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東方屍姫伝  作者: 芥
三章 その少女は幻想へと歩む
25/72

決意

ガラリ……。


白鷺 雪が八雲 紫に言い負かされた羞恥で顔を覆っていると、今いる部屋の中にその様な音が鳴り響いた。

それは彼女らが今いる部屋の入り口の引き戸が開き、誰かが部屋に入ってきた合図だ。


そしてその入室した人物は部屋の様子を見て、首を傾げた。

片方は満足気に微笑み、片方は顔を真っ赤にし両手で覆っている。

そんな様子の彼女らを見て、その人物は首を傾げたまま口を開けた。


「えーと、ゆかりんが何故ここに……それに……」


部屋に入ってきた額に二本角を生やす赤髪の人物、鬼子母神と呼ばれる千樹 斬乂は惚けながら紫とは別の、もう一人の白装束を着た少女の方を見る。

そしてその顔を両手で覆う少女を見て、斬乂は直ぐに誰かがわかり、笑顔を浮かべた。


「雪ニャン……、雪ニャンではないですかー!」


抱き。

斬乂は雪だとわかると、すぐに雪の元に行き、雪の頭を抱きしめ自身のふくよかな胸に埋める。

そして嬉しそうに雪のつむじ辺りに自身の顔を埋め、頰ずりをする。


傍ら、紫は斬乂のその雪への溺愛っぷりを見てニヤリと笑う。

そしていきなり抱きしめられた事に驚き、胸が当たって更に顔を真っ赤にさせる雪の様子を見て、滑稽に思いながら口を開いた。


「鬼神殿、私がその子を連れてきましたのよ」


「おぉー、そうなんですかゆかりん?」


「えぇ、妖怪の山付近をウロウロとしていまして。特徴が以前に鬼神殿に聞いた少女に似ていたので連れてまいりましたわ」


まあ、嘘だが。

紫はそう心の中でほくそ笑みながら言った。


「そうなんですかー、雪ニャ……」


「して、どうやら本当に本人らしかったので……私はこれにて失礼しますわ」


斬乂が雪に真実の有無を尋ねようとすると、その言葉を遮る様に紫が言葉を被せた。


紫がそう言うと斬乂はそうなんですかー、と呑気に言い、お礼と別れの言葉を紫に向かって言う。

紫は斬乂に別れの言葉を言われると、いえいえと一言だけ言う。

そして雪にもお別れを言おうと、再び雪の耳元に口を寄せ呟く。


「お姫様、もしわたくしがさっき言った事に乗る気なら、いつでも言ってくださいね。わたくしはお姫様の為ならば協力を惜しみませんから」


紫がそう言うと雪は紫が何を言っているのかをすぐに理解する。


おそらくさっき言った事とは子供の件。

雪はそう思い立つと、顔を赤くした状態で恥ずかしそうに紫から顔をそらした。


「……うるさい、とっとと行け」


「ふふ、どうやら少しいじめ過ぎてしまった様ですわね」


紫の顔をまともに見ず、拗ねた様子で雪は言い放つ。

その雪の様子を見て、紫はほくそ笑んだ。


「ゆかりーん、もしかして私の雪ニャンに酷いことしたんですかぁ? もしそうならゆかりんでも許しませんよー」


「あら、それは怖い。別に酷いことはしていませんわ。けど少し不快にさせてしまった様なので慰めといてくださいな」


「あ、それは任せてくださーい。私、女の子を慰めるのは得意なんですよ、ぐへへへ……」


斬乂がいつも通りの間抜けた声で下品に笑い、雪の背中を厭らしい手つきで撫でる。

背中を撫でられた雪は身体をびくりとさせ、斬乂に抱きしめられたまま恥ずかしそうに身体を縮こめさせてしまった。


「なら、安心かしら。よかったわね、お姫様?」


「だ、黙れっ! 早くどっか行っちまえ!」


雪が斬乂の胸に顔を埋めながら、紫に向け声を怒鳴り散らす。

声を上げられた紫はヤレヤレと微笑みながら息を吐き、自分の足元に空間の裂け目、通称『スキマ』を開き、その裂け目に片足を入れる。


さて、帰ろう。

そう思った矢先に紫は最後に思い出した様に顔を上げて、雪の方を見る。

そして簡潔に。



「お姫様、お幸せにーー」



紫はそう一言言い残して、スキマの中に身体を沈ませ消えていった。


そして雪と斬乂の二人っきりとなった。

