エピローグ
アルデバラン 師団本部 団長執務室
「そうですか……皆さんはお帰りになられたんですね?」
「はい。各師団の出立は確認済みです。あと、スピカのローサ団長から、一言お託を賜っています」
「何て?」
「『自分を信じろ』――と」
じんわりと広がる涙腺の痛みに、マノロはグッとこらえた。
「……あの方らしいですね。ありがとう、今日はもう大丈夫です。休んでください」
「ありがたきお言葉……では、これで」
騎士は粛々とした様子で、執務室を後にした。
一人になった部屋で、マノロは誰の目にも隠してきた疲労の面持ちで、椅子にもたれかかった。
明日は何をするのか、言われるのか――副団長としてのキャリアも長い訳ではなかっただけに、人を導く辛さに心を病みそうであった。
支えがいてくれればどんなに楽か――
「ケント……」
――どうして、来てくれなかったの。
彼女はふと、右手の甲に視線を落とした。
今さら悔やんだところで仕方ないとわかっていても、やるせないものである。自分の命令のせいで、彼は今も虫の息の状態で、逃げ回っているのではないか。
そう思うと、胸が苦しい。
罪悪感が、自分を殺そうとする。
――だから、お前はバカだ。
「――!?」
――死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね――
「やめて! いやっ……ああっ……!?」
眩暈と幻聴に、マノロは真っ青な顔で椅子から転がり落ちた。必死に右手で杖を取ろうとするが、真っ暗な視界に光り輝く七芒星――盲目の自分に見えないはずの光に彼女は見る見る生気をなくす。
――ダメだ、ダメだ、ダメだッ!!
激しい頭痛と動悸苛まれながら、彼女はその忌まわしき光を隠すように、自分の右手を抱え込んだ。抱え込んで、そう言い聞かせた。
「ダメよ……いやなの……私は……天装は……天装だけは……!」
その後も、悪魔の声はしばらくの間、脳内で彼女に罵声を浴びせていた。これが、自分の声であるとわかっていても、精神的に耐えきれるものではない。
状態が落ち着くと、マノロはケントの事を考えないようにして執務に没頭した。