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東方屍姫伝  作者: 芥
三章 その少女は幻想へと歩む
21/72

下卑

ある日の事。

私と妹紅は着々と東に向かい歩き続ける。

私らはいつも通り白髪を隠す為に笠をかぶり、人気の無い森を歩いていた。

そんな時、妹紅が疲れたから休憩に入ろうと言った。

私としても少し疲れていたので、その提案にのった。

そして木々の間からちょうど木漏れ日が差し込んでいる場所を見つけ、そこで休息をとる事にした。


「はー、つかれたー!」


妹紅がそう言いながら座る。

どかりと妹紅は胡座をかいて座り、被っていた笠を投げ捨てる。私は内心に女子力が無いなとほくそ笑みながらも自分自身も胡座をかいて座り、笠を取る。


「なあー、まだその幻想郷ってのには着かないのかよ」


妹紅が疲れた身体をほぐしながら私にそう尋ねてくる。


先日、華扇と言う鬼に出会い噂の東の楽園についての話をおおまかに聞いたが、実際は妖怪にとっての楽園であり、私達みたいな半端者にとっては楽園になりうるかは定かでは無いらしい。

と言っても華扇もそれは昔の噂であり、今現在ではどうなのかわからない、と言っていたので暇潰しがてら私達は行く事にした。

私と妹紅は不死であり時間は腐る程あるのだ。

無駄という事にはならない、主に暇を潰すという事で。


私は妹紅の問いにはわからない、と答えた。


「おいおい、お前も昔はあっちの方に住んでいたんだろ、愛人の家で」


「……別に二日ほどお世話になっただけで住んでたとかでは無いから知らん。あと、斬乂は愛人とかじゃない」


「へぇー、そうなんだ二日ほど愛人の家でお世話(意味深)になったんだな」


「だから愛人とかじゃないって言ってるだろっ!?」


なんだか最近、妹紅は私の事をどうにもそういう風に見ている様だ。

というか妹紅からの私のイメージが最近ではドMでレズで既に誰かの愛人と言う風に思われているらしい。

妹紅とは既に二年ほどの付き合いと言えど、流石にその冗談はそろそろ笑えなくなってきた。

ここらでちょっと再び力の差を教え、身体に叩き込まなければいけない様だ。


私がそう思いながら拳を握り締め、妹紅に殴りかかろうとすると、カサカサと誰かの足音がした。

私と妹紅はその足音が聞こえた方を向くと、そこには私達と同じ様に笠を被る女性らしき人が居た。



「おやおや、先客がいましたか」



女性はそう独り言を呟きながら、被っていた笠を脱ぐ。

笠が取られ女性の顔がはっきり見える。

美しい翠色の髪で、顔も美人で綺麗系。

服装は少しボロい着物で質素なものだが、それでも女性は美しかった。


「隣、よろしいですか?」


私がその女性に見惚れていると、女性はそう言いながら私達に近づいてきた。

私は断る理由もなく、いいですよと言う。

私が許可を出すと女性は微笑みながらありがとうと言い、私の隣に正座で座る。

お礼を言うにも座るにも、一つ一つの動作に大和撫子って感じの大人びた振る舞いで私は再び見惚れる。

胡座をかく私と妹紅の女子力とはうって違う。


「ふふ、どちらへ向かう御予定で?」


「え、あぁ……ちょっと東の方に」


いけない、少しキョドッてしまった。

しばらくは妹紅としか会話をしてなかったので、コミュ症でも拗らせたか?

いやしかし、映姫や華扇の時は普通に話せたしそれはないか。

ならあれだ、非リア充がリア充と話すときのあれだ、女として格下すぎて怖じ気付いてるのだ私は。


「そうなんですか、なら幻想郷に向かっているのですね」


「お、姉ちゃんは幻想郷の事知ってんのか?」


私と違い、妹紅はかしこまらずに女性に言い放つ。

妹紅の馴れ馴れしい態度に、女性は縦に首を振り、えぇと簡潔に答える。

どうやら妹紅はこの圧倒的女子力を感じていない様だ。

野生人も妹紅くらいまで拗らせると女子力のじょの字もないのか……。


というか幻想郷の事を知っているという事は、この人も妖怪なのだろうか?

