身の丈に合った人生 その7
アルデバラン 地下深層 教団本部
物音一つないこの地下室で、フランチェスは些かの高揚感を覚えながら、自動書記に目を通していた。
だが、そこへ不穏な足音が迫っていることに彼は気づいた。
フェランチェスは即座に自動書記を秘密の本棚に戻すと、何食わぬ顔で昼寝に戻った。
間もなくして、荒々しく彼の書斎の扉が開く。顔を見なくても誰が来たのか、明白だった。フランチェスはたった今、起きたかのような素振りを見せて、
「もぉ、穏やかじゃないね、ユーゼスちゃん! 違うか……レガランス、人間界のマナーにノックと言う概念がだねぇ――」
「何をしていたのですか? 大元帥……私の目を誤魔化せるお思いですか?」
真っ先にユーゼスは本棚を漁り、例の自動書記を取り出した。普通であったら血の気が引くところだが、このフェランチェスと言う老人も常識では測れぬ逸材であった。
殺気立つユーゼスの目の前で、彼は大あくびをかまし、
「あれま、見つかっちった」
「向こうの魔導経典にシリウスでの奇襲を教えましたね?」
「教えたところで勝てない戦いでもないじゃろ? まさか、ワシが何もしないとでもおもったのかいなぁ~」
茶化すような口調でフランチェスはユーゼスを挑発したが、どうも彼の様子がおかしかった。怒りを露にしているように見えたが――違う、苦しんでいる。彼らは顔色を真っ青にして、突如うずくまった。警戒しながらフランチェスが近づくと――
「……けよ」
「はい? どうしたの、レガ――」
「行くんだ、フランチェス……俺が自分でいられる間に……!」
動揺――彼は長年生きてその意味をたった今理解した。頭痛に苦しむユーゼスはドアを蹴破り、銀線細工の特殊扉の鍵を全て彼に手渡した。
「その代り……わかってるよな……!?」
その優しい海の色に、フランチェスは無言で頷く。
「無駄にはせんよ。お前の最後の生き様を……クソガキ!」
その言葉にユーゼスはふと笑い、頭の中の何かと葛藤し、部屋の中を暴れまわった。その騒ぎに憲兵達は駆けつけるが、すでにフランチェスは部屋の中にはいなかった。
ユーゼスはその目撃者を全て炎で消し去った後、何事もなかったように誰もいない地下室を閉ざした。
数分後、フランチェスは数十年ぶりの地上に歓喜した。