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東方屍姫伝  作者: 芥
三章 その少女は幻想へと歩む
20/72

隻腕

私と妹紅は山の中にいる。

その山は木が生い茂り、昼間では木漏れ日の暖かい少し快適な山である。


そんな山の中で私達は夕暮れ時に、今日の夕食にしようとする獲物を捕まえていた。

しかし今は冬に近いからか、山では猪や兎などの食べれそうな生き物は居らず、私も妹紅も苦戦していたのだが……


「なぁ、雪……」


「ん? なんだ妹紅」


私はたまたま仕留めた食べれそうな"獲物"の足を掴み、小型の刃物を自分の影の中から取り出して血抜きを行おうとしていた。

しかし、妹紅に呼び止められ私はそちらを向く。

私が見た妹紅の顔はげんなりとしていた。

私が何かしたのだろうか?


「いやさ……確かに食えるものならなんでも良いと言ったけどさ……」


妹紅は私が手に持つ"獲物"に向け指をさしながらため息をつく。

私は妹紅が何を言いたいのかわからず首を傾げる。


「何を言ってるのだ妹紅、ちゃんと食えるものではないか」


私はそう言いながら今ほどナイフで切り落とした"獲物"の足を見せる。

その"獲物"の足は鉄の様に硬いが、中にはがギッシリ詰まっており、焼いて食べたら美味しそうだ。


私は今一度、後に食べることになるであろうモノを眺めてそう思った。


「でも、流石にそれはないわ……」


「いや、どれだけ否定するんだよ……。たかが妖怪・・の肉なのに」


げんなりとする妹紅に鉄の様に硬く黒光りした極太の蜘蛛のような脚を持つ妖怪の足を見せる。

ちなみに私の足元には他にもその脚の持ち主であった妖怪の心臓や腸、脂肪などが食べる分だけ置いてあり、既に食べやすいサイズに切り揃えてある。


ちなみに食べきれなさそうなしたいは既に埋めておいた。

結構大きな妖怪だったので埋めるのが大変だったが、能力を使って死体を操り妖怪の死体に穴を掘らせたから疲れたのは穴に埋める時だけだった。

まあ、穴を埋める時も昔に殺した妖怪から能力で奪った【土を操る程度の能力】という能力の事を死体に土を被せている途中で思い出し、その能力を使ったので言うほど疲れてはいないが。

むしろ、死体を操っていた方が掘るのに時間がかかったほうだ。

昔に能力を奪い過ぎたせいか、自分が今どれだけの能力を所有しているのかを忘れかけているのが最近の悩みだ。


「いや、絶対に身体に良くないってこれ……。なんか見たことのない色だし……」


「文句の多いやつだ、たかが血が緑色っぽいだけだろ?」


私はそう言いながら白装束に緑色の血を飛ばしながら、黒光る鉄っぽい脚の中に詰まっている肉を蟹の身をほじり出す様に取り出す。


ちなみに白装束に飛ぶ緑色の血は、川で洗い流すのではなく、つい最近に殺した妖怪から奪った【ありとあらゆる血液を操る程度の能力】という能力で血を操れるので、どれだけ返り血を浴びても能力で操って血の汚れを落とせるので洗濯いらずだ。

最近ではどれだけ返り血を浴びても、血を川で洗い流す必要がないので大助かりだ。

まあ、その能力を持つ妖怪を殺そうとした時には私の中に流れる血液を操られ、身体中の穴という穴から血液が流れ出して、大変グロッキーな状態になったのであまり良い思い出はないが。



「あ……ぁ……のぉ……」



私がつい最近あった中のトラウマ級の思い出を思い出していると、私の正面からガサゴソと茂みが動きながら呻き声が聞こえ、茂みの中から何かの手が出てきた。

その出てきた手には私の右腕と同じ様に包帯が巻かれている。

というか、その手はめっちゃ震えている。


「あのぉ……しょくりょうを……わけて……もらえないでしょうか……」


茂みの中からはピンク髪で団子状にまとめシニヨンキャップを被っている少女が、今にも死にそうなくらい弱った声をあげ、這いつくばって私達の前に現れた。


「その……五日ほど……なにもたべてないんです……おねがいします……」


どうやらこの女の人は飢えているらしい。

私と妹紅は顔を合わせ互いに頷き、とりあえず行き倒れしていた少女に水を与えた。








❇︎❇︎❇︎







「いやー、本当に助かりましたよー!」


ピンク髪の少女が先程とは相変わり、元気そうに私が与えた木の串に刺さった肉にかぶりつく。


彼女の名は茨木華扇と言うらしい。

なんでも華扇はここ五日ほど何も食べていなかったらしく、この山で飢え倒れていたらしい。


「あぁ……そりゃよかった」


私の狩ってきた妖怪肉を美味しそうに食べる華扇を見て、妹紅は顔を少し青くしながら言う。

妹紅は未だに私が狩って焼いた妖怪肉を一口も食べていない。

どうやら彼女は食欲がない様だ。

しかし食べなければこの華扇の様に飢えて行き倒れるかもしれないが、大丈夫か?

