第一話「怪しい転校生」
タイトルコール
主人公
滝沢雄介
十返舎一 為永康太
式亭義剛 山東京也
"The Humbles"
第一話「怪しい転校生」
歌川小町は、自身が所属する吹奏楽部でいじめを受けていた。風の噂によると、新入生なのに加害者である先輩より演奏が上手いからだそうだ。
その日もいじめられた。楽譜を隠されたり、ゴミを投げられたり。彼女が吹くトランペットを乱暴に扱われるということはないところを見ると加害者達には小町をいじめるにあたって越えてはいけないラインがあり、楽器を傷つけるのはそのラインを越えるということにつながるようだ。彼女は部活外では明るく振舞っていた。彼女は周りの人に心配をかけたくなかったのだ。だが一部の生徒は皆、小町がいじめられていることに気づいていた。でも誰も告発しなかった。言い出す勇気がなかったのだ。
小町は最初こそ辛かったものの、入部当初からやられていたのでもう慣れていた。
人間は痛みに慣れてしまったらおしまいなのだが。
というわけで、彼女はその日も『いつも通り』いじめられて帰途についた。だが、一つだけ『いつも通り』ではなかったことに彼女は気づいていなかった。
窓から、怪しい雰囲気の少年が部活動の様子を見ていたのに気づいていなかった。
※※※
「ちょっといいですか?」
小町は驚いた。暗い帰り道で急に後ろから話しかけられたからだ。
「は、はい...」
振り向くとそこには、少年がいた。
猫背気味の顔が整った背が高い少年が。
猫背気味の少年が暗闇で話しかけてくるという時点でもう怪しいのだが、彼の低めの声と黒のコートとハットがさらに怪しさを演出していた。
小町は身構えた。
「あなたは...、幽崎高校の生徒さんですか?」
「は、はい...」
「初めまして、僕は『滝沢雄介』といいます。明日から幽崎高校に転校することになって...、今『下見』の帰りなんです」
「へ、へー、そうなんですかぁ...」
「どこらへんに住んでいるんですか?」
「な、なんでそんなことを?」
「いやぁ、いざというときのためにですよ。
...教えてくれませんかねぇ」
小町は思った。この少年はなんとなく危険な感じがすると。
「...信用できませんか、僕のこと」
「え⁉」
「やっぱり無理なんですよね、僕のような奴が同世代の人と話すなんて。前の学校でも『気持ち悪い』っていじめられたし...」
「あ...」
「いいです、ありがとうございました。引き止めてすみません」
「ちょ!ちょっと待って!!」
「はい?」
「東区!私、東区の辺りに住んでるの!名前は歌川小町!」
「『歌川さん』ですか」
「呼び捨てでいいよ!タメ口でもいい!私、あなたのこと気持ち悪いなんて思ってないから!」
小町は放っておけなかったのだ。彼は自分と同じような境遇にあった。そして、今またそうなるのではないかと恐れている。それを放っておけなかった。
「そうか...それじゃあ、よろしくね。『小町ちゃん』」
「うん!」
小町はそう言って再び帰途についた。彼女は自分の心が少し明るくなったように感じた。
だが、彼女は気づいていなかった。聞こえていなかった。自分の後ろで彼が小さい声でこう言ったことを。
「第一関門クリア。単純なカモだぜ」
次回に続く。