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東方屍姫伝  作者: 芥
二章 その骸は魂を狩り続ける
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約束

朝。

妖怪の山にあるとある屋敷で一人の少女が大声を出して騒いでいた。



「ちょっ!? 出て行くってどういうことですかー!!」



少女……、鬼子母神と呼ばれる千樹 斬乂はいそいそと白装束を着る少女に目掛けて声を上げた。

下に何も着ず白装束だけを着る少女、白鷺 雪は白装束の帯を締めながらため息をつく。


「出てくって当たり前だろ? ここはお前の屋敷であって別に私の家ではないんだから」


雪は首を傾げ、あたりまえだろと言いたげな目で斬乂を見る。

しかし、斬乂は納得いかないからか唸りながら雪を見る。


「昨日の夜いい感じじゃなかったですかー!」


「……だからなんだ」


雪は昨日の夜と言われ、一瞬自分らしくないことをしたと思うも、平常心で斬乂を見る。

しかし顔は少し赤くなっており、恥がないわけではない。


「昨日の夜の流れだと今日の夜は「斬乂ぇ、今日も寂しいんだ一緒に寝てくれぇ……」って感じになって「斬乂ぇ、やっぱりお前が好きだ……」ってなるんじゃないんですかー! それから毎晩がねっちょねちょでぐっちょぐちょな雪ニャンとの爛れた関係が始まるんじゃないんですかー!」


