており、鬼神の言葉に限ってはあの天災ばかが他人に恐れを抱くはずは無いと思い冗談半分に受け取っていた。


紫個人も噂からどんな化け物か。

それとも狂人か、と思っていた。


しかし、今日の昼ごろだった。


白髪の少女が太陽の畑に踏み入った辺りで、彼女の存在に気づいた。

そして太陽の畑の主、風見 幽香との会話を盗み聞き、件の屍の姫だとわかった。

理由としては兎に角白いと言う特徴が当たっていた事と、鬼神から白鷺 雪という名の者が屍の姫だと聞いていたからだ。


それで紫は興味本位で雪と幽香の会話を聞いた。

あの血も涙も無い花畑の悪魔と呼ばれる風見 幽香と、同じく血も涙も無いと言われている白鷺 雪が一体、どんな話をしているのかをスキマの中から聞いていた。


件の最悪級の大妖怪らだ。

そんなのがもし手でも組んだりしたら、幻想郷最大の危機が訪れる、と紫は思って聞いていたがただの女子会で拍子抜けした。

まあ、その後の展開は爆笑もので、あの幽香がこんな小娘に、と紫はスキマの中から覗いて笑っていた。


そして次に紫は思い描いた人物とは違った雪に目をつけた。

最初はスキマで無理やり連れてこようとしたが、紫と同じ様に異空間に入り込んでしまったので下手に手出しは出来なかった。

だが紫の能力で、雪の入り込んだ異空間の境界を少しいじり干渉して、連れてくる事には成功した。


そしてその後は実際に件の屍の姫と話をしてみたが、噂の化け物とは違いただの小娘……、それも人間で言う思春期の少女の様な反応をされ紫は落胆した。


かつて恐れられた大妖怪がこの程度の、それも紫の言霊によって簡単に言い負かされる程の相手で紫は酷く落胆していた。

自分はこの程度のモノに、噂に踊らされ恐れていたのか。

まだ別人だと言われた方が信じられる、と紫は思った。



しかし、そんな落胆をしている紫を見て狐面の少女は笑う。


「あぁ、そうだろう? 正直、ボクも彼女の選んだ道には落胆したものさ」


カラカラと笑い、ため息を吐く狐面の少女はだけど、と付け加え言葉を続けた。


「だけど、そんな道でもそんな化け物が恋に目覚め乙女になるって言う展開も、面白くはない哉?」


狐面の少女の言葉を聞いて、紫は素ではぁ、と驚愕の声を上げ、ため息を吐く。


「……呆れたわ、だから私にあの小娘に会ったら、子種の事を教えれば面白い事になるって言ったの?」


紫は以前、狐面の少女と出会った時の事を思い出しながら呆れる。


「いやいや、誰しもが欲しいものだろう? 想い人との子供の一人や二人は」


「はいぃ、私もお姐さまの子なら沢山産んじゃいたいですぅ」


狐面の少女の言葉に、憑は無邪気に反応する。

そして、そんな無知な憑に狐面の少女がありがとね、とカラカラと笑いながら憑の頭を撫でた。


紫はそんな二人の様子を見て、更に呆れる。


「……貴女はいったい何を考えているのかしら?」


「んー…………、何も考えてはいない哉」


狐面の少女の言葉に紫は更に驚愕の声をあげ、ため息を吐く。

その狐面の少女は本当に何も考えていない様で、夜空を見上げながら呑気に笑っているからだ。

こいつにも落胆してしまいそう、と紫は更に大きなため息を吐くが、すぐにその考えは消えた。


「あ、でも、しばらくしたら餓者髑髏を中心に嵐が起こる。これは確か哉」


狐面の少女はさらっとその様な事を言い、それが数年後か数百年後かは言わないけど、と付け足す。


「……貴女、いったい何を企んでいるの?」


楽しみだ、と呟く狐面の少女を睨みつけた目で紫は見つめる。


狐面の少女と紫の関係はここ最近できたものではない。

幻想郷、とこの辺りが呼ばれる様になったくらいから彼女らは知り合い、ちょくちょくと出会い言葉を交わしてきた。

友人、とは言わないが他人でもなく、強いて言うなら知人だ。

別の言い方で腐れ縁とも言う。


しかし、そんな腐れ縁でも互いで腹の底を見せ合ったことなどは一度もない。

互いに言葉を交わすたびに、腹の探り合いで楽しげな会話などをしたことがないからだ。

それが友人とは言えない所以だろうか。


紫は一度も狐面の少女の真意を得たことなどない。

それどころか彼女が何者かすらも未だにわからない。

昔に何者かと問いたら、神様だと意味のわからない事を言われた事もある。


そんな意味のわからない事を言う彼女だ。

故に紫は彼女を信用したことがない。

そしてこれからもしないつもりだと内心思い、狐面の少女の答えを待つ。


紫に怪しまれる目で見られた狐面の少女は、んー、と紫に問われた質問を考える。

そして、思いついた様に答えた。


「現実、かな」


二文字、簡潔に答えらしいものを答える。

その答えの不可解さに、紫は首をかしげた。

