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ブレイブ・ギャンガー ―星屑の盗賊団と機械の巨兵―  作者: 藤白あさひ
第1章 蘇る伝説と邪竜
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ろくでなしと意気地なし その2

シリウス 劇場広場 付近 高架橋


「……フェンディ?」


 ふと劇場広場の方向を見るなり、エステルはそう零した。


 その後ろではキエル達がぐったりとした表情で橋桁に腰掛け、拾った命のありがたみを噛み締めるのであった。


「それにても、間一髪だったぜ。ヤツらがバニーの存在に気づいてなかったのが、不幸中の幸いだったな」

「問題はここからどう離脱するかです。地図上からして、俺達のいる地点はカヤブ教会から多少の距離はあるものの、劇場広場には魔導騎士団の反応があります。魔術妨害機(マジックジャミング)のせいで正確な規模がわかりません」


「仕方ねぇよ。ここに居続けるよりはマシだ。な? エステ――」


 橋桁に立つ彼女は彼らの背を向けたまま、落ち着かぬ様子で一方向を見つめていた。


「どうした、エステル?」

「フェンディが……フェンディの気配がします……」

「何?」

「どうしたのかしら……胸騒ぎがしてならない。劇場広場から異様な魔力を感じます……まさか巻き込まれているんじゃ――痛ッたぁッ!? あだだだだだ――!」


 突然、肩の上で大人しくしていたはずのバニーが彼女の髪を引っ張った。


 それは無意識にエステルが橋から降りようと鉄筋に手をかけた故だった。それを察知したバニーは、彼女を行かせまいと必死に抵抗する。


 だが、バニーが彼女を止める理由を考えれば、結論を見出すのは容易かった――


「バ、バニー!? 何やってんだ?」

「……バニーちゃん、いるんですね? あそこに、フェンディが!」


 ギクッと、バニーのまん丸な体が逆毛立つ。


 それを見て、エステルは確信した。


「だったらッ!」


 彼女は強引にもバニーの体をたわしのように鷲掴みし、制帽の中に突っ込む。そして、制帽ごとバニーをショコラに押し付けて、


「――行ってきますッ!!」

「お、お頭!?」

「ちょっと待てッ! エステル――お前!?」


 迷いなく彼女は橋桁から地上へ飛び降りた。キエルが慌てて橋桁から下を覗くと、ふわりと風魔法で着地した彼女が、まさに劇場広場へと走り出していったところであった。


「あのバカ! 肝心な時に団長のお前が何やって――」


 と言いながら、キエルは橋桁から半分体を宙に出している自分に待ったをかける。


「……俺も行ったらだめじゃん!?」


 彼が行ったら指揮官は不在。皆にここで待っていろなど、言えるはずもない。


 だが、事態は急を要する。そのことはメンバーも十分承知であった。


「いや、行ってください、副長! このままだとお頭は魔導騎士団と鉢合わせになる……もしも、あそこにフェンディ様とあの坊主がいるのだとすれば、一秒の猶予も残されていないことは事実です!」


 ショコラのアイパッチには、今起こっている事態が正確に映し出されていた。レーダーに映る敵の配置と、人数からして劇場広場で戦闘が始まっているのは確証的だった。


「お前ら……!」


 まだ躊躇するキエルに、メンバーは毅然とした面構えで頷いた。


「てめぇのケツはてめぇでどうにかします。ご武運を!」

「すまねぇ!」


 キエルもワイヤーフックを駆使して地上へと飛び降り、エステルを追った。


 最大の戦力二人が離脱し、不安はないというのは嘘だった。


 しかし、エステルにぞんざいに扱われたバニーは、


『ムキュッ!!』


 ――何しみったれた顔してんのよ、あんた達! あんな小娘放っておいて、逃げんのよ!


 と、まん丸でモフモフした姿に似つかわない、ギロリとした目が彼らに喝を入れる。


 しかし、その直後であった。


「――んぎゃァァァァァァ!?」


 ホットケーキの突如の悲鳴に、一同は仰天して最後尾にいた彼を見る。すると、彼は猿の身のこなしで鉄筋をよじ登り、あっと言う間にショコラの目の前まで逃げてきた。 


「どうした、ホットケーキッ!?」

「あれ、あれ、あれェェ――!」


 蒼顔で問題箇所を指差す。


 一列綺麗に揃って、皆、ゆっくりとそちらへ視線を向けると――顔の筋肉が活動を放棄した。


 どこから来たのか――彼らと同じ橋桁の先には、白と茶のバイカラーの熊。


 等身大の猛獣ビッグベアタンが息を荒げていたのであった――


「あっ……」


 静かに、彼らは顔を見合わせた後、


「――ぎゃあぁぁぁぁぁ!? ベアタンだァァァ!?」


 本物の盗賊も震撼する、それが猛獣ビックベアタン。雑食でとにかく何でも食べる。その爪は安物の鎧を軽く貫通し、牙には一瞬で得物をあの世に送る猛毒を仕組んである。人間の等身大ともなると、ベアタンの中では小柄な部類になるが、それでも人間一人丸呑みし、時には魔法まで使ってくる恐ろしい存在だった。


 当然ながら大パニックに陥る――はずが、


「ん? マップ上には動物園はないぞ?」

「お母さんとはぐれちゃったんじゃないっすか?」

「――え? 怖いの俺だけ?」


 儚い間にして、場は正常に戻る。ショコラやマカロン達は能天気に考察を語り出しているではないか。


 無論、鉄筋にしがみつくホットケーキを差し置いて。


「……おのれぇ! 動物園に帰りやがれェェ!!」


 もう誰も頼らない――ぺしゃんこのエクレア、もとい、潰れたリーゼントを振り乱し、ホットケーキはマシンガンを構え、


「ヒャッハァァァァッ!」


 まさにトリガーに指をかけた瞬間、ビッグベアタンは物凄い勢いで慌てふためく。


「――待て待て待て待てェェェッ!!」


 何てこった――あるはずのないベアタンの中から声が聞こえたのだ。


 黙っていたら殺されると、見切ったベアタンは最終手段として自分の頭部をパカっと外し、中の人を硝煙の匂い滲む風に晒したのである。


 その後、彼らはこぞって口にしたのは罵詈雑言であった。


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