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東方屍姫伝  作者: 芥
二章 その骸は魂を狩り続ける
10/72

監禁

何故こうなった?

少女は溜息をつく。


少女ーー、白鷺 雪は自分の今の姿を見る。

右腕にはいつも通り巻かれた包帯、しかし汚れはなく真新しいものに変えられている。

しかし、それ以外は普段の自分からは全く考えられなく、何度みても溜息を吐いてしまう。

以前は純白の白装束を着ていたが、今は膝よりも短い丈で作られた可愛らしいピンク色の和服を着せられている。

そして首には奴隷の証である鉄の首輪がつけられている。


屈辱的だ……、雪はそう思った。

しかし、これだけならまだ我慢は出来る。

コスプレしているだけ、そう思えば何とかなる。

ーーだが、



「もー、そろそろお名前教えてくださいよー」



赤髪で二本の角を生やした少女、鬼神と呼ばれる少女の千樹 斬乂が雪の頭を自分の膝の上に乗せ、ニコニコと笑いながらその頭を撫でる。

膝枕……雪は斬乂に頭を撫でられ、時に顎下を撫でられながらそれをされている。

その姿はまるで飼い主の膝に乗せられ遊ばれている子猫の様だった。


そして雪は自分の唇を噛んで思う。

何故……こうなった、と。






❇︎❇︎❇︎






話は数時間前まで戻す。


斬乂が妖怪の山に侵入をした雪をボコボコにした。


雪が妖怪の山の天狗らを百五十以上殺し、妖怪の山の長である天魔ーー、本名は夜鴉やがらす 黒羽くろはに手をかけたことにより黒羽を初め、多くの天狗らに非難されていた。

それで黒羽が今回のことに関して、雪に落とし前をつけさせようとしていると斬乂がちょっと待ったと言った。


斬乂は言う、その子は私が倒したのだから私のものだ、と。


しかし、黒羽を初め天狗らは反対した。

今回の件で多くの仲間が死んだのだ。

自分たちの手で裁きを与えると多くの者が言い出した。

だが、斬乂は譲らない。

雪の身柄は自分の者だと言い続ける。

どうしても気に入らないなら自分が罰を与えるとも言い出した。

しかし、天狗らは自分たちの手で落とし前をつけたいと言い、斬乂の言葉に反対した。


そして暫くは雪の身柄に対して、互いに譲らず言い合った。


もちろん雪は言い合うその間に逃げようとした。

だが斬乂が私の者だと言わんばかりに、雪に抱きついていたので中々逃げられない。


互いに結論が出ず、時間だけが過ぎていく。

そして斬乂が遂にしびれを切らし強硬に出る。


斬乂が突然、雪をお姫様抱っこで抱え走り出した。


当然、天狗達は斬乂の後を追う。

しかし、妖怪の中で最速の種族と言われる天狗らより速く走られ逃げられる。

そしてそのまま逃げ切り、山の麓あたりにある自分の屋敷まで雪を連れ込んだのだ。


そして斬乂が雪を自分の屋敷に連れ込むと、汚れているからと血で真っ赤に染まった白装束を無理やり脱がし、斬乂自身も服を投げ捨てて屋敷にある風呂に雪の身体を投げ込み身体を無理やり洗った。

