08.大噴火の予兆あり
この頃、火山が騒がしい。そう連絡を受けて、季節が一つ変わるだけの時間が経過した。振動して噴火の予兆を示すが、いつ噴火するのかわからない。魔族の魔力と同じように、破裂する気配を察することができたら、困らないのですが。
残念ながら、気づいた時には噴火しているため、予測できたことがなかった。大規模な噴火は四百年ほど前か。小さな地震と噴火は数回起きている。数百年単位なら、そろそろ大規模噴火の可能性が高い。
魔王城の前庭で、ルシファー様は犬に噛まれながら口を開いた。芝生が見事だが、逆に言えばそれだけ。草原のような何もない光景が広がっていた。
「噴火したら、地表が固まっちゃうんだよな。暑いし。数年住めなくなるから、今のうちに引越しさせるか」
現在、この辺りに住んでいるのは竜族だ。暖かいので好ましいと地面に巣を作っていた。前回、巣の卵を救出したルシファー様は、地図を見ながら唸る。ちなみに、地図はベールのお手製だった。空から確認したため、かなり精密に描かれている。
複製した地図の上に、前回の噴火で溶岩が埋め尽くした区域を書き足した。竜族の住まいがすっぽり入っている。額を押さえて唸った。
「どうして大変な目に遭ったのに、同じ場所に巣を作るのでしょうね」
「あったかいからだろ」
けろりと言い放つが、苦労したのはあなた自身でしょうに。ルシファー様は、まったく気にした様子なく付け足した。
「だってさ、数百年に一度巣が壊れるかもしれないけど、それ以外の長い時間は暖かくて快適に過ごせるんだぞ? この辺は木の実も多くて、魔物も多く発生するし」
そう言われたら、反論しづらいですね。暮らしやすい環境を選んで巣を作るのは当然、定期的に天災に見舞われるだけ。その際は逃げればいい。羽があり飛べる一族なので、単純にそう考えた。前向きというか、深く考えない種族だ。
山の内側をくり抜いて、浮遊する城を建設中のベールと正反対だった。吸血種の城として、黒く艶のある石を集める私も、人のことは言えませんか。こだわりがあって住む場所です。災害の被害を減らすのは、我々、執政者の役目でしょう。
「今回はいつ避難させますか?」
「うーん、魔の森が元気なんだよな」
ツノイヌと名付けた魔獣を撫でながら、ルシファー様は芝生の上に座る。服が汚れることなど気にしない。まあ、汚れても浄化で綺麗にするでしょう。そう思うから、特に意見もしなかった。
「魔の森が元気、とは?」
「ほら、葉が鮮やかで生き生きとしている。だから噴火はもう少し先かな、と思ってさ」
根拠がないのに、どうして自信満々に言い切れるのか。なぜか彼の予想はよく当たるので、なんとも複雑な心境になる。ベールも私も、過去の経験や観測データから導き出す。それを一切無視し、己の感じるままに指示を出す人だった。
当たらなければただの阿呆で処理するが、この人の場合は当たるから対処に困る。今回も勘の類だろう。
「わかりました。ではそのように」
「あ、避難は月が変わる直前がいいな」
「ベール大公に伝えます」
そのまま伝えて、ベールに詳細を詰めさせればいい。細々とした采配は彼の得意分野だった。全体を見て、臨機応変に指揮する有能さもある。
竜族に被害が出そうになれば、また身を挺して守ろうとする人だ。王として責任を果たすのではなく、単に自分より弱い者は守るべきと認識していた。その理論でいけば、世界中を守らなくてはいけなくなるというのに。気負う様子はなかった。
危険になれば私が……と考え、すぐに首を横に振る。そんな状況でさえ、ルシファー様は私を守ろうとするでしょう。余計なことはせずに待つのが、私の務めかもしれませんね。