魅惑のハニートラップ その2
《ミザール ギルド会館 地下室》
表向きは商業組合であるこの建屋だが、その裏では対魔導騎士団を掲げる、技術師で構成された一種の圧両団体の本部であった。
いわば、プロ市民。
聞こえは悪いが、彼らの存在によりミザールにおける商人の利権は保持されている。とりわけ、ドゥーベ海付近の経済都市は物流の拠点として欠かすことはできない。ナルムーン議会はより多くの歳入を図るため、企業や商人を奨励し法人税を大幅に免除するなど特例措置を成している。
その中でも、銀線細工技師は戦争特需もあり、かなりの特権を約束されていた。
銀線細工は僅かな魔力で魔導師と対等にやり合える優れもの。その万能性に惚れ込んだ国と軍は、他国と競い合うように銀線細工産業を奨励してきたのだ。
それ故、このミザール銀線細工ギルドは、自治体財政への強い発言権を持っていた。
エステル達はギリーに道案内され、ギルド会館の隠し部屋に辿り着いた。暗い地下洞窟の先に舞っていたのは、ギリー秘蔵の最重要コレクションと灰となった彼の店舗、ギャレットよりも立派な銀線細工用の工房であった。そこでギャレットでの事件を聞きつけた、信頼できる職人仲間が、まだかまだかと彼らの到着を待ちわびていたのである。
すぐさま手当を受けるケント。エステルとキエルも簡単な手当てを受け、安堵の余り体の底から息を吐き出した。
「また地下室ですか……これじゃ、兎じゃなくてモグラです!」
「我慢しろ、エステル。外に出て、あの『キエェェー!』うるさい変態ピエロに遭遇したら、一貫の終わりだ」
キエルの言葉に、先の戦闘を思いだし、エステルは震えあがった。
「あいつ本当にぶっ飛ばしたいです! 何なんですか? あのピエロは……まるでサイボーグでしたよ!」
「――ありゃ、改造人間だ。亡霊なる機兵として生きるための」
ギャレットよりも清潔感のある、レンガ造りの工房。その奥の個人倉庫からギリーは純銀の塊を台車で運び出し、机の脇に装備された簡易リフトの上に転がした。
エステルは黙々と何かを始めようとしているギリーを見て、
「亡霊なる機兵としてとは……一体どういうことですか?」
すると彼はリフトアップのレバーを引き、銀の塊を作業机の上へと置いた。
「ヤツは元々魔導経典にも載ってない弱小モブ、ノーネームのファントム・ギャングだ。本来なら魔導騎士団団長なんて夢のまた夢だのご身分だが……禁断の技術が野郎に段違いの力を与え、その座に着かせた」
「……それが改造手術ってことですか?」
「そうだ。ナルムーンが開発した亡霊なる機兵強化手術。被験者が悉く死亡している問題実験ではあったが……野郎はその賭けに勝った。悪魔の実験を乗り越えた、輝かしき第一号の成功体こそ、あのパウロ・セルヴィーなんだよ」
卓上にある大きな鍋。その中に純銀を入れ込むとギリーはマッチに火を点け、銀の入った鍋を熱した。
魔法の炎に熱された銀は淡い光を放ち、とろみのある液状と化した。生まれ得た肉体をこの鋼に変えてでも勝ちたいと願う――魔導騎士団内部の見えない抗争に、エステルは大陸に渦巻く狂気を感じた。
「だが、良いことばかりじゃない。代償として、パウロは生身で魔法が使えなくなってしまった。属性である木星型魔法が使えるのは天装後のみ。さっきのは全部、銀線細工だろう。おそらく、もう、体の半分以上が機械に浸食されてるはずだ」
ジュワっと熱されたトンカチが、水に冷やされ音を立てる。
一杯喰わされたと、キエルは自慢のドレッドヘアを書き上げた。
「そんなからくりだったとは……クッソ。単体で来たあのタイミングこそ、最大のチャンスだったんじゃねぇか!」
「だとしても……あの状況下で天装されたら、ひとたまりもありません。ケントの傷が治らない今、じっくり策を練った上でやり合わないと勝機はないでしょう」
徐に見つめていたメジャーバトンを、エステルはギュッと握りしめていた。悔しいのは自分だけではない。彼女の様子に、些か苛立っていた心を落ち着かせようと、キエルは努めた。
「……ところでギリー、さっきから何作って――」
ガンッ!
