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ブレイブ・ギャンガー ―星屑の盗賊団と機械の巨兵―  作者: 藤白あさひ
第1章 蘇る伝説と邪竜
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呪われた記憶 その5

遺跡都市シリウス 南地区 カヤブ教会


「よくぞ! 皆さん、ご無事で何よりです! 疲れたでしょう? ささっ、この教会ならば人目に触れることなどありません。どうぞ、ゆっくりくつろいでくださいませ」


 カヤブ教会は総力を挙げて、スターダスト・バニーの到着を歓迎した。何はともあれ、船から降りてきた彼らは、やっと手にしたつかぬ間の休息にため息をつく。


「かぁー! これでやっと休めるぜ……ナルムーンの動きが気がかりだがな」

「現在、レーダー上には目立った動きはありません。亡霊なる機兵(ファントム・ギャング)等の追撃も奇妙なほどになく、静かです」

「本国に戻るまでこの調子だろう。いや、戻ったところで安心できやしないか……」


 キエルの隣で、ショコラは右目のアイパッチに映された、不自然なほど沈黙を保つレーダーに顔をしかめた。


 そんな警戒心が抜けない彼らを司祭達は気遣って、


「ひとまず、ナルムーンのことは忘れなさい。シリウスの大半はサンズ派の人間だ。例え、奇襲が起ころうとも、ヤツらの好きにはさせませんよ」

「ありがてぇ。じゃあ、俺らもお言葉に甘えて――」

「そうですね、副長。休みましょうか」

「――いや、船体の掃除かな」

「総員、退避ィィィ!! 捕まったら3時間は拘束されるぞォォ!」

「逃がさねぇ――うるァァァッ!!」


 ――ダダダダダダダダッ!


