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東方屍姫伝  作者: 芥
三章 その少女は幻想へと歩む
24/72

隙間

「ちくしょぉ……妹紅のやつ覚えてろよ……」


四方八方全てが暗い空間の中を浮き進みながら私はそう呟いた。


私の今いるところは通称『影ノ中』。

私の持つ能力の一つ【影を操る程度の能力】で、影に入りまた別の影に移動する際に入る空間だ。


そして私は先ほど幽香に迫られ、貞操の危機を感じてこの影の中に逃げてきたのだ。


「ちっ……いったい妹紅は何処に……」


私は妹紅の気配を探りながら、暗い空間の中を進んでいく。


私が暴漢に襲われ困っていたのに、あいつは一目散に逃げ、私を置き去りにして行ったのだ。

なので、私はあいつを見つけ、ぎるてぃーしなければいけない。


なのに『影ノ中』に潜り込んでから数分ほど経つが全く妹紅の気配が掴めなく困っている。

というか、この『影ノ中』は周りが暗闇のせいで外の様子が殆どわからないので、私が今どこにいるのかもわからない。

気配を感じる事は出来るのだが、外の風景を知る事が出来ないのがこの移動術の問題点だ。

普段は数メートル先の敵の背後に回り込むという使い方しかしてないので、外の様子がわからない長距離移動には適していないのだ。


「しかし……、追ってきたりはしてないよな」


私は冷や汗を流し、上を見る。

私の頭上には真っ暗な闇があるだけだが、上に手を伸ばせば直ぐにでも影の外に出ることができる。

だから、影から出た途端にもし幽香がそこにいたら……。


いや、そんなはずはない。

私は首を横に振り、その考えを消す。

流石の幽香にも影に逃げてく様な奴を追うことは不可能だ。

……大丈夫だよね?


