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晴れた日

作者: みるく

 よく晴れた朝。私は朝が好きだ。


 仮に寝ていなくても、夜明けは元気なのだ。


 しかも今日は暖かくなる。寒かった昨日、どれだけ今日を待ちわびたことか。


 起き上がり、食欲はないが卵ご飯を食べる。白身を入れると噛まなくても食べられる。噛んだ方が太らないんだけどなあと思いながら食器を片付ける。


 顔を洗い、日焼け止めを塗り、着替えようとクローゼットに手を掛けると良人が呻いた。それもその筈、彼はクローゼットの前に布団を敷いて寝ているのだ。


 良人の良いところは、私が起きても父のように

「何時だと思っているんだ」

なんてドスのきいた声で言わないところだ。こんなことを言っても父も怒らないだろう。両親よりも良人の方が私を大切にしていると、両親が認めたのだ。私は愛情の比較などしないが。


 おはようと眠そうに言って、着替える私に

「準備万端だねえ」

という良人。本当に「良い人」だ。

 母が「近い」と曰った病院に行くために良人はタクシーを呼んでくれて、私は午前八時の混んだ道を経て大学病院にいた。


 最近また大学病院の世話になっている。若干厄介なものを抱えているので仕方ない。


 たまに、明らかに年下と思われる医師がいる。それもそのはず、ストレートで大学を卒業して初期研修を終えていれば、私の計算が正しければとっくにデビューしている。計算しなくても、同級生は立派な医師だ。しかし数十年間年上の医師を見続けたせいか、「高校球児がもう年下!」とかより可愛らしいお嬢さんが白衣を着て診察していることに驚く。


 トントン、と腹をたたかれると激痛が走った。


 レントゲンが取れないので血液検査をすると言われたが、血液検査って色んなことが分かるんだなあと思う。先日肝炎を疑われた時も血液検査だった。しかも本日中に結果が出るらしい。


 血液を採られた後、一時間かかるそうなので外に出た。


 暖かい春の日である。そもそも私は五月は毎年絶好調だ。つまり五月並みに暖かい今日は、私が活動する適温だ。


 意気揚々と、土地勘のある道を歩いた。


 七年前、私は新生活に胸膨らませ、この土地に来た。


 同期にも先輩にも恵まれた。ただ何故か私は会社を休みがちで、病院に行くたびに五月病だと言われ、大学病院でレントゲンを撮るとガスが溜まっているだけで、ズルズルと明確な診断書もないまま休みつづけて退職した。本当にどうしようもない奴だ私はと思っていたら、思いがけず鬱という診断が下った。労災にしそびれて、それなりに大きな金を貰いそびれたなと私は思った。


 そこから職も住まいも何回か変えたが、結局私はこの大学病院から歩いて帰れる土地に住んでいる。それなりにこの辺が気に入っているし、そもそも家賃がそこまで高くない。


 とある商業施設に着いた。目当ては住まいの近くにないカフェのメニューだ。クーポンが送られてきて、行きたくなって、いやいや追加メニュー無料なんて所詮金を使わせるためだと思ってみたものの、やっぱりいつも行けるわけではないし、美味しい物ならと思い、毎回高いなあと思う五百円を出した。それは確かに美味しかったのだが、きっと八十円のコロッケが美味しくても感動は五十歩百歩である。


 それを飲みながら病院に戻った。可愛らしいお嬢さん医師はご丁寧に全ての数値の説明をしてくれて、結果から言うと至って健康であった。

 血液検査では分からない胃炎と仮定すると胃薬は妊婦が飲んでも良いらしく、それで良くなるのなら我慢せずに家庭で服用すれば長いこと痛みに苦しむことはなかったのだと少し笑える。


 可愛らしい女医に私は笑顔で礼を言い、診察室を出た。


 幾ら取られるのか分からないが、私は外に出てまた商業施設を歩くのが楽しみなのだ。

 何せ、昨日は気持ち良く起きたつもりが電車の中で気分が悪くなり、這々の体で帰ったのだから。


 楽しいこと、見つけよう。仮に午後の予定がまた病院巡りでも。

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