↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の隣は、茨道。〜最愛の少女の隣に立つために、弱肉強食の異世界で必死に足掻く少年〜  作者: とい
3章 運命の分かれ道

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/71

第67話 情報操作

 マルタ砦の防衛戦から、丸3日。


 マルタ砦は破壊されたが、魔王軍は殲滅した。

 アストリア王国騎士団三番隊隊長ローダンの指揮の元、侵攻を阻止。

 そして魔王軍の最高幹部『六大魔殿』の一角を退けたのは‥‥‥最年少の王国騎士、三番隊所属のカイン・フェリクスと記されている。


「ーーーふざけるな。俺は顔すら見ていない」


 当人のカインは怒り狂っていた。王国軍の南詰所にある医務室で、彼の声が響き渡る。


「俺を馬鹿にしてるのか? こんな意味不明なおこぼれなんていらない。どうせ俺の()()に目を付けて華を添えただけだろ??」


 カインの家系は、アストリア王国内でも屈指の名門貴族であるフェリクス家。そこの三男である事に注目され、見え透いた接待をされた。


「少しうるさいですよー。他の人が療養してることも考えてくださいませんかねー」


 すると、近くのベッドに寝転がっていた黒髪少女が、目を細めながら文句を言った。

 全身の殆どが包帯に包まれていて、特に彼女の右腕は、肌が見えないほど重点的に巻かれていた。


「愚痴をこぼせるほど元気があって羨ましい〜」


 マルタ砦防衛戦で瀕死の重傷を負ったシレーナは、既に会話できるほどに回復していた。


「‥‥‥おい、なんだその態度は。第一、お前だって当事者だろ。なぜ本当の事を話さなかった」


 カインが咄嗟に言い返し、重傷の彼女を見つめる。シレーナは心底めんどくさそうに息を吐いた。


「情報操作なんて王政の常套手段ですよー? 砦が壊された事は隠せないけど、壊された理由は何とでも捻じ曲げられる。その理由付けに箔を出すため、あなたの家名が利用されたんです」


