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王妃様による最高の離婚~あなた方がバカにした私が国を支えていたのですが、お気づきでした?~  作者: けい


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北部の王・ベルハイク伯爵②

「そういうことでしたら、明日伺えればと思います」


 伯爵もどのように反応していいのか困っただろうに。当たり障りのない言葉に苦笑を添えて、話を閉じてくれた。一方、夫人の方はまだマリアに捕まっていた。料理も先ほどみた時から全く進んでいない。輝くような彼女の金髪も、疲労でくすんで見える。


(口出すつもりはなかったけれど、これじゃあまりに夫人が可哀想ね)


「ベルハイク夫人」


 マリアの会話が途切れた隙を見計らって、リナフィアはとうとう夫人に声を掛けた。


「こちらのルルヴェ、使われているのはラム肉かしら。赤身がしっとりとしていてとても美味しいです。ぜひ夫人も召し上がってみてください」


 突然リナフィアに話しかけられた夫人は、一瞬驚きを露わにしていたが、料理を勧められたのだと分かり、すっかり皿に下ろしてしまっていた手を動かした。


「とても良い料理人をお持ちですね」

「恐れ入ります、妃殿下。きっと料理人も、今日は特に腕をふるってくれたのでしょう」


 リナフィアは笑みで返事すると、それ以上の会話はせず料理を堪能することに集中する。同じように、夫人も次々と料理を口に運んでいた。隣から恨めしそうな視線を感じるが、痛くも痒くもない。


(あなたに王妃の器なんてないの。この椅子は、そんなに安いものじゃないのよ)


 それ以降は談笑程度で、リナフィアはこの日の晩餐を終えた。

 自分に向けられた、伯爵の鋭い視線には気付かぬまま。

 


       ◆


 翌日、朝早くからリナフィア達は国境付近にある兵の駐屯地へと向かった。

 伯爵の屋敷からはそう遠くなく一時間程度だ。馬車でならば。

 しかしリナフィア達は、その半分程度の時間で目的地へ着こうとしていた。


「妃殿下……このようなことは、どうか今回だけになさってください」

「それは分からないわ。馬に慣れるにはこれが一番早いもの」


 レイスは渋い顔して、手綱を握る手を引き締めていた。

 今、リナフィアは、手綱を持つレイスの腕の中にすっぽりと収まるようなかたちで、同じ鞍に跨がっている。目的地まで行く手段として、リナフィアは用意された馬車ではなく、レイスの馬に一緒に乗ることを選んだ。


 今回の視察の護衛として選ばれたのが、近衛師団第一隊で偶然にもレイスが所属する隊だった。誰の馬に乗せてもらおうかと悩んでいたとき、彼の姿が目に入り、ちょうど良いからお願いしたのだ。見ず知らずの者より、見知った者のほうが幾分か気持ちが楽というもの。


「妃殿下が馬に慣れる必要はないと思いますが……」

「身につけて無駄ということはないと思わない……何事も」


 もし()()()、自分一人で馬に乗れていたのなら。

 人間二人を乗せた馬よりも、もっと早く到着できていたかもしれない。そうしたら、伯爵夫人の命は助かっていたかもしれない。全て『かもしれない』ではあるが、だからといって今回も、何もしないままでいるわけにはいかなかった。


(それに、ルーベントと同じ空間になんかいたくないのよ。一時間も一緒だなんてごめんだわ)


 マリアとミレーネは、夫人と一緒に屋敷に残っている。

 確か様々な領地を見せたい、という名目でマリアは視察に連れてきたのに、同行させないとはいかがなものか。最初から視察にかこつけて、旅行する気満々だったのがありありと分かる。


(いても邪魔だし、いないほうがありがたいけどね)


 視察隊は今、ルーベントの乗る馬車と、騎馬で先行するリナフィアとで分かれていた。


 本来ならば、馬車にはリナフィアとルーベントで乗るはずだったのだが。

 朝、乗馬用の格好で出てきたリナフィアを見て、ルーベントは眉をしかめ、物言いたそうな視線を向けてきたが、結局は舌打ちして馬車へとさっさと乗り込んでしまった。


(きっと、王妃が馬に乗って、国王が馬車に乗るのも我慢ならないのでしょうけど、それよりも、王妃に追従したって思われるのが嫌で、自分も馬で行くとは言えなかったようね。無駄なプライドってどうしようもないわ)


 おかげでこちらは、空気が美味しい快適な旅路を満喫中だ。


(まあ……ちょっとレイス卿との距離は近すぎるかなとは思うけれど……)


 王妃として、夫のルーベント以外とこのようにくっつくのは、いかがなものかと思ったが、そもそもルーベントとはくっつく気もないし、これは公務であり下心など持ち得ないから健全だとの結論に落ち着いた。目の前で握られた手綱を持つレイスの手には、薄い傷跡がいくつもあり、不意にリナフィアは『あの時の傷はどれかな』と気になる。


(あ、これかしら)


 右手に、彼の肌色とまだ同化していない赤い線があった。

 つ、と思わずリナフィアは指を這わせる。


「うわっ!」

「きゃっ!」


 突如、真後ろから上がったレイスの驚声につられて、リナフィアも驚きの声を上げてしまった。

 まさかレイスがここまで驚くとは思わず、リナフィアは慌てて振り返る。


「ご、ごめんなさい。まさかそんなに驚くとは思わなくって」


 振り仰いで見たレイスは、片手で顔を覆い大きく息を吸っていた。


「……ご勘弁ください、妃殿下」



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