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ブレイブ・ギャンガー ―星屑の盗賊団と機械の巨兵―  作者: 藤白あさひ
第2章 さらばアルデバラン
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プロローグ

 雲隠れした月は、人を迷宮へと導く。


 少年はその月に導かれて、常闇の世界の住人となった。


 長閑な自然と少しばかりの喧騒に、彼は目をくれることなく、太陽の光から逃れるように息を潜める。


 日常を取り戻したアルデバランの官庁通りを、一台の素朴な馬車が走っていた――


「どうしたんだい、ジェイ? 少し興奮気味だね……」

「……」


 貴族と奴隷、それを思わせる構図だった。


 馬車は厳重な魔法で閉ざされた、鋼鉄の檻であった。そのだだっ広く、殺風景な客車の中で、二人の少年が対峙していた。


「悪く思わないでくれよ、君を自由にするには早過ぎるんだ。それは自分が一番良くわかっているだろう?」

「……」


 鎖に繋がれた少年を見下ろす彼は、ナルムーン軍の将軍だった。紫紺のショートヘアに、金色の瞳。顔つきは極めて美麗であり、黙っていれば女としか思えない。


「おいおい、まさか僕に不満を言うつもり? それは筋違いだよ。燻っていた君の才能を解放してあげたんだ……家族とかくだらない柵を抹消してね」

「――!」


 奴隷の少年は、初めて感情を露わにした。


 ぼさぼさの黒い長髪、その前髪からは彼と同じ金色の瞳が憎しみの炎を燃やしていた。


 鎖に繋がれた、狂犬の姿に若き将軍は妖艶な微笑みを見せた。


「バカだね、ジェイ。君は自分が何たるかわかってない」

「……」

「君は特別なんだ。僕と同じ 亡霊なる機兵(ファントム・ギャング)であるが、異質でもある。すぐにわかるよ? 君は戦いが楽しくて仕方なくなる……そりゃそうだ。だって君は唯一、過去の呪いを破壊し得る存在なんだから」


 すると、誰かが客車をノックした。客車の外、御者の隣で控えていた騎士であった。


「元帥……お時間です。軍部にはすでに自由騎士のお二人がお見えになっております」

「残念。ここまでだ、ジェイ・ファン。君が最も輝ける舞台は僕が用意してあげるよ」


 客車の扉が開かれる。奴隷の少年は逆光よりも鋭い、金色の瞳から目を逸らした。


 恐れる、あまりに。


「じゃあね。次に会うときには君も魔導騎士だ」


 若き将軍はその言葉を最後に、客車を乗り換えた。


 葬列よりも重々しいその一団は、間もなくしてアルデバラン師団本部の門を潜るのであった。


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