魂の一撃の音。ギリーは熱い鉄を彼らの目前で鍛え始めた。彼がハンマーを振り下ろせば、朱い火花が星の如く弾む。
エステルがそっと、その手元を覗き込むと、鍛えられていたのは小さな機械の歯車であった。
「何ですか、これ?」
「秘密兵器」
「はっ――」
また、強烈な一撃が鉄の歯車を鍛える。鼓膜を貫く鍛冶の音に、エステルは耳を抑えた。
するとその時、熱く熱された鉄の歯車が、ぼんやりと青白い光を灯す。
馴染みのあるその光に、エステルは目を丸くしてギリーに問うた。
「天体防衛――!? この光、天体防衛の光ですか!?」
トンカチラッシュの中、エステルは音に負けずに叫んだ。その回答にサングラス越しのギリーの表情がニヤリと笑う。
「さすが、サンズの問題児!」
「誰が問題児ですか!?」
「これをよく見ろ」
ギリーはさっと手元を止め、ハサミで撮んだ歯車を、冷水に突っ込んだ。水が荒々しく飛沫立つと、彼はそれをエステルにハサミごとエステルに握らせる。
彼女がじっと目を凝らすと、歯車には恐ろしいほど小さく洗練された文字で、魔法式が刻まれていた。
「これは……!? すごい! 天体防衛の魔法式じゃないですか!」
「俺がトンカチでぶん殴ったから発動したんだ。これを繰り返すと、短時間の使い捨てだが、魔導師のやる防御魔法を人工的に作り出す装置ができる。ポケットサイズだから装備は楽だし、あとは得物自体に仕込むことだって可能だぞ」
「へぇ……!」
「汎用性の高さから、すでにベテルギウス魔導騎士団で魔導師、非魔導師に投入済の技術だ。本来極秘扱いシロモノなんだか……俺は人の業を盗むのだけは得意でよ!」
この鍛冶屋のデブにいは頭が上がらない。エステルは感動を露わにしたまま、歯車を興味深げに見に来たキエルに手渡した。
「なるほど……これがキエルの銀線細工にも施されてるってわけですか! 通りで常人よりもタフな戦闘が――」
「いや、お金ないから止めといたの。いつも気合で痛いのはカバーしてる」
「――ギリーッ! 私のポケットマネーを出します! 即刻、キエルの左腕全部作り変えてください、今すぐにッ!」
悲しげなお財布事情のチンピラを背に、盗賊団の頭領はメイド服のポケットからクレジットカードを取り出し、ギリーに見せつけた。
腹立つことにそれは――チタン製のブラックカードである。
輝くキエルの表情と影を濃くするギリーの顔、明暗ははっきり分かれた――
「その代わり、お誕生日もクリスマスもなしですからね!」
「マジっすか、エステルさん!? ごっつぁんです!」
「――その前にそっちの魔法道具はポケットに入れるなと、お巡りさんに言われなかったのか! この金持ちめッ!!」
大人のプライドは粉砕だ。鍛冶屋にも作り出せない、と言うか審査対象にすらならない、ある意味最強の魔法アイテム。旅客機だってさっと買えてしまう、上限なしの夢のカードなのだ。その引き落とし口座は名家ノーウィック家なのか、はたまた……さまざまなパトロン事情に憶測が彼の脳裏を駆け巡る。
すこぶるモチベーションを欠いたギリーの背後に足音が近づく。とても小さな足音。それは地下工房へと降りてきた彼の息子、キャウであった。
「親父ーッ! ケントが降りて来るよ! 今、お医者さんと一緒にくるって!」
