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ブレイブ・ギャンガー ―星屑の盗賊団と機械の巨兵―  作者: 藤白あさひ
第3章 お宝はミザールにあり!
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伝説の魔法剣 その4

《銀線細工工房ギャレット 地下道》

 全員が脱出した直後、地上の爆発のせいか、振動が彼らの頭上に天井の小石と砂がパラパラと落とす。


「来たか、エステル。行くぞッ!」


 ドテッ、ふわり。ギリーとエステルがそれぞれ着地するのを見届けると、キエルはそう急かした。


 彼女は頷いて、


「急ぎましょう! おそらく魔導騎士団の連中が気づき始める頃です」


 よろめくギリーにライトをつけさせた。

 ライトによって露わとなった一帯は、鍾乳洞のような地下道だった。水源がどこかにあるのか細い川が流れ、灼熱に晒された肌がひんやりとして心地良い。


 5人はその川沿いを一斉に下る。一体どこを歩いているかわからない以上、ギリーの土地勘だけが頼りだった。


「ここはアンドロメダ山脈の雪解け水が流れてる。銀線細工(フリグリー)には綺麗な水が欠かせなくてな……この川沿いには工房がいくつも並んでいるんだ」


 ゴツゴツとした足元に気を払いながら、ギリーは着地の折、ぶつけたらしい顎をさする。


「あの……ごめんなさい。大事な工房、あんなにしちゃって」


 その背後でエステルはバツが悪そうに目を伏せた。武器を作ってもらうため細心の注意は払ったがこの様だ。

 巻き込むどころか、大事な店を焼失させる結果となった。


「構いやしねぇよ。また作りゃいい」


 張りのある、一点の曇りのない返事だった。前を向いたまま、道先だけを照らすギリーに盗賊達は胸を打たれた。


「で、でも……あそこにはギリーさんのコレクションが……」

「ありゃ、処分に困ってた奴らだ。全くもって問題ねぇよ。一番やられちゃ困るのは別のところに保管済みだ」


 すべては想定内、そんな風な物言いであった。


「……でも倶梨伽羅はヤツらの手に渡る」

「ケント、しゃべんな」


 キエルに背負われ、大人しくしていたケントだが、こればかりは言い出さずにはいられなかった。暗くて表情はよくわからないが、その声音からして心身ともに、ダメージを被ってしまったらしい。苦しそうに力んでいるのを、キエルは背中で感じていた。

 

 これでもう、魔導騎士団との全面対決は避けされない。


 しかし、戦うにも手持ちの札は不足している。ケントがこの容態では天装状態――つまり、亡霊なる機兵(ファントム・ギャング)同士での戦いも勝算が見込めないのだ。


 それでも、何か前進できれば……。微かな希望がかえって彼らを焦らせる。それを肌で感じたのか、ギリーは、


「今から行くところには医者もいる、まずはケントの容態を診よう。何、心配すんな、。俺と同じ考えの連中しかいねぇよ。剣の見立ても続行可能だし、何より貸出できる武装がたらふくある……籠城にはもってこいだぜ」

「本当にありがとうございます。何から何まで……」

「いいってことよ。キエルの歳暮と中元の礼だ。その代り、今年もベルナールのレーズンパウンドを待ってるからな!」

「任せろ! 買い占めてやるよ」

「頼むぜ――おっと! こっから先は迷路だから要注意な! 魔導騎士団だって道に迷う抜け道だ。しっかりついてこいよ、川に落ちたら一環の終わりだぞ」


 暗闇の中では氷柱のような岩が入り組み、川からは激しい水の音が聞こえる。足にかかる坂道の荷重から、かなりの急流と伺える。


 するとキャウは笑って、幽霊のように顎の下にライトを当ててこう言い放った。


「パパが一番しっかりしてね? 落ちたら誰も助けないから」

「――助けられない(、、、、)、じゃなくて、助けない《、、、》の?」

「うん。現実的に無理だからね!」


 ライトに浮き彫りにされる真顔で頷く息子は、幽霊よりも恐ろしかった。その残酷な無邪気に大層心を痛めたギリーは、痩せよう! と心に誓い、見た目よりも重い足取りで地下道を進んでいった。

 


               ◆ ◆ ◆


老舗工房ギャレット 跡地


 細い路地で轟々に燃え上がる工房火災は、駆けつけた魔導騎士団の連中により鎮火しようとしていた。


 だが、その黒々とした瓦礫の中から、


「――キィィィイィエェェエェェェ!!」


 固い土を蹴破り空を望む芽の如く、パウロ・セルヴィーが憤怒の奇声ともに生まれ出た。衣服は炎に焼き尽くされ、垣間見える彼の体は火傷だらけのスッポンポン――と、思いきや、黒光りする人肌に非ざる光景に魔導騎士は息を呑んだ。


 全身機械。瓦礫の魔窟から這い出た彼は頭から足の爪の先まで全て鋼鉄。

 まさに、ターミネイターだ。


 一体どこからどこまでが機械なのか、この場にいる人間は誰一人としてそのことを知らなかった。ピエロの仮面は気味の悪い電子音を立てて、増援に来てくれた魔導騎士に見向きもせず、


「ああっ……エステルたん! 待っててネ、待ってってネ……! 必ず君を迎えに行くかラ……ウェディングドレスも発注しなキャ!」


 とろけそうに、パウロは先の戦闘を思い出していた。

 彼女を呼び出すいい策はないか――そう彼が思考回路を働かせていると、視界にあるものが飛び込んだ。


「ん? ――ヌホッ!? これだこれだこれだこれダァァァァ!!」


 獲物を見つけた巨大爬虫類の如く、彼は黒焦げの瓦礫の上を這いずり、とある物にすがりついた。

 あれだけの爆発を経ても傷一つない神刀――《炎帝倶梨伽羅》である。


 刀が突き刺さる岩石も同じく健在。先ほどとは様子が違い焔を消し去ったこの刀の落ち着き様に、パウロはチャンスを見出した。


「そうダ、オークション! カナトに伝えろロ! 倶梨伽羅と一緒にアレも出展しちゃえばエステルたんは私に会いに来てくれル!」


 再び刀の部分に触れて蒸発しないよう、パウロは慎重に岩の台をグリグリと動かし、倶梨伽羅の搬送作業を始める。


「岩に触る分にはご機嫌は損なわれなイ……! おい貴様ラ、すぐに搬送ダ! 一刻も早くこれをアリーナに運び込むのダ!」


 そこで初めて、パウロは魔導騎士の存在を認めた。


 その後、《炎帝倶梨伽羅》は魔導騎士団によって持ち去られてしまうのである。


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