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東方屍姫伝  作者: 芥
三章 その少女は幻想へと歩む
19/72

地蔵

とある昼下がり。

私と妹紅は何やかんやで東の楽園なる所へ向かい初め数日ほどが経った。


旅は順調。

時々、襲いかかってくる妖怪や陰陽師も難なく撃退し、一歩づつ確実に東に向かう。

と言っても旅の間に綺麗な海があるやら、見事な建築物があるとかで寄り道しまくりで当分は目的地に着きそうは無いが。


「あー、なんか面白いこと話せよ雪」


現在、私と妹紅は目立つ白い髪を隠すため笠をかぶり、とある川沿いを歩いている。

そんな中、妹紅が退屈そうに私に向かって暇潰しの話題を提供してきた。


暇潰しに東の方に行こうと言ったはいいもの、歩いてるだけというのはひどく退屈だ。

歩いても歩いても木や石ころばかりのある風景でつまらない。

旅中で人里に訪れれば多少は変わるのだろうが、私達は忌み嫌われるものだ。

目立つと言って笠を被って移動しても何かはバレる。

余計な厄介ごとを避けるためにも、こうして人気の無い道を歩くしか無いのだ。


「……面白いことねぇ」


私は妹紅に振られた話題をとりあえず考えることにする。

妹紅とは一年ほど一緒にいるので、お互いに話せる事は既に話きっているのだ。

最近では視線を合わせるだけで、多少の簡単なやり取りができるほどに互いの事を理解してきている。

なので、今頃なにか話せと言われても困るのだ。


「じゃあ、たまには互いの性癖とかのぶっちゃけた話でもするか?」


「……別に私はお前の性癖なんて聞いてもなんの面白みもねぇーよ、この被虐嗜好者の同性愛者」


「だ、誰がドMでレズだっ!?」


私がそう言うと妹紅はそうだよな、人には内緒にしてるもんなと言い、私は理解してるからと言いたげな目で私を見つめてきた。

どうやらこの前の私の発言を未だに引きずっているようだ。


「どえむでれずって言葉はわからんが実際そうなんだろ? この前の夜だって寝言で斬乂ぇ斬乂ぇって何時ぞや聞いた女の名前を呟いてたし」


「な……っ!? そ、そんなの何かの間違いだ!」


「いやいや、本当だ。それはもう頬を染めて、手を足に挟んで寂しそうに呟いていたさ」


妹紅がニヤニヤと笑いながらそう言うが、私は全く信じない。

流石に私が寝言でそんな事を呟くなんて事はありえない。

確かに斬乂とは早く会いたいがそんな恋する乙女みたいな仕草はしないし、するわけが無い。


「……妹紅、変な着色は身の為にはならんぞ」


「あぁ、そうだな。ま、今の話が嘘であったらならだけどな」


妹紅がにししと笑い、意味深な事を呟く。

そんな笑顔に私はイラっとし、拳を握る。


「どうやら物理的に嘘だと言わせる必要があるようだな……」


「お、殺るのか?」


「ふふふ……、殺ろうじゃないか……」


私がそう言いながら笑みを浮かべ、妹紅から距離を取る。

どうやら妹紅も殺る気があるみたいなので、この際だ。

どちらが上なのかをもう一度、証明してやろうじゃないか。