しかし狐面の少女はクスリと笑い、付け足す様に言葉を加えた。


「君が"幻想"で、ボクは"現実"を望んでいるのさ」


狐面の少女の言葉に紫は眉をひそませた。


「……私、貴女にそんな事を言った覚えはないのだけど」


「そうだね、けど望んでいるんだろう? ボクはなんでも知ってるんだ、神様だからね」


狐面の少女の仮面の向こうから鼻で笑う声が聞こえる。

それは嘲笑とかではなく、単純な笑い。

しかし、紫はそう言われると何故かカチンときた。

だが顔には決して出さず、言葉を出した。


「なら……神様らしい事をしてちょうだいよ」


「あぁ、良いよ」


挑発のつもりで言った言葉を、困りもせずに即引き受ける狐面の少女。

紫はそのあまりの躊躇のない言葉に、まさか本当に、と唾を飲み込む。


そして狐面の少女はうーん、と悩み思いついた様に口を開く。

そして一言、予言だ、と呟く。


「明日、そうだねぇ……昼頃に、餓者髑髏……白鷺 雪を迷いの竹林に行かせるといい。面白いものが見られるよ」


狐面の少女はヘラヘラと笑いながら、予言と言えるのかどうかわからない事を言い出す。

しかし、八雲 紫は真に受けた様に聞く。


「それが、予言っていうの?」


「あぁ。まあ面白いって事はボクにとってだけどね」


紫はそう言われると鼻で笑った。

それだけか、と。

あそこの迷いの竹林には霧と竹のみで他には何もないのだ。

あんな辺地で何かが起こるなど……。


「いや、必ず起こるさ。信じられない様なら、とりあえず白鷺 雪を行かせてみればわかる哉」


紫が根拠のない言葉に呆れていると、まるで心を読んだ様に狐面の少女は言う。

心を読まれたか、と一瞬疑うが覚り妖怪でもあるまいしと心の中で否定した。


そして紫は仮面を被った少女を見て、嘲笑する。


「ならば何が起こるか教えなさい。それで当たってでもしていたら貴女が神様だって言葉を塵芥程度には信じてあげるわ」


面白いものが見える、何かが見える、となると偶然という事もありえる。

そして言葉の使い様によっては、そんな曖昧なものではどうにでもなるのだ。

それこそ面白い事が狐面の少女にとって、と言う事は、言い様によればどうにでもなる。

それに何も起こらなくても、騙された君が面白いよと言われれば癪だ。

紫はそう考えると、疑い深く尋ねた。


そして追及をされた狐面の少女は仕方がないな、と呟きながら口を開く。


「藤原 妹紅に会う。そして彼女は知ることになる哉、自分の犯した過ちに」


あぁ、楽しみだ。

狐面の少女は声を待ちきれない様に震わせながらそう言う。

そして面白そうに、楽しみにして待つ様に狐面の少女はクスクスと笑う。

その少女の様子は明日に特別な事があり、明日が待ちきれない子供の様であった。

といっても仮面で顔を隠し、表情がよく見えないので声だけでの判断だが。


しかし、そんなはしゃぐ様子を見て、紫は苦笑いをする。

そして思った事を口にした。


「なんで貴女は、そこまであの小娘に執着するの?」


単なる好奇心。

紫は狐面の少女に対する、異様な執着心を見て疑問に思う。

いつの日かは忘れたが、自分の能力さえあれば白鷺 雪は同性である斬乂との間に子供を作れるかもしれないから、それを伝えておいてくれと紫に言った。

そして、さっきほどから今現在まで事あるごとに白鷺 雪の話を出すのだ。


彼女と白鷺 雪の間には因縁でもあるのだろうか、と紫は疑問というよりは好奇心からその様な事を尋ねた。



しかし、返ってきた答えは思いもよらぬものであった。



「ボクの……"私"にとっての運命の人、だから……かな」



狐面の少女がそう言うと紫は今日一番の驚愕の声を上げた。

はぁ? という間抜けな声を素で出してしまった。

思いもよらなすぎる言葉に、かけるべき言葉が見つからなかった。


そんな紫の傍らで狐面の少女は、間抜けな顔をした紫を見て嘲笑うかの様に口を開いた。


「ふふ、憑がそろそろおネンネの時間だからボクは帰らせてもらおう哉」


狐面の少女はそう一言言うと、いつの間にか隣で船を漕いでいた憑をそっと静かに背中に背負い、麓まで続く長い石階段を下りていこうとした。


そして、間抜けな顔をした紫に思い出した様に振り返った。


「さっきの予言、絶対に餓者髑髏に伝えておいてくれよ、妖怪の賢者殿」


じゃないと楽しくないから。

狐面の少女は最後にそう言い残し、長い石階段を下っていった。


そして紫はその言葉に反応し、狐につままれたと忌々しそうに呟いて、彼女の背中を睨みつけ勢いよく舌打ちをした。






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