事故
本日は晴天
空は青く、雲は白い。
陽射しは良く、気分は爽やか。
本日は七月二十一日
太陽は暑く、蝉の鳴き声が五月蝿い。
日当たりが強く、ベタつく汗が気持ち悪い。
そしてーー
「んー、明日から夏休みだねぇ。ね、ミコトちゃん」
空を眺め、眩しく輝く太陽に目を細めながら視線を向けていると、隣を歩く我が友人がそう声をかけてきた。
そう、明日から私こと桜井 命の通う高校では夏休みが始まる。
そして今日は学校の終業式があり、授業がないおかげでこうして日が高いうちに帰宅路につけているのだ。
私はそうだね、と隣に歩く友人の柳 飛鳥に呟くとニコニコと笑いながら私の腕に抱きついてきた。
「おいおい、飛鳥……。暑いんだからそんなくっつかないでくれないか?」
私はため息をつき抱きつかれた方の腕を軽く振って、飛鳥を振り払おうとする。
確か今日の気温は今年一番の猛暑とか朝のニュースでやっていた気がする。
なのにこんな暑い中、ベッタリとくっつかれると暑くてしょうがない。
「いいじゃん減るもんじゃないしー」
いやいや、減るとかそんなんじゃなくて飛鳥のおっきなパイ、略しておっパイが腕に押し付けられてイラッてくるんだよ。そして飛鳥のと自分の胸とを比べると、まな板と大きな果実ってくらい違ってムカッてするんだよ。
揉んでやろうかこんちきしょー。
まあ冗談は置いておこう。
彼女とは幼い時からの仲でいわゆる幼馴染みというやつだ。幼稚園から始まり小学校中学校と一緒に通ってきて、クラスなどは別になったりしていたが、今でも仲睦まじく友達として過ごしてきている。
親同士も仲のいいお陰か小学生頃までは家族ぐるみで遠出をし泊まりに行ったものだ。中学生になる頃には私と飛鳥の二人っきりで某夢の国やユニバーでアメージングなテーマパークにも泊まりに行ったりしている程、私と飛鳥は仲が良い。
「ねぇ、ミコトちゃん?」
「なんだ?」
「あ……明日から夏休みだね」
飛鳥がチラチラと私の顔を伺いながら再び、先程と同じことを言ってきた。
「いや、知ってるけど……なんで二回言ったの」
「えっ……あ、そのぉ……」
下の方を見ながら飛鳥は言いづらそうに、なにかをぶつぶつと唱えている。
いったい飛鳥はなにを言いたいのだろうか?
私と飛鳥の仲だ。
今ごろ言いづらいことなんてないはずだが……。
私が飛鳥の不審な態度に疑問を持っていると、なにかを決心した様で私の腕に更に力強く抱きついてきた。
「え、えっとね明日からお父さんとお母さんが青森のおばあちゃんの家に行くんだけどね……」
「へぇ、飛鳥は行かないの?」
「十日間くらい泊まって来るみたいだし、ミコトちゃんと夏祭りの約束してたから」
そう言えば明後日くらいにある近所の小さな夏祭りに行こうって約束してたっけ、と半分忘れている状態で私は頷く。
「そ、それでね。私しばらく家で一人で留守番することになって……」
「そりゃあ大変だね」
高校生と言ってもまだ子供だ。
一日二日ならなんとかなるかもしないが、十日となると家事とか大変そうだ。
まあ、夏休みで時間を持て余してるからそこまでは忙しくはならないかもしれないが、このご時世だ、高校生の女の子が一人っきりで十日ほど誰も居ない家で留守番は危ないのではないだろうか。
飛鳥は男子に告られまくるほど可愛いから、変な男とかが飛鳥が一人っきりなのを良いことに、家まで来て襲ってきたら大変だ。
てか、正気の沙汰ではない。
なにを考えているんだ飛鳥のご両親は。
私の可愛い飛鳥がキズモノにでもされたらどうしてくれるんだか。
「でしょ!!」
脳内で飛鳥の心配をしていると、飛鳥が大声をあげて何かを訴えかける様に答えた。
そして耳元で大声で叫ばれたから私の耳は少しキーンとする。
「で、でさぁ、よかったらしばらく家に泊まりに来てくれないかなぁって」
「飛鳥の家に?」
そう尋ねると飛鳥は静かに首を縦にふる。
なるほど。まあ、夏休みは一日暇で、家に居ても寂しいだけだしな。
夜とかも食卓で一人メシってのも寂しいし。
「なら私の家に泊まりに来ないか?」
「え、あ、そ、それはそのぉ……」
飛鳥は下を向きながらまたなにかぶつぶつと言い始めた。
なんで迷うのだろうか?
私の家には親がいるのだ。
それも知らぬ仲ではない昔からの付き合いがある。
留守番中の大人が居ない家で過ごすよりは良いはずなのだが。
「ほ、ほら、夜遅くまで起きておきたいし……、それに声とか響いちゃったら恥ずかしいし……」
飛鳥は恥ずかしそうに言い、後半辺りはギリギリ聞こえるくらいの小声で呟いた。
なるほど。夜遅くまでガールズトークが飛鳥はしたいのか。
だが、 なぜ響いて恥ずかしいのだ?
普通は騒いで迷惑をかけるとかではないのだろうか。
まあ、でも良く考えてみると十日も家を空けるのは衛生的にも安全的にもあまり良くないか。
「まあ、夜遅くまでは起きときたいね。それに十日も飛鳥の家を留守にするのはあんまよくないし」
「ほ、ほんと!? やったー」
私がうんうんと頷いていると飛鳥は声をあげて喜んだ。
そんなに私とのお泊りが楽しみか。
友達冥利に尽きるな、うん。
「……な、ならいっぱいシようね」
「あぁ、いっぱい(話を)しよう」
飛鳥が顔を少し紅らめながら言ってきたので、私は笑顔で答える。
互いに積もる話があるのだろう。
高校に入学して数ヶ月経ったし、色々と思うことがあるのかもしれない。
もしかしたら恋とかガチなガールズトークをするかもしれないが、飛鳥は可愛いからモテる。当たり前の様に高校に入学してから何回か告白されたのだろう。ひょっとしたらその相談かもしれない。
それに誰もいない家で二人っきりだ。
親どころか誰もいない家で十日間ほど過ごすなんてちょっとした同居だな。
家事とか役割分担すると面白いかもしれない。
まあ、私は家事とかそういうのはからっきしダメだが。
「……うへ、ど、どうしよう、ぱ、パンツ新しいの買わないと……それに女の子同士ならそういう道具っているのかな……ネットで見とかないと……」
飛鳥は飛鳥で私の腕に抱きつきながら、私に聞こえないくらいの小声でなにかをぶつぶつと言っている。
多分、私と一緒で泊まりのことでも考えているのだろう。
よく考えたら泊まりってことは四六時中一緒にいるということだ。
幼馴染みの飛鳥と言え、十日間もずっと一緒にいるということは初めてかもしれない。
ふふ、また飛鳥と私の仲が良くなってしまうではないか。
まったく、明日が楽しみだ。
ーーガガッ
私が笑みを浮かべながら明日からのことを考えていると、後方から何かが勢い良く擦れる音がした。
私が何事かと後ろを振り向くと同時に私の意識は途切れたーー