「手当てが終わったようだな……エステル」
心苦しさを隠したキエルの顔に、彼女は頷いた。
「わかってます。本来なら回復してもおかしくないはずが……あの黒い亡霊なる機兵の魔力がそれを阻んでいる。今のケントを前線に立たせるには危険過ぎます」
「加えて、奴らは影火の発動条件を回避した攻撃を見せた……魔導騎士団である以上、ミザールの連中がそれを知らないとは考えにくい、か」
キエルは拳で掌を殴った。
「情けない話です……勝つためにはやはり魔導経典の力がなくては叶いません。バニーちゃんがいれくれたらどんなに楽か……」
悲観にくれる彼らの言葉を耳にしながら、ギリーは些か楽しそうにケントの到着を待つ、キャウに視線を戻す。すると息子の腕に注目した。
「キャウ……その腕時計、どうしたんだ?」
すると、彼はしてやったりと笑って、
「ああ、これ? ケントがね、さっきの懺悔の品だって、会館のガチャポン一回奢ってくれたんだ! そうしたら、『魔獣ゲッチュウ☆』の召喚ウォッチが当たったんだよ!」
目をキラキラにして、父親に時計を見せるキャウ。
何だ、やっぱり子供じゃないか――と、捻くれたと言えど、キャウはまだ9歳の少年なのだ。強がりを言っても、そう簡単に大好きだったアニメを離れられるわけない。
「よかったですね~キャウ。お姉ちゃんもそれ、欲しいですぅ」
「でしょ? でもね、エステル、これ凄いんだ! 何たって、本当に魔獣を召喚しちゃったんだから!」
「ん? 召喚?」
首をかしげる大人と少女に、キャウは得意げに鼻息を吐く。すると、どこから持ってきたのか、厳つい鎖を引っ張り、階段の陰に潜んでいたそれを吊し上げた。
「じゃーんッ! 魔獣だよ! アニメのとちょっと違うけど、きっと隠しキャラかなんかだよね?」
そこにいたのは――確かに魔獣。鋼鉄の首輪を嵌められ、長い耳を「取ったどー!」的に握られた、哀れなピンク色の寸胴兎である。無邪気な残酷さに、兎はその大きな目をウルウルとさせて、キエルとエステルを見ていた。
そのどこかで見たことある、ピンクの毛玉に彼女達は凍り付いた――
「ケントの部屋の前でモゾモゾしてたのをひっ捕らえたんだよ!」
「――バニーちゃァァァァん!? 何でここにいるんですか!?」
驚愕の余り、エステルは目玉と鼻の穴を全開にしてそう吠えた。その気迫にウキウキモードだったキャウは、バニーにすがるようにたじろいだ。
願ってもない奇跡だ。ヴァルムドーレ追討の際、あれだけ自分達に力を貸してくれた魔導経典が嬉しいことに戻ってきてくれたのだ。
他ならぬ、世界の危機を感じて。
「え、これエステル達の兎なの?」
「キャウ、ごめんな? こいつはサンズの教皇から借りてる大事な精霊なんだ。だから、放してもらえるよな?」
慎重に説得に入るキエルに、キャウは酷くがっかりした表情を見せた。
「なーんだ……そう言うことか。ごめんなぁ、追い回したりして」
子供の割に理解は早かった。キャウはバニーの首輪を外し、彼女を自由にしてやった。「ムキュ、ムッキュー!」とバニーは全身で喜びを彼に伝えると真っ先にエステルの元へ。
「会いに来てくれたんですね! バニーちゃ――」
「ウギュッ!」
――邪魔だ、赤毛娘!
