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異世界転生チートさせてください……

十数年ほど前、VRMMOが登場し人々は狂喜した。

歳を取った老人は動きが悪くなった身体ではなく、仮想空間の中とはいえ、自由に動き回ることのできる身体を求め、また若い時に嵌ったゲームの世界を楽しむためにプレイし始めた。

仕事に疲れた中年サラリーマンは、一時の癒しを求め、仮想空間での生活を求めた。

また女性は自らの顔や身体を自由に設定し、チヤホヤされることができる環境を求め、手足に障害を持った人は自由に動き回れる世界を求め、今の環境に不満を持った若者は今とは環境の異なる新たな世界を求めた。


相次ぐアップデートでどんどんとVRMMOの世界は進化した。多くの巨大企業が利益を見込めるとのことで動き出したのだ。


これまでは単に動き回り冒険できるだけだったのが、味覚を感じる機能がついたあたりから雲行きが怪しくなり始めた。そう、現実の世界では質素な食事しかせず、その分VRMMOの世界で豪勢な食事を楽しむ人が現れだしたのだ。


またNPCに人工知能が搭載され、まったく人と変わらないようなしぐさ、言動が行えるようになった。彼らは、プレイヤーにとって知らない隣人よりはるかに身近な友、いやそれ以上の存在となった。対人関係に問題を抱えた人はさらにその世界にのめり込んだ。


さらにとある企業は18歳以上しか遊べないVRMMOにおいては性行為機能の導入に成功した。これには色々と批判が多かったが人の欲望とは尽きぬもの……できるのであれば導入する、それは人の欲望からすれば当然の流れだった。


衣食住、人との触れ合いそして性欲。それらが満たされれば、多くの人は満足する。プレイヤーにとっては現実と何ら変わらない。それどころか、容易にお金を稼ぐことができ、美食を味わい、友と語らい、美女美男子と夜をともにする、結婚さえでき、二人の愛の結晶とまで言える子どもができるVRMMOの世界……この世界こそが彼らにとっては現実になったのである。


当然だがそれによる弊害が発生した。


まず、VRMMOをプレイする人の多くが現実世界では最低限度の生活しかしない。社会における消費活動の麻痺だ。娯楽も食事も現実の世界には求めない、結果多くの企業が倒産に追い込まれ、VRMMOで多大な利益をあげる巨大企業を除き、世界的な大不況が発生した。


次に世界的に見て婚姻数と出生率が大幅に減少した。

学習し続ける人工知能と理想的な容姿を持ち、自分に好意的なVRMMOの美男美女の方を配偶者とし、現実には婚姻せず、子作りも行わない世代が急増したのだ。


この事態になって、ようやく世界の国々の政府が動き出した。

これまでは巨大企業から多大な献金を受けていた議員や政党が黙認していたものの、さすがに人類の危機を見過ごすわけにはいかない。


まず、多くの国において、プレイ時間の制限が設けられた。

ゲームは一日一時間、100年近く前によく家庭でも言われたお約束だ。

実際の生活をこちらの現実に戻してしまおうという方法だ。


ただし巨大企業もさすがだ。他を規制するのはいいが、自分たちの利益になっているVRMMOを規制されてしまえば、これまで入ってきた利益が、これまでVRMMOを築くために投下し続けた多大な研究費用が無に帰されてしまう。


そこで巨大企業は連携して技術開発を行い、脳の負担を減らし、1時間のプレイ時間で60時間プレイできる世界を築き上げることに成功したのだ。1時間で2日半遊べるVRMMOの世界、これにより時間に余裕がなかったユーザーも遊ぶようになり、さらに多くのユーザーが殺到することになった。


これには各国政府も大激怒。それならと1日10分だけのプレイしか認めないという法案、さらにNPCと恋愛、性交渉を行うことを禁止する法案、さらにVRMMOでの飲食の味覚機能を禁止する法案を次々と通そうとした。


その結果、巨大企業と政府間の間で恐ろしい闘争が行われるかとも思われたが、各国の政府は共同でこれまでに費やした研究費用+将来的な予想利益の5年分の金銭でこれらのVRMMOを買収する契約を結び、巨大企業としてもこのまま人類が減少し続ければ、拙い自体が起こるのは当然予想できたので結局のところ法案成立を認め、その法案が成立することになった。そして、VRMMOは世界の国々が管理することとなった。