この人からは妖気とかは感じないが……。


「ちょうど私もそちらの方へと向かおうとしているのですよ」


「へぇ、なら姉ちゃんも妖怪なのか?」


私の持つ疑問を妹紅が代弁してくれた。

妹紅の質問に女性はクスリと笑い、そうですよと答える。


「私は鎌鼬という妖怪ですかね」


鎌鼬。

なんか聞いた事がある名前だ。

確か風を操る妖怪だったはず。

それがこの人の種族なのか。


「ふふ、お嬢様方は何という名の妖怪なんですか?」


女性が微笑みながら尋ねてくる。

この女性の問いは白鷺 雪という意味の名前を聞いているのではなく、女性の答えた種族的な名前を聞いているのだろう。

となれば私はどう答えたものか……。

屍を操り喰らう、死なない妖怪……私自身で知っていることはそれだけだ。


妹紅は妖怪というより、かつて不思議な薬を飲んで今の不死性を手に入れたと聞いたので人外と言うべきだが、私はなんなのだろうか?

自分が何者かなんて考えたことなかったな……。


「私は藤原妹紅って言うんだ、よろしくな姉ちゃん!」


私がどう答えようかと悩んでいると妹紅ばかは名乗る。

何という名の妖怪と聞かれ、自分の名を答えるなんて此奴は馬鹿か……。

文章的には自分の名前を答えてもいいかもしれないが、会話の流れ的にはどんな妖怪かを聞かれただけなのに……。

まあ、妹紅は妖怪でなく人外と言った方が正しいので応えようはないが。


そんな妹紅ばかの様子を見て、女性は苦笑を浮かべる。


「元気がいいのですね。私は黒桜くろざくら じんって言いますの、よろしく」


意外に男っぽい名前だ、私はそう思った。

いかにも良い所出身って感じの振る舞いと話し方なのに。

まあ、妖怪に良い所出身なんてのはないか。

私みたいな元人間ならあるかもしれないが。


「で、貴女のお名前は?」


女性は私の方を向き尋ねる。

そう言えば名乗っていなかった。


「白鷺 雪、……何の妖怪かは知らないです」


「ふふっ、そう。よろしくね雪ちゃん」


女性はそう言いながら私の頭を撫でる。

私は急に頭を撫でられる事には驚いたが悪い気はしなかったので、頭に置かれるその手を拒否せず大人しく撫でられた。


「艶々の髪ね、手触りが良いわ」


「え……あ、ありがとうございます」


突然言われたその言葉に私はきょどった。

貴女の髪の方が綺麗で触り心地が良さそうですと思いながらも私は素直に礼を言う。

本当は妖怪となって白くなった忌むべき髪を褒められ良い気はしないが、この女性は私のそういう事は知らないのだ。

ここは素直に礼を受け取っておこう。


「……ふふ、肌もツヤツヤ。お姉さん、嫉妬しちゃう」


「そ、それはどうも……」


女性は私の背中に届くほどの長い髪から、私の頬に手を移し、撫でる様に触ってきた。

またも急に触られた事に私はきょどりながらお礼を言う。


髪と違って肌を褒められるのは女としては悪くないな。

しかし、この女の人少しおかしくないか?

初対面の……それも会って数分も経たない相手の身体をこうもベタベタ触るのは少し失礼ではないだろうか?