ピンクの毛玉は非情だった。非情にも感慨を込めて差し出された両手を払い、盛大に赤毛娘の頭を踏みつけ大ジャンプ――エステルの心に多大な嫌悪感だけを残して、我が道を進んだ。
「ウキュ~!」
癪に障るメス兎の甘い声。能面のような顔でそちらを振り向けば、兎的格付けランク上位のイケメン、キエルの胸で甘え転げている姿が飛び込んだ。
「バニー! 嬉しいぜ、また俺達を助けに来てくれたのか?」
「ウキュ、ウッキュ!」
「……」
イチャイチャ――いや、和やかなムードの中、メス同士の戦いに敗れたエステルから黒いオーラが立つ。
そんな女の戦いに幼きキャウは顔を真っ青にしていた。
「パパ……ペットだから仲がいいはずだよね? なんでエステル怒ってるの!?」
「キャウ、女と言うものはな……諍いごとが大好物なんだ。いずれわかる日が来るさ」
見えてはいけないものを見てしまったと、キャウはハラハラしながらギリーの後ろで争いの火種を見守った。
その時、
「あーあ、やっぱり……」
振り向くとそこには、治癒魔法を施されたケントの姿があった。先ほどと比べ血色も足取りも数段良く見える。彼は医者とギルドの組合員に付き添われながら、この工房に降りてきたのだ。
「おおっ、顔色がよくなったじゃねぇか」
彼の回復様に、ギリーは表情を明るくした。
するとケントの後ろから、厳つい白髪の職人が進み出る――その人物に、ギリーは慌てて姿勢を正した。
「伝説の勇者様だからな。魔導騎士団嫌いの敏腕医師に診てもらったんだよ、ギリー。まだ安静にして欲しいが、そうは言ってらんねぇだろ?」
「組合長……! すんません、ご迷惑かけて」
彼は深々と白髪の職人に頭を下げた。
この白髪の職人こそギルドの長であった。誰もが足を向けて眠れない街の重鎮で、魔導騎団相手にここまでギルドが発言権を強めたのも他ならぬ、彼のおかげであった。
そして、最もパウロ・セラヴィーを嫌悪している人物でもある。
「いいってことよ。だが、生憎、パウロは死んでねぇ……無傷だ」
「何だって!?」
「残念なことに事実だ。野郎が瓦礫の中から出てきたのを仲間が確認している。炎帝倶利伽羅を持ち去って、本部にお帰りになられたとよ」
あれだけ派手にやって、健在というのか。
空気が張り詰める。手負いになれば隙も生まれると言うのに、以前として状況は変わりない。いや、それ以上に悪くなる一方だ。
「金を握らせた魔導騎士からは、明日のオークションは通り開催されるとしている。その儲けを賄賂に、パウロが何をしようとしているか……お前も知らないわけじゃあるめぇ」
「……ご本人から聞きましたよ。専売っすね……やべぇところにまで来ちまいましたな」
押し黙るギリーと組合長を、ケントとエステルはキョロキョロと見比べた。
「あの、具体的にミザールは今どういう状況なのですか?」
「お頭殿、ミザールは今、二つに分かれている。より大きな利権を得ようと魔導騎士団に媚を売るものとそうでないものだ。特にパウロは歴代のミザール団長の中でも、とりわけ商業規制には寛大だ。あんな見てくれでも商人と金持ち受けは凄まじいほど良いんだ」
「なるほど、マネージメントのできる騎士ですか……厄介な相手ですよ、ケン――あれ?」
同意を求めようと、エステルは横目でケントを見るが彼の姿はない。ふと嫌な予感が過り、本能のままに視線を動かすと、何故かコソコソ、本棚の傍で何かをしているメンズが3人飛び込んだ。
「おい、ケント……確かに規制は緩いな。無修正だぜ」
「やべぇ……! けど俺、やっぱりモザイクあった方が――」
「しっ、お前ら……エステルがいるから後でな、後で!」
そこにいたのは評論家。至って真剣な面持ちの二人から、ギリーはざっと雑誌らしきものを取り上げ、コソコソと本棚に戻した。3人は何事もなかったように定位置に戻るが、観察力の優れたエステルがそこに堂々と置かれたブツに気づいてないはずがない。
