皆川真莉愛はマリアになった③
これにはルーベントも驚きに席を立ち、マリアへと駆け寄る。
「どうした、マリア! 何があったんだ!?」
「ルーベント様……あたし……もうこんな状況は耐えられません……っ」
ルーベントは震えるマリアの肩を抱き、頭を自らの胸元へと引き寄せる。
「こ……この間、リナフィア様に呼ばれて訪ねたら、あたしの格好が王宮に住む者として相応しくないと言ってドレスをくださったんですが……どうやら捨てる予定のものだったようで、あたしには……っ、ゴミがお似合いって言われてるのかなって」
「なっ! リナフィアがお前にそんなことをしたのか!?」
「でも、あたしにはゴミとかとても思えないくらい綺麗なドレスだったし、お礼をと思って改めて翌日リナフィア様を訪ねたんです」
「そんな仕打ちをしたリナフィアに礼とは……マリアはなんて優しい子なんだ。しかも、物を大切に思う清らかな心まで持っているとは」
ルーベントのマリアを見る目は、とろけるように優しかった。庇護動物を可愛がるような手つきで真っ直ぐな黒髪を梳き続ける。
「ありがとうございます……っ、こうして優しくしてくださるのは、ルーベント様だけです。やっぱりあたし……リナフィア様にはよく思われてないようで。お礼に行った際も会いたくないのか、別の部屋で一人で何時間も待たされて……っ。それに、あたしのお世話をしてくれてる皆さんが、あたしの立ち位置が分からないから、どのように扱って良いか困っているようで……」
ルーベントの胸にしがみつく手の力を増し、マリアは悲痛に叫んだ。
「ルーベント様! あたし、この世界で居場所がなくてつらいんです……っ!」
「マリア……分かった」
ルーベントは、小さくなって泣くマリアをひとしきりなだめると席を立った。
「もう心配しなくていい。お前の居場所は俺がつくってやる」
言うやいなや、ルーベントは食事も半ばにして足早に部屋を出て行った。
扉が閉まった後の部屋で、マリアが笑っているのも知らずに。
◆
翌日、マリアはルーベントの言った意味が分かった。
マリアには、教会から正式に『正聖女』という地位が与えられたのだ。
これにより、今までつけられていなかった侍女が一人つけられ、使用人達の態度も以前よりはっきりと目上のものに対するそれに変わった。
『異世界から来た健気な少女』と『異世界から来た心優しき正聖女様』とでは、やはり仕える者の心持ちも変わるのだろう。
「やったわ! これであたしもあの女と同じ、いやそれ以上よ!」
ただの聖女ではない。頭に『正』がついているのだから、ただの聖女より格上とみていいだろう。
王妃という肩書きについては、今だけ我慢してやる。
どうやらこの国では、国王が王妃を選ぶわけではなく、聖女になった者が王妃になるという決まりがあるらしい。
「しきたりなら仕方ないわよね。でも、それってつまり、あの女は求められて王妃になったわけじゃなくて、聖女だったからって理由だけで王妃に座に収まってるのよね」
どうりで、ルーベントからあの女への愛が感じられないはずだ。
「彼の愛は今やぜ~んぶあたしのもの。国一番の権力者の寵愛だなんて最高に気持ちいいわ」
ルーベントが選んだのは自分。神に選ばれたのも自分。
「あっ、そうだ! 今頃あの女にもあたしが正聖女になった報せはいってるでしょうし、どんな顔してるのか見に行こうっと」
そうして、マリアは早速新たについた侍女を呼ぶと、王妃宮へと向かった。
ちょうどリナフィアは在室だったようで、呼びかけるとすぐに扉が開く。
リナフィアはソファでお茶をしていたようだ。
テーブルの上には淡色の可愛らしいお菓子と、ティーセットが置いてある。
(はぁぁ、王妃様って楽な仕事ね。こうやって綺麗な部屋で勉強もせず美味しいものばっか食べて、これならあたしにもできそうだわ)
「あら、いらっしゃいませ、マリア様」
「こんにちはぁ、リナフィア様」
(そうやって上品に笑ってるけど、本当は腹の中が煮えくり返ってんでしょ)
それにしても、正直この蜜色に輝く調度品の数々は羨ましい。
(いいもん。どうせ、これも全部あたしのものになるんだし)
「それで、本日はどのようなご用で?」
ああ、部屋に見とれてすっかり用件を忘れるところだった。
「あたし、リナフィア様に謝りたくて」
「謝っていただくことなどないように思いますが……」
「ご無理なさらないでください、リナフィア様。あたしは、そんなつもりまったく無かったんですけど、教会の方があたしは正聖女に相応しいとか勝手にぃ……」
嘘は言っていない。自分から聖女にしてくれなんて頼んでないし、ルーベントが何を言ったのかも知らない。
「すみません。なんかリナフィア様の方が、あたしより格下の聖女みたいになっちゃって。本当、申し訳ないですぅ」
「ああ、そのこと……お気になさらず」
マリアは腰を折って頭を下げたのだが、伏せた顔の下では笑うのを必死に堪えていた。
(強がっちゃって。誰がどう見ても憐れなのよ、あんたは!)
「ご用はそれだけですか?」
「はい。一刻もはやくリナフィア様に謝りたくてぇ」
「そう。お気遣いありがとうございます、マリア様」
早く出て行けとばかりのリナフィアの台詞に、マリアはまた笑いそうになるのを悄然とした態度で隠し、リナフィアに別れを告げた。
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