斬乂は紫の言い残した言葉に首を傾げるも、今はそれよりもという様子で雪の方を見た。


「雪ニャーン、本当にお久しぶりですねー」


斬乂は雪の頭を撫で、頰を緩めさせ嬉々として言葉を続ける。


「だいたい五百年ぶりですかー? 雪ニャンは相変わらず可愛いいまんまですねえ」


「……私は、可愛くない」


斬乂の言葉に雪は顔を埋めながら返す。

そんな雪の恥じらう姿を見て、斬乂は余計に愛おしく思い、更に頭を撫でる。


しかし、愛おしいと思う反面に斬乂はふと思う。

そう言えば自室に戻ってきてから、雪の顔を一度もまともに見ていない、と。


雪は斬乂が部屋に入ってきた時点では、恥ずかしそうに両手で顔を覆っていたし、今も斬乂が雪の顔を胸に埋め抱きしめているので、斬乂は雪の顔をまだよく見ていないのだ。


斬乂は久々の雪の顔をしっかり見たいと思い、雪の頭を撫でながら口を開いた。


「ねぇーねぇー雪ニャン、そろそろ可愛いお顔を見してくださいよー」


斬乂はそう言いながら雪の頰を掴み、雪の顔を無理やり上げさせようとする。

しかし、斬乂の提案を頑なに断る様に首を横に振り、しがみつく様に斬乂の胸に顔を埋めた。


「むぅー、なんでお顔を上げてくれないんですかー? そんなに私のおっぱいに顔を埋めるのが気持ちいんですかー?」


「う、うるさいっ! 誰がこんな駄肉に顔を埋めて……」


とは言いながらも、雪は満更でもない様子で顔をそれに埋める。


雪は声を上げるも、顔を上げようとはしない。

そんな反抗的な様子を見て、斬乂は悪い顔をする。

そして斬乂はニヤリと笑い、己の手を雪の頰からそろりと臀部の方に移し、サワサワと撫で始めた。

まるで電車の中で愚行を働く痴漢の様に……。


さぁ、屈辱の仕返しに顔を上げ、拳を握るなり罵倒をしてみろ。

斬乂はそう思いながら、雪の臀部を撫で続ける。


しかし、雪は黙って撫でられるだけで文句を言うどころか、顔すら上げない。

代わりにプルプルと身体を震わせながら、斬乂の背中に手を回した。


かつての雪ならこんな性的接触をされれば文句の一つを言うはずなのだが、と斬乂は疑問に思い、首をかしげる。

そしてその違和感を声に出して尋ねることにした。


「雪ニャーン、このまま何も言わないと私調子こいちゃうんですけど、良いんですかー?」


斬乂はそう言いながら後ろに回す手を前に持っていき、雪のお腹を撫でる。

そしてそろりと手を下の方になぞり、下半身の方に手を持っていこうとする。

しかし、斬乂の手が動くにつれ雪はビクビクと身体を震わせるだけで、それでも頑なに顔を上げようとはしない。


そんな様子を見て斬乂は惚けた顔をするが、何処まで雪が自分のスキンシップに耐えられるのかという好奇心が出てきた。

そして斬乂はそろりと雪の股の辺りに手を持って行こうとしたのだが……。


「……ほぇ?」


斬乂は間抜けな声を出した。

雪のある部分を触り、首を傾げた。


斬乂は首を傾げながら違和感を持った部分を弄る。

ジメジメと湿り、何か濡れている感じがある。

そこは雪の足の付け根あたりであり、白装束の股の部分が濡れていた。


「ざ、斬乂ぇ……そこは触っちゃ……」


斬乂がなんの湿りかを確認するため、じっくりと撫でて確かめていると、雪が斬乂の身体に力強く抱きつきながらも、震えた声で斬乂に言い放つ。


そんな雪の様子を見て、斬乂は察した。

そしてまさかと思い、気まづそうに口を開く。


「え、えーと……、雪ニャンもしかして……」


「だ、黙れっ! お、お前が悪いんだぞ!」


斬乂のその言葉に雪はやっと顔を上げて、斬乂の顔を見上げた。


斬乂はやっと雪が顔を上げたくれたことに顔を緩めるも、上げた雪の顔を見て言葉をつまらせた。

その上げられた顔は本来の白い肌からは想像ができないほど真っ赤に染まっており、目には涙が浮かんでいた。

一瞬、自分が調子をこきすぎて怒ってしまったのか、と斬乂は考えたが、口元を見てそれはないとすぐに思い立つ。

雪の口元はひどく緩んでおり、喜んでいる様に見えたからだ。

いや、喜んでではなく、悦んでか?


