残酷な遊び
ミチコはステファンの借金を返し彼を救う為、ここで娼婦としてやっていくのだと思っていた。
本当はカジノでステファンが仲間と賭けポーカーしてる時、
誰かが「最も要らない小娘を租界1の売れっ子娼婦に出来た奴が勝ちってのはどうだい?」と提案したのだ。
名乗りを上げたのはステファンと貿易商のエド、タバコ商の木村、クラブ経営者のジョーだった。
皆ここ上海で成功し金も名誉も女も手に入れ、人生に退屈を感じ出したオヤジ達だ。
皆で各々の作品を堪能しランキング付けて話し合う。
その娯楽の為にミチコは毎日客を取らされ身体の外も中も見知らぬ男達に弄ばれるのだ。
小夜子に手ほどきを受け、部屋をあてがわれた。
ステファンが色々な性玩具を飾った部屋で服など与えられない裸の生活をする。
下のラウンジで客待ちする女達は民族服を着て日がな話している。
たまに着物をガウンのように羽織り、その中に混じれる事もあるが…
だいたいステファンが顧客を連れてやってくる。
そして目の前で男に犯されるミチコをニヤニヤと見ている。
ミチコが泣いて我慢してる姿が楽しいのだ。
ステファンを愛しているから必死で耐えて我慢して、
それでもただ見てるだけの恋人に絶望し泣きながら
見知らぬ男に組み伏せられて喘ぐ。
客がそんなミチコに腹を立てると、ステファンが
「私だと思って愛を込めて奉仕しなさい。感じなさい。」と言われる。
ミチコは涙を堪えながら客の背に手を回す。
ステファンが客と共に去ると夕暮れの部屋で冷えた心のフタを閉じて目を閉じる。
悲しくない辛くない。
私は幸せなの。
愛するステファンの役に立てて幸せなの。
どんなに反芻しても心は暖まらない。
窓の外には小さな路地が。
人々が行き交う姿を着物を羽織り胸を隠して見つめる。
ストリートキッズ達が紳士の周りに張り付いて金をせびったり荷物持ちをして小銭を稼いでいる。
彼らは道で寝泊まりしながら逞しく生きている。
孤児院に居た頃、元気が有り余ってる子は孤児院から逃げ出しストリートキッズになっていた。
でも変な大人にどこかに連れて行かれたり、ある朝冷たくなっている事もある。
でも、彼らは泣いたり笑ったり逞しく生きている。
その姿を見てると、乾いて干からびた心が少し休まる。
1階に居る娼婦達は客が付かなければ食べるのもパンだけになる。
マダム・エラはそこは厳しい。
ミチコはいつもフルコースが届けられて風呂も毎日入れる。
皆にこっそりと分けて回る内に尖っていた娼婦達とも仲良くなった。
小夜子は特に可愛がってくれる。
小夜子には、やはり東洋人の客が多い。
いわゆるマゾ気質の男達が順番待ちしてる。
チャイナドレスにピッタリなスタイルで四つん這いの旦那衆をヒールで踏み付けてムチを振るう。
まだ慣れてない娘が失敗してマゾ男に首を絞められたりマゾ男は気難しい男が多い。
小夜子のように圧倒的に美しく強くないと女王様は難しいのだ。
反対にマゾ女を望む客は、金払いが悪かったりする。
なので容姿に難があったり年増の娼婦は、帰り際に金を渋る客を脅したり怒鳴ったりして金をもぎ取る。
マゾ役は気の強い人が多い。
でも、やはり逞しく生きる姿はミチコの感情を呼び覚ましてくれる。
ステファンの紹介状を持って日本陸軍の将校が現れた。
男はミチコが日本人でないと知るとガッカリしていたが、日本語を使えるのが嬉しいらしく良く通うようになった。
「もしこの仕事が嫌になったら陸軍で通訳に使いたい。」と名刺を渡された。
郷里にミチコくらいの年頃の許婚を残したままこちらに来たらしい。
辛うじて彼等がミチコの心をなぐさめた。