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『母の日』『月』『~自分は「自分」と自分を呼ぶ……』

 遅いですよね。でも、二つの大賞に応募したのに両方一次選考落ちですとね……流石に落ち込みもしますよ。人様に見せれるようなものでもないのに投稿しようか迷ったのですが、それじゃ成長もしませんしね。ほんとその程度の実力ですのであしからず。

 そして今回のお題は次の通りです。

『母の日』……一つ目の枠はnowなワードにしたはずですがいつの話をしてるんでしょうね。

『月』……今回も辞書からです。今回はたまたま分かりやすい単語でした。

『自分は「僕」と自分を呼ばない。気弱な印象を与えそうだから。自分は「俺」と自分を呼ばない。強面な印象を与えそうだから。自分は「私」と自分を呼ばない。陰鬱な印象を与えそうだから。自分は「自分」と自分を呼ぶ。自分以外の印象を与えないから』……今回のフリーワードです。またも前回の友人から。またまた『この最悪なる世界と』から無断で頂いております。お題にするとは今回も言っていなかったとはいえまた難解なものを……。

 ――南部鶴さん、本当すみません。削除要請にはいつでも応えますので

   『日々あらたに』


 いつ着くのだろうとバスの窓から行く先を見つめる。いつもなら私の眠気を誘うこのバスの揺れも、今日だけは浮足立っている私の心に弾みを付けてくれていた。

 腕に抱かれた黄色い花束に顔を近づける。淡く清げで、思わず微笑ましてくれるような香りが胸いっぱいに広がった。これなら彼も気に入ってくれるに違いない。

 たまたま街で見かけて、以前彼が子の花を探していたのを思い出して買ったのだ。この花の咲いている時期はもっと先であるそうなのだが、私は運が良かったらしい。「この何とも言えない黄色が、夜空に輝く月を連想させるから『月の花』とも言うんだよ」とは彼の言葉だ。

 それにしても、彼を待たせてしまわないだろうか。

 携帯を確認する。いつもこのバスを使ってるわけじゃないから分からないけど、後10分では着いてはくれないだろう。

 彼と付き合い始めたのは6ヶ月前。でも、出会ってからとなるともう二十五年近くになる。

 小中高大と一緒だったが腐れ縁とかそういうわけじゃなく、一目ぼれした私がストーカーのごとく同じところに入学しただけ。彼は私の一年上なため、高校と大学は勉強さえ頑張れば容易だった。

 前に友達にどうして彼相手にそこまでするのかと言われたことがある。

 彼は一時、女の子たちの間で話題だった。顔つきはかっこよく、体型は優男だったが大人っぽい雰囲気が頼りがいのあるように見えた。表情の一つ一つに少し影があるような感じも人気に拍車をかけた。

 ただ、人気者には悪い噂もたってしまうのが世の常で、いつの間にか彼は女ったらしだという噂が広まっていた。それは事実で、彼の高校時代に付き合っていた女の子の数は両手と両足の指では数え足りない。

 彼が自分自身のことを『自分』と呼んでいたことも、人によっては毛嫌いされていた。

 知らず知らずのうちに彼の近くにいた人はいなくなった。

 そんな彼に私が思いを寄せ続けていることが、友達には理解できないらしい。

 でも、みんな彼を知らない。

 付き合いのその全てが清い交際だったし、付き合っていた女子も最初は彼自身に興味のない子ばかりだった。

 そして、彼女が自分に気を持ったと分かるとその子と別れてしまうのだ。

 好意にしろ敵意にしろ、彼は偏見を混じって自分のことを見られることをいやに嫌っていた。

『自分』と呼ぶことにしたって、彼が自分のことをそう呼び始めたのは私と出会った時らへんだから小学校三年生の頃、その頃のことを考えると私からすれば自分のことを『俺』と呼び続けられなくなった気持ちも分からなくもない。


 流れていく景色を瞳に映しながらそんなことを考えていると、私の下りるバス停が見えてきた。

 どうやらここで降りるのは私だけらしく、立ちあがったのは私だけだった。

 花束を持った状態だったため料金を払うのに少し手間取って、他の人に迷惑をかけていないだろうかと言う不安を抱きながら料金を払うのをすませてバスから降りた。

 バスから降りた私はいつになく早足である。汗をかいていたのがばれては恥ずかしいので、待ち合わせの場所の少し前になったら汗を乾かしながら歩こう。

 彼に早く会いたいという気持ちで早足が小走りになり始めたとき、決して注意を怠ったわけではないのだけれど、曲がり角でなにかにぶつかった。

 幼い悲鳴が上がる。

「あ、すいません」

 ぶつかった相手もわからぬまま反射的に私は謝った。でも、相手は誰だろう。

「自分も不注意でした。じ、自分は大丈夫です……」

 歳不相応な大人っぽさを持った小学生低学年ぐらいの少年が地面に手をついていた。私が花束を持っていたのと、相手が子供だったということもあって見えなかったのだ。彼の目線の先では彼の手が赤いカーネーションをつぶしてしまっていた。