もちろん服を脱がされる事も身体を洗われる事も雪は抵抗したが、鬼の最頂点と言われる力の前になす術もなかった。


風呂から上がると、以前着ていた白装束は血で汚れているからと捨てられ、新しくピンク色の丈の短い和服を与えられる。

雪は嫌だと言ったが、着ないなら全裸で過ごせと言われ渋々それを着た。


その後は風呂場から離れ、斬乂の寝室に連れられた。

そこで雪は鉄の首輪をつけられる。

雪がこれは何だと尋ねると、私の飼猫の証です、と言われた。

もちろん嫌だと言い雪は首輪を外そうとするが既に錠がかけられており外れない。

意外に頑丈であり壊す事も出来なさそうなので雪は渋々諦め我慢した。


そして斬乂が床に正座し、膝をポンポンと叩きながら膝枕をしてやるから来い、と言う。

雪は何で私がそんなことを、と言うと斬乂は笑顔で言う。



「わたしー、女の子が大好きなんですー。性的に……」



雪はその言葉を聞くとすぐさま走り出す。

しかし、すぐに斬乂に捕まり押し倒される。

そして言われる。



「わたしー、貴女みたいな強気な子が好きなんですよねー。性的に……」



雪は思った。

こいつやべぇ、と。



結果。

雪は渋々、斬乂の膝に頭を乗せる。

もちろん気分は最悪。

しかし、自分の貞操を守る為ならば致し方ない。

雪は溜息を吐き現状に耐える、耐え続ける。


そして今に至るーー。



「ねーねー、貴女のお名前何なんですかー」


「教えるわけないだろ……」



斬乂はニコニコと笑いながら何度も同じ事を聞くが、雪は顔を背けながら冷たく言い放つ。

別に隠す必要はないが大人しく教えてしまうと何か負けた気がするらしく、雪は斬乂に向かって何一つ教えない。


ここまで好き勝手にやられたのだ。

もう好きにはさせない、と言う変なプライドを持って雪は一向に教えない。

しかし何も教えてくれない雪を見て、斬乂は名案を思いつきニヤリと笑う。



「教えてくれないと、おねーさんがえっちな事をしちゃいますよー」



斬乂は手をわきわきとさせながらそう言うと、雪の身体に緊張が走る。


雪は先ほどの事を思い出す。

この鬼はガチモンの女だ、と。

しかし、ここで素直に言う事を聞いても癪だ。

どうせ胸を一回揉むとかその程度だろう。

雪は少しくらいなら我慢しようと覚悟を決め歯を食い縛る。



「や……やれるもんならやってみろっ……。お前なんかに触られてもなんとも思わなひゃんっ!?」



雪は強がりながらそう言うが、色っぽい声をあげた。


その声を出させた犯人はもちろん斬乂。

何をしたかと言うと雪の短い丈の和服の下から手を突っ込み、雪の秘部を撫でただけ。

だが、この時代に下着などと言う大層なものは無いので雪はノーパンである。

つまり雪は直に触られたのだ。



「お、お前どこ触ってるんだ!?」


「どこって女の子の一番デリケートな……」


「真面目に答えんなっ!?」



もう嫌だ、雪はそう思いながら泣きそうになる。

そして今になって鬼子母神に勝負を挑んだ事に後悔している。



「貴女って意外にウブなんですねー。もしかして生娘ですかー?」


「そ、それは……」



雪は昔を思い出す。

雪の一番好きな女の子が生きていた頃。

雪が一番愛していた女の子の事を。

そしてその女の子との何回か行った情事の事を。

その事を思い出して顔を少し赤くする。



「お、その顔は図星ですかー?」


「ち、ちがっ……」


「んー、余計に貴女のお名前聞きたいですねー。で、なんて名前なんですかー?」



斬乂が雪の頬を人差し指でプニプニと押しながら再び問う。

そして雪は諦めるように溜息を吐く。




「雪……、白鷺 雪だ」


「白鷺 雪……ふふ、貴女の髪の色を表すような綺麗な名前ですねー」



雪が言うと斬乂は微笑みながら雪の白い髪に触れる。

そして雪は綺麗と言われると不機嫌そうに顔を歪める。



「綺麗とか言うな……私は自分のこの白い髪が嫌いなんだ」


「えぇー、なんでなんですかー? 綺麗なのにー」


「……色々とあるんだよ」



雪にとっては白い髪は自分が人間で無くなった証の一つである。

彼女にとっては容易に受け入れられることでは無いらしい。



「むー、意味深ですねー。なら次の質問です」


「……なんだ」