「そこまで分かってるなら傍観するな」


「うるさいですねー。この天才騎士シレーナちゃんに生意気な口を叩きますね。早く帰ってくださいよ」


「早く帰りたいから話を聞きに来たんだ」


 そもそもカインは既に全快しており、医務室に訪問している立場。


「‥‥‥おい。俺はお前に用があって来たんだ。返事くらいしろ」


 カインは目を細めて見下ろしながら、とある人物に話しかける。腕や腹など、至る所に包帯を巻かれている黒髪の少年は‥‥‥何も口にしない。


「セレノアくん‥‥‥」


 シレーナが眉を下げて心配そうに見つめる。少年は全く反応しない。


「おい、聞いてるのか」


「‥‥‥‥‥‥」


 王国騎士セレノアは、ずっと放心状態で天井を見上げていた。


「ちっ。これじゃあ聞きたい事も聞けない。時間の無駄だった」


 カインは頭を掻くと、踵を返して歩き出す。すぐに医務室の扉に手を掛ける。


「‥‥‥勝ち逃げなんて許さないからな」


 そう言ったカインは扉を開け、勢いよく出ていった。


「はぁ、何言ってるんでしょうかね〜あの子は。まったく、思春期の子供はさっぱり分かりませんねー」


 シレーナは口をへの字に曲げながら、ゆっくりと起き上がる。左手でセレノアの腕を掴み、引っ張り上げる。


「さ、お昼食べに行きましょー。何も食べないのは身体に毒ですよー」


「‥‥‥」


 そしてセレノアは何も反応せず、そのまま引っ張られていった。



 南詰所内、食堂。


「さ、食べましょうか」


「‥‥‥」


 セレノアとシレーナの前に、香ばしい肉の香りが広がる。シレーナが奮発してアストリア王国産牛のステーキを注文したのだ。


「むぅ、やっぱ難しいですね」


 シレーナは左手に持ったナイフで切ろうとするが、肉を上手く切る事ができない。何より彼女の右腕は‥‥‥動く気配が無い。


「‥‥‥」


 すると、セレノアは自分の前に置かれた肉を切り始めた。綺麗に六等分した後、シレーナの前に皿ごと渡す。


「‥‥‥ありがとう。あなたはやっぱり優しいですね」


 シレーナが穏やかに微笑むと、自分で切れなかった肉をセレノアの前に寄せる。これでお互いの肉を交換した形になる。


「‥‥‥」


 だが、セレノアは全く手をつけようとしなかった。視線を自分の足元まで下げ、静かに座り込んでいる。

 鉄板に乗った肉の音が小さく響く‥‥‥だけではなかった。



『ーーーおい、あれだろ? 例の砦での戦犯』


『勝手に行動して足を引っ張るとか、マジで何考えてるんだ?』


『そんな奴らが王国騎士とか、上の人選ミスだろ。この詰所にも我が物顔で入り浸りやがって』


『カイン・フェリクスは高貴な血筋なだけあって、やっぱり期待の新人だな。それに比べて平民の奴らときたら』


『あんな子どもで王国騎士になれるなら、俺も試験頑張ろ』



 周囲に座っていた、王国軍所属の兵士たちの小声。

 セレノアは特に反応せず佇む。だが無意識に、その声を聞いてしまう。



『ーーー死者が平民だったから命拾いしたよな。もし貴族が死んでたら、罪に問われてもおかしくないだろ』


『フェリクス家の三男が死んでたら、重罪の可能性もあっただろうな』


『うわ、その方が良かったんじゃね』


『こいつらからしてみれば、死んでくれたのが平民出身の冒険者でよかったわけだ』



 その陰口は、あまりに惨いものだった。


「‥‥‥ッ」


 するとセレノアはぎりぎりと歯を噛み締め、全身から魔力を滲ませる。目を引き絞って、周囲を睨み付ける。

 周囲の兵士たちが息を呑んで視線を逸らす。


「はぁ」


 するとシレーナが息を吐き、左手のフォークを置いた。


「何をイライラしているんですか。前に言いましたよね。王国騎士は上手く行かないことの方が多いって」


 諭すように呟き、目を細める。


「それに経緯を何も知らない有象無象のヤジなんて、意味なく叫ぶ魔物の雄叫びと変わりませんよ?」


「‥‥‥」


 先輩である彼女に嗜められたことで、セレノアは意識して魔力を押さえ込む。だが、顔は俯いたまま。


「あなたの気持ちは分かります。だって今のあなたを見て、彼らがどれだけ大切だったか伝わってきますから」


 シレーナが柔らかい口調で、話し出す。


「なら、守ればいいんです。何も知らない他者の言葉に動揺して曝け出さないよう、心の中で大切にね」


 その言葉に、セレノアの肩が上下する。


「まあ、これは私の自論ですので無理に心掛ける必要はないです。別に容赦無く叩き潰すのも良いかもしれませんし」


「‥‥‥う、ございます」


 そして、僅かに口を動かして頭を下げた。


「ふふんっ、天才騎士は精神も天才なんです」


 シレーナは口角を上げて不敵に笑うと、再度ナイフを手に持った。


「ーーーあ、肉だ! も〜らい!!」


 すると突然、セレノアの隣に座り込んできた女性がフォークを掴んで肉にぶっ刺す。


「ぁ〜むっ‥‥‥美味しぃ〜! こりゃあ良いお肉だね〜!!」


 そして大きく口を開けて頬張り、清々しい笑顔を見せた。


「‥‥‥ちょっとルルカさん? それはセレノアくんの食事なんですけど?」


「え〜? 別にこれくらい良いじゃん〜!! あたしはちゃんと務めを果たしてきたんだからさぁ!」


 現れたのは、同じ五番隊所属のルルカ。

 栗色のポニテと白衣が特徴的な、小柄で愛嬌のある女性。だが両目の下には隈ができている。


「‥‥‥」


 セレノアは何も言わずに怪訝そうに見つめる。すると彼女は「あ!」と声を出してから両手を合わせた。


「いただきます!」


「いや、そういう問題じゃないですから」


 シレーナが嗜めた事で、ルルカは「てへ」と舌を出してから口を開いた。


「久しぶりだね、セレノア! 最近診察に来てくれないから寂しいよぉ〜」

 

 そして中腰で膝をくねくね動かしながら話す。

 ちなみに、彼女の年齢は20歳。つまりシレーナよりも4歳上で成人済み。セレノアとは8歳離れている。


「というわけで、さっそく本題! どうやらセレノアは知らないようだから、耳を拝借!」


 ルルカは元気に発言すると、躊躇なくセレノアの耳へ口を近づける。


()()の遺体と遺品、無事に引き受けることができたよ♪」


「ーーー!!」


 セレノアは目を見開き、勢いよく立ち上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。