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始まり





―――――潮騒。



寄せては返す波の音に合わせて、風が子供達の髪を揺らした。

見渡す限り視界は青、蒼、碧。


波打ち際で細波に洗われて白い骨格を見せた珊瑚。

命の代わりに砂と時間を詰め込んだ貝の死骸。



こつごつとした岩があちこちに顔を出す浅瀬湾。脛の中ほどまで海水につかった二人の足下を、虹色に輝く半透明のゼリーソードが掠めていった。

光を乱反射する水面のきらめきが、遠浅の海底に陰影を描いている。


見渡す限り何処までも空、何処までも海。視界一面の青、蒼、碧。


ここは惑星オセアナ。碧の楽園。そう謳われる常夏の星だった。この星の子供達は太陽を白く描く。

降り注ぐ陽光は永遠の夏。極楽鳥花の咲き誇る、色鮮やかな南国は見渡す限りの青。



午後の日差しの中で、子供達の歓声が水面に反射した。一人は少年で、一人は少女。


少年は黒髪に日焼けした肌、サファリパンツの膝小僧に傷跡。いかにも腕白少年と言った風情の闊達な表情。

少女は煙のような灰金髪。白地に紺の線が入ったマリンルック。膝上丈の白いプリーツスカート。


二人揃って空を見上げる瞳は海のような碧。潮騒の響く渚を映す碧、蒼、青。オセアナの碧だった。


「あっ……」


幼い声を上げたのは、二人同時だった。

悪戯な風が、少女のマリンハットを浚っていった

追いかけようとする少女を制して、少年が駆けていく。

その後ろを、少し遅れて少女が走る。


二人の背を、潮騒と風が包んでいた。




   ***

   

  

水を跳ね上げ、追いかけたマリンハットは、一抱えほどの岩に引っかかって止まってくれた。

少年の膝半ばの、浅瀬に顔を出した乾いた岩。このあたりでよく見かける小さな白と黒の水鳥が、お辞儀するようにのぞき込んでいる。

曲がった長く細いくちばしと脚は黒。片足をあげて立っているその鳥に、まるで卵よろしく守られているような帽子へ、少年はそっと手を伸ばして拾い上げた。


これはあの子のお気に入りなのだ。濡れてしまわなくて良かったと、彼は安堵する。

この白い帽子は、少女の灰金髪の上に乗っているのが一番相応しい。あのふわふわした髪が風に靡いている姿を見ているのが少年は好きだった。


白い海星の張り付いた岩に、水鳥と一緒に止まっている光景は写真にとって飾っておきたい気もしたけれど。

この帽子は、やはり、あの子の髪の上にあるべきだ。帽子を手にして、彼は少女を振り返る。


「取ったよシェーリー!」


満面の笑みで、後ろの少女に手の中の帽子を掲げて見せれば、

同意するように、きゅわあ、と聞いたこともない鳴き声がした。


「……??」


声の主を捜してみれば、少年の足下から白い何かが長い首をのぞかせている。


長い首と丸いからだ、短い尾に四つの手ヒレ足ヒレをもつ生き物。

椰子の実大のおそらくはまだ子供とおぼしき何か。

体色は白。瞳は虹色、魚の鱗色。


のぞき込んだ少年と、見上げる目線とがあった。お互い右に左に首をかしげて睨めっこ。

少女も恐る恐る、近づけば、あいさつ、とばかりに長い首を持ち上げてきゅわあ。


足元でいきなり生き物に伸び上がられて、少年はとっさに身を引いた。


が、足を置いた位置が悪かったのか、ぐらり、と傾ぐ。


「うわわっ……」

「きゃあ!ハリー!!」


とっさに少女は手を伸ばす。



―――――きゅわああ


少年少女の悲鳴と、竜の鳴き声とが、風に浚われ、潮騒に溶け込んだ






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