雪はさらに不機嫌な顔をする。

どうせ色々とかなんですかー、みたいな事でも聞くのだろう、面倒くさいと思う。



「週何回、一人でえっちして……」


「名前の次に聞くことはそれかっ!? お前はおっさんかっ!?」



雪は斬乂の質問にドン引きしながら答える。



「いやいや、私は雪ニャンの飼い主ですよー。下の世話だけでなく発情期の管理も……」


「雪ニャン言うなっ!? それに飼い主なんかじゃ無いし、下の世話とかやらせないからなっ!! あと発情期とかないからっ!?」



完璧に猫扱いである。

ガチでこの鬼は私を飼うつもりか、と雪は不安になる。

早く目を盗んで逃げなければ貞操がやばいと……。



「もー、雪ニャンをからかうのは楽しいですねー」



斬乂はそう言いながら雪の頭を撫でる。

完全に雪で遊んでいる。

そして雪は歯軋りを立てながら斬乂を睨み、今夜枕元に気をつけろよ、と心の中でつぶやく。



「あっ、あとあれも気になりますねー。雪ニャンの能力」



斬乂は突然、思い出したように声を上げる。

いきなり真面目な質問が来た事に雪は驚き、雪ニャンと呼ばれた事はスルーする。



「あ、教えないと次は……」


「言うから私の足をなぞるな……」



斬乂が雪の足に手を沿わせながら着物の中に手を入れようとするが、雪はその手をピシャリと叩き、諦めたようにため息を吐く。

素直に言う事を聞く雪を見る斬乂はつまらなそうに口を尖らして、再び雪の頭の上に手を置く。

そして雪が呆れながら口を開く。




「私の能力は【魂を狩り盗る程度の能力】だ」



雪はそう言いながら自分の右腕の包帯を取り、骨がむき出しになっている右腕を見せ、包帯の下に隠されていた右手を開いたり閉じたりする。

斬乂はと言うと雪の能力の名を聞くと、首をかしげる。



「ほぇー、魂を刈り取っちゃうんですか。死神みたいな能力ですねー」


「言っておくが私は死神なんかじゃ無い」


「知ってますよー。こんな可愛い子が死神なんて物騒なものなわけ無いじゃ無いですかー」



斬乂が雪の頬を撫でながら言う。

そして雪は可愛いと言われることに顔を顰める。



「で、どんな能力なんですかー?」


「……自分の近くで死んだ魂を狩り盗る能力だ」


「もー、そんな言い方じゃわかりませんよー」


「ひゃんっ!?」



斬乂は頰を膨らませながら先ほどと同じ様に雪の下半身を触る。

触られた雪は顔を赤らめ身を縮め、憎そうに舌を打つ。



「……簡単に言うと私の近くで死んだ奴の死体を操る事ができるんだよ」


「あー、だからあんな事ができたんですねー」



斬乂は数時間前の黒羽の屋敷の前で見た地獄絵図を思い出し頷く。

そして同時に思う。

雪の能力がその程度のものでは無いと。



「でー、出来ることはそれだけじゃ無いはずですよー? 雷とか氷とか操ったり、影を使っての移動はなんなんですかー?」


「あれは……ただ文字通り能力を持った妖怪の心臓たましいを狩り盗って私のモノにしたんだ」



雪はそう言いながら右手の手の平を広げ、小さな電流を走らせる。

そして雪は続いていう。


この能力でありとあらゆる妖怪を殺してきて、能力だけでなく殺した妖怪の妖力を奪うこともできる。

ただし条件として心臓を抜き取って殺さないといけないし、その抜き取った心臓を食べないといけないと。



「だから、私は天魔とお前の心臓が欲しかったのだ。なのにーー」



雪は再びいまの自分の姿を見てため息を吐く。

殺しにきた結果、殺そうとした相手に膝枕をされ、いい様に扱われているのだ。

屈辱以外のなんでも無い。

しかし、肝心の斬乂は雪のその態度を見てもなんとも思っていないのかニコニコと笑い、雪の頭を撫でるだけ。

雪は今日何度目かのため息をもういちど吐く。



「なるほどー。で、私と黒羽ちゃんを殺してどうしたかったんですか?」



斬乂は首を傾げ、雪を見つめる。

つまり斬乂は自分と黒羽を殺して、どうなりたかったのかを尋ねる。

自分と黒羽を殺そうとしていたのだ、能力と妖力を奪ってなにか目的があったに違い無い、斬乂はそう思って雪に尋ねた。



「……ただ強くなりたかっただけだ」


「あ、それ嘘ですねー。私から見て雪ニャンはそんな野心家に見えません」



そう言われると雪は言葉を詰まらせる。

