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ブレイブ・ギャンガー ―星屑の盗賊団と機械の巨兵―  作者: 藤白あさひ
第1章 蘇る伝説と邪竜
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兎は寂しくても死なない その5

アルデバラン城外 母艦ニューバニー ブリッジ


『ニューバニー応答せよッ! ニューバニー!』

『聞こえてるぜ、ホットケーキ! 息災で何よりだ……!』

『副長!? それと……何でラスティーラが!? でも、とにかく助かった! これで、お頭は……!』


 ニューバニーに映るホットケーキの表情は尋常ではなかった。


『ホットケーキどうした!? 何故戻ってきた? エステルは!?』

『ああ、司教様! お頭は俺達を払いのけて一人で遺跡に向った! レガランスと戦うために……俺達は魔法で動きを封じられちまって、どうすることも出来なかったんだ!』

『なんじゃと……!? あのバカが……やはり、やりおったか!』


 司教の悪い予感は的中していた。無論、彼はホットケーキ達が逃げ出してきたなどと微塵も思ってはいない。薄々予感していたのはエステルが無茶をしでかすことだ。


 魔導経典頼みの特攻――つまりバニーと二人だけで遺跡に向うこと。


 呆れるほど期待を裏切らない彼女の度胸に、マドレーヌは頭を抱えた。


『あれは一族に宿る魔導経典の血を解放するつもりじゃ……!』

『魔導経典の血?』

『左様……エステルの先祖は魔導経典の心臓を得て蘇った。その大魔力は子孫の血に宿り、今も生きている。あの子はその相乗効果に全てを賭け、レガランスに挑むつもりだ』


 謝らなくてはならない、と彼は思った。


 ただのお気楽女かと思えば、それほどの使命を背負って生きてきた。その覚悟を自分が一時の弱さから冒涜したのは、ただの暴挙でしかなかった。


 ――行かなくちゃ。


 ラスティーラの魔力の動向が険しくなる。勢いを増すマジックバーニアを見た、キエルは友人にただ一言、


「仲間を信じろよ、ケント。俺達だけじゃない……城壁で戦うあいつらもだ」


 未だに飛び立たないラスティーラに痺れを切らした同期達は、


「行けよ、ケント! あとはお前にしか出来ないんだ! 頼む!」


 心配は要らぬとばかりに剣を振り回した。


 もはや、選択は一つしかなかった。


『――ッ、皆、死ぬなよッ!』


 数多の信頼と熱意を胸に、ラスティーラはベルローズへと飛び立った。


 太陽の光を浴びた白金のボディは、まるで明日への希望の光であった。


 ラスティーラが去った途端、魔導騎士団は再び攻撃の姿勢を取る。残された戦車の砲身が全てニューバニー向けられるが、残念ながらやられっぱなしの盗賊団ではない。


 彼らは即座にホットケーキ達を回収すると、ミスター潔癖症による、大規模な大掃除を始めようとしていた――


「んじゃ――散々コケにされた鬱憤を晴らすとするかッ!」


 キエルは砲座に着く。銀線細工師(フリグリスト)専用に作られたそれは、ニューバニーの全砲への魔力操作を執りし切る攻撃の要。相棒を船に接続すれば、彼の使える技が全て、艦隊攻撃へと転換されるのである。


 そして、たった一人の投入が戦況を一転させる。


「残りは雑魚だッ! 全部鉄屑にしてやんぜ――ガトリング砲から転換、全門展開! 行くぜ、〈じゃじゃ馬娘の愛乱舞ダンス・ラブパッション〉!!

「だ、だんす――」


 キエルの熱き血潮がニューバニー全砲に駆け巡る。一斉射撃の筒音は不条理と闘う全ての者の心を打った。


 焔を纏った銀色の弾丸が戦車を貫いては浮上し、不死身の弾丸として襲い掛かる。


 まるで花火だ。ベルローズで亡霊なる機兵(ファントム・ギャング)を圧倒した、キスで目覚めるお姫様キッス・ザ・プリンセス――魔導操作による銃撃の応用技は、さらに炎の力を借りてより威力を増していた。


「総員、魔導操作! 全弾命中させろッ!」

「承知ッ!」


 次々に上がる戦車や魔導兵器の爆発。気持ちいいほどの勝利にキエルは、他のメンバーが砲撃の音に呪文の復唱をごまかしたことなど気づきもしなかった。


 逃げ惑う魔導騎士団。だが、彼らが城内に退避しようとした矢先、さらなる厳しい現実が待ち受けていた。


 すでに、城壁の門が閉まっているのだ――


「なっ、何故扉を開けん……!?」

「魔導騎士団に告ぐッ! 我々駐屯兵隊は、貴様らの蛮行を否定する! 我々の仲間を石に変え、砕かんとしたその罪――この場で償ってもらうッ!」


 因果応報。当然の報いと言える結末だった。


 命辛々逃げてきた彼らは、残虐にも仲間の命を弄んだことに激怒した味方に、締め出されるハメとなる。


 城壁の上から向けられた銃口に、魔導騎士団はついに白旗を揚げた。


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