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ブレイブ・ギャンガー ―星屑の盗賊団と機械の巨兵―  作者: 藤白あさひ
第1章 蘇る伝説と邪竜
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プロローグ

 神様、俺は平凡な人生が望みでした。


 俺の故郷、アルデバランはご覧の通り緑豊かな田園都市です。剣と魔法の旅路を行く勇者達が数多く疲れを癒しに足を止める、大陸きってのスタイリッシュど田舎であります。


 そんな平穏な街で俺は今日まで、いえ、ほんのさっきまで、しがない軍の事務職として変わらない日常を悠々と暮らしていました。


 家柄もなく、魔法も使えない――それで十分でした。一般人としてのハンデがあったからこそ、俺は最前線に連れていかれることなく、事務職として何にもない日常を全うしていられたのです。


 平凡という最高の生活環境を、約17年間も俺に与え続けてくれたことを感謝してないわけがありません。家族も友人いるし、寝食には困らない。この戦乱のご時勢にそれがどんなに恵まれていることか、よくわかっています。


 よくわかっていますが、一つだけお願いがあります。


 平凡に飽きたからって、人の身体をロボットに変えるのはやめてください―― 


   



アルデバラン 中央官庁通り


 闇夜の国立博物館前で、邪な機械の高笑いが反響する。二体の機械巨人がいがみ合い、まさに戦の火蓋は切って落とされようとしていた。

 

『――まさか、伝説の〈亡霊なる機兵(ファントム・ギャング)〉とこんなところで再会するとは! 教団に無理やり前世の記憶をほじくり返された甲斐があったというもの……!』


 そう言ったのは虎っぽいカラーリングの機械巨人だった。全長4mでゴーレムのような等身。それが政府主要機関が並ぶ通りを遮り、両手のダガーを大きく構える。対峙するもう一体への敵意は尋常ではなかった。その放たれる殺気に誰もが息を呑み、戦の成り行きに心臓を早まらせていた。


 この虎っぽい、オレンジと黒の装甲をギラつかせた機械の巨人こそ、傍若無人、評判最悪のアルデバラン魔導騎士団団長その人である。


 前もって言っておくが、そもそも彼はロボットに乗っているわけではない。この4mの虎型ロボットは元々ロベルト・シューインという、魔法も剣も超一流の魔導騎士であり、れっきとした人間である。


 人間が機械に変身する――実に馬鹿馬鹿しく信じがたい出来事であるが、この異世界ではそれが戦士として最高のステータスになるのだ。


亡霊なる機兵(ファントム・ギャング)〉――この機械生命体の総称である。


 古代、世界は機械の巨人が掌握していた。その前世を持つものが、こうして人間として生まれ変わった現世でも、当時の姿に舞い戻ることができるのだーー


『錆びついた瓦礫がよくもまぁ……しゃべることよ!』


 虎型に対峙する白金の亡霊なる機兵(ファントム・ギャング)は、嘲笑うかのように鋼の身体に山吹色の光を纏う。魔力を増長させているのである。


 その言動に虎型は不快感を露わにした。


『何だと……貴様!』

『もう一度殺してやる。今度は一片の魂すら輪廻の営みに戻れぬようにな』


 白金の機兵は余裕に満ちた笑い声と共に、ユニコーンのような角が特徴のフェイスマスクを揺らした。


 だが、白金の心の中は事情が違う。鋼のボディに隠されたもう一つの人格。そいつとの洒落にならない葛藤が起こっていたのである。


 ――ちょッ!? 待て待て待て!?


 それは白金の機兵と全く同じ声だが、非なるもの。誰にも届かぬ少年の叫びが、巨人の心に悲しく木霊した。


 この物語の主人公ケント・ステファン本人である。彼も虎型と同じく、ひょんなことから前世の記憶を思い出す至った、不幸なんだか幸運なんだかよくわからない17歳の一兵卒で、アルデバラン一般師団所属だ。つまり、元は味方同士なのである。


 こうなった過程は後々露わとなるが、ケント場合、さらに厄介なことが一つある。


 それはたった今、亡霊なる機兵(ファントム・ギャング)として帰化したことである。


 自分の意志とは裏腹に、鋼鉄のマスクから零れた皮肉にケントは肝を冷やす。反抗しようとしても、気性の荒い前世の人格に現世の自分が食われている以上、彼ができることなどありはしなかった。


 闘争本能に従い、白金の機兵は雷魔法の構えを見せる。

 

 だが、この場に居合わせたのは彼らを取り囲んでいる生身の魔導騎士だけではない。一連の事件のきっかけとも言える――盗賊団。その頭領たる少女は驚嘆の余り白金と虎の両者を見比べた。

 

「嘘でしょう――彼がラスティーラ? あの伝説の亡霊なる機兵(ファントム・ギャング)がこの世に蘇ったというの!? 棚からぼた餅どころの騒ぎじゃないです……!」


 奇跡だと、彼女は真紅のボブヘアをクシャりと握る。その目に映る白金の亡霊なる機兵(ファントム・ギャング)は、彼女がずっと探し続けていたお宝そのものであった。

 

 虎型は彼女達にとって倒すべき敵――ならばそれに対峙してくれた白金の勇者は、彼女達にとってこれ以上にない希望の星なのだ。


 一触即発の状況下。ついに2体の亡霊なる機兵(ファントム・ギャング)が、互いの力をぶつけ合わんと機械の足音を立てる。


 虎型の亡霊なる機兵(ファントム・ギャング)、ギルタイガーは殺気に満ちた雄叫びを上げて、


『ラスティーラ……貴様ぁぁぁッ! 万年に及ぶ恨み、今生で果たさせてもらう!!』


 牙の如くダガーを構え、猛進した。


 それに対し、白金の機兵は――


『呪うが良い己が運命を。砂塵に還れ、ギルタイガァァァッ!!』


 闇夜をかち割る稲妻の閃光。白金の右手に強烈なプラズマを宿し、その拳で猛虎を貫かんと駆けだした。


 数秒後、凄まじい金属音に魔力が激突。建造物の窓ガラスが一気に砕け、魔力の混じった竜巻がそれを夜空へと吸い上げた。


 蘇る、古代の因縁。その時すでにケントは完全に()に帰化していた。


 前世の名は〈ラスティーラ〉。魂の奥に潜んでいた彼の凶暴性に飲み込まれ、実戦経験皆無のケントはあろうことか、アルデバラン師団最強の男に善戦するのである。


 だが、神は残酷だった。平凡を望む彼の名を否定し、前世の名を皆に呼ばせた。


 もう誰も、彼を一般人として見れくれる人間はいない。


 神が今更彼に何をさせようとしているのか、それは誰にも分らない。


 ただ言えるのは、遥か過去の呪縛が平凡を生きようとするケントから夢を奪い、宿命を押し付けた。


 不穏ではあるが、新たな伝説の幕を上げに、アルデバランの夜は激しい戦火で飾られるのである。


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