その態度を見て図星ですね、と斬乂は微笑む。

そして斬乂はうーんと唸った後に、思いついた様に手をうった。



「ずばりあの女の子のためですかー?」



斬乂がそう言うと雪の身体が強張る。

そんな雪を見て斬乂は図星ですね、と先ほどと同じ様に言う。


あの女の子。

斬乂が言うあの子とは雪の影から出てきて、天魔……黒羽に雪の代わりに叩かれた茜のことだろう。

雪は斬乂に言われると顔をそらす。



「お前には関係無いだろ……」


「関係大有りですねー。私は雪ニャンの飼い主ですよー?」



斬乂は雪の首につけられた首輪に触れ微笑みながら言う。

その様子を見て、雪は私はお前のペットでは無いという怨ましげな顔をしながら口を開く。



「茜を……生き返らすためだ」



雪はそう言うと、虚ろな目をした白装束を着た少女……茜が少し離れたところにある箪笥の影から出てくる。

そして雪の近くに近づき、雪の隣にちょこんと座る。



「へー、彼女は茜ちゃんって言うんですかー」


「言っとくが指一本触れるなよ……。触れたら今度こそ殺すからな」


「そんな怖い顔しないでくださいよー。変な事は今のところ雪ニャンがいるからしませんよー」


「私が見ていなかったらするのか……」


「いえ、雪ニャンに変な事をするので茜ちゃんには何もしないって言うことですよー?」



斬乂がそう言うと雪は斬乂の膝から離れ逃げようとする。

だが、すぐに頭を掴まれ斬乂の膝の上に頭を戻される。



「わ、私にも何もするなっ!? そ、それに今は……茜が見てるんだ……。そ……そういうところを茜の前で見られたら……その……」


「ははーん、雪ニャンは茜ちゃんにほの字なんですねー」


「う、五月蝿いっ!!」



雪はペシリと斬乂の膝を叩き、黙って座っている茜に視線を向ける。

彼女は虚ろな目をしながらじっと雪の方を見つめているだけだ。

その様子を見て、斬乂は言う。



「けど、見るからに彼女もう死んでますよー。瞳孔開いてますし、息もありません。もしかして雪ニャンは死体に惚れちゃう性癖なんですかー?」


「違うっ! 茜は生き返るんだっ!」



雪はそう言いながら頭を撫でる斬乂の手を払い、斬乂の膝の上から離れ茜の頭を胸元に寄せ抱きつく。

抱きつかれても茜は指一本動かさず、ただ座っているだけだった。

それはまるで動かない人形の様であった。

その様子を見て斬乂は首を傾げる。



「いやでもー、どうやって……」


「私が妖怪を殺しまくって力を奪えばいい……、そうすれば私の妖力も上がって……」


「でも人は一度死んでも生き返りませんよ? 彼女、見るからに人間でしょう?」



怒鳴りつける様に言う雪に対し、斬乂は茜の様子を見ながら冷静に言い放つ。



「そうだ、茜は人間だ! だけど茜の魂は私の中にあるっ! だって私はそう言う妖怪だからっ!!」


「貴女は死体を操る妖怪なんでしょう? 決して人を生き返らす妖怪では無いはずです」


「……っ」



斬乂の言うことに言葉を詰まらせる。

雪は言われると茜の目を見る。

虚ろな目をした彼女の目を……。



「違うっ……生き返るんだ……」


「貴女のその根拠は何なんですか?」



雪はそう言われると茜を強く抱きしめる。

そして目に涙を浮かべ、昔を思い出しながら噤む。




❇︎❇︎❇︎



かつて寺を出て、旅に出た自分を思い出す。

そして茜を殺されたことで妖怪に復讐しようと歩き回った自分を。


最初はボコボコにやられた。

そして夜になり眠りにつくたびに涙を流す。

寂しい辛い、妖怪になった事で何故か首を切られても死ねなくなった自分を呪いながら眠る日々を。

どれだけ首をもがれても頭が潰されても死ねない自分を不気味に思いながら眠る夜を。

どんなに妖怪に立ち向かっても返り討ちにあう、自分の弱さを……。


そんな中、この頃は影の能力を持っておらず影に入れずに、人を一人いれられる籠の中にいれて持ち運んでいた茜が勝手に動き出し、自分を慰める様に頭を撫でてくれた、抱きしめてくれた。

そして茜は虚ろな目をしたまま、涙を流す自分の目を拭ってくれた。

もちろん彼女は死体の身なので話すことは出来ない。

だが、死体なはずなのに動き、雪の事を慰めた。

雪は思った。


もしかして茜の魂は私の中にあるのでは?