まあ、斬乂には会ったその日に服を剥がれ無理やり風呂に入れられたが。

そしてどさくさに紛れ胸を揉まれたが。


私は頬を撫でる女性に若干の不信感を持っていると、ふと頬に触れる手を止め、私の着物の下の方から手を入れ、私の足を弄ってきた。


「うふふ……、足もこんなにスベスベぇ……」


「え……あ、あの……」


私は女性に足を弄られながら女性の顔を注視する。

そしてその女性の顔を見て私は身体を強張らせる。

その顔は先程の大人びた顔と相変わり、だらしなくニヤけさせており、下卑た様子でニヤニヤと笑っている。

先程までは清楚溢れるお嬢様っていう感じの顔だったのに……今では下卑た笑みを浮かべ、私の……女の足を撫で回し興奮した顔になっている。


そんな顔をした女性に自分の足を弄られている。

私はそう思うと顔を真っ赤にさせ、私の着物の中に手を入れ、直に足を弄る女性の手を叩き払う。

女性は私に手を叩かれると残念がった顔をする。


「あらあら、不快な思いをさせてしまったかしら?」


女性は先程の下卑た顔でなく、清楚漂うほんわかとした顔で何事もなかったかのように首をかしげる。

私はそんな女性を見て、身震いをさせる。


こいつはやばい……。

具体的に言うと妖怪の山で斬乂がそっちの人と気づいた時並みにやばい。


「い、いえ……別に……」


「なら、もう少し触っても良いかしら? 貴女みたいなスベスベしたお肌、中々触ることが無いので」


女性はそう言いながら私の足に手を置き、着物の上から軽く撫でる。

その女性の顔は先程の下卑た笑みではなく、ほんわかとした優しい微笑みを浮かべる。

その微笑みを見てちょっとくらいならと思ってしまうが、先程の下卑た笑みを思い出し私は再び身震いをさせる。


私は少し怖くなった。

この女性の不気味さに、恐怖を覚えた。

優しい微笑みと下卑た笑み、どちらが本当の彼女かがわからない。


私がそう思っていると女性が私の耳元に口を近づける。



「ねぇ、雪ちゃん……ちょっとお姉さんと二人っきりで奥の方に行かないかしら?」



女性はそう言いながら私たちの背後、木が多く生い茂る薄暗い林の方に指をさした。

その女性の言葉に私は寒気を覚えた。


女性の言葉に色気さなどはない。

ちょっと大事な話があるから妹紅を外して話さないか、そんな感じの誘いで下心も何もない誘いの言葉。

うっかりついていきそうな私がいる。

しかし、私の手をイヤらしく撫でる女性の手と先程の女性の下卑た顔を思い出すと震えが止まらない。


私は女性の誘いに緊張か恐怖かで震わせた声を出す。


「そ、そのちょっと……それは……」


「ちょっとで良いの。その間、ちょっとお姉さんの言う事を聞いてくれるだけで良いのよ、ね」


駄々をこねる子供を納得させるように女性は私に言う、それも私の耳元に口を寄せ、イヤらしい手つきで足を撫でながら。


既に私の中ではこの女性は危険な人物だ。

付いて行くはずがない。

私はそう思いながら女性の誘いに再び嫌だと言ったが……。


「ねぇ、お姉さんの事嫌い? もしかして変な事されると思ってるの? 大丈夫よ、雪ちゃんの嫌がる事は何もしないから。私はちょっと雪ちゃんとお話ししたいだけなの。二人っきりで語り合いたいの。ね、良いでしょ? ほんのちょっとなのよ。ねぇ、それでもダメなの? ほんの少し、少し物陰で二人っきりになって色々とオハナシしたいの……。私がこんなにも言ってるのになんで雪ちゃんはダメって言うのねぇなんでぇ?」