「まあ……取り敢えず地上に出るか」


私はそう呟きながら、頭上に手を伸ばし暗闇の世界から脱した。





❇︎❇︎❇︎




出た先は何処かの家の中だった。

私は影の中から顔だけを出し、視線を動かす。


どうやら私が出てきたところは箪笥の影らしい。

その部屋にはその箪笥の他に、小さなちゃぶ台や人の背ほどある姿見、小物入れなどが置かれ、布団が端の方に畳んであり、ここは何処かの家の寝室らしい。

私は顔だけを影から出した状態で右左と見て、安全かを確認する。

そして風見 幽香がいない事を確認するとホッと一息ついた。



「あら、泥棒かしら?」


「……っ!?」



私が安堵していると、頭上からその様な声が聞こえた。

突然に声をかけられたからか私の身体は一瞬強張る。


私はその声が聞こえてきた頭上を見る。

そして目を見開いた。


その声を発した人物は女性であった。

金髪で妖艶な笑みを浮かべ、顔立ちが大人びた女性。


そしてその女性が私のちょうど真上に居り、逆さ状態になって私の顔を見つめていた。

しかも逆立ちしてるとかじゃなく、中に浮いた状態で逆さになっている。

それも言葉に出来ないような、宙に出来た幾つもの目ん玉が覗く穴の中から上半身だけを覗かせてだ。


私はそんな奇怪な登場をする女性を見つめ、口を開く。


「あ、あー……、出るとこ間違えました。すんません」


私はそう一言言うと、直ぐに箪笥の影に沈み込もうと身体を潜らせる。

しかし、そのパツキンの女の人に頭をガシリと掴まれ、その行動を阻まれた。


「ふふ、泥棒は冗談よ。だって貴女をここに呼んだのは私ですもの」


女性が口元を紫色の扇子で隠しながらそう言う。

私はその女性に頭を掴まれたまま、言葉の意味がわからず首を傾げる。


「取り敢えず、そこから出て私と話しませんか、屍のお姫様?」


クスリと女性は鼻で笑い、私の頭を掴む手を放し、空間に出来た裂け目ごと女性の身体が私の正面に移動する。

女性の身体が正面に来たことにより、女性の全体像がしっかり見えるが、変な裂け目から上半身だけを出しているせいで、美女がテケテケ状態で見えシュールな光景だ。


「……あんた、誰?」


「あぁ、怪しい者じゃないわ。私、八雲 紫と申します。親しみを込めて紫と呼んでくださいな」


女性……八雲 紫がそう言いながら変な裂け目から身体を乗り出し、裂け目の中から出てきて畳の上に座り、そう名乗る。

私は自称怪しい者じゃないっていう人ほど怪しい人はいない、と思いながら箪笥の影から這い出る。

そして彼女の正面にドカリと胡座をかいて座る。


「ここ、あんたの家?」


私はまず今いる部屋の中を見渡しながらそう尋ねる。

私の問いに八雲 紫は首を横に振った。


私はふーん、と頷く。

つまり、ここは他人の家ってことか。

なら何故、八雲 紫はここに……。


「あんたはさっき私をここに呼んだって言ってたけど……どういうこと?」


「ふふ、私の能力でお姫様が入っていた空間に干渉させて貰ったわ」


八雲 紫はそう言いながら、指先に先ほど出したものより少し小さい裂け目を出す。

彼女の言葉の意味はよくわからないが、どうやら彼女の能力で私の能力に干渉して何かをしたらしい。

ここでその能力とは? と聞いても、素直に教えてくれなさそうなので、これ以上は聞かないが。


それより八雲 紫の言葉は私の言葉の真意をちゃんと答えてくれてはいない。


「そんな事は今はどうでもいい。なんで私をここに呼んだのかを聞いているんだ」


「ふふ、話に聞いているより荒っぽく話すのねお姫様は」


「……さっきから言ってるそのお姫様ってのはなんだ」


「まあ、待ちなさいな。順に話すわ」


八雲 紫はピシャリと口元で広げていた扇子を閉じ、言葉を続けた。


「まず、お姫様をここに連れて来たのは挨拶する為ね。ようこそ、私の幻想郷へ」


ようこそ、という割には随分と上からだ。

挨拶する為に人を連れてくるって凄い失礼な奴だ。

まあ私自身、移動する際にたまたま出たところがここって感じで、八雲 紫に連れてこられたって感じはないが。

しかし、それを抜いても話し方といい振る舞い方といいプライドが高い奴と見た。

これで金髪縦ロールとかだったら何処の高飛車なお嬢様やねーんとかのツッコミができるのだが。


……まあそんなどうでもいい事は置いておいて今は八雲 紫についてだ。


「へぇ、私の幻想郷って事はあんたが幻想郷ここの最高責任者なの?」


「最高責任者ってほどではないけど……まあそういう認識でいいわ」


どっちだよ、私はそう思いながらため息をつく。


しかし、幻想郷の頭が私に挨拶ねぇ……。

なんで妹紅はって思ったけど、あれは一様ただの人外なだけの不死者だ。

そこまで脅威には見えなかったのだろう。


なら私は、と思うけど八雲 紫は私の事を知ってる風に話しているので私の過去を知っているかもしれない。

妖怪となって無差別に狩り続けた時代の私を……。

ならばあれだろう。

ここで何か問題を起こす前に、私に釘を刺しに来たのだろう。


「なら、新参者の私に挨拶って事はあれかな。調子こかないように釘でも刺しに来たの?」


「いえいえ、基本的に幻想郷ここではよっぽどの事がない限り、問題はないわ。まあ人里に攻め込まないっていうルールはありますけど、それ以外は基本は自由よ」


妖怪が人里を襲わないってルールがあるのか。

なら、そんなルールのあるここでは人間に取ってもある意味、楽園なのかもしれないな。

まぁそんなルールに従わないって言う妖怪がいるだろうから、安全が保障されてるわけではないが。


「ならなんで私だけに挨拶? もう一人、新参者がいたよな」


もちろん妹紅の事だが。


私がそれを尋ねると八雲 紫はふふ、と笑う。


「実はわたくし、お姫様と話してみたかったの」


八雲 紫がそう言いながら嬉しそうに微笑むと、私は少しだけ彼女から距離を取った。


私は本日、内容は若干違うが私と話したいと言ってきた輩が今のを抜いて二人いた。

一人目が黒桜 刃で、二人目が風見 幽香だ。

そして二人と関わった結果、どちらも自身の貞操が危うくなったのだ。

妹紅にも言われたがどうやら今日の私は女運が悪いらしい。


二人いたのならまさか三人目も……、私はそう思いながら八雲 紫を警戒する。


「そ、そうなんだ……。一様聞いとくけど、恋愛対象が同性とかじゃないよな?」


「……あぁ、花の妖怪みたいな事を警戒しているのね。安心してちょうだい、私はただの好奇心で貴女を呼んだだけだから」


八雲 紫は何かを察したのか、私を諭すようにそう言う。


「……見てたのか?」


「えぇ、太陽の畑に入ったあたりから私は見てたわね」


太陽の畑って言うのは、名前からあの向日葵ばかりが咲いてる花畑の事だろうか?