「……馬鹿が」


雪は斬乂の言われることを想像し、後者の台詞は兎も角、前者の台詞は言いそうで否定できなかった。

長らく人の温もりが無い生活が続いたせいか、正直昨日の夜は気分良く寝れた。

斬乂に言うと調子をこくのであまり言いたくは無いが、一緒に寝るくらいなら悪く無いと思っていた。

しかし絶対に調子をこくので言わないが。


「ねーねー、雪ニャーン。本当に行っちゃうんですかー。私とぬっぽりしっとりした性活を送りましょうよー」


斬乂がみっともなく自分に抱きつく様子を見て、雪はため息をつく。

面倒な奴に好かれたと。


「……お前がそんなんだから私は出て行くんだよ」


「えぇっ、そうなんですか! 雪ニャンは爛れるよりもらぶらぶな方がいいんですか!?」


「違うから……」


そう言いながら雪は抱きつく斬乂の頭を押し返す。

そして妖怪の山から出て行く理由を言う。


「私は元々はお前と天魔を殺しに来たんだ。だが、今となっては殺す理由も無い。よってここにいる理由は無い」


それに私を恨んでいる奴らも居るしな、と付け加えるように言う。

雪がそう言うと、斬乂はぶーぶーと言い始めた。


「それなら私を殺さなくてもいいんでここにいてくださいよー」


「お前がいて欲しくても私がいたく無いんだよ……」


「そ、そうなんですかぁ……」


雪がそう言うと斬乂はしょんぼりとしてしまった。

雪は拗ねる斬乂の姿を見て慌てる。


本当は妖怪のここに居たくない訳ではない。

むしろずっと居たいくらいだ。

殺そうとしていたのに、自分を肯定して抱きしめてくれた斬乂の居るこの山に居たいのだ。

だけど、雪にとって色々とこの山に居続けるには心残りがありすぎるのだ。


「……私も、ここに……鬼神の……斬乂の側には居たいと思っているよ」


雪が言うとしょんぼりとしている斬乂の顔がぱぁー、と明るくなる。

そして、なら居ればいいと言おうとするが雪が言葉を続けた。



「だけど……私にはまだ茜の事に踏ん切りがつかないんだ」



死んだ彼女の仇を討つと言って旅に出て、生き返らせようとして多くの妖怪を殺した。

もう既に茜は生き返らないのに殺し続けた。

仕方がないとは言え、茜を理由に雪は現実から目を背け続けたのだ。

妖怪を殺した事も、自分を呪う怨霊らの声を茜を理由に正当化してきたのだ。

それを今になって正気に戻ったから忘れますって訳にはいかない。

それに妖怪の山でも多くの妖怪を殺した。

それも野良妖怪とは違い、家族がいたかもしれない天狗らをだ。

雪はその事を後ろめたく思う。

だから余計にここには居られない。

それに……



「私は……茜が好きなんだ」



雪は顔を赤くし、震えながら言う。

白装束の裾を握りしめ、斬乂から恥ずかしそうに目をそらす。

そんな様子を見て斬乂は知ってます、と言う顔で頷く。

だが、斬乂は次の雪の言葉に唖然し、目を見開いた。


「だから……お前とそう言う関係になるのは……まだ無理だから……。その……茜の事で心の整理ができて、落ち着いたら……もう一度ここに戻ってくるから……その時はその……宜しくお願いします」