兎に角、雪は今現在、常日頃からは考えられない様なみっともない顔をしていた。


斬乂は雪のその様な思ってもいない顔を見てなんて声をかけるのかを迷っていると、雪はせっかく顔を上げたのに斬乂から目をそらし、正座した状態の足をもじもじとさせながら口を紡ぐ。


「……ざ、斬乂が悪いんだぞ。出会い頭に挨拶もなしにいきなり抱きついてきて……それも、厭らしい手つきで、私の身体を弄ってきて……」


斬乂はそんな雪の様子を見て、納得する。

そして口を開く。


「あぁー、つまり発情しちゃったと……」


「ち、違うっ!? こ、これはあれだ!! 生物としての生命本能で生殖的なあれで、つ、つまり女の身としての他者を受け入れることで……」


あぁ、違うそんなんじゃない。

雪は脈絡の無い台詞を言い、自分の言葉を否定する様に首を横に振る。

そして、ブツブツと唱えながらあぁでもなくこうでもないと、一人で自問自答を繰り返す。

それはまるで恋に悩む乙女の様な仕草だった。


斬乂はそんな悶える雪の様子を見て、口を開けたまま惚ける。

そして同時に嬉しくも思った。

かつて自分を殺すとか言って牙を向けていた少女が、こんなに見た目からして年相応に悩むとは思いもしなかったからだ。


斬乂的にはこのまま愛らしく悩む雪を眺め続けるのも良いが、積もった話もある故に斬乂は話題を出す。


「そう言えば雪ニャン、茜ちゃんの事は吹っ切れましたかー?」


真っ赤になりながら悶える雪は、思いも無い質問にすべての動きを止めた。


そして思い出す。

そう言えば自分は心の整理がしたいと斬乂の所を飛び出して、それですぐには整理をつけたが、次は斬乂と会う事に心の準備が出来ていなくて今まで過ごしてきたことを。

まあ、まだその心の準備が出来ていない状態で紫の策略により、無理やりの様な形で斬乂の屋敷の、斬乂の寝室に連れてこられたわけだが。


雪は斬乂の質問に答える為に口を開いた。


「あ、あぁ……お陰様で。茜の事は受け入れたよ」


「おぉ、それは良かったですねー!」


雪の言葉に斬乂は嬉しそうに手を合わせる。

そして斬乂はおめでとうと、伝える様に雪に視線を向けた。

対して雪はそんな斬乂の真っ直ぐな視線に耐えられなくなり、すっと目をそらす。

自分の事の様に斬乂が喜んでくれている事に雪は嬉しくなり、気恥ずかしそうにありがとう、と呟いた。


しかし、雪は斬乂の次の言葉に再び顔を紅潮させた。


「なら、私とも結婚できますねー。今日からイチャイチャし放題ですよー」


雪はその言葉を聞き、顔を真っ赤にさせ俯かせる。

そして眉間にしわを寄せ、悩ましげに斬乂に口を開く。


「そ、その……斬乂、やっぱり結婚と言うのは無しにしないか……?」


「え……?」


雪が言いづらそうに口を開くと、斬乂は呆気にとられた様子で小さな声を上げた。

雪は斬乂から目をそらし、頰を紅潮させながらも言葉を続けた。


「や、やっぱりさ……私達は女同士だから……ろくな事にならないと思うし、それに……」


いつか何処かで綻びが起こる。

雪は言葉に出さずにそう思う。

かつて茜と結婚した時に、自分のこれは愛ではなく、ただの責任感からではと言う不安感に駆られたことを思い出す。

きっと斬乂とそういう関係になってもいつか何処かで躓くに決まっている。

茜の時とは違い責任感からではないが、斬乂に傷心している所に付け込まれる様に優しくされ、その時に抱いた感情を恋愛感情と勘違いしているに決まっている。

雪はその様な考えを持ち、斬乂に言った。


そして、斬乂は雪のその言葉にそうですかー、と反応し納得する。


「まぁー、雪ニャンがそう思うなら私は別に良いですけど……」


斬乂はうーん、と唸りながら雪に言う。

そしてその斬乂の言葉に雪はホッとし、そらしていた目を斬乂の顔に向けようとした時だった。



「でも雪ニャンとならーー、女同士でも上手くいくと思いますよ、私は?」



根拠のない、何気ない言葉を斬乂は雪に向かって言い放った。

そして斬乂は内心思う。