私はそう思いながら構えると、川の反対側にある近くの茂みからガサガサと音がなり、その辺りからか私の額目掛け小石が飛んできて当たった。



「いっつ……おい妹紅。なんか居るぞ」



私はそう言いながら小石の当てられた額を摩り、妹紅にそう言う。

妹紅は首を傾げ、声をあげて笑う。


「なんだ雪よ、怖気ついで逃げる気か?」


「お前ごときに怖気るわけないだろ……、今あの辺りから私の顔目掛けて石が投げられたんだよ」


私はため息をつき、物音がなった茂みの方に指を指す。

私がそう言うと妹紅が笑いながら、指された茂みに近寄って、小石を飛ばしてきた犯人を捜すように茂みをかき分けた。


「おい雪、誰もいないぞ。気のせいじゃないのか?」


妹紅は茂みの中をかき分けながら私に声をかけてきた。


いや、そんなはずはない。

確かにその辺から小石が飛んできたのだ。

というか女の子の顔目掛けて石を投げるなんてとんでも無いやつだ。

一生モノの傷がついたらどうするつもりなのか。

ま、私は傷なんてすぐに治るからどうでもいいが、もし投げてきた奴が子供なら一言注意し、大人なら股間を思いっきり蹴り上げ、妖怪ならぎるてぃーだ。

しかし、既に居ないのなら何もできないでは無いか。


「あ、でも、地蔵なら居るわ」


ほれ、と言いながら茂みをかき分け妹紅は私に見せてきた。

そこには小さな祠に置かれた笠を被った地蔵で、錫杖を手に持つ何処にでもありそうな普通のお地蔵様だ。

そしてお地蔵様の前には饅頭がお供物として置いてあり、妹紅はそれを見るとひょいと取って咀嚼した。


「妹紅、そんな何時から置いてあるかわからないモノ食べたら腹壊すぞ」


「ちょっとくらい大丈……いたっ」


妹紅がお供物の饅頭を食べていると私の時と同じ様に妹紅の額に目掛け、何処からか小石が飛んできた。

その小石が当たったのか妹紅は少し痛そうにしながら自分の額を押さえていた。


「……本当だな雪、なんか居るな」


妹紅は額を押さえながらそう言う。

しかし、私は今しがた小石が飛んできた方向をしっかりと視界に捉えていたので妹紅の言葉を無視し、小石が飛んできた方に歩み寄る。

そして小石が飛んできた方向……地蔵の置かれる祠の後ろを覗き込んだ。

そこに居たのは背の小さな少女で、覗き込む私に背を向ける様に蹲っていた。



「……誰だお前は?」



私がそう問うと少女は肩をびくっとさせ、顔を隠したまま目だけを動かしてチラリと私の方を向く。

そして、私と視線が合うと直ぐに目を逸らして、再び背を向けて蹲る。


「おいガキ、人様に向かって石ぶつけるとかどういう教育受けてきたんだ」


妹紅が祠の後ろに隠れる少女の存在に気づくと、少女の首根っこを掴み睨みつける。

その光景はまるで小さな子供を脅す大人げ無い大人にしか見えなかった。


「わ……ちょっ、放しなさい!」


少女は妹紅に襟首を掴まれながらも、手足を振り回し抵抗する。

しかし、妹紅にはその振り回した手足が届かず、ただブンブンと降っているだけにしかなっていない。

今まで蹲って顔がよく見えなかったその少女は、緑髪で顔立ちは結構幼く見える。

この付近に住む子供だろうか?