「…………………………ん?」


何をよろしくなのか、斬乂は頭を真っ白にしながら首を傾ける。

顔を真っ赤にして自分の着物の裾を握り、恥ずかしそうに言う雪を見て、呆然とする斬乂。

そして尋ねる。


「えーと……、何をよろしくすればいいのですか?」


斬乂がそう尋ねると雪はアタフタとしながら目をそらし、口を尖らせる。


「だ、だからその……そう言うことだよっ!」


「……あ、ドロドロでヌチャヌチャでベチャベチャな事をよろしくすればいいんですねー」


斬乂は雪の言うことにふざけ半分でそう言う。

しかし、顔を真っ赤にした雪が無言で首を縦に振った。

首を縦に振った、その行為に斬乂は目を見開く。


「え、あ……、そ、それって……」


「一緒にいてくれるんだろ……それくらいの見返りはくれてやる……。それに……ふ、夫婦になるならそう言う営みも……するんだからな……」


夫婦。

流石に斬乂もそこまで求めていなかった。

別に斬乂的には雪とはちょーとエロいことさせてもらって、ちょーと火遊びするくらいの関係になりたかっただけだ。

所謂、愛人でそれ以上はなる気もないし、なるつもりもなかった。

なのに……目の前の少女は……。


何故こうなった……、それが斬乂の感想だった。

確かに一緒に居ようとは言った。

友人として過ごし、たまに火遊びする愛人関係を求めていただけなのに何故こうなった……。

もしかしてずっと一緒にと言うことをプロポーズとでも捕らえたのだろうか。

もしそうなら雪は相当の馬鹿だ。

ていうかそれ以前に互いの性別を考えて欲しい。

斬乂はそう思い目を閉じ、納得する様に首を縦に振った。



「えぇっ、良い家庭を気づきましょうっ!」



斬乂がそう言うと雪は顔を真っ赤にし、顔を背け、馬鹿と呟いた。

斬乂はその様子を見て可愛いなーと思い、それと同時に斬乂は思った。

雪ニャンが嫁、悪くない。


馬鹿な事を考える斬乂を傍らに雪はこほん、と咳払いをし斬乂に向かって指をさす。

しかし顔は未だに真っ赤である。

そして、再び斬乂から目をそらし下を向いてぶつぶつと恥ずかしそうに呟いた。


「というわけで私はしばらく一人になりたいんだ……。でも……私は絶対にここに戻ってくるから……その……」


「はいはい、わかってますよー」


雪が恥ずかしそうにぶつぶつと呟くと、斬乂は察した様に雪の頭を撫でる。


「ずっとここで待ってますし、浮気もしません。だから、安心して茜ちゃんの事にケリをつけてきてください」


雪はそう言われると、一瞬ポカーンとした顔をする。

それで恥ずかし半分嬉し半分に首を縦に降る。

笑って首を縦にふる。

そして再認識する。

ここが自分の帰ってくる居場所なのだと。



「あ、でもちょーと火遊びで他の女の子と遊ぶくらいは……」


「そ、それはダメだ、私が戻るまでそう言うことは我慢しろっ!」


雪が感動している中、斬乂は思い出した様に言うが、雪は慌てて言う。

斬乂はそう言われると、顔を青くし膝をつく。

神はいないのか、そう言いたげに雪を見つめる。


「な、ならせめて最後に雪ニャンと……」


「そ、そう言うことは……茜の事に踏ん切りをつけてからだと言っただろ」


何を馬鹿な事を、と言いたげに雪は言うとさらに斬乂は落ち込む。

そして開き直る様に顔をあげる。


「そんなの生殺しですー! それなら浮気しまくりですよっ! 良いんですか、雪ニャン以外の女の子と寝まくりますよー!」


「う……確かに……、私の勝手だな。なら、ちょっとだけは……浮気も許す」


雪は否定しようとするも、自分勝手すぎたかと思い渋々首を縦にふる。

そしてそんなしょんぼりする雪を見て今度は斬乂が慌てる。


「じ、冗談ですよ!? だから安心して行ってきてくださいっ!」


「だ、だよなー」


雪ははは、と笑いながら言うが、斬乂を見る目は全く信用していない。

何故だか雪はそう思った。


一緒にいてもらえる身としては文句も言えないが、斬乂に対して女の子として好きと言う恋愛感情も今では少し持ち始めている。

なれば浮気は嫉妬するし、自分だけを見て欲しいと思っている。

それに雪は中途半端は嫌いだ。

斬乂と居れば雪は絶対に友情では終わらないと思っている。

どんどん斬乂に流され、そう言うことを毎晩するのだろうと雪は思っている。

ならば、腹を決めてそう言う関係になれば良い。

即ち結婚。

一緒に居て、ずっと愛し合う存在。

それが雪の結婚のイメージであり、未来に斬乂と過ごす時になる関係だろう。

なら中途半端はダメだ。

同性だなんだ言ってる場合でもない。

前例に茜という例があるのだ。

多少は上手くいかないこともあるはずだが、同性間の恋愛もいけるはず。

雪はそう思いながら頷き、昔では考えつかなかった答えに辿り着く。

そして未だにから笑いをする斬乂を見る。


「だが、私が戻ってきたら浮気は許さんぞ」


「だからぁ、浮気なんてしませんよー……たぶん」


最後の言葉に不安は覚えるが、仕方がないと納得し頷く。


そして雪は斬乂に向かい、手の平を向ける。

斬乂は差し向けられた手に求めていることを悟り、手を差し出し雪の手を握った。

握られた雪は満足そうに微笑み、口を開く。


「その……お前といた時間は悪くなかった」


「何言ってるんですかー。戻ってきたらもっと一緒にいれるんですよー。そしたらもっとイイ時間を……うへへへ」


雪は斬乂の想像している事を察し、少し顔を赤くするが変に触れない様にその反応に無視をする。

そして言葉を続ける。


「それと色々と迷惑をかけて……」


「あぁ、良いんですよぉ。戻ってきたら身体で払ってもらうんで……ぐへへへへ」


「……」


まあ、最後くらい良いだろう。

好きに妄想させてやろう。

雪は察しの良い女だ、と自負しながら言葉を続ける。


「しばらくは別々だが、元気に過ごせよ」


「えぇ、そうですねぇ。……それで戻ってきたらもう私から離れられない様な淫乱娘に……うひっ」


「なぁ、お前さっきからわざと言ってるだろ……」


雪はついに呆れて斬乂の言動につっこんだ。

雪に言われる斬乂はにしし、と笑い冗談だと笑う。

雪はその様子を見て本当かと言いたくなった。

しかし、斬乂だから仕方がないと自己解釈をする。

その雪の呆れる様子を見て、斬乂は微笑む。



「いつでも帰ってきてくださいね。ここは貴女の帰る場所なのですから」



斬乂が微笑みながら言うと、いきなり真面目な事を言われ一瞬雪は戸惑ったが、直ぐに微笑み返した。



「あぁ、いつか……また」



雪はそう言うと自分の足に力を入れ、自分の影に潜る様に沈んでいったーー

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