雪はある日のことを思い出す。

とある知性のある妖怪が能力がなんちゃらと言っていたことを。

なんでも妖怪には個人の能力がそれぞれあるとか無いとか。

雪がそれを思い出した時、頭の中に【魂を狩り盗る程度の能力】という言葉が思い浮かんだ。

この時、雪は初めて自分の能力の存在を自覚した。


そして同時に確信する。

茜は自分の近くで死んだのだ。

きっとその時に能力で自分の中に……自分の心の中に茜の魂が入ったに違い無いと。

そして思う。


自分がこの能力を上手く使って、茜の魂を今持っている茜の死体に元に戻せば茜は生き返るのでは無いかと。

ならもっと自分の能力を知らなければいけない。


雪はそう思い妖怪にさらに挑み続けた。

もちろん最初は能力の使い方がてんでわからず、返り討ちにあう。

だが、茜の為だと思い挑み続ける。

そしていつしか自分の能力の使い方、自分の妖怪としての戦い方を理解した。


どうやら自分は死ねないらしい。

そう言う妖怪からなのか、死ねない。

死にたくても、死ねない。

首をもがれてもくっつければ戻るし、潰れてしまってもトカゲの様にしばらくしたら新しく生えてくる。

それを利用して、無残に殺された様に見せかけ、相手を油断させて不意打ちで殺したりした。

おかげで沢山殺せ、沢山の妖怪の力を能力で奪った。


しかし、いつになっても茜は蘇らない。

自分の能力は完璧に理解したはずなのに。


そして思う。

自分の妖力が足りないからだと。

人を一人生き返らせるのには膨大な力が必要なのだと理解する。


そしてそれからも雪は茜の仇を取るついでに妖怪を殺し続け、妖怪の力を能力で奪い続けたーー



❇︎❇︎❇︎


雪は自身の過去をかい摘んで斬乂に話した。

普段の雪ならば話す必要が無いと言い、何も言わないが何故かいってしまった。

斬乂に話してしまった。



「……なるほど、それが雪ニャンが妖怪を殺す理由で、茜ちゃんを生き返らす根拠なんですかー」


「……そうだ、私は必ず茜を生き返らす」



雪は目に涙を浮かべ、茜のうなじに顔を埋める。

その様子を見て、斬乂は考える。


茜が生き返る。

それはたぶん雪の妄想だ。

人は生き返らないし、生き返らせれない。

今の話を聞いてる限り、雪はただ弱っているところを無意識に茜の死体を操り、慰めさせている様にしか思えない。


しかし、それを雪に伝えてしまってはいけない気がした。

おそらく彼女は茜を生き返らせることを目標に今まで生きてきたのだろう。

曰く、彼女は元人間だったらしい。

それも成人していない少女だ。

そんな彼女にそれは貴女の妄想で彼女は生き返らない、と伝えてしまえば長年それを理由に生きてきた少女の心が折れてしまうかもしれない。

もしかして雪は強く否定するかもしれないが今の彼女の姿を見るとそれは無いと斬乂はすぐに思えた。



「茜はこんな状態になっても私を……抱きしめてくれたんだ……涙を拭ってくれたんだ。生き返るに決まっている……。茜の心はまだ中にあるはずなんだ……私が茜の魂を戻してあげれば……」



雪は涙を流しながら、抱きしめる茜の死体に向かってブツブツと呟く。

そんな様子を見て斬乂はまいってしまう。


明らかに彼女は心が壊れている。

本人は自覚していないが、完全に現実が見えていない。

しかもちょっと茜が生き返らないのでは、と言うだけでこの有様だ。


さてどうするか、斬乂は自分の顎を撫で考える。

これがただ他人の能力を奪い力を手に入れ最強になるんだー、という単純な理由で自分に挑んできて負けたのならやることは簡単だった。

斬乂自身がありとあらゆる手を使って調教し自分無しでは生きられないほどの淫乱娘にして飼い続ける、斬乂は今の話を聞く前までそう考えていた。

だが今の少女を見るにそんな方法はダメだと思えた。

人として……いや人では無いが何故かダメだと思えた。


彼女は……雪は心が弱い子だ。

無意識に彼女を操り、生き返らす為という大義を立て、彼女の為に殺すと言う意味の無い目標を立てる。

冷静に考えても、聞く限り雪の能力は人の魂を狩るだけのものだ。

魂を操る能力では無いし、人の生死を操るものでも無い。

彼女が生き返らないのは妖力のせいでもなんでも無いのだ。

彼女は冷静に考えればわかることが理解できずに今まで意味の無い目標を立て生きてきたのだ。

今ここで貴女の能力で茜は生き返らないと言ったら、それこそ彼女の心は完璧に折れてしまう。


はてどうしたものか、と斬乂は完全にまいる。



「なぁ、頼むよ……。お前の命はもう狙わないから私を解放してくれ……。私は一刻も早く、茜を生きかえらして……やりたいんだ……」



雪が涙を流し顔をくしゃくしゃにして、斬乂を見つめる。

その雪の顔は数時間前まで大勢の天狗に囲まれ勇ましく挑発していた人物とは全然違う。

ただの弱々しい少女、斬乂の目にはそう見えた。


たった少し言い詰めただけで数分の間にこんな性格が変わるなんて斬乂は思ってもいなかった。

それほど彼女の心は不安定なのだろう。


斬乂は額を押さえ今後、雪をどうするかを悩む。


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