その結果、VRMMOはNPCとの恋愛、性交渉を禁止し、飲食の味も楽しめない味気のないものに変わり、一日の体感ゲーム時間も6時間までに制限されることになった。これまで嵌っていたユーザーたちの熱も急速に冷め、ようやく世界に平穏がやってきたように思われた。


だが、一部の者たちには深い失望を残した。その結果、VRMMOに嵌っていた者ほど気力を失い、無気力に生きるものが増えたのだ。その数、人口の約5%。無気力に生きる者の中には普通に働くのを拒むだけではなく、安易に犯罪行為に走る者まで出てきた。そして経済活動や治安に多大な悪影響を及ぼしだした。


それから数年後、ネット上では一つの都市伝説が生まれた。


無気力に生きているものの中に異世界転生チートの招待状が届くと……





ケースA


真っ白の空間……


家具もほとんどなく、人らしき姿をしたものが二人存在する。


一人は寝ているようだ。その寝ていたAはようやく目覚めると今まで自分は部屋にいたはずなのにと驚いたが、頭が回転し始めると、嬉しそうに叫んだ。


「やった~!!都市伝説は本当だったんだ!!!」


そして、もう一人の男に声をかけた。

もう一人の男は温和そうな顔をした学者のような男で真っ白の白衣を身にまとっている。


「あなたが、神様ですか?お待ちしてました。早く俺を異世界転生チートさせてください!」


男はAに話しかけた。


「いえいえ、私は神様ではありません。いわば、神から依頼された管理人のような者です」


「そんなのなんだっていいんです!早く異世界転生チートさせてください!」


「わかりました。それではスキルや才能選択を行っていただきましょうか」


空間にさまざまなスキルや才能が表記された。


「うわ~すげえ~何を選ぼうかな。とりあえず経験値2倍に魅了、魔法全属性、ステータスアップ……あれ、選べませんよ?どうなってるんですか?」


「おや、ポイントの方はどうなっています?」


「ポイント?」


Aはスキルや才能が表記された上の方を見ると、Aの名前の横にスキル10ポイントと書かれていた。


「こんな10ポイントだけじゃ何も選べないじゃないですか!!嘘つき、もっとポイントよこせ!!初級の魔法を覚えることくらいしかできないじゃないか!!」


Aは顔を真っ赤にして、大声を出した。


「おやおや、スキルポイントが10しかないんですか。それは困りましたね」


「困りましたじゃありませんよ。こっちが困ってるんです。これじゃあ、異世界転生チートなんてできないじゃないですか!?」


「そうは言われましても、これは規則で決まってることですし」


「規則、規則ってなんですか?」


「いわゆる現世における善根功徳ですか、犯罪を行わない、社会に好影響を与えるなんかによって、加算される物なのです。あちらの神達としましても、できるだけ良い影響を世界に与える者が好ましいですからね。単なる退屈しのぎで異世界転生させようって道楽なんかじゃありませんよ」


「なんで、俺はそんなにポイント低いんですか!!」


「えーっとAさんはっと」


そう言って白衣の男は手をさっと動かす。

Aの前にAの経歴が映し出された。これまでAが生きてきた形跡だ。


「え~Aさんの場合はこれまで重犯罪には手を染めたことがありませんね。素晴らしい、ただ……それだけですね。社会への好影響などは皆無のようですし」


AはVRMMOに嵌って以来、最低限度のバイトしかしていなかった。

項垂れたAは白衣の男に質問した。


「俺はどうすればもっとポイントもらえるんですか?それと、今選ばずに死んだ後にでも異世界転生させてもらうことってできるんですか?」


「仕事を真面目にこなし、人にやさしく、家庭を築く。こういった人としての当然の営みが善根功徳になるんですよ。それと死後、皆新しい世界へと飛び立っていきます。場合によっては今まで自分がいた世界で生まれ変わるといったケースも当然ありますが、その場合でもスキルポイントなどが存在しますよ」


白衣の男はAに優しく説明した。


Aは異世界転生することなく、現世に留まることを選択した。





ケースB


BもAと同様だった。ただし、BはAと違って、これまで軽犯罪を何度か行ってた前歴があったため、スキルポイントは存在しなかった。


「俺が行くのはどんな世界だ?」


Bは管理人を名乗るものに偉そうな態度で聞いた。さっきまで散々管理人に文句をつけていた態度から、まるで変わっていない。


「えっと、そうですね。Bさんの行く世界は、中世ヨーロッパ程度の文化を持った世界ですね。モンスターが躍起する世界でもありますし、今回は辞退されるのも良いと思いますよ」


