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王妃様による最高の再婚〜夫と愛人聖女に飼われるくらいなら離婚させていただきます。あ、慰謝料はもらいますけどね~  作者: けい


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夜に夫が妻の寝室を訪ねる理由

 驚きすぎて、思わず尊称ではなく名前で呼んでしまい、少々気まずさが残る。

 そういえば、彼の名前を呼んだのはいつぶりだろうか。いつから彼を『陛下』としか呼ばなくなったのだろうか。

 リナフィアはハッとして、記憶を探ろうとした自分を頭を振って追い出す。今、考えるべきことはそこではない。


「こっ、こんな夜更けになんの用でしょうか」


 訝しみを込めた目でルーベントを見やれば、彼は言葉を詰まらせ、視線を逸らした。


(様子が変だわ)


 ルーベントがリナフィアの部屋に来るときは大抵、怒鳴り混んでくるときだ。もしくは怒鳴りはせずとも不平不満を口にするとき。

 だが、どうしたことか。

 彼は今、見るからに気後れしたように眉を下げている。


「黙っていては分かりませんわ。用があるから来られたのでしょう?」


 ルーベントが口を開かないせいで焦れた時間が過ぎる。


(一体なんだっていうのよ……って、まさか!?)


 夜に夫が部屋を訪ねて来るという状況は、普通に考えれば情事的なものだろう。

 思わずリナフィアは、たぐり寄せていたショールをさらに強く握りしめてしまった。


「用がないようでしたら、私はもう休みますので失礼しますよ」


 退出を促せば、そこでやったルーベントの口が開く。


「今度の北部視察についてなんだが……」

「え……ああ、ベルハイク伯爵の……」


 わざわざ夜の訪ねてきて言うほどのことではないと思うが。

 しかし、そのようなものを求められているわけではないと知り、ホッと握りしめていた手の力も緩む。まあ、彼は夜着姿ではないのだし、冷静に考えればそういったものでないと分かったはずだ。大臣との会議が長引いたりしたのだろう。


(私もこの状況に少し動揺していたようね)


「ちょうど良かったです。明日、私もその件について陛下を伺おうと思っていたところですから。視察には私も同行しますわ」

「いや……君には王都に……残っていてもらいたいんだ」

「……何故です?」

「お、王と王妃が二人して城を離れるのはいかがなものかと。王妃は国王の代理者だろう。であれば、俺がいない間ここを守るのもリナフィアの勤めじゃないのか」


 ルーベントの目が泳いでいた。


(ああ、なるほど)


 もっともなことを言っているが、後ろめたいことがあるのだろう。

 そう例えば――。


「マリア様を連れて行くおつもりでしょうか」

「――っ!」


 ルーベントは明らかに動揺を見せた。

 為政者ならば、もう少し感情を抑える術を学んだほうがいいと思う。


「彼女はまだこの国のことを知らないから……他の領地を見せてやるのも良い機会だと思ってだな……」


 公務に王妃であるリナフィアを置いて、愛人を連れて行く王がどこの国にいるというのか。


(残念ながら、この国にはいるのよねえ)


 確かにマリアは聖女だ。だが、リナフィアは聖女である上に王妃なのだ。

 国事において、どちらを優先させるべきかは子供でも分かることなのだ。


「陛下は、この視察が公務ということをご存知ですよね。公務を行うものは国王、もしくは代理権者である王妃と国の律でも決まっております。それを……私から奪うというのですか」


 さすがに、これは予想しなかった。

 前回はルーベント一人で視察に行ったのだから。前回のルーベントの方がまだ分別があったのかもしれない。

 リナフィアはキッとルーベントを睨み付ける。


「陛下お一人なら理解はできました。百歩譲って彼女が側妃であれば、まだここまでの怒りは覚えなかったのかもしれませんが。陛下は、国政を何も分かっていないただ娘に、私の代わりが務まると言われたのですよ。私を侮辱されたのですよ! 視察は観光ではありません。国を守ってくれている伯爵や領民の声を拾い上げ、国政に生かすためのものです。だというのに……っ陛下は、ご自分のお立場をご理解なさっておいででしょうか!」


 逆立つ感情そのままに、リナフィアは叫ぶようにして彼の間違えを訴えた。

 ルーベントは、初めてリナフィアが怒りという感情を生々しく露わにした姿に、虚を突かれたように言葉を失う。が、すぐさま自分が批判されたと理解するや、顔を真っ赤にしてリナフィア以上の音量で叫び返した。


「ッ君こそ、自分の立場をわきまえたらどうだ! 君は俺の代理でしかないんだぞ! 代理ごときが俺を咎める権利なんかない!」

「きゃッ!!」


 荒い足音をたて近寄ってきたルーベントが、リナフィアの肩を乱暴に掴むと、倒すようにしてソファへと押しつけた。

 拍子にテーブルに乗っていたグラスが倒れ、耳障りな音を立てて床で砕け散る。


「どうして君はそう俺を追い詰めるんだ……っ自分が正しいとばかりに……!」


(この男……っ!!)


「私は……っ間違ったことを言ったつもりはありません」


 覆い被さるように乗られ、彼の体重がかかった肩はソファに沈み込んでいく。しかし、いくらソファが柔らかいといっても限度があり、リナフィアは苦痛に顔を歪めた。


「そんなだから俺は――っ!」


 久しぶりに至近距離で見るルーベントの顔は相変わらず端正ではあったが、リナフィアと同じように歪められている。

 そこで突然、扉が勢いよく開いた。


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