それにしても、私のよく知る誰かに似ている気がした……。

「ごめんね。お姉さんのせいでお母さんのお花、潰しちゃったみたい」

 今日は母の日だ。私がこの花束を買ったときも「お母様へのプレゼントですか」と聞かれたものだ。

「いえ、自分のお父さんのです……」

 ん? それはどういうことだろう。母の日にカーネーションと言ったらそれしかないだろう。この子のお父さんが妻のために買ったということなのだろうか。

「代わりにお姉さんのお花あげるからゆるして? このお花も綺麗でしょ?」

 私はためらいもなく自分の持っていた花束を差し出しながら「『月の花』っていうんだよ」と付け足す。花屋の定員さんが言っていた正式な名前はカタカナばかりで覚えてられなかった。カタカナじゃない花の方が少ない気もするけど……。

「あの、その……申し訳ないです。しょせん190円程度のものですし」

 最近の小学生はそんなこと言うのだろうかと吹き出してしまいそうになったが、無理矢理少年に花束を押し付ける。

「大丈夫、大丈夫。ちゃんと注意してなかったおねえちゃんが悪いんだし。どうせ受け取ってくれるかも怪しかったしね」

 無理して笑ったわけではなかったが、私の浮かべた笑みは情けないものだっただろう。

 彼が付き合ってきた女性の中で、結婚した女性も含めて誰も彼を愛していなかった。少なくとも付き合うことになった当初は好きなんて感情は抱いていなかっただろう。

 そして、彼を好きになった途端に彼女たちはみんな別れを告げられたのだ。

 ……そんなの、不安にならないはずがない。

 最初から彼を好きだったのは私だけだ。もしかすると、私があまりにもしつこいから付き合ってくれているだけかもしれないし、彼が私と付き合うようになったのはただの気まぐれかもしれない。彼が離婚したとき、珍しく落ち込んでいるところに私が付き合わないかと誘ったのだ。いつ別れを切り出されるかもわからない……。

 憧れの彼と付き合えて私の気持ちは輝いたもので一杯のはずなのに、それと同時に心の底の黒いものが大きくなっていく。

「ほんとに、いいんですか?」

「うん、もらってあげて」

 私は逃げた。もし受け取ってもらえなかったら、と不安に駆られて。少年にあげてしまったのだから仕方がない、そういう言い訳がほしかったのだ。

 いつまでも遠慮していても、かえって相手に失礼だと思ったのだろう。少年は『すみません』と『ありがとうございます』を交互に繰り返しながら受け取ってくれた。

「あっ! お父さん」

 花束を渡した瞬間に少年が叫んだ。

 それにしても弾んだ声だ。さっきまでは子供らしさを感じていなかったから、思わず笑いがこぼれてしまった。私の暗かった気持ちが少しは晴れた気がした。

 少年は始めて見せた子供らしい笑顔で「ありがとうございます」と言うと私の横を通り過ぎてかけていく。

「なかなか来ないと思ったら、こんなところで小学生相手に浮気かい?」

 不意に聞こえた聞きなれた声に肩がビクンと跳ねる。

 少年を目で追うと、そこには彼がいた。

「な、なんで。なんでいるの……?」

 待ち合わせをした場所はもっと先。それに今は少し汗かいてるのに……。

「自分の彼女がなかなか来ないのを心配しちゃ悪い?」

「悪くはないけど……」と口を尖らせようとした瞬間、あることに気付いた。今、彼が目の前にいる、ということは――

「あーっ! 携帯、サイレントにしたままだったー!」

 彼から、ため息を吐くような呆れ声があがる。きっと「そこまで叫ぶことじゃないよね」とか思っているに違いない。もしかしたら「今反応するべきところはそこじゃないよね」とも思っているかもしれない。

 でも、私にとってはかなり重大な事なのだ。どんなことでも出来るだけ彼と関わっていたい私からすれば大失態だ。

 携帯を確認すると案の定、彼から三件の電話があった。いつもは待ち合わせの五分前にはついていた私を心配して電話をくれたに決まっていた。あー、なんで気づかなかったのよ、私ッ! 彼から電話してくれることなんてめったにないのに……。

「お父さん、あのお姉ちゃん知ってるの? この花束、あのお姉ちゃんがくれたんだよ。これ、お父さんにあげるね」

 地面に手をついて落胆していた私を少年が指差したので、この少年は私をバカにしようとしているかと思ったが違ったようだ。

「ん? 自分の誕生日はまだ先だよ?」

 そのとぼける顔も素敵だけれど、息子にまで『自分』って言ってるんだ……。まだ幼い少年にまでうつっちゃてるけどいいの?

