第1話:結婚式
豊かな日本、自然と遊ぶ子供たちの姿と成長を描きます。
高麗家の結婚披露宴が始まる。
高麗家が所有する式場で教会式の挙式と披露宴がおこなわれる。
「あと30分ぐらいかしら…」
英子はウエディングに着換え、待合室でウッド・チェアに腰かけていた。
眼の前のステンドグラスに天使がほほ笑み、笛を吹き、壁を彩っている。
グラスを支えている土台に茶の柱、茶の石、茶の漆喰。
昇り上がるステンドグラスの間に間に、グラス・ブロックが明るく並んでいる。
ステンドグラスがひい、ふう、み、ようと並ぶのを英子は眺めた。ステンドグラスには神々の豊かさがほほ笑む。そのほほ笑みの曲線の中央で、英子は式典と披露宴を待っていた。
ウエディング・ベールをとおして見上げると蒼天の中心には、天におわします父と母が手を重ねてほほ笑んでいる。
英子は幸せのありようを見ていた。
左手には脱いだ白無垢、右手には披露宴の朱のドレス。
その間で、英子は衣替えをおこなった。
文金高島田を解き、ウエディング・ドレスに着替えた。
女中とウエディング会社のお手伝い、4人が手早く進めてくれた。
英子は、言われるままに手を挙げ、足をおろしていた。
ウエディング・ベールをかぶると、女中頭の遥を残して、3人が部屋をでていった。
廊下を抜けて式場と披露宴の会場につながるドア、そこに女中頭の遥が立っている。
英子は、幸せの中で時を待っていた。
あと25分ぐらいなのかしら。
わずかに流れるのは讃美歌みたい。ドアの向こうかしら、それとも天井からなのかしら、わずかに流れる曲相に人生の喜びを深めていた。
披露宴の前、家族の顔、友の顔、思い出していた。
姿を映すスタンド・グラスには、白いレースを被る姿がうっすらと見える。
指先から肘にかけて白い手袋が包む。裾下に見える白いハイヒール、きれい。本当にきれいだ。すきとおるようにきれいなの。
幸せを感じていた。
右手には、後に着る朱のドレス 左手には内掛、無垢の和服が飾られている。
が飾られている。
花。薔薇、桔梗、女郎花、霞草……、湧き上がるように拵えられた花束とネームプレートの飾りが、いくつあるのだろう。数を数えることが難しいのは、ウエディング・ドレスが重いからだけじゃないわ。
英子は、花束のひとつひとつに、ありがとうを伝えながら、体の芯がとろけるように疼いているのを感じていた。
英子は幸せの中にいる。
ドアの向こうからノックがあった。女中頭の遥がドアに向かって歩くのも英子には見えていない。
黒のドレスに黒のタイツ、黒のローヒール。軽くアップに揚げた髪。女中頭の遥が、50歳前半の透き通った一重の眼で、ドアの向こうを見ていた。