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東方屍姫伝  作者: 芥
二章 その骸は魂を狩り続ける
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居場所

目が覚めると薄暗い天井だった。


雪は寝惚けた目を擦り、外を見る。

外は薄暗く、まだ現時刻は夜中の様だ。


雪は何故こんなところで寝ていたのかを思い出すのと同時に、自分は何をしていたのかを思い出す。


確か泣き疲れて斬乂に抱きしめられたまま寝てしまったのだ。

斬乂を殺そうと躍起になり、抱きしめ慰められたあの後、そのまま泣き疲れ寝てしまった。


雪はその事を思い出し、ははっと乾いた笑みを浮かべる。

慰められて泣くなんてどこのヒロインだか。

私にはそんな役は向いてないな、と思いながら横に顔を向けるとそこには見知った顔が直ぐそこにあった。

雪は自分の隣にいる存在に気づくと、一瞬頭の中が真っ白になった。

しかし、直ぐ正気に戻り身体を強張らせた。



「んー……、あっ雪ニャンおきちゃいましたぁー?」



雪の隣に並んで寝ていた存在……斬乂が目を擦りながら寝惚けた目で雪を見る。


そして雪はこの時、初めて気づいた。

隣には斬乂が寝ており、自分は全裸で斬乂も全裸である事に。

しかも、全裸の雪に全裸の斬乂が抱き枕を抱える様に雪に抱きついており、斬乂のデカイ胸や温かい体温が直に雪の肌に当たっている。


「お、おおおおおいっ! なぜ私はぜ、全裸でっ! それで抱き合ってっ!?」


雪は抱きつく斬乂を跳ね除け、全裸の身体を隠すために自分にかかっていた掛け布団に包まる。

一緒に被っていた掛け布団を雪に取られ、素っ裸の寝惚けた鬼神が一度首をかしげるが、何かを思い出した様に手を打ち微笑む。


「雪ニャンは昨夜は中々、可愛い顔してましたよ?」


雪はそう言われた途端、顔を真っ赤にする。


何をされたのだろうか?

何があったのだろうか?

てか、私は何をされて可愛い顔に……?

