第一章
君たちは知っているだろうか。遠い昔の僕達の葛藤を。
僕の世界は映画に支配されている。全てが映画なのだ。
この世界には「監督」という存在がいる。
その監督が人々の人生を決め、映画として上映し、鑑賞しているのだ。
君たちの時代で言う「神様」というやつだ。
僕達人類、いや、すべての生き物が映画の一部として生きている。
僕たちは皆、自分が自由に選択し、行動していると信じ切っていた。
未来を変えることなんて不可能だったのに。
僕達はずっと映画の登場人物、エキストラとして生きていた。
誰もがその事実に気づきながらも、目を逸らしていた。
気づいたところで、どうなる?
怒り狂って叫んでも、それは「監督」のシナリオにある「怒り狂って叫ぶシーン」にしかならない。
僕、那津は、その無意味な日常に、砂を噛むような思いで「こんにちわ」と返事をしていた。
自分がその言葉を自分の意思で選んだと、ついさっきまで信じていた。
僕は昨日、封印されていたはずの映写機を回し、禁じられた「映画」を見てしまった。
あれは誰かの過去の記録じゃない。あれは、「僕が生まれる前の世界の設計図」だった。
映写機の中で、女性が泣いていた。「この子には見せたくない」と。
彼女は知っていたんだ。「監督」の存在を。そして、僕に与えられた役目を。
「監督」は完璧な演出家だ。感情の機微、偶然に見える必然、全てのカットが計算されている。
僕が今この瞬間、映写機を見たことも、全て筋書き通りだったのかもしれない。
僕の怒りも、絶望も、次のシーンへの「フリ」に過ぎないのか?
冗談じゃない。
僕は、僕の人生が誰かの退屈しのぎの娯楽作品であるという事実が、心の底から許せなかった。
もし、この世界が映画なら、僕は主人公を降りる。いや、もっとやってやる。
この映画を、台無しにしてやる。
僕が「監督」に唯一抵抗できる方法は、僕の人生という名の「流れ」に逆らうことだ。
予定調和をぶち壊すこと。
次の瞬間、友人が僕の方へ歩いてきた。いつも通りの、見慣れた光景。
何の変哲もない日常のひとコマ。
「おい那津、聞いてるのかよ?」
友人が僕の肩を叩く。僕は無言で友人の顔を覗き込み、ニヤリと笑った。
この行動が、僕の純粋な意思から生まれたものだと、信じたかった。
「お前、いい演技してるな」
友人はポカンとしていた。
僕の言葉は、確かに日常の「流れ」を止めた。
僕たちは静止画のように固まった。
僕は確信した。未来は変えられないかもしれない。
でも、この世界を「演じる」意識だけは、僕だけのものだ。
僕は世界を救うつもりはない。
ただ、「監督」の気に食わない異物になってやる。
ここから先は、僕が純粋な意思で選択し続ける、予測不能なアドリブ劇だ。
これが、僕のささやかな反抗の始まりだった。