私はそう思いながら首根っこをつかまれている少女に声をかけた。


「お嬢さん、君が私達に石を投げたのかい?」


私がそう声をかけると暴れる少女は私の顔を睨みつけて口を開く。


「だったら何ですかっ! 私はただ貴女たちが無益な争いを起こしそうだったので止めようとしただけです!」


私はそう言われ思い出す。

そう言えば妹紅をまだ殴ってないと。

後で私にドMでレズって言ったことをしっかり誤らせなければ。


そして、少女は妹紅の方を睨みつける。


「それと貴女もお供物を勝手に食べるなんてどういう了見なんですか、罰当たりですよ!?」


だから、妹紅にも石が当てられたのね。

ていうか何でその前の喧嘩のくだりでは私にしか石を当てなかったのだろうか。

喧嘩の方は私だけが悪いのでは無い。

むしろ争いの種を蒔いた妹紅が悪い。

なのに何故、私だけにしか石を投げつけなかったのだろうか。

その辺りを小時間程問い詰めてやりたい。

しかし、私は妹紅と違ってその辺は気にしない、ほら私って大人だから。


「ま、お供物云々は妹紅が悪いとしてだ。人様に石を投げるのもどうかと思うぞ?」


私がそう言うと引け目があるのか、少女は暴れ回るのを止め、肩をしゅんとさせる。


「う……確かにそれは私が悪いですが……。しかし……私はまだ何の力も無いので貴女達みたいなおっかなそうな人を止めるのは無理なのです」


確かにそうだろう。

どうやらこの子は私達の喧嘩を止めようとして、妹紅の罰当たりな行いに注意を呼びかけようとしたみたいだ。

しかし、飛び出して口頭で私達に何かを言うのは、弱そうな小柄な少女にとっては怖かったのだろう。

だからか、コソコソとバレないように石を投げてそんな事をやってはいけないと伝えたかったのだろう。

やり方はどうであれ、こんな小さな子にしては中々に勇敢な行動だ。


ま、例え注意されても後で妹紅にはしっかりとお灸は据えるがな……。


「そうか、お嬢ちゃんは悪い人に注意しようとしただけなんだな。よーし、お姉さんが甘い物を上げよう」


「こ、子供扱いしないでください! あと、そろそろ下ろしてください!!」


私はそう言いながら着ている白装束の袖の中に手を突っ込んでいると、妹紅に首根っこを掴まれたままの少女が再び手足を振り回しだす。


「おい、妹紅、そろそろ下ろしてやれ。どうやら今回は全部お前が悪いみたいだ」


「な、殺ろうって言い出したのはお前だろっ!?」


妹紅は私に口答えをしながら、少女の首根っこを掴んだまま優しく地に下ろす。

地に下された少女は妹紅に掴まれ乱れた着物を直し、私と妹紅の方を睨みつける。


「貴女達、覚えておいてくださいよ……。私がもし閻魔に昇格したら絶対に地獄に落としてやりますよ……」


閻魔。

確か死後で地獄にて死者を裁く者の名だった気がする。


少女は確かにその閻魔と言った。

私と妹紅はその言葉を聞くと顔を見合わせる。


そして声を上げて笑う。


「はは、そうか。なら頑張って閻魔様にならないとなっ!」


「そうだ、ほれ。早く大きくなって閻魔様になれるようお姉さんがこのおむすびを上げよう」


妹紅が少女の頭を撫で、私は着物の袖に入っていた笹に包まれたおむすびを手渡す。


このおむすびは後で食べようと思ったが、まあ良いだろう。

この頃の子供は自分を偉い者に見せたがって、背伸びしたいお年頃なのだ。

確か前世では中二病と呼んでいた気がするが、この子もきっとそんな感じなんだろう。

身長的にもちょうどそれくらいの時期なのだ、こんな電波な事を言っても何もおかしくはない。


私がそう自己解釈をしていると、少女が顔を真っ赤にして怒り出す。


「信じてませんねーっ! 本当なんですよ、私は優秀な地蔵なんですからね!」


あぁ、そう言えば地蔵は閻魔の目だとか小さい頃に育て親の和尚さんに教えてもらった気がする。

悪い事をするとお地蔵様が地獄の閻魔様に悪事を報告するから、お地蔵様にはちゃんと手を合わせておけってよく言われたものだ。


ふふ、なるほど。

この少女も中々に凝った設定を作るじゃないか。


「そうか、ならこれはお供物だ。受け取っておけ」


私はそう言いながら先ほど取り出したおむすびを手渡す。

手渡された少女は怒った顔をしながらも、そのおむすびを受け取った。


「ふんっ、こんなもの貰ったって今回やられた仕打ちは忘れませんからね!」


少女はそう言いながら受け取ったおむすびを、元々置いてあった妹紅が食べた饅頭の所へ置き、地蔵に向かって手を合わせる。

どうやら饅頭の代わりに、私のあげたおむすびをお供えするらしい。


「ふふ、お嬢ちゃんは良い子だね。ちゃんとお供えするなんて」


私がそう言いながら少女の頭を撫でると、地蔵に拝んでいた少女は口を開いて怒鳴った。


「だから子供扱いしないでくださいっ!」


少女はそう言って頭の上に置かれた私の手を払った。

どうやら子供扱いをされるのが嫌いな子らしい。

まあ反抗期なのだろう、大目に見てやろう。


「あと私はお嬢ちゃんじゃなくて四季映姫と言うちゃんとした名前があるのですっ!」


「そうか、なら映姫ちゃん。立派な閻魔になれると良いな」


私はそう言ってもう一度、少女の頭を撫でた。

素直に応援されたからか、少女は恥ずかしそうに下を向いた。



「……う、有難うございます」



少女は顔を下に向け、言葉を詰まらせながらも恥ずかしそうにお礼を言う。

私と妹紅はそんな少女の様子を見てクスリと笑い、一言お別れを言って再び旅路に戻るため地蔵の前から立ち去った。




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