エロ本か、と、彼女は達観した目つきで彼らを見遣る。
「ねぇ、何やってんだろ? 親父達……」
「ゴホン……さて組合長、続きを!」
強制的にキャウの頭の向きを変え、エステルは再び組合長を振り返る。しかし、彼は些かバツの悪い顔をして、「え、えっとだな」とどもっていた。
――てめぇのかよ。
「ま、まあ、その規制緩和の甲斐あって、今年度のミザールの都市総生産額は最高額を叩き出した……そうなると商人は合理的に考える。さらなる利益を求め、魔導騎士団にすり寄る連中が後を絶たなくなったわけだ」
「ならば組合長は、どうして魔導騎士団を拒絶するのですか?」
すると、白髪の強面は困ったようにため息をついた。
「問題は単純だ。奴らは商人をたらし込み、銀線細工を軍の専売にと企んでやがる。そうなりゃ、職人は魔導騎士団の言いなりだ……許可なく銀線細工を持っている連中は、容赦なく反逆者として処分されるだろうよ」
つまり、刀狩りだ。
一切の反逆者を掃討し、圧倒的な武力で市民を押さえつけ飼いならす。あとに待ち構えている虐殺の世界を想像すれば、黙って見過ごすわけにもいかない。
「何も銀線細工は人を殺すための技術じゃねぇ。俺達は自分の自由を守るために戦う必要があるんだ……現に、先のアルデバランサミットで、各都市の自治権が強化されたばかりだからな。パウロは先立って、反乱分子の掃討に力を入れるつもりなんだろう」
「自治権の強化? それって……他の都市も同じってこと?」
母国のゆゆしき事態に、ケントは少々食い入り気味に割って入った。
組合長は頷いて、
「そうだ。びっくりだったのが、アルデバランのマノロ・リリアーノが出した追討令だ。お前らもそのせいで偉い目に遭ったそうだな?」
「え……何それ?」
驚きと不安が入り混じるケントの表情に、組合長とギリーは顔を見合わせた。
「何って、追討令だよ、お前達の! マノロ・リリアーノがラスティーラを殺せと、各都市に同意を呼び掛けている。議会の承認が不要になったせいで、すでにアルデバランのヤツらもこのミザールに入り込んでんだぞ!?」
ギリーは叱るようにケントにそう言い聞かせるが、彼は失意のあまり茫然と立ちすくんでいる。
――嘘だ。
「ケント!?」
ケントの足から力が抜ける。医者とエステルは慌てて彼を椅子に座らせた。
額の汗が止まらない――それはエステルも同じだった。
マノロに裏切られた。いや、それも当然なのか。
差し伸べてくれた彼女の手を、拒んだのは自分だ。その報復として、団長である彼女が然るべき措置を取ることはわからなくもない。いや、ケントも軍人である以上、それは理解している。
理解しているが、よりにもよって彼女が。自分のことを友達と受け入れてくれた、あの儚い少女がどうして――
「……マノロなのか? マノロがアイツを……!」
あの死神――漆黒の亡霊なる機兵を差し向けたのか。
酷く動揺するケントの傍らで、エステルも言葉が見つからなかった。
だが、
「だったら何が何でもアルデバランに帰る……そう言うことだろ?」
沈黙を保っていたキエルはケントの肩を掴む。その眼に生きる意志を映し込み、ケントにそう呼びかけた。
「どんな小娘だか知らねぇが、直接本人に聞くしかない。だったら、片っ端から魔導騎士団をぶっ倒して、会いに行くしかあるめぇよ」
ごもっともだ。
噂で彼女の真意を憶測したところで何も始まらない。それ自体が敵の罠である可能性も十分に考えられる。
聞くしかないのだ、直接、彼女に――
「……うん。そうだ……!」
ケントは強く頷いた。
自分の目で、耳で確かめるまでは余計な詮索は不要だ。
彼女は言ってくれた。一緒に戦おう、と。
その想いを、優しさを信じて困難を乗り超えるしかない。盗賊達の心は固まった。
だが、その時、慌ただしげな足音が階段から聞こえて来た。
「何だ?」
ギリーがそう発した瞬間、組合員の一人が血相抱えて工房に飛び込んできた。