雪はそう思いながら眠る前の事を思い出す。

しかし、どうしてもエロい事をやった記憶は思い出せず、斬乂を殺そうとして口説かれた記憶しか思い浮かばない。


もしかして記憶が飛ぶくらいのやばいプレイでもされたのか……。

しかし身体にナニかをされた感じはしない……。

雪は不安に思いながら自分の身体を弄るが、特に変わったところはない。


「はは、そんな心配そうな顔をしないでくださいよ、冗談ですよー。えっちなことは何もしてませんから」


斬乂はそう言いながら雪の頭を撫でる。

雪はその二ヘラと笑う態度にムカつき、拳を握った。


「雪ニャンが可愛い寝顔をしていたので、抱きしめて寝たかっただけですよぉ」


「……なら、なぜ全裸だ」


可愛いと言われた事に若干照れながら斬乂を睨む雪。

雪になぜかとつっこまれた斬乂は二ヘラと笑う。


「それはー、起きた時に恥ずかしがる雪ニャンが見たく……」


「死ねぇぇぇっ! このエロ鬼神っ!」


雪は叫びながら自分の使っていた枕を斬乂の頭目掛けて投げつける。

そして斬乂は投げつけられた枕をヒョイと掴み、自分の寝ている隣にそっと置く。


「やっぱり雪ニャンを揶揄うのは楽しいですねえー。このまま本当に食べちゃいたいくらい可愛いですねー」


「う……そ、それをしたら逃げるぞ……」


雪は斬乂に言われると自分の身体に巻きつける掛け布団の上から、身を守る様に自分の身体を抱きしめる。


「冗談ですよー」


「お前が言うと……冗談には聞こえんのだ……」


雪はそう言いながら疑い半分で安心すると再び斬乂の隣に行き、斬乂に向かい合う様に寝転がる。

そして自分の身体に巻く掛け布団を斬乂にも掛ける。


一枚の布団に同衾する雪と斬乂。

斬乂は普段の雪なら決してしないその行動に呆気にとられる。

雪はその唖然とする斬乂の顔を見て、顔を赤くして言い訳をするよう口を開いた。


「……まあ、なんだ。色々迷惑かけたし……、少しくらいはお前の好きにさせてやるよ」


そう言いながら雪は顔を隠すように斬乂の胸に顔を埋め、斬乂の背中に手を回して抱きつく。

先ほどは斬乂が雪に抱きついていたが、相変わり今度は雪が斬乂に抱きついた。

いきなり抱きつかれた斬乂は呆気にとられるが、うへへと言いながらニヤつく。

そして、斬乂も雪の背中に手を回す。


「それはお姉さんとスケベェしたいって事でおっけーですかぁ?」


「ば、ばかっ! 今はただ裸で抱き合って寝る事を許可しただけだっ、調子に乗るな!」


「今はって事はいつかは良いんですねー?」


斬乂がそう言うと雪は何かを言いたそうに言葉を詰まらせるが直ぐに斬乂の胸に顔を埋める。

その光景を見て斬乂の口元が緩む。


「もー、雪ニャンは本当に可愛いですねー」


斬乂は力強く雪の頭を抱きしめる。

それにより胸に埋められた雪は苦しそうに呻くが、直ぐに大人しくなる。

そしてそのまま雪も斬乂に力強く抱きついて口を開く。


「……なぁ、鬼神」


「なんですかー」


「私は……これからどうしたら良いと思う」


抱きつく雪の腕は震えている。


雪は茜を生き返らせる事はこの時、すでに無理だと理解していた。

それは前からも思っていた。

しかし頭に響く呪怨や孤独感、愛する者の死による虚無感。

それによって雪はどんな手を使っても再び茜を生き返らせたかった。

雪はなんらかの希望を持たなければ折れてしまう程、弱っていたのだ。

だから、無理とわかっていても偽りの希望でも信じて今まで頑張ってきたのだ。


だが今回、斬乂にハッキリと無理と言われ目が覚めた。

今までひたすら殺してきて初めて自分の希望を話したのは斬乂であり、初めて否定されたのも斬乂だった。

最初は心無しか、雪も斬乂の言葉を否定した。

しかし、斬乂に叩きのめされ抱きしめられ雪の存在は肯定された。

肯定され、一人でないと言われた。

ハッキリ言って雪は斬乂に受け入れられ嬉しかった。


だが肯定されたからどうにかなる、という話でもない。


茜は生き返らない、と言う事は一様は雪は理解した。

正気に戻ったというより、雪は現実を受け入れた。

しかし、茜の事を忘れたいというわけではない。

それに頭の中に響く怨霊らの声も解決したわけではない。


雪は妖怪になってから今までずっと茜の為に生きてきたのだ。

今まで頭の中に響く呪怨は茜を生き返らせる希望を持って、無理やり意識の外にやり無いことにしていたにすぎない。

希望が無くなった今では頭の中の自分を呪う声ははっきりと聞こえる。

雪はそうした声に頭がガンガンとし、今にも不安に思う。

何十年も前から聞こえていた声だが、聞き慣れていても不安は消えない。

はっきり言ってこの声が生涯聞こえ続ける事を考えれば、絶望的に最悪だとさえ雪は思っている。


むしろ生きる希望を失い、死にたい願望だけが残った。

ただ斬乂に肯定されただけで何も解決していないのだ。



「頭から……声が消えないんだよ。私が殺してきた奴らや、私じゃない奴らに殺された怨霊どもの声が頭の中から消えないんだ……」



雪は震えながら斬乂に抱きつく。

斬乂は抱きつく雪の頭を撫で、笑顔で微笑む。

雪は撫でられたことに反応するように、顔を上げた。

そして斬乂の微笑む顔を見ると自然と震える身体が落ち着く。

頭の声は消えないが、斬乂の笑みを見ていると自然と気にならないくらい落ち着いた。



「言ったじゃないですか、私が側にいるから安心だって。怖くなったら何度もこうやって抱きしめてあげますよ」



斬乂はそう言いながら雪を抱きしめ頭を撫で続ける。

前までの情緒不安定な雪だったらここで涙を流していただろう。

しかし、雪の目からは涙は出なかった。

逆に嬉しかった。

嬉しくて微笑んだ。



妖怪になって彷徨い続けて一世紀。

ようやく自分に居場所が出来た。



雪は微笑み、斬乂に力強く抱きついて目を閉じたー























❇︎❇︎❇︎
















「あぁ、残念だったかな















同時刻、妖怪の山の中にある一本の木に一人の影があった。

それは狐の面を被り、男物の着流しを着た異風な少女であり、その少女は月夜を眺めながら残念そうにため息をついていた。


「お姐さまぁ、ごめんなさいぃ……。私が色んなところをミスっちゃったからぁ……」


少女の傍ら、空色の髪をしている少女が自信無さ気に狐の面を被る少女に頭を何度も下げていた。

その空色の髪をした少女は狐面の少女とは違い、木の上に座るのではなく、空中をふらふらと飛んでいる。

そして狐面の少女の周りを飛び回り何度も何度も頭を下げている。


「いやいや、今回はひょうは頑張っていた方さ」


狐面の少女はカラカラと笑いながら空色の髪の少女、憑と呼ばれる少女の頭を撫でる。

憑と呼ばれる少女はそう言われると、ほんとですかと言いながら嬉しそうに微笑む。


「あぁ、ほんとさ。天魔らに囲まれている所に"あれ"を登場させるのは中々の機転だったね」


「はぅ……お姐さまにそう言われると光栄ですぅ。この憑めがこれからもお姐さまの為に頑張らせてもらいますぅ」


憑と呼ばれる少女はそう言うと、薄っすらと消えて行きその場から居なくなる。

言葉通り煙の様に憑と呼ばれる少女は消える。


その様子を見て満足気に狐面の少女は微笑む。

そして、憑と呼ばれる少女が消えると同時にため息をつく。



「けど、本当に残念だった哉……。あの子なら中々、良い化け物に育ってくれると思ったのに……」



狐面の少女はそう言いながら左目だけを瞑る。

そして、男物の着流しの袖の中から一冊の冊子と、筆を取り出す。


狐面の少女は取り出した冊子を広げる。

その冊子には色々と書かれており、冊子の半分くらいのページを開き、元から書かれていた手記の下から付け加える様に書く内容を口ずさみながら筆を動かす。



「こうして餓者髑髏がしゃどくろは恋に落ち、昔の恋を忘れ幸せに暮らせたとさ、めでたしめでたし……」



狐面の少女はそう呟き、手記に書き記すと冊子を閉じて筆とともに着流しの袖にしまう。

そして再びため息をつく。



「案外、つまらない結末だった哉……」



狐面の少女はそう落胆し、月夜を眺める。

そしてもう一度ため息をついた。



あぁ、本当につまらない……



狐面の少女は再びそう呟いて、落胆のため息をついた。


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