身の丈に合った人生 その1
シリウスの最北端に当たる砦近郊にて、ユーゼスとエリツィンは合流を果たした。ラスティーラとの戦いから、彼が合流始点に現れるまで恐ろしいほど時間は掛からなかった。
アメジスト・バイオレットの装甲が、強敵との戦いにしては美し過ぎるほど滑らかなことにエリツィンは良い顔はしなかった。
レガランスがラスティーラを殺さなかったことも、すでに彼らの耳に入っていた。
味方からの疑念の矛が向く。そんな針のむしろでさえも、彼らが己の野心のためのカードに過ぎぬと、レガランスの天装状態を解除したユーゼスは、何食わぬ顔でエリツィンの前に跪いた。
「……ラスティーラを生かしたそうだな、ユーゼス」
「左様でございますが、何か」
「私は殺せと言ったはずだ」
「殺すのは容易いことでございます。しかし私が息の根を止めてしまえば、ヴァルムドーレの強さの指標が消えます。サンズの民を期待から絶望に叩き落すには、必要な演出かと私は判断いたしました」
それを聞いて、エリツィンは鼻で笑う。
「ヴァルムドーレの宣伝材料として使えと? 騎士のクセにずいぶんと商人染みた考えだ。だが好機は再び来るとは限らん! その奢りが、身を滅ぼすことなきように努めろ」
「――司教、あなたは何を恐れているのです」
ユーゼスの青い瞳が、エリツィンを覗き込む。
「恐れるだと? この私が!?」
「元魔導騎士団の団長を務めたあなたが、なぜそこまで怖気づくのです」
「口が過ぎるぞ、ユーゼス! 貴様が自由騎士として好き勝手できるのも、誰のおかげと思って――」
しかし、不気味なほど深く底の見えない青色に、悪寒が走った。
ユーゼスは口元だけ笑って、
「あなたは勘違いをしている。あれは弱い、弱過ぎる。伝説だけ一人歩きして、中身は生まれたばかりの赤ん坊だ。恐れるに足りません」
彼はゆっくりと立ち上がった。
「それとも……半ページしかとり戻せなかった魔導経典のこと言ってるのですか?」
「何だと……!」
「気にすることはありません。そもそも、教団の保持する魔導経典はそれだけではないのです。ヴァルムドーレが蘇るために鍵はすでに揃っているのですよ? そう……他ならぬあなたの力で」
青天の光に輝く彼のプラチナブロンド、それはエリツィンにとって、死の色でしかなかった。血の気のない白い肌に浮かび上がる青い瞳は、彼に深海の苦しみと寒さを教える。
ユーゼスが言葉にしていない何かに、エリツィンは底知れぬ恐怖を覚えた。
「ユーゼス……貴様、何を考えている!?」
「合理的な方法です。私は一日でも早く平穏に暮らしたいのです――」
高揚し七芒星が滲み出した右手を彼は握り締めた。
「魂の安息――亡霊なる機兵に支配された世界で」