まあ、エロい事ヤらせてくれるならなんでも良いや、と。


しかし、内心ゲスい事を考えている斬乂を傍らに雪はポカーンとした顔で呆気に取られる。

そして、顔を下に向けポツリと一筋の涙を流した。


「そんな……事を……」


雪のその聞こえにくい言葉に斬乂は首を傾げるが、斬乂は雪が涙を流している事に気付いて大丈夫ですか、と騒いで駆け寄る。

しかし、雪は立ち上がって斬乂に怒鳴り散らした。


「そんな根拠のない事を言うなよっ! 私は、私はお前と別れてから数百年間、ずっとお前の事を考え続けてきたんだ! だけどさっ、私達は女同士で……それも私は何の魅力もないただのガキだっ! だから、責めてはと思って……責めて良い友人でいようと自分を納得させて……」


息切れを起こし、涙を溢れさせる。

そして雪は言葉を続ける。


「けど、お前の顔を見て、私は、嬉しいって思ったんだ……。数百年前にお前に撫でられた時と同じ様にドキってしたんだ……、甘酸っぱいんだよぉ……。頑張って平常心でいようとしたけど、我慢できなくて、それどころか……弄られてみっともなく濡らして……それで……」


あぁ、こんなつもりじゃなかったのに。

雪はそう思う。


本当は先ほど言った友達で居ようって所だけで終わらせておけばよかったのに。

そしてこれからも良き友人でいようと終わらせておけばよかったのに……。

なのに、女同士でも良いなんて余計な事を言われて頭に血が上ってしまった。

それも怒りではなく、嬉しさからくる羞恥で、だ。


雪は思ってもいない、というか言うつもりがなかった事をベラベラと話してしまい、頭を混乱させ口を開く。

そして斬乂はそんな雪の様子を見て、雪が何を言いたいのかを理解し、泣く雪に対して斬乂は微笑んだ。


「そうなんですかー、そんなに思ってくれていたとは知りませんでしたぁ」


「う、うるさいっ……だ、誰がお前の事なんて……」


雪は見るなと言いながら、又もやみっともなくなった顔を両手で隠す。

しかし、そんな雪の様子を見て微笑ましく思う。

そして雪の頭に手を置いて口を開けた。


「それと、雪ニャンは魅力のないガキだって言いましたけどー、私にとってはちゃーんとした魅力のある女の子ですよ?」


微笑みながら言う斬乂の言葉に、雪はうっ……と言葉をつまらせる。

そしてここからは斬乂のターンと言いたい様に言葉を続けられる。


「雪ニャンは、私の事が好きですか?」


「……嫌いでは……ない」


「そうですかー」


鼻をすすりながら言う雪を見て、斬乂はクスクスと笑って雪の頭を撫でた。


斬乂と雪のその様子はまるで妹を撫でる姉の絵であった。

もちろん雪が妹で斬乂が姉だ。

しかし、背丈的には雪の方が少し大きい。

それでも、斬乂は雪の頭に手を置いて妹をなだめる様に頭を撫でる。

そして雪は満更も無く、撫でられる。


斬乂は思い出す。


過去、彼女と殺し合った時。

心が壊れた状態で、自分に牙を向ける彼女を。

そして自分がずっと側に寄り添い、彼女の寄り所になると決めた事を。


あの抱きしめあった夜。

自分に認められて、嬉しそうに微笑む彼女の笑顔を見て決めたのだ。

この子の笑顔を守りたい、と。


だから。

過去の想い人に寄りすがっていた彼女を。

過去から立ち上がり、進み始めた彼女を。

過去に振り返らず、弱く勇ましい彼女を。





自分が新しい"未来"に導いてあげるのだーー














「雪ちゃん、結婚しましょうか」




















「……………………………うん」


















彼女ざんげはそっと目の前の少女に抱きついてポツリと言った。

そして彼女ゆきは大人しく首を縦に振るのであった。


こうして彼女ざんげ彼女ゆきの居場所から寄り所へとなった。




この日の、この時の出来事は、

白鷺 雪にとっても千樹 斬乂にとっても……





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