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ブレイブ・ギャンガー ―星屑の盗賊団と機械の巨兵―  作者: 藤白あさひ
第2章 さらばアルデバラン
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チャラさと薄情さは紙一重 その2

練兵場


 今にも防御壁を突き破らんとする破壊力に、シュンレイは予想外の力を注ぎ込むことになる。


「こ、この破壊力……やはり野放しにするには危険過ぎる!」


 半球体の内側はまるで本物の太陽の表面だった。天体防衛(オゾン)の維持にシュンレイは顔を歪めるが、それでも防御壁の効力が下がることはない。


 これこそ魔導騎士――彼女の活躍は失いかけた威光を再び一般兵の心に焼き付けた。


 だが、天体防衛(オゾン)の中の戦況は誰も知れずにいた。


 当のラスティーラも狭域集中型の攻撃のせいで、索敵に気を張り巡らせていた。密度の濃い魔力の残り火に、ライバーンの生命反応がかき消されてしまったのだ。


 楽観的に考えれば彼の死を意味するが――これで死ぬ亡霊なる機兵(ファントム・ギャング)ではないと、過去の記憶が騒ぎ立てる。


 その時、背後の気流が変わった。


『そこかッ!』


 すかさず愛刀エンペラーを振り切った。切っ先が何かのエネルギー体に弾かれる。その感触に、ラスティーラはライバーンの生存を確信した。


『しぶとい奴め! もう一度、消し炭にしてやる! 太陽よ――』

『させるかよッ! 風神雷神の祝杯(ボルト・ソニック・カーニバル)!』


 それはラスティーラの十八番でもある雷の攻撃力と風の速度の複合技。立体的な攻撃を可能とする風神雷神の祝杯(ボルト・ソニック・カーニバル)で、ライバーンは即座にゼロ距離を奪う。


 だが、至近距離は剣帝の間合い。即座に体を反転させ、斬撃をひねり出すが――再び弾かれた刃に、彼は相手がやはり一枚上手であると思い知ることになる。


『バ、バカな……!?』


 ライバーンの機体をスーツのように覆う青白い光。間違いなく、裸同然まで圧縮された上級魔法天体防衛(オゾン)であった。


 こんな形状での使用は前代未聞だ。


 さらにライバーンは2本のナイフをクロスさせ、エンペラーの斬撃をかろうじて受け止めたが、そんな辛い状況でも風神雷神の祝杯(ボルト・ソニック・カーニバル)の効力も併用している。


『はぁぁッ!』


 剣の角度を逸らした途端、彼は雷の力を以ってエンペラーを払いのけ、疾風の如くラスティーラの間合いから脱出した。


 高等魔法の併用。魔力操作程度で躓いている自分とは比べ物にならない、多彩な戦術。彼の秘めたる引き出しの多さに、ラスティーラは格の違いを認めざるを得なかった――


『あばよ、勇者様!』


 ライバーンはロケットランチャーの砲身を肩に降ろした。向けられる銃口。憤怒の太陽(フレア)の効力が弱まった途端、ライバーンは彼をロックオンし、引き金に手を掛けた。


 ――負けた。


 本能がそう呟いた矢先、


「やめんかァァァァァァァッ!!」


 猛々しい怒鳴り声が事態を収束させた。音魔法を使っているのか、その声を浴びたラスティーラとライバーンの装甲はまるで音叉であった。


 キィィン、と振動する装甲に気分を悪くした双方は、がっくりと膝を落としながらギャラリーサイドを睨みつける。


 耳を塞ぐシュンレイの隣に、新たな人影――十中八九格闘家であろう、長身の強靭な肉体の男が一人、仁王立ちしていた。


 色素の薄い襟足長めのオールバックに、黒々と日に焼けた肌。一目で堅気でないとわかる。その男らしい眉の下で、灰色の瞳がギロギロと2体の亡霊なる機兵(ファントム・ギャング)を見回していた。