「ふん、俺はラノベや現代知識を豊富に備えてるんだ。たとえ、スキルなんかなくたって、異世界転生チートしてやるよ」


Bは自信満々にそう言い切り、異世界転生を希望した。


その結果Bが生まれたのは、貧しい農村だった。貧しい農夫の3男に生まれながらも、Bは子どものころから人生を楽しんでやろうと頑張った。割と子どもにしては早い時期に初級魔法を覚え、魔力量アップのために練習した。ただし、モンスターを倒して経験値のようなものを得られなかったため、さほどステータスはアップしなかった。


Bは農村で現代知識の使用を試みたが、ほとんど農作業も手伝わない子どものBの言うことなど誰も信用しない。嘘つき少年扱いされたBは15歳になるとボロボロの銅剣を手に持ち、一攫千金を夢見て街へ向かったが、途中でゴブリンの集団と遭遇し、惨殺されることになった。まさに猫がネズミを嬲るような酷い死に方だった。


「俺は……」


気が付くとBの目の前には白衣の男がいた。


「おやおや、残念でしたね」


「なんであんたはここにいるんだ?」


「あなたが異世界に行っても、すぐ死にそうだと思いましたのでサービスとして、死んだあとはすぐこちらに残っていた肉体に戻ってこれるようにしておきました。ですが、これはサービスでしたので、次はありません」


今の自分じゃ異世界で何もできないと思ったBは以前生きていた世界に戻り、もう一度人生をやりなおすことを白衣の男と約束した。




ケースC


Cは数少ないポイントで物作りの才能を得て、異世界へと飛び出して行った。


もともとフィギアなどを作り、手先の器用さに自信のあったCはある王都の民として生まれた。


Cは早熟な子どもとして便利なものを作り、名前が知られ始めて、富を得る一歩手前まで行ったものの、彼が作ったものはその国の国教の教義に触れ、しかも1歳から大人のような口調でしゃべっていたことがばれ、悪魔として火あぶりにされることとなった。


CもBと同様のサービスを受けていたものの、もう一度やれば、今度こそうまく行くと主張し、彼は二度目の異世界転生を希望した。


その後、彼の姿を見たものは誰もいない。




ケースD


Dはもともと料理人だった。これは味覚を発達させるスキルと調理の才能を得て、異世界へと飛び立っていった。


これならうまく行けば、世界に名を残せる料理人になりえた可能性もあった。


ただ、彼は運が悪かった。街で貴族の馬車を横切ってしまったために料理のために必要な手を切り落とされたのだった。


料理ができないことに絶望した彼は乞食同然の生活を行い、そして死んでいった。


彼が管理人の前に戻ってくると、長い間料理ができなかったことためか料理への情熱がよみがえり、以前いた世界へと帰っていき、小さいながらも素晴らしい料理を出す店の一国一城の主となった。




ケースE


Eは実に運が良かった。異世界転生で伯爵家の長男として生まれることができたのだ。


その結果、Eは幼いころからメイドや使用人に手をだし、ハーレムを築いて放蕩した。


伯爵であるEの父や、Eの教育係が何度注意しても、Eの素行は治らなかった。


一方Eの弟である次男は実に優秀で品行方正だった。


放蕩を繰り返し、領民を傷つけ、処女を無理やり犯し、欲しい女の恋人を殺すことを何度も行ったEは成人を迎えた直後に領内にとある村に女を漁るため、一人で遠乗りした際に落馬し無残に首の骨を折り死亡した。そして、その死体は見つけた領民どもに滅多刺しにされた。


Eの父である伯爵は廃嫡するよりもEが死ぬことで領民感情を和らげることを選択したのである。


Eは他のB~Dと違って、甦りのサービスをつけてもらえなかった。


彼が死んだところで誰も悲しむものはいなかった。そう異世界だけではなく、地球における彼の両親や、知人の誰も悲しまなかった。




ケースF


異世界に転生したFは勤勉だった。もう一度人生がやり直せるという喜びから、彼は幼少時代から大人の言うことを聞き、仕事の手伝いに励み、夜、皆が寝静まった頃、一人で起き、剣や魔法の訓練を繰り返した、また日中も時間があれば近くの森で狩りを行い、少しずつ経験値を蓄えていった。