「あの……君達、人の話聞いて――」

「ヤダァァァ!?」


 逃げ惑うメンバーの悲鳴と反則技のガトリングの銃声が、穏やかな雰囲気を一気にぶち壊す。


 せっかくのカヤブ教会の労いもそっちのけで、キエルはレガランスにやられて黒焦げた船体が非常に気になっていたのである。


 しかし、そんな決死の鬼ごっこを繰り広げるメンバーのSOSも、今のエステルには届いていなかった。


 彼女は甲板に座り込み、ぼうっと宙を眺めていた。


 収拾のつかない事態に困った司祭達は、


「エステル殿? もし、エステル殿!?」

「!? うわっ、はい!」


 だいぶ自分の世界に入り込んでいたのか、司祭の声に慌てて手すりから身を乗り出し、船の下を覗き込んだ。


「あの、お掃除も結構なことですが、お茶の用意もできております。皆様とは今後のこともお話ししたく思いますので、恐れ入りますが、降りて来ていただけませんか?」

「あ、ご、ごめんなさい! 今行きますよっ――と!」


 すると彼女は突然、甲板から飛び降りた。司祭達は驚きのあまり声を上げるが、エステルは何食わぬ顔で風魔法を用いて、軽やかに着地をこなす。


 これには司祭達は拍手を送った。


「いやー! 見事なお手前です。噂通りの実力とお見受けしました」

「そのようなこと……どうぞ、はしたない小娘とお叱りくださいませ。国の一大事とは言え盗賊を名乗るなど、サンズの国民に顔向けするのは恥ずかしゅうございます」


 清純派を装い、彼女はこの上ない猫を被った。当然、司祭達はそんなことに微塵の疑いも持たずに、


「何をおっしゃいます! あのレガランス相手にあの程度の船傷で済んだとは驚愕至極。これほど頼もしい味方も他におりますま――」


 司祭は母艦バニーを見上げるなり、目を真ん丸にした。


「はやっ!?」

  司祭も言葉を乱す驚きの早さで、キエルはメンバー全員を拘束し、船体の洗浄とワックスがけを始めていた。


 彼は鬼の形相で、


「おい、マカロン! 指紋つけんな! 手袋つけて拭けッつったろッ! お前の鶏冠引っこ抜いて、ワックスかけたろか!?」

「ひぃぃぃぃッ!? 副長、止めてェェェ! 鶏冠を失ったら、恥ずかしくて街出歩けないんだから!」


 泣き叫ぶマカロンを徹底的に無視し、キエルは甲板からロープで宙吊りにされた彼を容赦なく揺すり、銃口を向けた。


 ドン引きするカヤブ教会の面々にエステルはいつもの作られた笑顔で、


「あ、通常運転ですので放っておいて結構ですよ?」

「…………」


 ひとまず、落ち着くべく司祭は額の汗を拭った。


「しかし、まさか魔導経典のみならず、ラスティーラまで……勝利の神は我らに味方をしてくださっているようですな」

「だと、いいんですが……彼も帰化したばかりで本調子ではありません。私達も予想外の出来事に戸惑うばかりで……」

「そう言えば、その彼はどちらにいらっしゃるのでしょう? あなたの兄君もご一緒と伺っていましたが、二人ともお姿が見えませんね?」


 司祭たちは辺りを見回すが、それらしき姿はどこにもない。


 そう言えばエステルも、ここ1時間ケントの姿を見ていなかった。


「えっと確か、まだ医務室に――」

「お頭ァァァ! 大変ですッ!」


 助けを呼ぶに等しい叫びに振り向くと、船内から運よくキエルの魔の手から免れていたホットケーキが、鬼気迫る表情でリーゼントをガンガン揺らして走ってくる。そんな彼を見て、エステルはぎょっとした。


「ど、どうしたのですか!? ホットケーキ!」

「ヤツが……あのケントとか言う勘定兵士が……逃げちまいましたッ!!」

「ええ!?」


 思わぬ報告に、さすがにお掃除部隊も手を止める。


「どうして!? フェンディもいたはずですよね!? 何で!? 何でそんなことに――」

「お頭、お願いッ――うげぇ! お、お、おち、落ち着いて!」


 全力疾走の彼に息を整える暇も与えず、エステルはホットケーキの肩をとんでもない力でブンブン揺らす。しかし、彼女は何か思いついたようにはっと、動きを止め、


「そうだ……! フェンディは? フェンディはどこに行ったのです!?」

「お頭、それが……それが大問題なのです!」


 兄を探してキョロキョロと辺りを見回すエステルに彼はそう言った。あまりの騒ぎに、ついにキエルも掃除の事を忘れて彼らの元へ降りてきていた。


「ホットケーキ、何があったのか詳しく話せ」

「へい、副長。俺とフェンディ様とで野郎の様子を見に行ったんす。そうしたら、ちょうどヤツが目を覚ましたところで、フェンディ様は現状をヤツに伝えるべく、ヤツに気さくに話しかけたんすよ」

「それで?」


 息を整えて間もない彼に、エステルはグッと詰め寄った。


「そ、そんで……ここはサンズの勢力下で追手も来ないとフェンディ様は説明したんす。ヤツはフェンディ様の説明に安心したようでした。そん時です……問題が起こったのは」

「で?」


 言葉にするのもおぞましいとばかりに、ホットケーキは唾をごくりと飲み込み、重々しい空気の中、その口を割った。


「フェンディ様はこう言ったんす。『それにしてもラスティーラの君とこんな近くで話ができるなんて、僕は最高にラッキーな考古学者だと思う。ぜひ、君にお願いしたいことがあるんだけど、いいかな?』って。するとヤツは言いました。『……な、何すか?』と、少し怯えた感じで。そんでまた、フェンディ様はこうおっしゃいました――」

「まさか……!?」


 勘の鋭いエステルとキエルの絶望的な表情に、彼は頷いた。


「そう。『君の体、じっくり調べたいからバラしていいかな?』っと……バラす(、、、)とは、考古学用語で亡霊なる機兵(ファントム・ギャング)の体を詳細に調べることを言います。しかし、ヤツがこのことを知る由もなく、またフェンディ様も一般人にあらず。天装していない状態で言うもんだから、文脈的に余計ややこしい。その上、運の悪いことにフェンディ様はトイレのドアを修理したばかりで、その手にはバールとペンチ。それを目の当たりにしたヤツは……もう、お判りでしょう?」


 エステルとキエルは目を伏せて、無言で地団太を踏んだ。


「ヤツは自由を求める小鹿の如く、俺達の間をすり抜け、猛ダッシュで船外へと逃げていきました。しかし、フェンディ様はまだご自身が原因であると気づいておらず、バールとペンチを両手に、ヤツを連れ戻すためにシリウスの街中へと消えしまわれたのです」


 いつの間にか、ホットケーキの口調が偉く上品になっていたことはさて置き、そもそものアクシデントの原因が一体何であったのかを考えると――


「フェンディィィィィィィィッ!!」


 寸分たりとも違わない、二人の咆哮が教会の中で木霊する。


 一難去って、また一難。


 とにもかくにも、二人を探さなくては事態が進まない。燃え盛る憤怒の炎を心に宿し、エステルは諜報班のメンバーに彼らの捜索を申し付けた。


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