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ブレイブ・ギャンガー ―星屑の盗賊団と機械の巨兵―  作者: 藤白あさひ
第1章 蘇る伝説と邪竜
32/111

身の丈に合った人生 その3

シリウス 高等裁判所 裏庭


 通常であれば、ケントの様態ではまだ安静にしていなくてはならないはずであった。


 だが、彼の身体は常人とは違ってしまった。それも亡霊なる機兵(ファントム・ギャング)としての能力が目覚めたため、以前の二倍以上の速度を伴ってケントの体は回復していた。


 それを見込んでか、マドレーヌはケントのリゲル出立を許した。元々、ナルムーンに追われる身である以上、シリウスに長く留まるほど危険は高まっていたのもある。


 今しかないかもしれないと、彼はついにリゲル行きのキャラバンに乗り込んだのである。地上を巡回している魔導騎士団を警戒して、ケントの見送りはシリウスの警官達によって行われた。


 ずいぶん寂しい別れとなったが、これも運命。ケントは商人の振りをして荷台に身を潜めて、自分の身を守ってくれた紅い額当てをじっと眺めていた。


 そこへ一人、荷台に乗り込んできた。でかいのてるてる坊主のような何かだった――


「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」


 いよいよお迎えが来てしまったのかと、先程の啖呵を切った彼はどこへ行ったとばかりに、ケントはガタガタと震ながら命乞いをした。


 しかし、よくみればそれはてるてる坊主ではなく――小柄なおっさんだった。


 さらに、もっとよく見れば、


「私だ、この腰抜け!」

「――髭ロール!?」


 ビクビク落ち着きのない勇者の姿を見るなり、髭ロールは砂漠越え用の頭巾を取って、呆れたように溜息をついてた。


「……ほれ、忘れ物だ」


 すると、少し駒が欠けてしまった、相棒のそろばんを彼の目の前に突き出した。


 ケントは冷やりとした表情を浮かべた。


「あ……!」

「己の得物を忘れるバカがどこにいる。商人に化けるんなら、なおさら必要だろう」


 そう言いながら、髭ロールは当たり前のようにケントの目の前に座った。


 まさか、と思いながらケントは彼に問うた。


「ちょっと……まさか、あんたも行くつもり?」

「ふん! ありがたく思え、リゲルまで責任以って警護してやる。この素晴らしい縦ロールもターバンで隠すから問題なかろう」

「いや、そうじゃなくて……」

「商人に見えんと言いたいのか? 馬鹿にするな、小僧……これでも前職は銀行員だ。これの弾き方も知ってるわい!」

「ウソォ!? 行員!? あんたが……!?」

「やかましい! 昔の話だ……見ておれ――」


 カチカチカチカチカチ――ケントの手からそろばんを強引に取り上げると、彼はブランクがあるとは思えない華麗な手つきでそろばんを弾いた。


「ほれ! どんなもんだ」

「ぐぬぬっ……!」


 何とも腹立つドヤ顔。同じ経理部でも出会ったことのない手練れに、ケントはジェラシーを感じながらも舌を巻いた。


「安心せい。私はあのデブとは腐れ縁でな。昔、ヤツの教会の定期預金を担当してのだが、知らぬ間に他店に乗り換えられていた――あの日の恨みは忘れていない!」

「何その安心できない関係!?」

「とにかくキャラバンを出すぞ。一秒でも早くシリウスを離脱する……別れは済んだか?」


 すると、ケントは表情を消して、


「いいよ……もう済んだ」


 そう言った。


「そうか……では、出立するぞ! 馬を出せッ!」


 彼の号令に、従者は馬を走らせた。


 荷台から警察官が何やら物寂しそうに、ハンカチを振っていた。些か暑苦しいが、少しばかりケントの心に波打つ何かがあった。


「皆、お前のことを気に入っていた。あれだけボコボコにされたのが嬉しかったそうだ」

「すみません――気持ち悪い」

「たわけが! その程度でリゲルまでの道程を越えられると思うなよ!」


 予想外の組み合わせに、どんな旅路になるのかは想像もできない。


 だが一つだけ言えるのは、余計なことを考えずに済むかもしれない。


 その点だけ、ケントは髭ロールが乗り込んできたことを幸運に思うのであった。


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