最近では冬季に入ったせいか、食べられそうな動物が表立って行動してないから困るぞ?

ま、もし妹紅が行き倒れても死にはしないので口に出して心配はしない。

むしろ行き倒れでもしたら足を引きずって移動してやるから、安心して行き倒れてくれれば良い。


「そういえばこのお肉はなんの肉ですか? 食べたことのない味なんですが?」


華扇が久しぶりの食事で機嫌が良いのか嬉々として聞いてきた。


「あぁ、それは妖か……」


「それは兎の肉だ、そうだよな雪っ!」


私が問いに答え様とすると慌てた様子で妹紅が口を挟んできた。

妹紅がそう言うと、華扇は変わった味の兎ですね、といいながらムシャムシャと食べる。


しかし、なぜ妹紅は兎の肉と答えたのだろうか?

普通に妖怪の肉と答えれば良いのに。


「そ、そういや華扇は妖怪だよな。雰囲気的に人って感じもしないし」


私が妹紅の奇行に首を傾げていると、妹紅が話題を変える様に華扇に尋ねる。


「えぇ、そうですね。一様、鬼です」


「へぇ、鬼かぁ……って鬼!?」


妹紅が驚く様に声を上げ、華扇の顔を見る。

そして私は何故、妹紅がそこまで声を上げて驚くのかを疑問に思う。

確かに華扇は鬼の象徴である角が生えていないが、それほど驚くことではないと思うのだが。


私が妹紅の驚きに疑問に思っていると、妹紅は目を見開きながら呟いた。


「はぁ……鬼ねぇ、本当にいたんだな。御伽噺だけの存在かと思っていたが……」


「えぇ、鬼は本当にいますよ。ここから東の山の方に行けば沢山いますね」


華扇がそう言いながら東の方に指を指す。

私はそれを言われ、ある事を思い出して肩をビクつかせる。


鬼の住処と言われれば一つしか思い浮かばない。

今、思い出したが"あそこ"はあっちの方角にある。

それも私達の向かっている方角と同じ方に。

しかし、それはそれでこれはこれだ。

私達の向かっている東の楽園と言うのは"あそこ"とは関係ないはず。

心配は無用だ。


私は焦る心を、深呼吸をして一度落ち着かせる。

それに対し妹紅は気楽そうに華扇と話す。


「へぇー、私達が目指している方角と同じ方なんだな」


「あなた方は東の方に向かわれているのですか?」


「あぁ、ちょっと噂の楽園にな」


妹紅が言うと華扇が楽園? と首を傾げるが、何かを思い出したのか口を開く。


「楽園とは幻想郷の事ですか」


「げんそうきょう?」


華扇の言葉に妹紅は首を傾げる。


「えぇ、人があまり寄り付かない辺境の地で妖怪だけが住む妖怪の楽園と聞きますね」


「はっ? それだけ!?」


「え、えぇ……」


華扇が言うと妹紅がなんだよー、とため息をつく。

対する華扇はヤバイことを言ったのだろうかと不安に思いながら少し戸惑っている。


「ま、そんなもんだろうとは思ったよ。元が妖怪の噂だったんだしな」


私が言うと妹紅は更にため息をついた。

元が妖怪の噂なのだ。

そりゃあ、私達みたいな人間っぽい妖怪よりも、ガチもんの妖怪にとっての楽園には違いない。

まあ妹紅は妖怪ではなく死なない化け物って方が言い方的には合っているが。

というか妖怪にとっての楽園ってなんだ?

個人的にはそっちの方が気になるが。


「し、しかし、本当に良いところですよ? 大きな綺麗な湖もありますし、私の住んでいた山もその辺りにありましてそこから見える景色はとっても綺麗で」


「あー、なんだよ。期待損だな」


華扇の言葉に妹紅は再びため息をつく。

まあ、妹紅が残念がるのも仕方がない。

噂では妖怪に友好的な人が多く住むと聞いていて、久しぶりに人間と交流できると思いきや、本当は人が全く寄り付かない魔境と聞けば期待外れだ。

私も個人的には人里の人間と交流して、話とか聞いてみたかったのだが。


……というか、聞き過ごしかけたが"私の住んでいた山"だと?