その結果、彼は15の時、村を襲撃したゴブリンの群れを一人で討伐することに成功し、村の英雄となった。


彼は村長の孫娘と結婚し、幸せな一生を送り、また自身が村長になった際にはこれまで表には出さなかった現代知識の中から使えるものを上手く使い、村を発展させ、村には彼の死後、銅像が作られるほど慕われ、多くの子や孫に囲まれて老衰した。


Fが死んだあと、彼は目が覚めると自分が前の世界の自分の部屋にいることに気づいた。


彼は長い夢を見ていたのだと考えた。だが、それでも一つの世界を生き抜き、また年を取ってからはなかなか身体を動かせなかった反動からか、彼は現代でも真面目に仕事をし始め、そしてここでも遅いながらも結婚し、幸せな家庭を築くことができた。




ケースG


Gは異世界で生まれてすぐ奴隷となった。


彼は何度も奴隷から這い上がろう、逃げ出そうと試みたが、ことごとく失敗に終わり、彼の主人である商人から鞭を打たれ、腐りかけの食事しか与えられず、成人することもなく死んでいった。


Gはもう一度異世界に行くチャンスを与えられたが、泣いて前の世界に戻りたいと懇願した。


不満はあっても、平和で奴隷になる心配もなく、働きさえすれば餓死することのない前の世界にGは戻りたいと願った。


彼は目を覚ますと自分の部屋で寝ていることに気づき、大喜びした。


その後、彼は熱心に仕事をし、いつしか自ら会社を設立し、富を築くことに成功した。


彼は晩年インタビューで成功の秘訣を「人間死ぬ気になればなんでもできる。どれだけ苦労した人生を送ったかによって人の人生なんてがらりと変わるものだ」と答えた。




異世界転生チートの招待状が送られるといった都市伝説がネット上で流れ始めて、数年後、新しい都市伝説が生まれた。


異世界転生チートをしたければ、今を一生懸命生きる


そういう内容の都市伝説だ。無気力になった人の中にはそれを信じる者も少しずつだが現れ始めた。


実際に経験した、体験したというものの書き込みが何件も何十件も続いたことも一つの要因だろう。






ここは家具もない真っ白な空間


管理人と名乗った男はため息をついている。


「いくら高収入だとはいえ、正直気が進みませんね」


そう言って、彼が真っ白な空間を開くと、そこには横たわり、頭にヘルメットのような機具をつけられ、血管から栄養剤を注入されている人が何百人もいる。


「国も酷いことを思いつく。まさかVRMMOを用いて、人生をやり直させようとするなんて」


そう、管理人と名乗る男は実は国に雇われて、無気力になった者の再復帰を促す仕事についていたのだ。


無気力になった者に死後への期待を持たせ、社会活動を営ませる。


その説得に応じないものにはVRMMOで異世界での一生を経験させてみる。そして、異世界転生などより、今を生きることを教える。また独力で成功した者は成功した者で自信を持って、社会に返す。


その上で異世界で酷い目にあったりしても現世に戻ろうとしないものや、異世界であまりにも横暴な行動を行い、社会復帰はまず不可能だと判断したものは秘密裏に処分していく。


世界の国々が総力を結集させた数年の開発でより短い時間で長くプレイできる、ほぼ1000倍にまで時間を操作することに成功したのだ。160年以上のプレイ……現実における約2か月のプレイを行った場合はほぼ間違いなく死亡するらしいが。


これはどうやら、異世界転生の招待状を出す者の家族から許可を取っているようだ。確かに行方不明者が続出すれば、大騒ぎになることだろう。異世界で一生を体験させるだけならともかく、秘密裏に処分しているこの国、いや多くの国の暗部を知られるわけにはいかない。



そして、この真っ白な空間を演出するために建てられたとある山奥の建物の地下には多くの小さな墓がある。


その墓は名前すら記されることのない無縁仏だ。



「ふう」


男はため息をつきながらも、今日も仕事をこなしていく。


一人でも多くの者が社会に復帰し、健やかな人生を送れることを願って。

VRMMOが現実に普及されれば、どういったことが起こるのかを想像して書いてみました。かなり適当です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「A/Bエクストリーム」思い出した。
[一言] マトリックスの世界みたいに感じました。
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