もしそうならどうやってかはわからないが、八雲 紫は随分前に、私と妹紅が幻想郷に入り込んでいた事を知っていたのか。


「ふふ、厄介なのものに好かれたのね、お姫様は」


「……うるさい」


あれはただの厄介ではなく、やばい人だ。

確かヤンデレという奴だろうか、絶対に彼女の愛はそれである。

てか、一目惚れとか言ってたけど……幽香は一体、私の何処が良いのだろうか?


「あら顔が真っ赤よ。意外にウブなのね」


八雲 紫がニヤニヤと笑いながらそう冷やかしてきた。


「…………黙れ」


「あら、黙っちゃったらお姫様の知りたい事がわからなくなるのだけどいいかしら?」


「ちっ……てか、そのお姫様って呼ぶのやめてくれ」


「ふふ、可愛らしくていいじゃない、お姫様?」


なんかこいつうざくね?

絶対こいつ私の事をバカにしてるよ。

てか、結局は八雲 紫は私にいったい何のようなの?

挨拶をしたいから、話がしたいから呼んだとか言ってたけど、絶対にそんなけじゃないだろ。


「……もしかして私の事をおちょくるためだけに呼んだの?」


「そんなわけないじゃない、伝説の"妖殺し"相手にそんな事をやったら殺されてしまいますわ」


八雲 紫は手に持つ扇子をくるくると回し、手元で遊ばせながらそう言う。


妖殺し……その呼び名の様なものは初めて聞いたが、おそらくは私の事なのだろう。

なら、やはり八雲 紫は私の事を知っている。

八雲 紫は私の過去を知って、妖殺しと呼んでいるのだろう。


「……へぇ、本当に私の事を知ってるみたいだな」


「えぇ、白装束を着た純白の死神が妖怪を狩りに現れる、なんて噂を昔は妖怪の間でよく聞きましたわ」


まあ、今ではその噂を聞かないが、と付け足す八雲 紫。


純白の死神って……。

確かに私は髪が白くていつも白装束を着てて、肌も死人みたいに白くて全身白ずくめで純白って言うのは否定しないが、死神って言うのは酷くね?

確かに昔は無差別に殺していたが死神ってほどは殺してないだろ。

大体は一日に十匹で多くても百匹少ししか殺していないのに。


「特に妖怪の山で天狗を殺し回ったって話には驚いたわね。千を越える天狗を殺し、天魔を倒し、鬼神と互角に戦ったのでしょう?」


八雲 紫は純粋に私を賞賛しながらそう言う。

そして私は八雲 紫にそう言われると、はぁ? と言いながら首をかしげる。


「どうしたのかしら?」


「いや……なんか尾ひれつきすぎじゃね?」


「そう?」


いや、絶対つきすぎだって……。

確か多くても百ちょいしか天狗は殺っていないし、天魔を倒したのは本当だけど斬乂と互角になんて戦っていない。

一方的にボコられ、一方的に負けたのだ。

いったい誰に聞いたのだその噂を……。


「それでその時に数百もの屍を従わせ、暴れまわった時に着いた二つ名が"屍の姫"って訳よ」


おわかりお姫様? と八雲 紫はウィンクをしながら答え、クスリと笑う。


だから、八雲 紫はさっきから私の事をお姫様呼ばわりしていたのか。

というか、私に二つ名なんてついてたんだね。

"妖殺し"とか"純白の死神"とか"屍の姫"とか私の呼び方って色々、物騒なのが多いんだな……。

もう少し可愛い奴はないのか?

例えば"笑顔が素敵な雪たん"とか……、ってそれは違う意味で嫌だわ。


「で、私が貴女をお姫様って呼ぶのは……」


「は? 二つ名に関してるのじゃないのか」


私がそう尋ねると、八雲 紫はそれもあるが、と言う。

私は八雲 紫の意味深な言葉に首をかしげる。


「だって貴女はお姫様なんでしょ? 鬼神に聞いたわよ」


「……は?」


私は八雲 紫の言葉に惚ける。

何をこいつは言っているのだろうか?

