第1章-3 依頼
大学の課題が忙しくてしばらく書けてませんでした(´;ω;`)
女王陛下の力が本物…
それはつまり未来予知の力が本当に存在することを意味する。
「…どうして…根拠は…?」
実感がない。当然だ。
自分が知っている女王陛下の未来予知はあくまで噂程度のもの。
それを本物だと言われて、どう信じろと…
「根拠か」
父は落ち着いた様子で答え、続けて口を開く。
「そんなものはない」
…
……
………
…………は?なんて?
……いやいやいや!
あれだけ含みのあるように陛下の力が本物であることを言っておきながら
根拠、証拠がないっ…!??
「え…いや、そんな根拠のない自信で私に――」
「過去に起きた事象。すでに過ぎ去ったものに対し未来予知の存在を確定することはできん」
「……一部を除いては、な」
そう言うとこれまで背を向けていた父は振り返り言った。
例え未来予知で事前に観測したとしても公になっている昔の出来事では証明できない。
これを証明するにはこれから起きる事象を観測しその時を待つか、もしくは―――
「――公にされていない情報。即ち、人の感情や考えが未来予知存在の根拠となるだろう」
そうだ。
周囲に話さず自分の中に封殺された感情や考えといった記憶…
その中でも一番の説得材料となるのは……
「フェイト、周囲に漏らしていない獄中でのお前の記憶を語らせてもらう」
本人の記憶だ。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「…私の…記憶」
父は頷き、私の記憶を話し始めた。
「単刀直入に言おう。お前、牢獄へ収監されてから5日目の夜から脱獄を考えていただろう?」
「………」
「そしてその日から細かに計画を練り始めた。」
「鉄格子を切断して逃げるか?しかし切断できるものがない。では石床をめくって穴を掘って逃げるか?」
私は静かに耳を傾ける。
「道具は食事に使うスプーン……いや、それでは何年かかるかわからない上に途中で見つかる可能性がある」
「では脱獄に最も確実なのは運動の時間だ。普段は刑務官が常に見張っていて逃げる隙はないが、ほんの一瞬だけその機会がある」
………………あぁ。
「それは運動時間中に刑務官の交代があるということ。この瞬間はどうしても運動場の受刑者から視線が外れる」
「刑務官の目をかいくぐり、誰も見ていない所のフェンスを登って外に出る。途中の有刺鉄線は登る前に脱いだ上着をクッションにすれば問題ない」
あぁ………もう……っ!
「もし早々に脱獄が発覚して警備犬が匂いを辿ってきた時の備えとして毎日の食事で付属する胡椒を靴下の中に入れて」
(もう無理だ。耐え切れない…っ)
「ちょっと待って!」
私は思わず叫んで淡々と語る父の言葉を遮った。
「わかった!わかったからっ!!信じるって!!」
父の言葉で思い出した、収監されてから間もなく抱いた妄想を当人の前で語られるとかどんな公開処刑……
結局はそんなことして脱獄できても国にいることができなくなるし、いくら収監された理由がくだらないものとは言っても流石に脱獄はリスクが大きすぎて何も実行できなかったのだ。
恥ずかしさのあまり最後まで聞くことができなかった私はごまかすように父親に質問をする。
「それで異変と調査の内容ってなんなのさ……」
半ば疲弊した状態で投げかける。
父は少し間をおいて――
「――この世界は遠くない未来に消失する。お前に依頼するのはその原因を探り解決することだ」
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ん、えぇ…?世界が消失……?えっ、それってどういう…」
我ながらあっけにとられ気の抜けた返事をしてしまう。
「文字通り世界が消える。この国もこの大陸もこの星も宙も何もかもだ」
何とも信憑性の薄い話だなと心の中で思った。
……思ったが、
「…ねぇ。もう一度確認したいけど、これって女王陛下が予知したことなんだよね?」
「そうだ」
女王陛下が未来予知で観測した未来。
世界が消える未来。
こんなこと普段なら信じることはしない。
けれど、自分の記憶をああも的確に当てられたのでは否定はできなかった。
にわかには受け入れがたいけど、仮にそれが本当だったとして私は一つ気になることがある。
「なんで私なの――?」
世界が消失する。
それほど大きな異変で調査も解決も必要なら私ではなく国の兵士に依頼を出して調査させるべきなのでは…?
「異変の原因の調査、そして解決には他でもないフェイト。お前が関わるからだ」
はぁ…。
「だが具体的にどのようにお前が関わるのかは不明だ。未来予知でも詳細までは観測できなかったとのことだ」
いや、なんだそれは。
女王陛下に未来を予知する力があることは知っていたが、まさか何でも視れるわけじゃないのか…?
まさかそんな重大な調査依頼なのに大抵の情報がシークレットだとは……。
私は少し悩んだ。
そして、
「…………わかった。それでこの後はどうすればいいの……?」
「ほぅ、大人しく依頼を受ける気になったか」
「正直納得はしてないけどね。でもこれは女王陛下からの私への直々の命令でしょ?
もしその命令に背けば処刑は確実。執行されるまでの間はまたあの冷たい牢獄に逆戻りだろうし」
私は軽く目線を下げる。
「3年間で牢獄の生活には慣れたけど、好き好んで戻りたいわけじゃないから…」
そもそも女王陛下からの依頼ということで私に最初から選択権はなかったということだ。
「ふむ。それではまずは着替えて外へ旅立つ準備を行え」
「うん」
「それからお前一人では不安なのでな。一応付き添いを用意しておいた」
「付き添い?」
「あぁ。お前の準備が終わるころにはこちらへ到着する予定だ」
「その後は合流して共にある領域へ向かってもらう。詳細は準備と合流が終わった後に話す。以上だ」
次回は準備と付添人との合流を終えて国を発ちます。