「……なぁ、華扇」


「なんですか雪さん?」


「その幻想郷ってのはもしかして妖怪の山に近いのか……?」


「えぇ、そうですよ、よくご存知で」


おぉ……、やばい。

本当に私達の向かう方と妖怪の山が近いなんて……。

まだ、斬乂に会う心の準備は出来ていないのに……。

いや、今までも何度か妖怪の山に立ち寄ったではないか、……そして何度もチキって引き返してきたが。

今回もそうすれば良いんだ。

妖怪の山の近くに立ち寄ってモード乙女の自分が現れれば引き返せば良いし、現れなければ立ち寄れば良いんだ。


「あのぉ……もしかして千樹 斬乂の、母さんの愛人の方ですか?」


「……あ、愛人っ!?」


なぜわかっ……じゃなくて何故、私が斬乂の

知り合いだとわかった……。


「いや、……まぁ一様は斬乂とは知り合いだが……」


「あ、愛人の方ではないんですか? 母さんの首輪をつけていたのでそうかなって思ったんですが……」


華扇はそう言いながら私の首元に指をやり、かつて斬乂につけられた首輪に指差す。


かつて斬乂にペットの証としてつけられた鉄製の首輪。

実は私は今でもそれをつけている。

数百年前、斬乂と別れた後に斬乂に首輪を外してもらう事を忘れており、自力で外そうと思ったが何となくやめておいて付けっぱなしにしておいたものだ。

別に他意はない。

ずっと貴女の物です、と言う意味でつけているのではなく、ただこの首輪を取るには自分の首を一度切り落とさないといけなくなるので、面倒なので取ってないだけだ。

本当に深い意味はない。

誤解されるからもう一度言うが、本当に深い意味はない。


私はそう自分に言い訳して一度咳払いをする。


「そ、そうなんだ。その……この首輪って斬乂のものって言う証なの?」


「えぇ、母さんに挑んで負けた人達につけられるものですね、といっても大抵は貴女みたいな少女の見た目をして母さんの趣向にあった人につけられるものですが」


男とか趣向に合わない女は適当にポイって感じですね、と付け足し苦笑いをする。


ならばこの首輪は所謂アレなのだろう。

斬乂が勝負に勝った戦利品として、自分のお目にかかった斬乂好みの女につけるもので、所詮は私はその戦利品の内の一つで……。

なんだろうか、そう考えると少しムカつく……。


私が自分につけられた首輪に触れながら、華扇の言葉の意味を考えていると妹紅が私の方に視線を向けながらニヤニヤと笑う。


「へぇー、つまり雪はその斬乂って鬼に負けてその首輪つけられてるんだ……」


「な、なんだよ妹紅……」


「いや、べつにー。斬乂っていう女の名前は前に聞いて知ってたが、その愛人だったとはねぇ」


「べ、別にあ、愛人じゃない……」


そう、愛人ではない。

それと確かに結婚の約束はしたがあれは若気の至りで今となっては昔の話だ。

今では斬乂の事をそういう対象としては見ていない。

まあ、たまにまた抱きしめて欲しいなー、て思うが深い意味はなく、ちょっと人肌恋しいだけなのだ。

そう。

本当に私は斬乂には深い感情はもう向けてはいないのだ。


「あ、もしかして母さんに負けて嫌々、つけられた人ですか? もしそうなら本当にうちの母さんがスミマセン」


「た、確かに嫌々つけられたが……今となっては別になんとも……」


「うわ……、首輪つけられてなんとも思ってないとか雪ってそっちの気が……」


「おい妹紅……お前さっきからうるさいぞ」


どれだけ私がドMでレズってネタを引っ張るんだ。

もうその話は終わったんだよ。

というかこの話を続けたらどんどん私のボロが妹紅に出る。

それにこれから妖怪の山がある方に向かうのだ。

変に斬乂の事を話され、変に意識とかしてしまったら色々と支障が出る。

下手したら斬乂の事が余計に恋しくなって会いたくなる。

そうなったら私の乙女モードが全開でまた斬乂に会いに行けなくなる。


「そ、そう言えば華扇はなんで妖怪の山に居ないんだ? というか、私の事を知らないってことはしばらく妖怪の山に居なかったんだろ?」


もし私がかつて妖怪の山に訪れた時に華扇がその場に居たら私の名前は覚えているはずだし、たまたま私が居た時に華扇が居なくても何らかの形で斬乂から私の名前を聞いているはずだが。

まあ、もし後者の場合なら知らないってこともあるが。


「それは……私ちょっと探し物をしててここ数百年間、山に帰ってないんですよ」


華扇は苦笑いをして、包帯が巻かれている方の手を握る。


「へぇ、てか百年単位で探すって凄い根性だな」


「はは、そう言ってもらえると光栄です」


華扇は苦笑いをしつつも、妹紅の言葉に答える。


数百年間探して見つからないのではもう何処にも無いのでは。

私はそう言いかけたがそれは野暮だろう。

華扇本人もかつて茜を生き返らせようとしていた私の様に切羽詰まった様子は見られないので、無理して否定することは無い。

まあ、見つかる事を祈る事にする。


私はそう思いながら華扇の幸運を祈った。




その後も夜通しで話をし、翌日の朝に華扇と別れを済ませた。


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