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王妃様による最高の離婚〜夫と愛人聖女に飼われるくらいなら離婚させていただきます。あ、慰謝料はもらいますけどね~  作者: けい


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皆川真莉愛はマリアになった②

  

 聖女が二人いる状況で、リナフィアを出し抜くにはやはり味方を多くつけるに限る。

 リナフィアは『引きこもりの王妃』と陰では呼ばれているらしく、滅多に王妃宮から出てこないのだとか。


 これはチャンスと、マリアはすれ違う使用人にも、巡回中の衛兵にも、誰かと会えば必ず自ら挨拶し、声をかけた。引きこもり王妃と差を付けるために、もちろん笑顔は忘れずに。荷物を持っている者がいれば手伝って一緒に運ぶこともしたし、国民を気にするようなことを言ったりして、心優しき健気な少女を演じた。


 おかげで、使用人達の間での評判はうなぎ登りだ。

 しかし、ただ自分の評価を上げるだけではまだ足りない。相手にも下りてきてもらえれば、より自分の優しさが際立つというもの。

 すると、間が良いことにリナフィアが自分を呼んでいるという知らせを受けた。


「こんにちは、リナフィア様」


 マリアは先日教わったカーテシーで挨拶を終えると、部屋をぐるりと見渡す。

 置かれている調度品も敷かれている絨毯も窓からの景色まで全部、自分の部屋とは比べものにならないほど良い物だ。


 すると、彼女のメイドの視線に気付いた。

 眉間に皺を寄せ、明らかに好意的といいがたい表情をしているメイドが口を開く。


「マリア様。お相手は王妃様なのですから、御名ではなく妃殿下と――」

「いいのよ、ミレーネ」


 ミレーネというメイドの言葉を、リナフィアが遮った。ミレーネは言い足りないという顔をしていたが、結局は続きを口にすることを諦めたようだ。

 彼女が言いかけた言葉はおそらく、様呼びではなく妃殿下と呼べというものだろう。


(冗談じゃないわ。こんな女に尊称なんか使いたくないわよ)


 本当は、自分のいるべきだった地位にふんぞり返っている女なんかに。

 この世界に疎いふりして無視してしまおう。

 今までも大抵のことは、分からないふりをしていれば、その素朴さが可愛いと全て大目に見てもらえたのだし。


「来てくれて嬉しいわ、マリア様」

「あたしも、リナフィア様にお目にかかれて光栄ですぅ。それで、どんな用ですかぁ?」

「今日来ていただいたのは、マリア様の好きなものが分からなかったからよ」

「好きなもの?」


 すると、続きになった隣の部屋に案内される。大人しくリナフィアについて部屋に入れば、目の前に広がった光景にマリアはうっとりとした声を漏らした。


「きゃあ、なんですかこれ! 素敵なドレスばっかりぃ!」


 壁一面に掛けられたドレスの数々。それだけはない。帽子や靴、日傘にショールといった小物まで所狭しと並んでいる。



「今ドレスはあつらえていると聞いたのだけれど、それまで数が足りないでしょう? 私の着たものだけれど、体型も似ているし、気に入るものがあればお贈りしたいと思って」

「え……」


(この女、自分の地位が危ういからって、あたしに媚びでも売ろうっての? こんなお下がりで?)


 彼女のあけすけな魂胆に、マリアは顔に出さず口の中で舌打ちをした。


(この程度で懐く女と思われたら困るのよね)


 ただ、正直このドレスは捨てがたい。やはり、聖女たるものそれ相応の見栄えは必要だ。

 マリアは自分の格好を見下ろした。

 ドレスではあるものの、目の前にずらりと並ぶものと比べると、遙かに見劣りする地味なもの。既製品のドレスをとりあえずにと渡され、最初は初めて着るドレスに興奮していたのだが、喜んでいた自分が馬鹿みたいだ。


「あ、ご迷惑だったかしら?」


 返事をしないことを不安に思ったのか、リナフィアが困ったように聞いてくる。


「そんなことないですよ! 嬉しすぎて、何てお礼を言ったら良いか分からなかったんですぅ」


 マリアはパッと表情をほころばせた。

 ここで断れば、王妃の好意を無下にしたと言われかねない。今はまだ心優しき聖女のマリアでいる必要があるのだし。


(ただ、主人公であるあたしに、お下がりを押しつけた報いは受けてもらうわよ)


 そんなことを思いながら、マリアはドレスを選んでいく。ついでに目に付いたショールや帽子も。

 どうせ悪女のラストは追放か死なんだし、この女に高価な物は不要だ。


 マリアは高そうなものを優先的に選んで、王妃宮を出る。振り返って見上げた王妃宮は、主人公(自分)にこそ相応しい壮麗さだ。


「絶対、追い出してやるんだから」


 

        ◆



 

 リナフィアとルーベントの仲が良くないのは薄々感じていた。


「いらっしゃいませ、ルーベント様。お待ちしておりましたぁ」

「可愛いことを言う。お前のその愛らしい笑顔が見たくて、俺もつい足を運んでしまう」

「えへへ、そんなこと言っていただけて嬉しいです。でも、あたしが笑顔なのは、ルーベント様が会いに来てくださるからですよ」


 ルーベントの手がマリアの頬を撫でる。


「お前が顕れてくれて良かったよ。まさか、こうして女性に癒やしを覚える日が来るとはな……」


 いつも仕事が終わると、ルーベントは真っ先に自分の部屋へと来てくれる。

 そして一緒に夕食をとるのだが、その間王妃であるリナフィアが一人寂しく食事をしていると思うと、この不遇な状況にも少しは溜飲が下がる。


 だが、まだまだ。愛されていなくとも、リナフィアは王妃で聖女という肩書きを持っているのだから。

 何をするにしても、こちらにもはっきりとした肩書きが必要だ。

 今夜も、離宮の正餐室で食事を一緒にとる。


(これ以上のんびりとはしてられないのよね)


 マリアは口に運んでいた手を止め、フォークに刺さったままの肉をそのまま皿に置き「ごちそうさま」と呟いた。


「どうしたんだ、マリア。まだ料理が半分も残っているじゃないか」


 向かいの席から心配そうな顔で様子を窺うルーベント。


「料理が口に合わなかったか? 具合でも悪いのか?」

「……ッルーベントさまぁ……」


 マリアは瞳からぽろぽろと大粒の涙を流した。

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