二度目の正餐会④
結い上げた真っ赤な髪は燃えるようだと言うのに、向けられる紫の瞳は背筋が凍りそうなほどに冷たい。口元には彼女特有の淡い笑みを描いているが、到底笑っているようには見えなかった。いつから彼女は、自分にこのような顔を向けるようになったというのか。
「ご心配をおかけいたしました」
「……っ!」
責められているようで、顔を逸らしてしまう。
「では、マリア様。もう結構ですので、ホールへお戻りくださいませ」
「え?」
「リナフィア、何を勝手に……っ!」
「聞こえませんでしたか? お戻りいただいて結構ですよ、マリア様」
本当にどうしたというのか、彼女は。このように自らの意思を押し通すような人間ではなかったはずだが。
「ああ……直接的な言葉でないと伝わりませんか」
笑みを湛えたまま、リナフィアは先ほどルーベントがやったように、耳朶に噛みつく距離でマリアに囁いた。
「どきなさい。それは王妃の椅子よ」
ただ、言葉に一切の甘さはない。
ビクッとマリアの肩が揺れた。
「私の代わりに場を繋いでくださいまして、助かりました。感謝申し上げます、マリア様」
打って変わって、今度はホールにまで聞こえる声で言うリナフィア。ここまで言われてしまえば、マリアが王妃の椅子に座り続けることは不可能だった。マリアは「いえ」と笑みを引きつらせながら、ルーベントに助けを請う視線を向けるも、ルーベントにはどうしようもなかった。王妃が王妃席に座るのを阻止できる理由などないのだから。
マリアはホールへと下りていき、リナフィアは堂々とした挙措で王妃席へと着席した。
「これで満足か……っ」
誰にいうでもなく呟いたルーベントは、反論を避けるように拙速に指揮者に合図を出していた。すぐにホールには優雅な音楽が流れ始め、漂っていた困惑の空気も次第に薄れていく。
リナフィアは密かに嘆息した。
(やっぱり、迎えに来なかったのはわざとだったってわけね。たった一週間程度で、随分と心を掴まれたようね)
こちらは、夫婦を四年続けても――許嫁期間まで合わせれば十年以上――心を開くどころか、最期は死ねと言われたというのに。
「何を仰りたいのか分かりませんが、私は私のいるべき場所に座ったまでです」
前奏が終われば、次は国王夫妻のファーストダンスとなる。
(仕方ないわね、王妃としての役目だものね。本当は踊りたくなんかないけれど、ルーベントの国王としての顔も立ててあげないと)
前奏曲も終わり、曲調がゆったりとしたものへと変わる。リナフィアはすっと立ち上がると、同じように隣に立つルーベントへと手を差し出した。しかし、その手が取られることはなかった。
「彼女も聖女だからな。公平は期さなければ、だろう?」
ルーベントは一人で階段を下りていくと、マリアの手を取り、二人してホールへと躍り出た。
(公平……ね)
何が公平だ。誰がどう見ても、これを公平とは思わないだろう。どちらへ気持ちを持っているのか馬鹿でも分かる。
「……もう、隠す気もないのね」
リナフィアは取られなかった己の手を眺め、一人、王妃の椅子へと戻った。幸いなことに、集まった貴族達はホールでくるくると踊る噂の正聖女と国王に夢中で、リナフィアが寂しげに手を握りしめた瞬間など見てはいなかった。少しほっとしたものの、彼女はホールの片隅から自分に向けられる視線があったことには気付いていなかった。




