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王妃様による最高の再婚〜夫と愛人聖女に飼われるくらいなら離婚させていただきます。あ、慰謝料はもらいますけどね~  作者: けい


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北部の王・ベルハイク伯爵⑤

彼の長い髪は肩口からリナフィアの胸元へと流れ落ち、馬車が振動する度に、毛先が肌をくすぐる。しかし、リナフィアは爪が食い込む痛みも、毛先が撫でるもどかしさも何も感じなかった。彼の品性を疑うような言動に、リナフィアの頭は全ての感覚を遮断していた。


(何を……この人は……)


 そうしなければ、リナフィアは感情にまかせて殴り倒していただろう。


『……陛下は、私が不貞を働いているとでも仰りたいのですか』


 キッと睨み付ければ、この反抗は予想していなかったのか、ルーベントの表情が一瞬だが揺らいだ。


『ご自分は側妃でもない者を囲っているというのに』

『――ッマリアは正聖女だぞ!』

『でしたらなんでしょうか。妃ではありませんよね。どこまでの関係かは存じませんが、妃以外の者と公然と閨を共にするとは、どちらが不貞だというのです』

『言葉が過ぎるぞ、リナフィア!』

『ならば、彼女を側妃にすればよろしいでしょう』

『それは……っ』


 ルーベントは旗色が悪いと知ると、ようやく元の場所へと腰を下ろした。ふん、と鼻をならしむっすり顔で、窓の外へと視線をやっている。これだけ言われても、ルーベントはマリアを側妃にはしない。いや、できないのだ。


 それはなぜか、リナフィアは知っていた。側妃を拒んでいるのはマリアだ。マリアがリナフィアの『下』になることを良しとしないのだ。そのうち必ず王妃になると信じてやまない彼女にしたら、一度でも二番目という地位にあったということが許せないのだろう。


(そのまま調子に乗っていれば良いわ、小娘)


 早く膝を折る姿が見たいものだ。

 そうして二人は無言のまま屋敷へと帰り着いたのだった。

 

       ◆


「ルーベント様ぁ、おかえりなさぁい」


 部屋に入ると、気付いたマリアが即座に腰を上げ駆け寄ってきた。子犬のような愛らしい行動に、イライラしていた気持ちもましになる。


『ならば、彼女を側妃にすればいいでしょう』


 蘇った妻の言葉に、ルーベントは額を押さえた。


「……なあ、マリア。本当に、側妃になるつもりはないのか」

「また、それですか。嫌ですよ。それって二番目ってことじゃないですかぁ」

「だが、側妃であれば、正式に俺の妻ということにできるのだぞ」

「だってぇ、ルーベント様はあたしを正妃にしてくださるんですよね。だったら、その間くらい耐えられますよ。それに側妃とかになっちゃったら、ルーベント様と一緒にいる時間が減るって聞きましたし」

「まあ、確かに。側妃として幾分か公務を担ってもらうこともあるだろうが……」


 しかし、王妃であるリナフィアが抱えているものに比べれば微々たるものだろう。

 とは言っても、彼女の仕事量も自分ほどではあるまい。以前、流れてくる書類が多くなっていると嫌みを言われたが、王妃ならば、それくらいこなしてもらわなければ。

 どうせ、自分のことなど下に見ているのだろうし。であれば、自負した能力に相応しい分は働いてもらわねばというもの。

 無理ならば、彼女もマリアくらい素直にできないと言えばいいものを。


(まったく、可愛げのない女だ)


「今日、俺がいない間はどうしていた」

「ずっと夫人とお話ししてましたぁ。大丈夫ですよ、夫人もあたしのことを可愛い可愛いって言ってくれますし、絶対リナフィア様より気に入られてますから」

「よくやってくれた。ベルハイク伯爵は軍部ではかなりの強権を持っているからな。こちらへ引き込めれば、下についていた貴族や領民共もながれてくる」

「リナフィア様ったら、戦いのことは伯爵やルーベント様に任せればいいのに。王妃だったら、夫人の愚痴を聞いたり、一緒にお茶して親睦を深めたりするのが役目だと思うんですけどぉ」

「お前はよく分かっている。賢い女だな」


 そうだ。マリアの言うとおり軍のことなど女が出しゃばることではない。ましてや、馬に乗ろうなどとは、とんだあばずれだ。


「あたしは、リナフィア様みたいに強くないですし、殿方に守ってもらいたいですぅ」


 殿方と言いつつ、見上げた顔はルーベントを請うていた。

 思わずルーベントの征服欲がうずく。


「マリア、お前は本当、俺がいないと駄目だな」

「はい。マリアは、ルーベント様がいなくなったら死んじゃいますぅ」

「では、死なせないように可愛がらないとな」


 小さな身体を抱き上げ、ベッドに横たわらせれば、頬を赤くしてすぐに目を潤ませる。


『どこまでの関係かは存じませんが――』


 また、彼女の言葉が邪魔をする。

 王が好んだものを抱いて何が悪い。

 確かに側妃ではないが、マリアは正聖女であり国に必要な者だ。邪険にして隣国へ渡られるよりずっと良いではないか。


「ルーベント様ぁ、早く離婚してあたしを王妃様にしてくださいね」

「分かっている。相応の場を用意するから、もう少し待っていろ」

「……っぁ……」

「マリア……ッ」


 ――神力は全て我が国のものだ。



 

        ◆



 

 ベルハイク伯爵領、ノーディレイ王国との国境線近く。

 夜陰にまぎれ、駐屯地から一つの影が音もなく飛び出した。

 影はそのまま北へと走り抜け、国境をまたぎ隣国へと入っていく。ベルハイク伯爵領は乾燥した固い平地が多かったが、国境を越えると加えてゴツゴツとした巨岩があちらこちらに散らばっている。


 この見通しの悪さが、ごろつき達の隠れ蓑になっていたりする。

 人の気配を感じ、岩陰からごろつき達がのそりと姿を現した。それぞれが手に武器を持ち、影を取り囲むようにして輪を縮めていく。


 しかし、囲まれた影のほうには、一切の動揺は見られない。

 影が頭からすっぽりと被るローブは灰茶けたもの。内側に見える身に纏った服は、暗闇でもよく目立つ白の騎士服。

 影は、懐から金のブローチを取り出して盗賊達に掲げて見せる。


「シュラウ卿に取り次いでくれ」


 たちまち、ごろつき達の表情が変わった。ごろつきとは思えぬ機敏さで武器を収め、踵を打ち鳴らして直立姿勢をとる。まるで訓練された騎士のように。


「それと予定が変わった。今夜伯爵邸へ行け。存分に荒らしてこい」

「はっ!」

「いつも通り兵士以外は狙うなよ。特に……」


 荒野を走る風が、影からフードを剥いだ。


「赤髪の女性だけは、何があっても傷つけるな」


 夜を模したような男が笑っていた。



 


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