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王妃様による最高の離婚~あなた方がバカにした私が国を支えていたのですが、お気づきでした?~  作者: けい


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二度目の正餐会③

 正餐会当日。

 日はとうに暮れ、時計の針は七時を少し過ぎたところを示している。


「そろそろ、来賓の入場も終わった頃かしら?」

「ええ、そうですね。きっともうすぐで陛下も迎えに来られますよ」


 エスコートは部屋を出る瞬間から始まる。本来ならば、ルーベントが王妃宮まで迎えに来る手はずとなっているのだが。待てど暮らせどルーベントが現れる気配がない。すっかり時計の針も時間を進め、今は七時半を示していた。


「遅いわね……」

「妃殿下、ここでお待ちを。少し会場の方を確認してきますので」


 言うやいなや、ミレーネは部屋を出て行ったのだが……。





「大変です、妃殿下!!」


 慌てることがなく侍女の鏡のような彼女が、ひどく取り乱して戻ってきた。突き破らん勢いで扉を開け、血相を変えてリナフィアの足元へとすがりつく。


「妃殿下! あの女……っ、あの女が!!」


 眉間皺を寄せ悔しそうな顔をするミレーネに、リナフィアもただ事ではないと悟る。


「ミレーネどうしたの、何があったというの。それにあの女って……」

「――っ既に、陛下はマリア様と共に入場しておりました!」

「な……っ」


 リナフィアは絶句した。


「他の者に話を聞いたのですが、妃殿下のご体調が優れず、正餐会には出ることができないからと、マリア様を伴って現れたと」


 そんなこと知らない。

 体調が悪いと言った覚えもないし、様子伺いの者すら来てはいない。

 リナフィアは掌に痛みを感じ、自分が力の限り拳を握っていたことに気付いた。


「ミレーネ……あなたは会場を見たのよね?」

「はい……」


 絞るように声を出すミレーネ。


「マリアはどこにいたのかしら」


 ミレーネは口に出すのも苦痛だとばかりに唇を噛み、涙を床にしたたらせた。


「……っ陛下の……隣に……ッ」


 それでリナフィアは、マリアがどこにいるのか全てを察することができた。


「そう……」

「っ! 妃殿下!?」


 言いながらソファから立ち上がったリナフィアは部屋を出た。


(私の記憶と違うことが起きてるわ。なるほど……私が前回と違う動きをすれば、それに合わせて当然他の人達も違う行動をとるってことね)


 カツンカツンと、ひとり分のヒール音が、だだ広い王妃宮の廊下にこだまする。後ろからすぐにミレーネが追いついてくる。


「妃殿下、どこへ行かれるおつもりですか! まさかっ、会場へ!?」


 ミレーネはリナフィアの前へと回り込み、両手を広げて行く手を塞いだ。


「駄目です! そのようなこと……っ、妃殿下お一人での入場など……! あの女が喜ぶだけです! 諸侯も全てを察するでしょう。そうなれば、ただでさえ派閥ができかけている状況ですのに、妃殿下が軽んじられてしまいます!」


 必死の険相のミレーネからは、リナフィアを本気で案じる気持ちが伝わってくる。広げた手の指先は小刻みに震えており、きっと自分への態度が無礼だと分かっていて、それでもこうして懸命に自分を守ってくれようとしている。


「悔しいですが……っ、ええ、唇を噛みちぎってしまいそうなほど腹立たしいですが、ここは体調不良のまま通されて――」

「ありがとう。でも、大丈夫よ」

「妃殿下っ!」


 しかし、リナフィアは進むことをやめない。

 目の前に掲げられたミレーネの腕に手を触れ、横目を向ける。


「ねえ、ミレーネ。私は誰?」

「ひ、妃殿下であられますが……」


「そう」とリナフィアは口角を引き上げ、至極楽しそうに美しく煌めかしく、そして艶やかに笑ってみせた。


「私こそが、このサウザード王国の王妃なの」


 その笑顔は、たった一人の侍女だけに見せるのがもったいないほどの美しさで、まさに王妃という冠に相応しい精彩を放っている。


「だから私が逃げるわけにはいかないのよ」


 マリアが正聖女と言えど、王妃はリナフィアである。そこを蔑ろにするということは、国のしきたりを守るという王としての責任感が皆無なのだろう。


「国を治める者の責任というものを、きっちりとたたき込まなければね」


 リナフィアの偉容にミレーネは息を呑み、とうとう諦めたように手を下ろした。


「どこまででもお供いたします、我らが妃殿下」


 恭しく腰を折ったミレーネに、リナフィアは「よろしく」と嬉しそうに目を細めた。





 突如、入り口の重厚な扉が開き、ホールにいた者たちは皆一様に入り口へと目を向けた。すでに国王も入場を済ましたというのに、遅れてくる無礼者は誰だという空気がホールには満ちる。あわよくば、批難して国王への忠誠心を示してやろうという浅はかな魂胆を抱える者たちもいた。しかし次の瞬間、その者たちは扉から現れた者を見て、喉元まで出かかっていた言葉を慌てて飲み込んだ。そして、心の中で一様に叫んでいた。


『どういうことだ』――と。


 そう思ったのは、国王の椅子に座るルーベントと、隣の王妃の椅子に座るマリアも同じであった。堂々と、たった一人で現れた者――リナフィアを見て、ルーベントは舌打ちをした。


「どうしましょう、ルーベント様ぁ」


 ひそ、と声を小さくし、ルーベントへと身体を傾けるマリア。細い肩が震えており、今すぐにでも抱きしめてやりたくなる。しかし、王妃が目の前に現れたこの場でそれは悪手。ルーベントは同じように身体をマリアへと寄せ、「心配するな、堂々としていろ」と耳朶に唇が触れそうな距離で囁いてやった。途端にぽっと頬を赤らめるマリア。その初々しい反応が愛らしく、ルーベントは満足げに口角を引き上げる。


「どうやら陛下には、多大なるお気遣いをいただきましたようで……感謝いたしますわ」


 言いながら、ホールを突っ切ってまっすぐこちらに向かってくるリナフィア。

 歩みは実に堂々としたもので、感謝すると言っておきながら批難を向けているのは一目瞭然だ。


「王として、そして君の夫として当然のことをしたまでだ」

「あらぁ、リナフィア様。ご体調はもうよろしいのですかぁ? 無理されず、どうぞ休んでいてください。この場はあたしがおりますし」


 堂々としているよう言ったからか。健気にもマリアは自らリナフィアに声を掛けていた。冷めた瞳で睨むように見られ、さぞ怖いだろうに。まだ十八だという彼女のささやかな頑張り全てが、自分の隣に居続けるためだと思えば可愛くて仕方がなかった。密かに、隣の王妃席にちょこんと座るマリアを横目で盗み見ていれば、正面でカツンと尖った音が鳴る。


 はっとして正面に視線を戻せば、目の前には階段を上ってきたリナフィアが立っていた。


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