「学校でお母さんになにかあげることになったんだけど、えっと先生がね、自分はお母さんがいないからお父さんにあげなさいって」

 少年の母親を想像する。分かれた時に彼が落ち込んでいたから、よっぽど素敵な人に違いなかった。もうその人とは会ったりとかはしないのだろうかと、ふと思った。

「そっか、でもあのお姉さんに上げてきてくれないかな」

「へ?」と裏返ったようなすっとんきょうな声を上げてしまう。彼がこれからなんと言うのか想像してしまったのだ。

「わ、私も誕生日はまだ先なんだけどな~」

 出来るだけ冷静を取り繕ってみる。そうすると予想してた通りの答えが返ってくるのだろう。

「ん? でも今日は母の日だよ?」

 そう言って少年の方に向き直るとこんなことを言うのだ。

「あのおねえちゃんが新しいお母さんになる人だから、あのおねえちゃんに渡してきてくれる?」

 分かってたよっ。分かってたんだよ。彼はこういうことを軽々しく行ってしまえる人なのだ。でも、動揺してしまうのは仕方がない。どんな言葉を言われるかなんて予想できてたのに、私の顔は真っ赤である。

「こんな、なんのロマンチックもなしに路上でプロポーズしないでよ……」

 少し不貞腐れてみる。でも、嬉しいことには違いなかった。

「ねえね、お父さんはあのお姉さんと結婚するの? 自分ね、きれいだし優しいからあのお姉さん好きー」

「親子だねー。自分もあのお姉さんのこと好きだよ」

 いつか彼は私を言葉で照れ殺されそうな気がする……。

「ほら、あんなふうにすぐ照れちゃうところとか、すっごく可愛いし」

 もうっ、死んでしまえー! 恥ずかしすぎる……。

「それにしても」と彼が話題を変える。たまに調子に乗って聞いているこっちが穴に入りたくなるような言葉をいくつも並べ始めたりするので、話題を変えてくれるのはありがたかった。でも、いつも少し残念に感じてしまうのは内緒である。

「良く驚かなかったね。なんの反応もなかったから、てっきりこいつが自分の息子だって気づいてくれてないのかと思ったよ。前に紹介した?」

 少年の頭に手をのせて髪をくしゃくしゃとしながら彼がたずねる。まぁ、確かに子供がいると聞いていただけで紹介はされていない。

「紹介なんてされなくてもすぐ分かるよ。小学校の頃のあなたとそっくりだったし」

 それにあのしゃべり方。彼の子供としか思えなかった。だから少年に花束を渡せば、彼に手渡ってくれるんじゃないか、そう思ったのだ。

 直接渡すことから逃げて少年が彼の子供だと気付かなかったふりをするつもりだったのに、彼に見られたせいで台無しである。そうだ、彼のせいだ!

「それに何年あなたのストーカーやってきたと思ってるの? あなたのことはあたしが一番よく知ってるんだから――――



                    ◆■◆

 祖母の墓の前にそっと黄色に輝く花を添える。この花の枯れている姿を祖母に見せたくなくて、風で飛んでいくようにと花立てではなく供物台に置いた。

 母の日はもう過ぎてしまったし、そもそも戸籍上は母でもないのだが、そんなことはどうでもよかった。自分にとっての母という存在は祖母であったし、母の日というのもここに来るための建前のようなものだ。

 それにしても、掃除する前は酷い有様だった。墓の掃除はいつの間にか誰かがやってくれているものだろうと思っていたが、どうもそうではないらしい。

 自分以外にも祖母の親族はいる。それに、この墓を継いだのは自分の従弟にあたる人だった。彼は定期的にここへ来てくれているのだろうか。少なくとも一年に一度は来てくれてさえいればあんなことにはなってないだろう。

 手を合わせて目をつむると、風が花のにおいを運んできた。

 この花は祖母と祖父の思い出の花らしい。祖母が死ぬまでは祖母の家で暮らしていたが、そこの庭にも咲いていたことを覚えている。

 時期的にまだ早いそうだが、今も家で息子と二人で待っていてくれている彼女が買ってきてくれたのだ。成り行きで彼女自身の手に戻ってしまったが彼女に一輪もらっていいかと聞くと、拗ねたようでそれでいて嬉しそうに「もともとあなたのために買って来たんだから、好きにすれば」と言ってくれた。

 普段は花より服に興味のある彼女のことだ。ほんとに自分のことを思って花屋の前を通るたびにこの花がないか見てくれていたのだろう。

 自分はそんな彼女を不安にさせてしまっているのだろうか?

