第二章
友人はすぐに気まずくなったのか、僕から目を逸らし、足早に去っていった。
僕は彼を呼び止めなかった。彼は彼の人生(映画)を生きている。
僕は図書館の古びた映写室に戻り、昨日見た「世界の設計図」を穴が開くほど見つめていた。
僕は戦略を変えた。この世界を構成する「カット」や「シーン」の切れ目に関する情報を映写機から得て、世界中の人々に真実を告げるための映像をウェブサイトで公開した。
サイトはすぐに話題になった。「那津という名の狂った芸術家」「新種のテロリスト」と好き放題に書かれた。
僕は高揚していた。これは僕のアドリブだ。
「監督」のシナリオには、僕がウェブサイトで映像を公開するなんて記述はなかったはずだ!
そして僕はまた、反抗として、この世界で最も重要な「装置」である時計台を狙うことにした。
システムのハッキングは驚くほど簡単だった。午後3時、街中に鳴り響いたのは、狂ったような不協和音。
街中が混乱に包まれる様子を見て、僕は自分が世界を変えたと錯覚した。
その時、僕は背後に気配を感じた。振り返ると、そこには見知らぬ男が立っていた。男は僕を見てニヤリと笑った。
「いいシーンだ。さすが主人公だな、那津。」
そういって男は去っていった。
僕は凍りついた。男は僕のアドリブを知っている?
男が去った後も、僕は時計台の下に座り込んでいた。
世界の混乱は収束しつつあり、人々は「奇妙な事件」としてこの出来事を処理し始めていた。
僕の反抗は、またしても日常という名のシナリオに吸収されようとしていた。
その時、僕のスマホにメッセージが届いた。
僕のウェブサイトに唯一コメントをくれた人物、「わらびもち」からだ。
『あなたの映画に出演したい』
僕はメッセージを何度も読み返した。
この世界で、自ら「役者」を名乗る者がいるなんて。僕は返信した。
『なぜ?』
すぐに返信が来た。
『この退屈な世界を変える方法を探していた。あなたはそれを実行しているように見えた』。
僕は警戒した。これも「監督」が用意した罠かもしれない。
『会おう』
僕がそう提案すると、彼女はすぐに場所を指定してきた。街外れの、廃墟となった映画館。
待ち合わせの時間、僕は廃墟のロビーに足を踏み入れた。
埃っぽい空気とカビ臭い匂い。そこに立っていたのは、僕と同い年くらいの若い女性だった。
「那津さん、だよね。」
女性は僕を見て、感情の読めない声で言った。
「私は塁。あなたと同じで、この世界のエキストラ。あなたは、主役なんだろうけど。」
「お前も気づいたのか?」
「まあ。昨日、あなたがやった時計台の事件を見て確信した。あれは最高だった。」
そういいながら塁は笑った。感情のこもっていない乾いた笑い声だった。彼女は続ける。
「私、あなたの『映画』に出たいの。エキストラじゃなくて、脇役として」
僕は彼女を疑いの目で見た。
「俺を陥れるための罠かもしれないんだぞ」
塁は肩をすくめた。
「かもしれない…。でも、この退屈な日常よりはずっとマシでしょう。 私の人生はいつもモブ(群衆)だった。誰かの背景にしかなれなかった。でも、あなたとなら、もう少し面白い役割がもらえる気がする」
僕は塁の目を見た。彼女の目には、僕と同じような狂気と、世界への希望が混在していた。
「協力してほしいことがある」
僕は塁に、映写機で見つけた「空白」について話した。
「この世界の設計図には、まだ『未定』の部分があるはずだ。見た映写機の映像は途中で途切れていた。そこを埋めることができれば、僕らの意志で世界を動かせるかもしれない」
塁は僕の話を食い入るように聞き、目を輝かせた。
「面白そう。その『空白』に、私たちのアドリブを書き込んでやるんだね」
僕らはその日から、「監督」に逆らうための共犯者となった。僕らの前には、まだ見ぬ「空白の領域」とい
う希望が広がっていた。
僕らの本当の戦いは、ここから始まる。




