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ブレイブ・ギャンガー ―星屑の盗賊団と機械の巨兵―  作者: 藤白あさひ
第3章 お宝はミザールにあり!
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エピローグ

ミザール郊外 母艦ニューバニー


「名前はカツラギ・シノ、レグルス出身で暗殺業を営んでいました。特技は殺しと詐欺と営業スマイルで、家事全般は得意です。皆さま、よろしくお願いします」


 白い肌、真っ直ぐ切り揃えられた前髪と、三つ編み。艶やかな黒髪に劣らない黒い瞳がにっこりと笑うと、艦内は春一色の空気に満ちる。

 もちろん、野郎どもは誰一人い異議を唱える者はなく、


「よろしくお願いしまァァァァすッ!!」


 気合の入ったご挨拶でシノを歓迎した。

 だが、今の自己紹介にツッコむものが誰もいないと言うことに、副長であるキエルは全身全霊を以って異議を唱える。


「待てェェェ!! 全っ然、かわいくねぇぇよ! サスペンスの匂いしかしねぇよッ!?」


 そう言っている間にも、向こうでシノの黒い微笑みが光る。やはり怖い女だ。

 シノとの戦闘も経験したキエルは彼女の本性を知っているために、スカウトにはかなり慎重であった。そのせいか、ケントとエステルがこの話を持ってきて以来、ご機嫌がよろしくない。


「まあ、まあ、キエル落ち着いてください。今のはおシノさんなりの冗談ですって! 営業スマイルができれば十分じゃないですか」

「営業スマイルって……明らかにその前の二つに因果関係があるだろうが!? 俺は絶対認めない、絶対作った飯とか食わないから!」

「何でしょう……私、蔑まれているのにドキドキしてきま――」

「おい、無敵だよ。どうするんだよ? 歩く18禁の匂いしかしねぇよ!?」


 ポッと顔を赤らめるシノに、キエルは助けを求めるがごとくエステルを揺さぶるが、もはや乗船させてしまった以上、頭領と言えどもどうすることもできなかった。

 と、言うよりも……エステルの場合、やっとできた同性の仲間であるため、手放したくないと言う思いが強かったのだ。


「いいじゃないですかッ! むさっ苦しいんですよ、女子のいない空間なんて!」

「バニーと俺と言うお母さんじゃ物足りないんか!?」

「――それ自分でいいます?」


 何はともあれ、珍しく落ち着きがないキエルであるが、それはもと凶悪犯である故の警戒心故なのであろう。エステルが無駄とわかると、今度はケントに突っかかり、


「ケント~! お前、水商売の女はあれほど信用するなと……!」

「で、でもさ! シノさん、掃除すごい得意だし、エステルの部屋もうピカピカだし……いてくれた方が潔癖症的にはいいって!」

「なっ……」


 ピカピカという言葉に、潔癖症のキエルの心が大きく揺らいだ。その様子に今がチャンスと、エステルも畳みかけるべく加勢する。


「それにさっさと逃げたフランチェスを呼び戻すお色気要素になります! だって本物の夜の蝶ですから、ねぇ? シノさん!」

「はい。ご要望あらばキャバクラからホステス、メイドカフェにSMバ――」

「やーめーてッ! ダメだ、最後までしゃべらせるのが怖い! お前もいい歳なんだから、未成年がいる場ではわきまえろよ……!」


 クシャクシャっと自慢のドレッドヘアを掻き上げるキエルに、シノは困惑したように首を傾げた。


「はて……よくいい歳と言われますが……どのくらいのことを言うのでしょう? シノは最近、二十歳になったばかりですので、その辺りの加減がわかりませんでして……」

「え!?」


 その言葉に一同はぎょっとした。


「え……キエルと同じか、それより上かと……思ってたのですが?」


 意味不明に手をあたふたさせるエステルに、シノは吹き出した。


「よく言われるんです! 歳の割に冷め切っているせいか、だいぶ年上に見えるそうです。でも……ケントさんは気づいていましたよね?」

「ええ、僕の年上センサーは伊達じゃありません」


 ――聞いてねぇよ。


 だが、年齢とは不思議なものだ。キエルは自分より上か、同じくらいと思っていたために、危険な忍と認識が強かったが、4つも下とわかるなり見方が変わった。

 歳の割に、苦労が絶えなかっただろう――気にくわないが、僅かに抱いた同情の念に、頭に上った血がクールダウンしていった。

 そして、


「……まあいいや」


 急に静かになった彼は、ドカッと副長席にもたれかかった。


「言っとくが、妙な真似したらまた胸元に風穴が空くぜ?」

「……心しておきます」


 そう、頑固な背中にシノは深々と頭を下げた。

 これで一件落着と、エステルはケント達を一望し頷く。


「それでは……新たにおシノさんを迎え、船はウェズンへ向かいましょう!」

「承知ッ!」


 足早に配置につく盗賊達、そのチームワークの良さと温かみのある人柄を目の当たりにし、シノは心から神の導きに感謝した。

 ――よかった、この人達で。

 その傍らでケントは鞘に納められたままの愛刀エンプレスを掲げた。シノと目が合うなり、彼は頷いて、


「見ていてください、もっと強くなりますから……!」

「ふふっ……その前に魔導操作を何とかしましょうね?」


 ごもっともだと、ケントは苦笑した。

 それから間もなくして、ニューバニーはついにミザール自治権外を離脱したのであった。


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