 ときおり彼女の顔に暗いものを感じるときがある。目が合うと途端に笑顔で取り繕うけど、どうしても無理をしているようにしか見えなかった。

 きっと彼女も自分に自信が持てないのだろう。

 自分自身の欠点は自分自身が一番良く分かっている。自分の汚点が見えれば見えてしまうほど、大切に思っている人に受け入れてもらえるかどうか懸念が絶えない。

 自分もそうだったから分かるのだ。

 なぜ自分なのだろう。そう思ってしまって、他人より自分が劣っている所なんていくらでもあるという事実から目を背けられない。

 でも、自分にとっては彼女が一番なのだ。

 いつか、ちょうど自称を『自分』に変え始めた小学校三年生の頃だったろうか。他の大人がちゃんと学校に行けと言ってくる中、祖母は他になにを言うわけでもなく「おまえのことを一番よく知ってくれてる人と結婚するんだよ」そう頭を撫でた。

 どんな気持ちで言ったかは分からない。戦争前の家の存続ありきのお見合い結婚だった祖母がそんな結婚だったとは思えない。

 でも、祖母の庭に咲いた『月』を見るときの顔を見れば、子供心にも祖母がどれだけ祖父を思っていたのか分かる気がした。きっとお互いなにも言わなくても分かりあえるような、そんな仲だったんだろう。

「また今度、大切な人と挨拶しにくるよ」

 立ち上がると、優しげな風が自分を撫でた。

 ふと、少し薬品のにおいのする祖母の皺だらけの手を思い出した。




 あとがき(第一回反省会・天使回)

※客観的に自分の作品を見るべく、ここだけのキャラクターを作りたいと思います。効果がないようならやめます。毎回その前の投稿の反省会をします。ほんとにただの反省会なので読まなくてもかまいません。(ちなみにこのあとがきは落選が決まる前にかいたものです)


やばはる「では反省会を始めるッ! では天使さんどうぞ」

天使「面倒くさいから自己紹介は省くわよ? じゃあ、さっそく話題についてだけど、一応は三題とも入っているわね。ただ、硬論のお題はクリアしてるんだけど、『硬論』のエピソードはあってもなくても意味がない気がするわ。そういうエピソードを挟むのも大事だとは思うけれど、わざわざ一般的には知られていない言葉を使うために挟むぐらいならなかった方がマシだったかもしれないわね。読んでくれる人の読む手間を増やすだけなら、お題をクリアできなくなったとしても削るべきよ」

やばはる「まぁね、それはプロット段階から思ってたかな。無理やり入れ込んでる感が否めないなって。ほんとは場面を変えて詳しく描写して伏線を仕込んでも良かったのだけど、SSで場面変更は出来るだけしたくないんだよね。回想や場面変換を多用する俺が一番気を付けているのは、読者がその場面の移り変わりを把握できなくなることだし」

天使「そうね、大切な情報を端的に伝えなければならないSSで、場面を変えてしまうようなことは出来るだけ避けたいわね。もし、似た形で描写するのだとしたら女の子の方の親を父親だけにしても良いんじゃない? そっちの方が『硬論』の必要性が増していた気がするわ。そのほうが絶対説得する必要でてくる。そこまでする理由が男の子の『最後のちょっとしたわがまま』その方が綺麗にまとまるんじゃない?」

やばはる「OK、分かった。じゃあ、設定についてはどうだった?」

天使「どこかありきたりね。突拍子もない設定にするのも説明の割合が多くなるしお薦めしないけれど、目新しさのない文章なんてそうそう読もうとは思わないわよ?」

やばはる「だよね。いつも重点を置いてるのがストーリーだし、それに設定を練る力がそもそも弱いんだよ。その力を鍛えるために始めた連載だしね」

天使「自分の売り以外の力は必ずしも必要とは限らないけれど、あるに越したことはないのは確かよ。今度からはストーリーなんて気にせず、いつも書いてる長編とは違う形にしてもいいかもしれないわね。じゃあ、細かいところを指摘すればきりがなくなるのだけれど、そういうところはあなたが推敲を重ねて何とかするところだし、そろそろ反省会も終わりましょ?」

やばはる「そうだな、じゃあ次回のワードだが『夏休み』『介錯』『ではでは、さあさあ。人生終了のお時間です。生涯最後の一刹那です。忘れ物はございませんか。悔いは残しましたか。世界にさようならを。全ての人に感謝を。弟妹達には幸福を。友人には祝福を。それではまたの機会に。ごきげんよう』のこの三つ。それではまた次回ノシ」


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