夢見る少女は盗賊団 その1
小さい時、魔導学校の先生は言った。
「昔々、まだ人間が存在する前、この世界は機械の生命体のものでした」
彼らは亡霊なる機兵と呼ばれた、魔力を持つ機械の巨人。人間と同様、亡霊なる機兵は一人一人外見も性格も違い、言語も使う。
膨大な魔力を持つ彼らは、自分の力を誰よりも信じていた。信じるが故に、彼らの本能は戦いを求め、最後の勝利者を目指して日々争いの歴史を繰り広げていた。
その中で、最も有名な亡霊なる機兵がラスティーラと呼ばれる白金の剣豪。
荒々しき気性は、数多の亡霊なる機兵を砂塵へと還し、最強の名に相応しい伝説を歴史に残した。
彼の強さを目の当たりにした亡霊なる機兵は、畏怖の意味を込めて彼を《剣帝》と呼んだ。
剣帝ラスティーラを始め、名立たる亡霊なる機兵は互いに勢力を伸ばし、世界は群雄割拠の物語を形成していた。
だが、そんな彼らの時代も終わりを告げる。
邪竜と呼ばれた、機械の巨大竜が突如彼らの前に現れ、大地を草木の生えないマグマと液体鉄に変えたのだ。
炎を司るその邪竜を倒すべく、亡霊なる機兵は歴史上初めて団結と言う手段を取った。
しかし、邪竜の力は凄まじかった。誰が生み出したかもわからない邪竜の魔力は、多くの亡霊なる機兵の魂を輪廻へと還し、ついに世界には邪竜とハイクラスの戦士しか存在しなくなった。
己の滅亡を悟ったラスティーラ達は、自分達の魂を代償に邪竜討伐を試みた。熱き彼らの願いに魔導の神は慈悲を下し、世界の終わりと共に邪竜をこの世から消滅させたのである。
そして、全ての亡霊なる機兵が、その日を以って滅んだ。
亡霊なる機兵の滅亡を憐れんだ神は、人間を作り、その人間に機械という文明を与えた。彼らを通し、別の形で亡霊なる機兵は今日に生きている。
以上が、サンズ教皇国で一般的に使われている教科書の一例だ。
魔導師としての英才教育を受けて来た私にとって、この伝承は憧れであり、真実であった。
人間がこの世に誕生して、しばらくしての話に戻るが、その折、〈魔導経典〉と呼ばれる亡霊なる機兵神話と七大魔導体系に基づく魔法理論が書かれた一冊の本が発見された。
その教えは今日の魔導師のバイブルであり、世界の真実そのものだった。
1万年前、亡霊なる機兵が強さを求め滅んだのなら、人間は数千年もの間、魔導経典を求め、争いを続けている最中なのである。
魔導経典は自然によって作り出されたものと言われている。
偶然によって生み出された一冊本は長き時を経て、たった二カ国の間で分割保持されるようになった。
一つがサンズ教皇国、もう一つがナルムーン共和国。
二大国の保有ページ数は363対3。この偏りは、一度統括された魔導経典をナルムーンが奪ったためである。
かくして、大陸はこの2カ国間の戦争へと歴史の歩みを進めていた。