 新参者の介入に、真っ先に不快感を露わにしたのはライバーンだった。


『てめっ……! 何のつもりだ、アルドラのヤンキーが!』

「やかましいぞ、ザノッティ! すでに時間は過ぎている。茶番は終わりだ」

『水を注すんじゃねぇーよ、この筋肉バカ! 言っとくけどな、俺はちゃんとお偉いさんから――』

「そのお偉いさんが、もう十分とおっしゃっているのだ」


 ライバーンは黙った。納得はしていないようだが、それでも彼の好き勝手を禁ずるには、決定的な理由であったようだ。


『ちっ……やめやめ! 興醒めだっての……!』


 険悪ムードの中、ライバーンはそれ以上何も言わずに天装状態を解除した。


 あっさり譲歩したリュクスに、ラスティーラはそのサファイヤの瞳を真ん丸にしていた。


「貴様もだ、ラスティーラ! 即座に天装状態を解き、本来の職務に戻れッ! これは騎士としての命令だ!」


 色黒ヤンキーは他人事状態のラスティーラを見るなり、そう怒鳴った。


 熱の冷めたラスティーラは、ほぼケントであった。彼は気迫あるその声にびくりと体を震わせ、あわあわと眼下の魔導騎士達に視線を向けた。


「……何かおかしいわね、あの子」


 落ち着きのないラスティーラを、シュンレイは不自然に思った。


「びびってんじゃねぇーの? あんだけやられたんだ、警戒すんのは当然でしょ!」


 余裕綽々ながら、銀線細工(フリグリー)の手甲をポッケに隠した彼を、シュンレイは鼻で笑った。


「自慢の銀線細工(フリグリー)が黒焦げだってのに、よく言うわね」

「うるせーぞ、この80‐59‐86がッ!」

「何で知ってるのォ!?」


 それは神聖な三つの数字。ドンピシャと言われたシュンレイは顔を真っ赤にして、異世界のチャイナドレスがぱっつんぱっつんのお胸を隠した。


 だが、隠したところで、リュクスは彼女がムチムチの極みであることを知っていた。


 微笑ましき乙女のリアクションに、汚れきった青年は不敵な笑みを送って、


「寂しくなったらいつでも――つか、その胸で僕を抱きしめてください」

「セクハラだわ! 相談室に実名でチクッてやる! 〈魔導騎士団働く女性の会〉に言いつけてやる!」

「やってみろ。ポラリスまで胸揉みに行くからな!」


 彼のイケない手付きに、シュンレイは震撼する。


「もうイヤァァ!? ユウゲン、こいつ何とかしてェェェ!」

「何をやってんだ、お前らッ!」


 取っ組み合う魔導騎士団の顔に、色黒ヤンキーは呆れて物も言えなかった。


 彼らのことはさておき、肝心なのはラスティーラだった。未だに天装状態、つまり武装解除する気配がない理由は不明だ。


 不明だが、場合によっては取るべき措置を必要としていた。


「なぜ天装を解かない? 理由によっては、こちらも武力行使を辞さないが」

「……」

「言っとくよ~次は本気だからな。マジでぶっ殺すからな?」


 リュクスの挑発にもラスティーラは沈黙したままだった。だが、魔導騎士達の肌を霞めるラスティーラの魔力の流れに、彼らは些かの違和感を覚えた。


 色黒ヤンキーはあえて問う。


「どうした!? 何を企んで――」

『できない』


 その言葉に、一同は構えた。


「何だと?」

『天装を解除できない』

「……それはどういう意味だ?」


 ここに来てまだ悪足掻きかと、彼らの顔つきは戦闘態勢のものと化す。


 だが、ラスティーラはそんな状況に困惑したように、サファイヤブルーの目を細めた。


 そして、白状した――


『……やり方がわからない』

「何?」

『無意識でやってきた……意識的に天装を解除できない』


 あっという間に、魔導騎士の表情が固まる。


 つまり「魔力操作ができません、僕は素人です」と、言っているようなもの――


「――んなっははははは!」


 息ぴったりに、大笑いをぶちまけるリュクスとシュンレイ。腹筋が千切れるんじゃないかと、心配になるほどのたうち回る彼らの傍らで、色黒ヤンキーは頭を抱えた。


 ――こんな奴に、こんな奴のせいで!


「遥々アルドラから来た結果が……これか」


 遠路遥々ご苦労様でしたと、敵ながら申し訳なく程、色黒ヤンキーは疲れた表情を見せていた。


 あまりにも馬鹿にした魔導騎士の態度に、ラスティーラはむっとしたが、すぐにその怒りを鎮めようと努めた。


 よく考えなくても、この反応は当たり前なのだ。


「は、腹いてぇ……! 超ウケルぜ! 亡霊なる機兵(ファントム・ギャング)のクセに魔力操作はド素人……教えてくれよ、どーやってレガランスに勝ったってんだい?」

『…………』

「もういい。しばらく、そのままにしてろ……気分が落ち着けばじきに解ける」


 やってられないと、色黒ヤンキーは、笑い過ぎて起き上がれないリュクスの首根っこを掴み、ラスティーラに背を向けた。


「ちょうどいいじゃない、よく自分の魔力を観察することね! 先輩からの忠告よ」


 よほどツボであったのか、シュンレイもすっきりした表情でヤンキーの後に続いた。その際、引きずられ、連行されるリュクスをヒールで蹴り飛ばしたが、リュクスがやや幸せそうな顔をしたことに気が付かなかった。


 去り行く魔導騎士達の背中を眺め、ラスティーラは消沈した。


『魔力操作……』


 じっと愛刀エンペラーを見つめるが、答えてくれるわけがない。


 前回の戦いでも、エステルに全て頼りっきりであった。魔導指揮者(コンダクター)頼みの戦法では、この先も奴らに勝てる保証なんてない。


 とんでもない壁にぶち当たったと、彼は自分に課せられた使命を痛感するのであった。


          ◆ ◆ ◆



 遠巻きであるが、一部始終を観察していた経理部と人事部の面々は、この敗北の意味を重く見ていた。


「一難は去ったが……この結果をヴァシュロン元帥がどう取るかによるな」


 ダグラスは落ち着きなく、無精髭を撫でた。


「ケントは他の亡霊なる機兵(ファントム・ギャング)に比べれば不完全だ。そこを危険性なしとして放置してくれればありがたいが……」

「そうもいかないだろうよ。お前らしくもない、楽観論だな」


 滅多に見せない、バートンの苦悶の表情に、ダグラスは雲行きの危うさを案じた。バートン本人も、黒幕の強大さと動きの速さに最善の案を見い出せずにいた。


 焦燥が判断を鈍らせる。


 とにかく冷静であらねばと、彼は深くため息をついた。


「……魔導騎士団にいることが絶対ではないと思っていたが……こんな時に何もできないとは思っていなかったよ」

「仕方ないさ。レアな事例だ……ある意味、軍全体の問題でもある。選ばれた人間しか、なんとかできまいよ」


 それが魔導師ではない人間の現実であった。


「一旦、戻ろう。こちらも出方を考える必要がある」

「ああ……」


 悔しいが、今はそれしかない。


 前線に出ない――改めてそのハンデの重さを、彼らは悔しく思った。


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