というか何でこの女が斬乂の事を知って……。


そう言えば八雲 紫は幻想郷の最高責任者っぽい事を言っていたので、幻想郷それに含まれるらしい妖怪の山にも顔がきくのだろう。

それなら斬乂と知り合いっていうのは何もおかしくはない。


しかし、それが何故にお姫様と関わるのか……。


「鬼神が自慢そうに話してたわよ。その屍の姫は私のお姫様で伴侶だって」


……そういやぁ、昔に斬乂に向かって結婚しようとか言って妖怪の山を飛び出したんだった。

だからお姫様か……。


「い、いや……それは私がまだ若い頃に勢いで言っちゃったことで……」


「あらそうなの?」


「まあ色々あったんだよ……」


ちょっと優しくされて乙女になったり、裸で抱きつかれて人肌の温かさがクセになりかけたりな……。


てか、斬乂のやつ本当に私を伴侶として迎える気があるんだな。

言い出したのは私だが、流石に同性で結婚はないだろ……。

まあ私が人間時代の時には、正式な祝言は上げてはいないが、茜と結婚したということはあったけど。


「ふふ、噂よりだいぶ可愛らしい妖怪ですこと」


「……どんな噂なんだよ」


「血も涙も無く、一度狙われたら生き血を啜られ、心臓を喰らう恐ろしい妖怪って聞くわね」


私はそう言われて言葉に詰まらせる。

否定はできなく、実際に心臓とか食べてたからだ。


私が件の噂に苦笑いしていると、八雲 紫がクスクスと嘲笑するように私を見て笑う。


「しかし、実際に会ってみるとただの小娘……。それも恋する乙女の様な顔をする生娘ときて私……期待して損したわ」


八雲 紫は笑う。

私を哀れむ様な目で見て、ため息をつき落胆する。


そんな八雲 紫の反応を見て私は眉間にシワを寄せた。


「……なに、もしかして見くびられてんの?」


「いえいえ、見くびってはいないわ。ただ、思ってたのと違ってガッカリしただけ」


「それを見くびってるっていうんだろ?」


私が若干ドスのきいた声で言うと、八雲 紫はいやいやと否定する。


「ふふ……理解していないのね、貴女に先ほどの顔を見してやりたいわ」


「なにが言いたい……?」


「貴女、私が鬼神の伴侶だって言ったら……凄い嬉しそうに顔を緩めていたわよ?」


「……っ!?」


私は八雲 紫に言われ、慌てて自分の頬を摩る。

そして私が自分の顔の緩みを確認していると、八雲 紫がクスクスと笑いながら私を見る。


「ふふ……その反応が小娘って言いたいのよ」


「……だ、騙したなっ!」


「騙してはいないわ、だって本当に緩んでいたもの」


私はそう言われドキリとした。

いやいや、流石にそれはない、と。

だって、私が斬乂に告白したのはただ優しくされただけで……それで乙女になってて気持ちが高ぶっていたからで……。


「あら顔が赤いわよ、大丈夫かしら?」


「う、うるさいっ!」


「くす……本当にあなた、件の屍の姫? その反応を見るとありとあらゆる大妖怪を討ち滅ぼしてきた噂の妖怪様とは思えないわね」


八雲 紫は本当にまるきりただの小娘ね、と一言言って私に近寄り、私の耳元に口を近づけた。

そして良い事を教えてあげるわ、と言い口を開いた。


「鬼神と会うと、毎度一回はあなたの話をしてくれるの」


私は顔を真っ赤にした状態で八雲 紫に耳元でそう呟かれた。

私はそう言われると再び緊張が走り、声を裏返して言葉を出す。


「ざ、斬乂が?」


「えぇ。本当に可愛い子だって毎度のごとく言ってくるの。よかったわね、そう言ってもらえて」


私は八雲 紫にそう言われ動悸が走った。

そして私の頭は真っ白になり、口をパクパクとする。


「それとこれも聞いた話だけど、貴女と一緒に暮らす様になったら毎晩可愛がってもらえるらしいわよ。よかったわね、想い人と肌を重ねられて」


私はそう言われ、更に顔を真っ赤にする。

斬乂とその様な行為をしている所を想像したからだ。

そして更にお腹辺りがキュッとして、心臓の鼓動が早くなる。


この感情はあれだ。

私が斬乂の所を飛び出した時と同じ気持ちだ。

甘酸っぱい気持ちになるあれだ。

