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ブレイブ・ギャンガー ―星屑の盗賊団と機械の巨兵―  作者: 藤白あさひ
第1章 蘇る伝説と邪竜
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兎は寂しくても死なない その3

アルデバラン 城壁外 戦闘区域


 魔導師部隊の投入により、未確認兵器による攻撃は小型魔導陸上艦と識別され、手口が酷似していることから軍は、この陸上艦をスターダスト・バニーと断定した。


 壁外には数多の魔導機動兵器が投入され、最新鋭の魔導砲を積んだ戦車による砲撃に、ニューバニーは窮地に落とされた。


「撃てェー! 何としても城壁に近寄らせるなッ!!」


 兵士達でも耳を覆わずにいられない銃声が絶え間なく鳴り響く。砲撃と言う物騒な目覚めの一撃を受けたアルデバラン師団は、一般兵を従え、ナルムーン共和国の精鋭としての意地を見せ付けるのであった。


 この猛攻に、ニューバニーのマドレーヌは舌を打つ。


「やはり、曲がりなりにも魔導騎士団か……!」

「バニーが不在で、推進力が低下してるっす! 魔法迷彩も使えないし、回避し続けるにもそろそろ限界が来ちまいますぜ!」


 操舵手のマカロンはあわあわと舵を切った。


「ショコラ、エステル達はどうなっている!?」

「魔導経典バニーからの情報により、現在遺跡へ移動中。敵はレガランスの反応のみ、邪竜はまだ覚醒していない模様!」

「不幸中の幸いか……勝つのだぞ、エステル! それ以外に方法など――」


 その時、船体が大きな衝撃に揺れた。サイレンの嵐が緊張に満ちたブリッジをより追い詰める。


「くっ……どこからの攻撃だ!?」

「正門より砲撃! 数、5――亡霊なる機兵(ファントム・ギャング)です!」


 モニターに映された、灰色の似通った5体の亡霊なる機兵(ファントム・ギャング)。強敵レガランスではないとは言え、この戦力差での投入はスターダスト・バニーにとっては痛手にしかない。


「ノーネームに負けるわけにはいかん! 迎え撃つ――銀線細工師(フリグリスト)、一斉射撃じゃ!」

「承知ッ!」


 ブリッジいる全ての銀線細工師(フリグリスト)は、ニューバニーに全魔力を送り込んだ。主砲と副砲の魔導エネルギーがMAXになった途端、銀線細工師(フリグリスト)達は一斉にトリガーを引いた。


「てェー!」


 司教の号令に、膨大な威力の熱魔弾が、明け方の草原に隕石の如く降り注いだ。致命的な打撃を受ける戦車部隊――しかし、機動力で勝る亡霊なる機兵(ファントム・ギャング)達は星々の怒りの鉄槌を寸前のところでかわし、ニューバニーへの猛進は止まるところを知らない。


「おのれ……こうなったら、私の魔力を攻撃に……!」

「無理っす! 司教様の魔力が攻撃に回ったら、推力は――」


 船体に何かが衝突した。大きく揺れるブリッジの旋回窓には勝ち誇った灰色の機械の顔。万事休す、敵の亡霊なる機兵(ファントム・ギャング)に船体を掴まれてしまったのだ。


「ええい! よってたかって!」


 再び船内に衝撃。もう1体が船尾を捉えた。すると、旋回窓のシャンペントパーズの大きな目が細まった。


 戦慄――というよりも、諦めに似た感情が全てのメンバーの心に宿った。


「俺がマカロンの似合う女子なら、ナイトが現れるはずなんすけど……」

「いや……よくやった、諸君。また会おう……!」


 振り上げられる亡霊なる機兵(ファントム・ギャング)のロングソード。死への旅路を前にして、あまりにも優しい司教の労いに、マカロン達はすすり泣いた。


 ――すみません、お頭。


 その懺悔を最期に、ロングソードは旋回窓を貫いた――と、誰もが思ったが、


『はいッ! 今、目瞑ったヤツ、便所掃除一ヶ月なッ!!』

「え!?」


 銃声と怒声。


 全員が目を開けた瞬間、旋回窓の亡霊なる機兵(ファントム・ギャング)が何者かに頭を撃ち抜かれ、視界から消えた。その直後、敵の視線がニューバニーから明後日の方向に向いていることに、死を悟ったはずの安らかな心は、生の緊張に引き戻されるのである。


 そして、モニターに映し出された救世主の姿に、鳥肌が治まらなかった。


 地平線から顔を出した太陽の中から、猛スピードで迫る二人――いや、一人と一体。


「マジで……!?」


 思わず司教もそう口走る。


 その機影は間違いなく、来るはずのないキエルとラスティーラの姿であったからだ。


     ◆ ◆ ◆


「俺はニューバニーに着艦する。あとの3体と諸々は任せた!」

『まったく人使いが荒い……! やれるけどな、5分で!』

「うひょー! 心強いぜ、ケント! ラスティーラの気概をもうちょっと人間のときに生かそうな! そうすりゃ、間違いなくモテるぜ……!」

『断る。交遊費がかさむ――』


 命綱を外したキエルが左手に乗り込むと、ラスティーラは背中の愛刀〈エンペラー〉を右手に引き抜いた。


 ドンピシャのポイントで、彼の登場に立往生していた戦車を踏みつけ、ニューバニーの真横着陸。即座にキエルを甲板の上に乗せ、自らは母艦を守るように剣を構えた。


『名無しの荒くれ者よ。我が剣の前に、己が姿を忘却の彼方に消し去ってやる……!』


 エンペラーの反射する太陽の光が、ナルムーンの戦う意志を貫いた。


 だが、その瞬間を城壁から眺めていたケントの同期達は、言葉にならない安堵と喜びに胸を震わせていた。


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