女性は微笑みながらも狂気染みた事を言いながら、私の腕を引っ張る。

その女性の態度を見て、私は完璧にこの女性はオカシイと思った。


「いや、私らはもう行くから……」


私はこの女性から逃げようと立ち上がろうとする。

そしてここを立ち去ることを伝えようと、妹紅の方に視線を向けようとした時だった。



「ぺろっ……」



私が女性から目を逸らした途端、女性が私の腕を力強く引っ張り、私の頬を撫でるように舌で舐めてきた。


舌で舐められた私は今日一の寒気を感じた。

そして私は私の頬を撫めた女性の顔を見てさらに寒気を感じた。


「うふふふふふ……、本当に美味しそうなお肌ぁ……食べちゃいたいわぁ……」


女性は舌で自分の唇を舐め、自身の身体を抱きしめ震えている。

あの私の足を撫で回していた時と同じ様に下卑た笑みを浮かべながら……。


なにをやっている。

私はそう声を出そうとしていたが、あまりの気色悪さに声も出なかった。

先程、斬乂と同じ位やばいと言ったが、この女性はそれ以上にやばい。


そう思っていると女性が握っている方とは逆の腕を妹紅の手によって掴まれた。


「おい、雪。もう行くぞ」


妹紅はそれだけを言い、無言で笠を私に被せる。

妹紅は一度、女性の方に目を向け舌打ちをして走り出した。



「あらぁ……もう行っちゃうのぉ残念ねぇ……」



私が妹紅に腕を引かれながらも進んでいくと、女性は一言そう言って下卑た笑みを浮かべ私の方を見ていた。

私はそんな女性の顔に恐怖し、目を逸らし前で私の腕を引く妹紅の背中を見てその場を急いで駆けていった。








❇︎❇︎❇︎







「あらあらぁ……逃げられちゃったわぁ」


下卑た笑みを浮かべる翠髪の女性……、黒桜 刃はニヤニヤと笑いながら雪と妹紅の歩いて行った先を見る。

刃は残念、そう一言つぶやいてため息をついた。



「やあ、刃さん。久しぶり哉」



刃が悲壮感を感じていると、その背後から刃とは別のもう一人の女性の声が聞こえた。

そのもう一人の女性は狐の仮面をかぶっている男物の着流しを着た黒髪の少女。

かつて雪を狂わせるきっかけを作った少女がそこにいた。


刃はその狐面の少女の存在に気づくと再び下卑た笑みを浮かべる。


「あらあらぁ……遅かったわねぇ。憑ときょうはどうしたのかしらぁ?」


「あの二人は一足早く偵察だよ。あと、もう猫はかぶらなくて良いの哉?」


「あぁ……、別にもう良いのよぉ。あれはただあの子を油断させようとしただけよぉ」


まあ思わず素が出ちゃったけど、と刃はクツクツと笑う。

そんな刃の様子を見て狐面の少女は微笑む。

そしてそんな微笑む様子の狐面の少女を見て、刃は笑む。


「ねぇ……、可愛い女の子に無視されちゃったからぁ中途半端でぇ、わたしムラムラしてしょうがないのよぉ。だから、貴女で発散させてくれないかしらぁ」


刃はそう言いながら狐面の少女に近づこうとする。

しかし、狐面の少女はそんな刃から逃げる様に飛び上がり、近くの木の枝に飛び移る。


「それは困る哉。ボクにはそっちの気はないから」


「いけずぅ……ちょっとその綺麗なお肌を"血だらけ"にしようとしただけなのにぃ……」


刃は狐面の少女を見て、恍惚と顔をニヤけさせる。

そんな刃の様子を見て、狐面の少女はほくそ笑む。


「ふふ、ならボクを切るよりさっきの餓者髑髏がしゃどくろを切るといい」


「あらあらあらあらァ……さっきのが例のアレなのぉ?」


狐面の少女が言うと刃は嬉しそうに笑む。

狐面の少女は刃の言葉にそうだよ、と微笑む。


「ならぁ、ますます欲しくなったわぁ……」


刃は嬉々とし声を上げ、身を悶えさせた。

そんな嬉しそうな刃を狐面の少女は木の上から眺める。

そしてその喜びを遮る様に言葉を発する。


「けど、今はまだ手を出さないでね」


「えぇっ! なんでよぉ……」


狐面の少女の言葉に刃は一気にテンションを落とす。


「ボクには彼女が必要なんだよ」


狐面の少女が言うと刃は文句を言いだす。


「ぶー、なら代わりにアナタが私の相手をしなさいよぉ……」


「それはいや哉。ボクは餓者髑髏みたいな化け物じゃないからね。命は一つだけなのさ」


「なら、床の上でもいいわよぉ。その面の下の顔が快楽に塗れているところを私は見てみたいわぁ……」


「ふふ、悪くないけど好き勝手やられるのは嫌だから断らせてもらおう哉」


狐面の少女はクスリと笑う。

そして木から飛び降りて、刃の隣に立つ。

刃の隣に並ぶとさて、と呟いて先ほど雪等が走り去った方を見つめる。

そしてほくそ笑む。







「では、ボク等も行こうか。幻想に」








狐面の少女はそう言って歩き出した。





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