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東方屍姫伝  作者: 芥
三章 その少女は幻想へと歩む
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退屈

「暇だな……雪」


「あぁ……」


雲一つない空の下。

私と妹紅は何をする事も無く、何もない焼け野原で寝そべる。


この焼け野原ではつい数日前まで人間らが戦をしていたようで、私らの周りには鎧を着た死体がゴロゴロと転がっている。

それで偶々、この焼け野原に辿り着いた私達は転がる死体を探って、追い剝ぎをした。

具体的には食料などを持っていないかを探していたのだが、流石に持っていなかったので、身につけていた金目になるものだけ追い剝いでおいた。


まあ、私は金目のものだけで無く武士の持っていた刀などの武器を自分の影の中に収納しておいた。

こういうのは後に高く売れそうなので、あっても困りはしないだろうということでだ。

影の中で持ち運びもできるので、手間もかからないしな。


それで、一通りの死体を探り何もする事がなくなったので、ぼぉーっと寝そべりながら空を眺めている。


「暇だな……」


「あぁ……」


妹紅がため息をつきながら言う。

何度も言うな、と私も言いかけたが本当に暇なので何も言えない。


「なぁ……なにする……」


「何もする事がないから暇なんだろ?」


「いや、わかってるけどさ……」


妹紅の言葉に言い返すと、妹紅は再びため息をつく。


正直にいって私達は本当に何もすることがない。

数ヶ月前ほどに琵琶法師っぽい人に教えてもらった琴はもう飽きてしまったし、他に特にやりたいこともない。

本当に暇なのだ……。


「やばい……まじで暇だ……」


「……何度も暇暇言うな。余計に暇に感じるだろうが」


私も本当にマジで真剣に暇なのだ。

そんなにヒマヒマ言われると余計に暇だと実感してしまう。


「なぁ、妹紅や」


「なんだ、雪?」


「ひま……」


「…………あぁ、知ってる」


妹紅がそう言うとしばらく沈黙が訪れた。

人の声も聞こえない周りに無数の死体の転がる焼け野原の真ん中で、風の音を聞きながら青い空を眺める。

そして少し離れて積み上げられている鎧武者の死体を見てふと思う。


これだけの死体があるなら私の能力で動かして、なんとか歌劇団とか作り上げてみようか。

なんかイケそうだ。

歌は私が吹き替えをして、私が死体を操り踊りなどをさせる。

名付けて白鷺歌劇団。

今の時代では平家物語あたりが流行っていそうなので、平家物語を題材にした歌劇を行ってみようか。

それで暇潰しついでにおひねりも……



「………………はっ、くだらない」



なんか馬鹿が考えそうなことだ。

それによくよく考えてみれば死体が動いているだけでも恐ろしい光景なのだ。

普通の人間に見せるにしても、直ぐに110番されて陰陽師に追われる羽目になる。

人間の陰陽師ごときに負ける気はしないが、私は一様、人は不殺を心情にしている。

殺さず追っ払うのは面倒だ……。



「なぁ、雪……東に行かないか」


私が自分の脳内につっこんでいると、急に隣で寝転がる妹紅がぽつりとそう言う。

なぜ急に東の方に行こうと言い出したかはわからないが、どうせ暇なんだしどこに行こうが変わらないのでなんでもいい。


私がそう思っていると、妹紅が続けて言葉を言う。


「昔、お前と会う前に聞いた話なんだがな、なんでも東の方に楽園があるそうなんだ」


「へぇ、楽園ねぇ……」


どこ情報だよ、と思うが野暮な事は言わない。

この時代の情報源は大抵は人の間で流れる噂話だ。

大抵のものは信用できないし、多少の尾ひれはついている。

だから、楽園と言われてもただの緑の美しい綺麗な景色だけがあるかもしれない。

まあ、それでも長生きして暇人な私達には暇潰しとして見に行く価値があるものかもしれないが。


「その楽園ではなんでも私達みたいな異形が受け入れられる所らしくてな、人間に友好的な妖怪にとっては生きやすい場所らしい」


元人間の私達にはうってつけな場所ではないか、と妹紅は冗談交じりな笑みを浮かべ言う。


「人間に友好的な妖怪にとっての楽園、ね……」


「なんだ、何か不満か?」


妹紅が私の意味深な復唱に疑問を感じたようだ。


「本当にそんなところがあるのかねぇ、と思っただけだよ」


人間は私達のような未知で恐ろしい化け物を否定する生き物だ。

かつて人間だった頃の私もたぶんそうだったと思う。

そんな人間の中で私達みたいな化け物が受け入れられるわけがない。


「まあ、私も疑い半分だが妖怪の間で結構噂になってるんだよ」


「へぇー」


確かに妖怪関連の情報は妖怪に聞くのが一番だ。

妖怪関連の情報は人間の間で流れる噂話よりかは信憑性があるしな。

と言ってもどの噂も多少の尾ひれがついているので完璧には信用できないが。

しかし、火の無い所に煙は立たぬとも言うし、その東の方には何らかはあるのだろう。

それが楽園か墓場かは知らんが……。


「ま、もし無くても暇潰しにはいいんじゃないか」


「うわ……、めっちゃ上から言うんだな」


「お前の提案に乗ってやるんだ、有り難く思え」


「へぇへぇ……、有難うございます雪さま」



妹紅は私の冗談にため息をつく。

私はそうした妹紅にケラケラと笑い、身体を起こす。



こうして次の目的地は東にある楽園へと決まった。


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