いわゆる乙女ってやつだ。


しかし、このままではやばい……。

このまま言われるとどんどんと流されて……。


私はそう思い、八雲 紫の言葉を止めようと口を開く。


「な、なぁ……もう良いから、それ以上……言わなくて……」


私が八雲 紫の言葉を止めようと口を挟むが、彼女は私の言葉を無視し、さらに言葉を続けるため口を開く。


「あぁそれと……私ね、境界を弄ることができるの。境界……いわゆる概念なんだけども、それを少し弄れば鬼神の性別を弄ることもできるわ」


「……いや、だから……もう……」


「私が協力してあげれば性別の壁を超えて……子供だって作れる様にしてあげられるわ」


「こ、こども……?」


私は八雲 紫に耳元でそう言われると、更に顔が熱くなり、鼓動が早くなる。

そして一瞬だけ惚けるが、直ぐに首を横に振り雑念を消した。


なぜ私はそこで照れる。

たかが女同士でも……っていう可能性を言われただけで、実際に私が子供が欲しいと言ったわけでは……。


「欲しいでしょう? 想い人との子供」


「ち、ちがっ……斬乂とはそんな……」


「ふふ、想像してみて……お腹の中でもう一つの生命が動くのよ? 貴女と、鬼神の愛の結晶が」


「だから……ざ、斬乂とそう言う関係には……」


「それに、子供を作るって事はそう言う行為もするってことよ。女同士ってだけでは出来ないあんなことやら、こんなことまで……ね」


「……あ、あんなことや……こんな……」


ついに私は八雲 紫の言葉に反論ができなくなってしまった。

八雲 紫が正論を言うから黙るとかではない。

ただ、私には刺激が強すぎて聞いてられなくなった。

それに……斬乂にそう言う事をされるって考えると……。



「鬼神に……愛してもらいたいんでしょう?」



八雲 紫に耳元でそう言われる。

私はその言葉に噤み、黙って首を勢いよく横に振る。


そんな事はない。

私は斬乂と友達としていたいんだ。


私はそう思いながら、首を横に振って八雲 紫の言葉を拒絶する。

しかし、私のその様子を見て八雲 紫は鼻で笑い、言葉を続けた。


「嘘おっしゃい、顔に書いてあるわよ。愛されたい、一緒にいたい、抱き締められたい、口づけをされたい、無茶苦茶にされたい、犯されたい、愛し合いたい、鬼神だけのモノになりたいって」


「……ちが、そんなこと……思って……」


「自信が無いからってそんな事を言わなくて良いわ。私が保証してあげる、鬼神は貴女の事を愛してるわ。だからーー」



安心して身を委ねなさいーー



八雲 紫はそう言った。

私はそう言われ、遂に頭が真っ白になる。

そして思考がグチャグチャになる。

私は斬乂の事を、一人の女として好きだとかそんな風には思ってない。

そして、斬乂も私にそう言う事を求めているのでは無い。

斬乂はただ私の身体目当てで、私が好きなだけで……。


しかし八雲 紫は、斬乂は私を愛してると言った。


もし……、もし、だ。

もしも本当にそうなら、私も斬乂の事を、愛して良いのでは無いだろうか。


……違うっ、私がそんな事を望んでいるわけ無い。

だって斬乂とは友達でいるって、昔にそう決めて……。

それに"茜"と同じ過ちを犯すわけには……。



「ほら、その口で言ってごらんなさい」



私は鬼神を愛してますって。

八雲 紫は私の理性にとどめを刺すように、私の耳元でそう呟き、やっと私から離れた。

そして私の赤く染まり、震える顔を見てもう一度だけクスリと笑う。


私は羞恥により見っともなくなった顔を、八雲 紫から隠すように両手で覆い、口を開いた。


「だ、だから……、私は……」


「あぁ、そう言えば言い忘れてたけど……」


私が八雲 紫の言葉を否定しようとすると、又もや彼女が私の言葉を遮った。

そして面白いものを見る様に笑い、口を開いた。




「ここ、鬼神の家だから」




八雲 紫は一言そう呟く。

そして、それと同時にガラガラと戸が開く音が聞こえた。



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